セルフヒールしか使えない俺、役立たずとして追放されたが極限環境で生活しつづけたら〝最強〟になった件――今さら謝ってももう遅いッッッッッ!!!!!   作:本部以蔵

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「――それにしても、本当に遠いですねぇ。先生」

 

 森の中を歩きながら、冒険者ギルド職員のミリアはそんなふうに話しかけた。

 隣の好々爺ふうの老人――レンリュウ博士は、苦笑を浮かべて応える。

 

「あそこは本当にアクセスが不便な迷宮(ダンジョン)じゃったからのう。ワシも昔は、新米の間にお世話になった記憶があるが……」

「以前は低難易度の迷宮として、そこそこ人気だったらしいですね~?」

「うむ。しかし、もっと街と近い場所に同じようなレベルのダンジョンが発見されたからのう。それからは、よほどの物好きしか行かないような場所になってしもうた」

「だからですかねぇ? 大規模な迷宮変動があったのが判明するのにも時間がかかったのって」

「うぅむ……。ギルドに報告が上がったのは半年ほど前じゃが、実際はもっと前に変動が起きていたようじゃな」

「でも、不思議ですよね。迷宮に入るためのポータルも丸ごと消えちゃうなんて」

「いやいや、おそらくいまだ再生成されている途中じゃろうて。迷宮というのは何千、何万年と持続されている魔術的遺物じゃ。そのスパンで考えると、いちど作り替わるのに年単位かかってしまうのは致し方あるまい」

「ふーん……そんなものなんですかねぇ」

 

 適当な雑談をしながら、二人は迷宮があった地点を目指して進む。

 今回は、レンリュウ博士と一緒に迷宮外周を調査して情報をまとめ、それをギルドに報告するのがミリアの職務であった。

 

 道中は獣や魔物も出てくる場合もあるが、迷宮内部の敵と比べればあまり脅威ではない存在である。ミリア自身は戦闘手段を持たない事務員だったが、同行のレンリュウ博士が元ベテラン冒険者なので心配もしていなかった。

 博士本人曰く、トロールくらいなら瞬殺できるくらいの実力はまだ持っているらしい。なんとも心強いかぎりである。

 

 そんなわけで、ミリアは遠足気分で出かけているのだった。

 しばらく、雑談を続けながら歩きつづけ――

 

 ふいに、土が盛り上がってできたような巨大な構造物が見えてきた。

 これが迷宮である。だいたい横か下に内部が広がっているのが基本だが、全長がどの程度の大きさなのかは知るすべもない。

 以前はきちんと“入り口”もあったらしいのだが、見るかぎりでは影も形もない。硬そうな土の壁に覆われているだけだった。

 

「さてと……ここから、ぐるっと外周をまわる感じですかねぇ」

「そうじゃなぁ。なかなか足腰がきついが……もしかしたら、どこかに新しく出入り口が作られてるかもしれんしのう」

「うぅ。さすがに歩きつかれそうですね……」

 

 明日は筋肉痛かなー。

 などと、ため息をついたその時だった。

 

 何か……音がする。

 迷宮の中のほうからだ。

 

「おお、これは……!」

 

 レンリュウ博士は興奮したように叫ぶと、土壁のほうに駆け寄った。

 

「もしかしたら……迷宮が“入り口”を作っている最中かもしれんぞ!」

「えぇーっ! そんなタイミングいいことってあるんですか!?」

「ほら、よく耳を澄ますんじゃ。内部のほうから、こう……掘り進むような音が……」

「うわっ!? なんか地面も揺れてませんっ? 衝撃が響くような……」

「うむ! これは間違いなく――」

 

 ――そう博士が言いかけた直後だった。

 

 壁が、吹き飛んだ。

 内側から、凄まじい爆発的な何かが――土を爆ぜさせたのだ。

 

「うおぉぉぉっ!?」

「きゃっ!?」

 

 二人して顔を覆いながら仰け反る。

 いったい何事か――と、そちらを窺うと……。

 

 穴が、開いていた。

 洞穴のようなものが、中から外界へと繋がっていた。

 そして、その中からは――

 

 巨大な、筋肉の鎧をまとった生物が立っていた。

 顔まで含めて、全身が土にまみれた姿。

 そのシルエットは、おおよそ人間のものとは思えないほど肥大している。

 

「ぬおおぉぉ!? 魔物っ!?」

 

 レンリュウ博士は反射的に飛び退(しさ)ると、携帯していた小型の杖を引き抜いた。

 人間の形態、かつ強靭な筋肉に覆われた、悪魔的な雰囲気の生物。

 トロールにしては背丈が低いが、あるいはもしかしたら、深層(デプス)に現れるというデーモンの可能性も彼の頭にはよぎっていた。

 

「うぬっ……!」

 

 強大な魔物であれば、先手を取らなければ危険だ!

 そう判断したレンリュウ博士は、魔法を放とうと杖を振り下ろした。

 

 その瞬間――

 視界に映っていた、人型の姿が消失した。

 いったい、どこに?

 

 そう思って、ふと隣に気配を感じて見ると――

 

 

 

「……ジイさん」

「―――――!?」

「反射的に、蹴り殺すところだったじゃねェか……」

 

 バキ! と木の枝が折れる音が響いた。

 いつの間にか押さえられていた彼の杖が、無造作に男の手によって叩き折られたのだ。

 そんなバカな、と混乱する。

 この杖は特殊なエンチャントが付与されていて、金属並みの硬さを持っているはずなのだが――

 

 

 

「お、おぬし……いったい、何者……」

 

 

 

 冷や汗を垂らしながら尋ねる博士に――

 迷宮から現れた悪魔は、ニィと口の端を吊り上げながら答える。

 

 

 

 

「冒険者――と言いたいところだが。たぶん……更新手続きしてないせいで、登録が消えてるよなァ?」

「ぼ、冒険者……?」

「新規登録にはギルド関係者からの紹介がイチバンだったはずだろ? だから――」

 

 バンバン、と豪快に博士の肩を叩き――

 男は歪んだ鬼のような形相の笑顔を浮かべた。

 

 

 

「新米冒険者の手助けをしてくれよなァ? ――ジイさん」

 

 

 

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