月人との交渉が終わり、辺りを見てみると、昼から夜に戻っており、空には満月が浮かんでいた。
月人との交渉は驚くほど上手くいった。恐ろしさすら覚えるくらいに。
俺の求める物との交換条件として、月人は二つの条件を求めた。
一つ目は俺とかぐやの定期的な情報の提供。ツクヨミを通して月と繋げられるため、俺たちのデータを定期的に貰いたいとのこと。なお、データをわざわざ送る必要はなく、許可さえあれば月人側でデータを取ってくれるようだ。
そして二つ目は俺のセプターに関する情報の提供だ。これに関しては既にコピーデータを渡している。
正直条件としてはかなり破格と言えるだろう。なぜこの条件を月人が出したのかというと、俺たちが月人とのKASSENで勝利した事と、俺を追放したことに対する罪滅ぼし、という事らしい。
月人にとって今回のKASSENはかぐやが月に帰るパフォーマンスに過ぎなかった。月の技術を大きく下回る者など敵ではないし、その気になればいつでも強制送還できる。
だが実際は打ち破られ、交渉の席に降りざるを得なくなった。そこに強い興味を持ったようだ。俺が
俺が機能停止により追放された月人という事は、KASSENの最中に気づいたそうだ。コラボライブの時には、かぐや以外にも地球に月人が二人いて驚いたとのこと。
二人…一人は間違いなく俺だ。そしてもう一人は……
…この話は後でしよう。同胞の安全の為とはいえ、同族だった者を捨てるような扱いをした事に関して罪悪感を持っているようだ。やはり仲間に対する意識はあるらしい。
だが俺はそのおかげで大切な仲間と巡り会えたし、同胞を守るためには仕方なかった事だ。なので今回の事でお相子にしよう。そう伝えると菩薩型…いや、彼は感謝の意を以て頭を下げ、交渉は終わった。
この後彼に聞いたが、かぐやは彼と同じ所で働いており、地球で言うところのエンジニアに当たる。かぐやにしかできない仕事があり、脱走したせいで仕事が詰まっており連れ戻しに来たとの事。
…花火大会の時に反省した様子を見せていたから軽く注意する程度で済ませておこう。
彼と共にかぐやと彩葉のいるライブステージへ向かった。
────────────────
ライブステージに着き、かぐやと彩葉を見つける。二人は周囲も気にせず抱き合っていた。
「かぐや、彩葉」
「楓!交渉は…」
「…この様子を見て貰えば分かると思うが、成功だ」
サムズアップすると共に
「はるばるようこそ」
かぐやは旧知の友を迎えるような顔で言った。
「それと、逃げちゃってごめん」
かぐやがそう言うと彼は顔を上げた。表情は変わらないが少し困った顔をしているように見える。
「かぐや」
「楓?」
顔をこちらに向けるかぐやの額に指を弾いた。そこそこ強めに。
「あだーっ!何急に!?」
「かぐやが仕事放り出した事が原因で彼が困っていたから、そのお仕置きだ」
「それはそうだけどー!ていうかいつの間にか仲良くなってる!」
「さっき話した時に少しな」
かぐやと話していると彼が間に入ってきた。そうか……もうすぐ時間か。
彼が月へ帰る準備をしている間に彩葉がかぐやへ声をかける。
「かぐや…もう行くの?」
「…うん、もう行かなくちゃ。…絶対帰ってくるから、そんな顔しないで彩葉。ほらスマイル!」
「…うん、元気で帰ってきて。かぐや」
目尻に涙を浮かべながら、彩葉は明るく努めて答えた。
「かぐや、これを持っていってくれ」
そう言って俺は『紡がれた物語』をかぐやに差し出す。
「これは…本?すっご!綺麗ー!けどなんで?」
「お前に預ける。肌身離さず持っておけ。…それを持っていれば、もしどんな場所に居てもお前を見つけ出してやる」
セプターと一つになった俺は『紡がれた物語』とも繋がりを得た。『紡がれた物語』の「記憶」の力を辿って居場所を探る事ができる。
「…うん、しっかり持っとく!」
かぐやは『紡がれた物語』を受け取って、懐にしまった。
彼がこちらに合図を送った。ついに来た、かぐやを送る時が。
俺と彩葉はステージから降り、かぐやが月へ行く様子を見守る。犬DOGEと共に光る雲に乗り、かぐやは上っていく。詰めかけたファンに手を振りながら。そして─────
「彩葉、楓───」
「───行ってきます!」
返事をする間もなく、行ってしまった。
手に収まるほど小さかったかぐやは、いつの間にかとても大きくなっていた。お腹が空いても、外に出たくても、遊びたくても泣いて訴えることしか出来なかったあの子が、こんなにも。
成長したな、かぐや。
道を行くあの子に、俺たちが送るべき言葉はひとつだけ。
「「…行ってらっしゃい、かぐや」」
かぐやとのしばらくの別れを、俺はその言葉で閉じた。
─────────────
協力してくれた皆に成功の報告と感謝を告げ、現実に意識を戻す。彩葉と一緒にかぐやを探すが、かぐやの姿はどこにもなく、落ちているヘッドホンと服が彼女の行方を示していた。
二人のスマートフォンから通知が鳴る。かぐやからの入金の報せだ。もし失敗した時のためにあらかじめ仕掛けていたのだろう。
『使っちゃった分、万が一のため返す!ご迷惑かけました』との事だ。
送られてきたメッセージを読みながら、彩葉と二人でかぐやとの思い出を交えて話しながら床に就いた。眠りに就くまで話題に絶えることはなかった。
──────────────
俺たちの日常が一時的に帰ってきた。彩葉は欠席した分の巻き返しに追われている。以前作ったペーパーを渡すと凄い勢いで感謝された。
俺は、かぐやがいないので料理を作ったりしているが、彼女のクオリティには遠く及ばない。彩葉はこれはこれで好き、と言ってくれるが。
こうして日常を送りながら、時は流れていく。かぐやが帰ってくる日を待ちながら。
完
主演
丹羽 楓
主演
かぐや 役 かぐや
酒寄彩葉/いろP 役 酒寄彩葉
酒寄朝日/帝アキラ 役 酒寄朝日
駒沢雷 役 駒沢雷
駒沢乃依 役 駒沢乃依
︙
この旅が、いつか群星に辿り着かんことを。
楓…月人と話し合い、和解。かぐやとのお別れは一時的と分かっていても寂しい。
彩葉…かぐやと衆目を気にせず抱き合ったのでSNSでトレンド入りした。かぐやに慰められ、笑顔でお別れを告げた。
月人…非常時とはいえ、同胞を見捨てた事にはやりきれない思いがあった。生存と和解を経て、安堵を得た。
これにてこの小説は完結です(棒)。拙い文でしたがご愛読ありがとうございました(棒)。