端的に言ってしまえば、月製の舟『もと光る竹』の機能とセプターの「大地」の情報、そして虚数エネルギー。そこから俺は生まれた。
今から約17年前。元の俺は月人として職務を忠実に果たしていた、月人の中で『飲月』と呼ばれる大災害が来るまで。
鉄墓の戴冠による銀河のデータ汚染。それが『飲月』の正体だ。これは肉体を持たず、思念体だけの月人にとって致命的なものだ。だがキュレネと開拓者たち星穹列車の活躍により鉄墓は殞落し、『記憶』をもとに銀河のほぼ全てが元通りとなった。ある一部を除いて。
その一部が俺…つまり元となった月人だ。鉄墓が殞落した時、セプターのデータが銀河に散逸した。そのほとんどが「天才クラブ」#83ヘルタによって回収されたが、ごく一部のデータは銀河に散らばった。
そう、その未回収のデータの一つがその月人に辿り着いた。鉄墓の纏っていた虚数エネルギーを伴って。
現在の地球を大きく上回る技術を持つ月からしてもオーバーテクノロジーのデータと一部とはいえ莫大なエネルギーだ。それに触れた途端乗っ取られ、機能を停止した。月人における実質的な『死』と言えるだろう。
それに気づいた他の月人たちは、『飲月』のこともあり、月に置いたままというのも避けたかったのだろう。月の宇宙船である「もと光る竹」に載せ、宇宙へ放逐した。
その宇宙船は最も近い星である地球に辿り着き、山林へ堕ちた。宇宙船「もと光る竹」には着陸した星の環境を調べ上げ、乗員に最適化された肉体を付与する機能がある。そこにセプターのデータに残されていた「大地」のデータ、主に丹恒のデータをそのまま流用されたため、俺は丹恒と同じ顔、同じ身体となった。
そして俺は義両親に拾われ、『丹羽 楓』としてこの世に生まれ落ちた。
俺を生み出したセプターのデータは『もと光る竹』に残り、ネットの海を彷徨っている。
かぐやのように一気に成長しなかったのは完全に記憶を喪失したからだ。出来ることを知らなければ出来るはずもない。
そして「大地」の半神の力。これは鉄墓の虚数エネルギーが俺に宿っていることに起因している。
俺の肉体が作られた時、流用されたデータと共に虚数エネルギーが肉体へ流された。
なんせ銀河中を汚染したエネルギーの一部だ。銀河の端の小惑星の大地を操るくらい造作もないだろう。角や尻尾、火種は『もと光る竹』の機能によって生まれた…
俺が見ていた「開拓」の夢は使われたデータの残滓を夢という形でみていたわけだ。
最近になって「大地」の力に目覚めたのは、記憶喪失によりできるということを認識していなかったからだ。
角や尻尾が生えたのも夢の中で
かぐやが髪や肌色を自由自在に変えられるが、記憶を取り戻した今、俺も同じようにできるだろう。虚数エネルギーを以てさらに自由自在に。
俺がツクヨミで「丹恒」となったのは、セプターが俺を「丹恒」として認識し、「丹恒」のデータでログインしているからだ。
丹恒は旅の中で一度セプターからログアウトし、再度ログインしている。その時、丹恒はセプター内、つまりオンパロスの中の丹恒と連続性を保持していた。
つまりセプターの外部からのログインには生体を識別して個人を認識している。
丹恒と同じ肉体を持つ俺は丹恒と誤認され、丹恒のキャラクター、もとい「丹恒」としてセプターにログインしている。そしてそのままツクヨミに入ったことで、セプター製のアバターを持った「丹恒」が誕生した。
俺は今までずっと追い求めてきた自身の出自をようやく突き止められた。
この真実を知った俺の心は…
自分でも驚くほど動揺しなかった。
何故なのだろうか。自分が追い求めてきた自身の出自だというのに。
真相を突き止めても思い浮かぶのはかぐやと彩葉の顔ばかりだ。特に今のかぐやはいつもの調子ではない。
月人と接触してからいつものはしゃぎようがかなり落ち着いた。落ち着いたと言っても相対的なだけで全然はしゃいでいるが。
そしてかぐやの表情。いつも興味津々、という表情をしているのだが、今はその中に諦観が混ざっている。ずっとかぐやを見てきたから分かる差異だ。
月人の襲来。かぐやの変わった様子。月人が来た時、モニターに映された日付。
これらを併せて考えるとおそらく来るであろう事が予測できてしまう。
「かぐやが…月に帰る…?」
そう言った俺の表情は自身の出自を知った先程と打って変わり、焦燥を隠せないでいた。
楓…月人の技術、鉄墓のデータ、虚数エネルギーが悪魔合体して生まれた。かぐやがやっていた肌や髪色の変化も同様に使え、それを虚数エネルギーで強化することで「大地」の権能として行使していた。
『飲月』…身体のない月人のデータ汚染は致命的。汚染が月を飲み込む様を見てこの災害を『飲月』と名づけられた。
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