大地よ、輝く夜に黎明を齎せ   作:M4kura

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遅れて申し訳ありません。もうすぐクライマックスなので初騰荒です。


火負いよ、八千代の記憶を背負え

 

「…まだ早い、この物語に終止符を打つには」

 

危ない。エンドロールが流れていたぞ今。まだ終われない。少なくともかぐやを迎えるまでは。それに月人の対応で後回しにしていた事がある。

 

 

そう、ヤチヨの事だ。帰路を走りながら考える。

 

月人、彩葉への視線、現代離れした技術。やはり彼女は…

 

 

考えているうちにマンションに着いた。リビングに入ると彩葉が携帯を使っている。誰かにメッセージを送ろうとしているようだ。

 

「彩葉、少しいいか?」

 

「おかえり、楓。何かあった?」

 

「ヤチヨの事で話したいことがある。今時間はあるか?」

 

「!、私もヤチヨの事で聞きたいことがあって…」

 

 

──────────────────

 

 

彩葉と互いにヤチヨの情報を交換した。

彩葉のお父さんとの曲、「Reply」とヤチヨのデビュー曲、「Remember」には同じメロディが使われている事。

ライブ中、かぐやと一緒に歌っている時にそこには居ないはずのヤチヨの歌声が聞こえた事。

 

 

この二つを教えてもらったことで彼女が何者なのか、今までの推測が確信に変わった。もしそれが真実なら、ヤチヨの彩葉とかぐやに対する態度も腑に落ちる。

 

「彩葉、ヤチヨと連絡は取れるか?」

 

「…駄目、メッセージも送れない」

 

「…それなら直接聞き出そう、ツクヨミで」

 

 

────────────────────

 

 

『ヤチヨは最近ドジョウ掬いを練習してるんだー。すっごく面白い踊りだから紹介するねー』

 

二人でツクヨミに潜ると、モニターにはヤチヨの配信が映されていた。彩葉曰く再放送でこんなことは初めてらしい。

 

「楓、ヤチヨの位置分かる?」

 

「試してみる」

 

データからヤチヨを探ってみる。……見つけた。高層階にいる。だが…

 

「ヤチヨは見つけたが、そこに立ち入る権限がないな」

 

「そんな……ん?」

 

「彩葉?」

 

何かを見つけたらしく、彩葉はそれを追いかけていった。

 

「待て!何であんただけで!」

 

彩葉に続いて俺も走っていく。路地を駆け回り、袋小路に辿り着いた。彩葉の目線の先には、ヤチヨのペットであるFUSHIがいた。

 

「どうやったら行けるか、教えて」

 

こちらを振り返るが、沈黙。答えるつもりはないらしい。それなら…

 

「俺がツクヨミを乗っ取れば行けるが、どうする?」

 

「やめろバカタレ」

 

観念してFUSHIが口を利いた。野蛮なヤツめ、とぼやいた後、

 

「…目を開けてみろ」

 

言われた通り瞼を開くと現実世界のリビングにFUSHIがいる。スマコンのAR機能で投影されているようだ。

 

「こっちだ」

 

そう言ってFUSHIは俺たちを導くように走り出していく。考える暇もなく外へ飛び出した。

 

FUSHIを追いかけて角を曲がり、坂を下り、電車に乗り。その終着点にはとあるマンションの一室があった。ドアノブに手をかけようとすると鍵が開く音がした。恐る恐る扉を開くと、

 

「…何、ここ?」

 

「…あれは」

 

機械が出すこもった熱に迎えられた。部屋の中には大量のPCとストレージ機器、ネットワーク機器が詰め込まれている。サーバールーム、というべきだろうか。そしてその中心にあるのは、

 

 

「『もと光る竹』…」

 

 

月人の宇宙船、『もと光る竹』がそこにあった。ツクヨミの技術の源泉は『もと光る竹』から来ていたか。

 

 

「ここからツクヨミに入れ」

 

 

FUSHIに言われるまま瞼を閉じツクヨミへ潜る。いつもとは違う様相だ。例えるなら、最初にツクヨミへ入った時、エリュシオンへ迷い込んだ時のような─────

 

 

 

───ツクヨミへ辿り着いた。目を開ければ、先ほどヤチヨが居ると確認した高層階の部屋。無数の灯籠が鈍く光り、部屋を照らしている。

 

 

「……かぐや」

 

 

彩葉の声が部屋に響く。目の前で背を向けて座る彼女に向けて言ったのだろう。だが、振り返る彼女は──────

 

 

「ヤチヨ」

 

 

 

 

「…ヤチヨは、かぐやなの?」

 

 

彩葉が辿りついた結論は、俺と同じものだった。

 

 

ヤチヨは目を丸くして驚いたあと、薄く微笑む。そうしてゆっくり立ち上がり、語り始める。

 

 

月に帰って仕事をしていたところ、彼女に歌が届き、そしてもう一度地球へ行こうと仕事を片付け引き継ぎも済ませた。

 

だが、地球の時間では大遅刻。月の高度なテクノロジーを以て時間を遡行するかぐや姫。しかしもう少しのところで隕石と衝突してしまう。

 

