セルフヒールしか使えない俺、役立たずとして追放されたが極限環境で生活しつづけたら〝最強〟になった件――今さら謝ってももう遅いッッッッッ!!!!! 作:本部以蔵
――ついに、冒険者として活動する時がやってきたのだ。
ギルド施設の一室で、椅子に座りながら若い青年が興奮の笑みを浮かべていた。
田舎から飛び出してきて、はや半年。冒険者としての登録申請をしつづけてきて、ようやく機会が巡ってきていた。
冒険者は誰にでもなれる、というわけではない。人格や経歴の審査を受けたのちに能力試験を経て、やっと正式にギルドに登録された人員になれるのである。
彼――ケインの場合は、紹介人がいない点が問題になっていたが、ここの街で半年ほど肉体労働を地道に続けながら暮らし、ようやく信用を得て審査をパスできたのであった。
あとは、試験にさえ合格すれば晴れて正式な冒険者である。
試験、といってもそう難しいものではなかった。近所の村を荒らす魔物を討伐する、といった低ランク冒険者向けのミッションをこなして成功させるだけである。
攻撃魔法の資質があり、すでに魔物を打ち倒すのに十分な実力を持つケインにとっては、おそらく課題に失敗する可能性も低いと予想していた。
「――お待たせしました、ケインさん」
ドアを開けて入ってきたのは、ミリアというギルドの職員の女性だった。
「いやぁ、先日から少しドタバタしていまして。急遽、ケインさんの冒険者認定試験についても予定の変更が……」
「えっ!? どういうことですか? まさか、中止とか……?」
「あ、いえっ! 違うんです。予定どおり、ここから北西の村で魔物退治のお仕事をしていただくのですが――」
彼女は苦笑を浮かべると、言いにくそうに続けた。
「それで、その……じつは、新しくもう一人、試験に合同参加する方が追加されることになって」
「へっ? ……僕と同じような冒険者希望者の方、ってことですか?」
「うーん……。その……複雑なんですが……。その人は元冒険者なんですけど、登録更新されていなくて除名処分になっちゃって、それで今回また冒険者ギルドに入会したい、っていう経緯で……」
「ははぁ……」
冒険者ギルドは何よりも信用を重視しているので、犯罪行為をした者はもちろんのこと、必要な連絡・手続きをしない者も容赦なく除名をおこなうことで有名だ。それは相手がSランクやAランク冒険者であろうと変わらなかった。もしふたたび冒険者になる場合は、最低ランクからやり直しである。
その人物に心当たりはまったくないが、わざわざ特別に直近の試験にねじ込まれるということは、もともとかなり高名な冒険者だったのではなかろうか。
ギルド側も冒険者として登用したいと思っているので、いちおう形式として試験に参加させる、いわゆる出来レースのようなものだろう――とケインは予想した。
だとするなら――願ってもいない幸運である。
そんな元冒険者が仲間として一緒に参加してくれるなら、今回の魔物退治の仕事は成功したも同然である。
ケインは笑みを浮かべながら、尋ねた。
「それで、その方はどんな人で……?」
「あっ、じつはドアの向こうで待機してもらっているんです。いま呼びますね」
そう答えたミリアは――「ユージンさん、どうぞ」と出入り口のほうへ声をかけるのだった。
◇
『いやぁ……死ぬほど驚きましたよ』
後日、とある冒険者の先輩に対して、ケインはこう語る。
『最初に目を合わせた時、おもわず硬直してしまって……。蛇に睨まれた蛙、ってヤツですかね? 本能的に恐怖を覚えたのは、はははっ、子供のころに村の外で魔物に襲われた時以来でした』
か弱い子供は、魔物に対して為すすべがない。戦おうとも、簡単に命を奪われることは明白である。
――その人物に対して、自分は赤子同然だ。
そう一瞬で悟ってしまうような相手だったという。
『――とにかく、肉体が凄かったんですよ! 僕も冒険者を目指していたから、もちろんいろんな戦士を見てはきました。剣とか斧を振るう人たちは、当然ながら筋肉質な体をしていますよ。でも――その人は次元が違いましたね』
ケインは手を広げながら、当時の目にした男の姿を思い描きつつ言葉を続ける。
『大きさ、太さ、厚さ、硬さ、密度……何を基準にしても、彼より優れた筋肉を持った人は見たことありません! 体に見合う服がなかったのか、ぱつんぱつんの服装でしたけど……いやはや、そのぶん肉体のフォルムがよくわかりました。なんというか、こう……鎧でしたね。体を包む、高密度の筋肉の装甲! 見ていると、鋼鉄より硬いんじゃないかって思わされるような肉体でしたよ』
いったいナニを食ってたら、あんな体になるんですかね? と、彼は笑う。
『それにね、とくにビックリしたのは……何か美しさとか、神々しさまで感じたんですよ。ただ、闇雲に肥大させた筋肉がそこにあるのではなくて……。目的のために、必要に迫られて、とことん身体機能を追求した結果、自然とそこに至ったような……機能美っていうんですか? その極地、というような印象だったんです』
思い浮かべるのは、街で働く肉体労働者たちの体である。
彼らは日々を生きるために体を必死で動かした結果、自然と鍛え上げられ洗練された筋肉を身につけている。不自然さのない、純粋で機能的なその肉体はある種の美しさが宿っていた。
――その男も、同じなのだ。
われわれの常識を、そして限界を凌駕した肉体は、しかし純粋で機能的だった。
彼が人生の中で何かを成し遂げるのに、その筋肉が必要だから自然とそうなった――ということだろう。
そんな悪魔的な体躯が必要になる世界がなんなのか、想像すらつきそうもないが。
『……え? ああ、はい。はははっ! もちろん、試験には行きましたよ。その男と一緒にね?』
彼はニヤっと笑うと、当時のことを思い返すような遠い目をした。
『たくさんの言葉を交わしたわけでも、長い時間をともにしたわけでもありませんが――。ええ、はい、まったく……。ほんのちょっと、です。ほんの少し、彼が魔物と戦うのを見ましたけど……僕は確信しましたね』
彼は笑みを深める。
『迷宮のはるか深層なんて行ったこともないから、僕が比較できるのは“地上”の物事だけですが……。その世界において言うなら、彼は――』
『――〝地上最強〟、でしょうね?』