コラボライブ当日。ツクヨミ内のライブステージの控え室で待っていた。
「だらららら、蟹!だらららら、うさぎ!」
かぐやは物真似ルーレットを彩葉に見せつけている。緊張をほぐそうとしているのだろうか。
「はいはい、可愛い可愛い」
と彩葉がそれをいなしていると、
「だらららら、どじょう!」
と、ヤチヨがどじょうのポーズをしながら出現した。
彩葉は驚いて立ち上がり、かぐやは動じずに挨拶していた。
「ねーねー、いろは〜。練習しすぎてお腹すいたー。終わったらパンケーキ食べよ?」
かぐやはもうライブが終わったあとのことを考えている。食い意地が張っているのやら大物なのやら…
「私は緊張でご飯食べれんかったよ…」
彩葉の方は逆に緊張しているようだ。元の関西弁が出てきている。
「パンケーキいいなー。ヤチヨも食べたいなー」
「一緒に食べる?」
「よよよ、ヤチヨは電子の海の歌姫なので食べられないのです」
ツクヨミには五感全ては実装されていない。視覚と聴覚をスマコンとイヤホンで確保しているだけで、他の感覚は技術的な問題がある。AIであるヤチヨもその例に漏れず、五感全ては実装されていない。
その例外たる俺がどうなっているかというと、意識を丸ごとツクヨミに置いているという感じだろうか。ツクヨミにいる限り現実を認知できないので、現実の方は無防備だ。
せっかくだから『紡がれた物語』について聞いておこう。
「ヤチヨ、あの本については何か分かったか?」
「うーん、ごめんね。本の内容以外のデータは今解析中なんだ」
「そうか…解析が完了したら教えてほしい」
「もちろん。こちらこそよろしくね」
話していると準備が完了したようだ。三人は部屋の一角にある板間に上がった。
壇上に立つ二人に応援の言葉を送る。
「彩葉、かぐや。楽しんでくるといい」
「うん!めーっちゃ楽しんでくる!」
「…やってみる」
そう言って三人を乗せた板間は音もなく上昇していった。
耳を澄ませば、ライブを待つ観客の声が聞こえてくる。ライブステージに立たない俺でも圧倒される。その場に立つ彼女たちの重圧はこれの比ではないだろう。そんなことを考えていると、ヤチヨのMCが始まった。
「ヤオヨロ〜☆みんな、生きるのどうですか?良い事あった?それとも泣いちゃいそう?
よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって『記憶』が足元を照らすよ。
この時間も忘れられない思い出にしたいから……どうか一緒に踊ってくれる?」
ツクヨミで一番熱い夜が、いま始まる。
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曲が終わっても歓声が鳴り止まない。余韻というには高すぎる熱が会場を渦巻いている。そしてその熱は、控え室で見ていた俺にも伝わっていた。
下で迎える準備をしようとソファから立ち上がると、違和感に気付く。
何かが空間を蝕んでいる。明らかに只事ではない。急いでかぐやたちと合流するため、エレベーターを無視して隙間を駆け上がっていく。半神のこの身ならこの方が早い。
ライブステージまで駆け上がりかぐやたちのいる方を見てみると、そこには。
崩れ落ちたかぐやとかぐやの腕を掴む白い人型がいた。
瞬間、視界と思考が紅く染まった。
人型の頸を撃雲で切り飛ばし、黒い液体が切り口から吹き出て残った身体を蹴っ飛ばす。そしてかぐやのそばに立ち、撃雲を振り周りの人型を牽制する。
「それ以上……近づくな!」
人型は驚き、慄くように後ずさった。俺を恐れている…?その瞬間、
「おいたはダメだよー…」
今までの彼女を感じさせぬ無機質な声でヤチヨが指揮棒を振るうように人型を吹き飛ばしていく。残った人型が後ずさると、
「モウシワケゴザイマセン」
人型の異形が日本語を喋っていた。だがどこかぎこちない。まるで初めて喋るかのような…
すると次々に人型が消えていく。このままだとかぐやを傷つけた奴のことも分からず逃してしまう。
「!待てッ!」
最後に残った奴の腕を掴む。瞬間、俺の頭の中に情報の濁流が押し寄せる。
月。思念体。頭のない巨人。絶滅大君。汚染。隔離。光る筍。擬態。地球。
この濁流を飲み込むと、俺の意識は現実の自室にあった。強制ログアウトしたらしく、すぐに彩葉とかぐやが来た。かぐやも無事なようだが、少し様子がおかしい。
二人に無事を伝え、布団に転がる。あの人型たちからもたらされたものは、自身の出自そのものだった。それを知ればあの人型、いや、月人たちがあの態度を取ったのも無理はないだろう。なぜなら…
「唯一死んだはずの月人が生きて目の前に現れたんだからな…」
そうして俺は自身の出自を思いだす。
楓…かぐやを傷つけられたと思い、激昂した。死の概念のない月人たちの中で唯一の「死人」。自身の出自を思い出した。
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