そうして堕ちたのは、約八千年前の地球だった。壊れた舟の僅かな力で、犬DOGEだけがウミウシの身体を得た。かぐやはウミウシを通してだけ、世界と交流を持つことができた。

 

時は経ち、人は見えないものを形にし、多くの人と繋がる力を手に入れた。それは月の世界と近く、彼女が世界と関われる可能性だった。

 

そして仮想世界ツクヨミの歌姫として再び彩葉と出会うことが出来た。

 

 

ヤチヨは、そう語った。

 

 

「…私だけ?楓は?」

 

 

ヤチヨはその質問に答えることはなかった。

 

「…存在しなかったんだろう、俺は。どうだ?ヤチヨ」

 

「…うん。時を越える前、あなたは影も形もなかった。黒鬼と対決した時はその時のヤチヨが助っ人してた」

 

以前の輪廻には俺は存在しなかった。鉄墓の殞落によって少しだけ運命の流れが変わっている。

 

 

「…私といたかぐやは?」

 

「少し道筋は変わっちゃったけど、今も同じ輪廻を巡っている」

 

そういって寂しそうに月を見上げるヤチヨ。

 

「私たちはその輪から外れることはできない」

 

その顔には、運命に対する諦観が浮かんでいた。

 

 

 

 

ああ、そうか。

 

以前彼女に感じた既視感。白い髪、青い瞳。笑顔の中に隠された陰。そして輪廻。

 

 

俺は重ねていたんだ。ヤチヨに、火負いの囚人(ファイノン)を。

 

 

俺が思考に耽る中彩葉は呟く。

 

「……全然、わかんないよ」

 

その呟きにヤチヨは、

 

「ただのおとぎ話、あんま深く考えないで〜。とにかく今は再会をお祝いしましょう☆」

 

と冗談めかして笑う。

 

 

 

───そんな簡単に割り切れる話ではない。八千年…オンパロスの半神も最長で荒笛の六千年、加えてそのほとんどは活動せず、隠れていた。生きていてもアグライアのように精神が擦り切れてしまう。それ以上生きて精神を保ったヤチヨは─────

 

 

バルコニーへと連れ出された。そこからはツクヨミの夜景が一望でき、タワーマンションのバルコニーからの景色を想起させる。

 

「ここからの眺めがヤチヨは本当に大好きなの」

 

ヤチヨは笑う。夜景を抱きしめるように腕を広げて。

 

「どうして」

 

「ん?」

 

「どうしてヤチヨはずっと笑っている?」

 

彩葉はヤチヨに問う。笑っていて、涙なくして泣くヤチヨに。

 

「それがヤチヨだから」

 

彼女はそう答える。

 

「でもね……」

 

指が震え、

 

「ハッピーエンド、連れて行くって約束したのに」

 

腕に伝わり、

 

「彩葉の歌を聴いて戻って来たのに」

 

肩に伝わり、

 

「ごめん、ドジっちゃった」

 

最後、声を震わせた。

 

「キラキラのかぐや姫は、もうおばあちゃんです」

 

「…かぐや」 

 

 

 

長い沈黙の後、ヤチヨは恐る恐る口を開く。知りたくなければ忘れてもいいと。FUSHIならそういうことも出来─────「ヤチヨ!」

 

彩葉の声が打ち消す。踵を返し足を踏み鳴らし部屋に戻り、勢いよく座る。そして────

 

「聞かせてよ」

 

「え?」

 

「八千年、あったこと全部聞かせてよ」

 

「えぇ?」

 

「私、寝ないから!」

 

「……無茶言うねぇ」

 

ヤチヨは困ったように笑った。

 

 

 

…二人の世界にいるところ申し訳ないが。

 

「…すまない、よければ俺も聞いていいか」

 

「勿論よいですけども、長くなりましてよ〜?」

 

────────────────

 

ヤチヨが手を払うような動きをすると彩葉の住んでいた部屋に移り、話が始まった。そこからは怒涛のトークだ。丸二日ほど喋っていただろうか。生まれからして人外な俺はともかく彩葉は限界で船を漕いでいる。

 

 

「おやすみなさいよ、彩葉。死んじゃう」

 

まだまだ、と気張る彩葉だが、

 

「ネムッテ!ネムッテ!」

 

とFUSHIのアラームが鳴り、

 

「あっちゃ〜、ヤチヨの方が眠る時間だ。じゃ、おやすみ〜」

 

と、ヤチヨの方が眠ってしまった。

 

 

眠るヤチヨに彩葉は忍び寄り、髪の毛を優しく撫でる。その手つきは親が子に触れるように優しい。

 

「ずっと、けらけら笑っちゃって」

 

「私みたいになっちゃったんだ」

 

「…ねえ、FUSHI」

 

「ヤチヨが隠してること、あるよね?」

 

彩葉の問いに長い沈黙を挟み、FUSHIは答える。

 

「…ヤチヨが言わなかったのなら、それは…」

 

「見せて。私、かぐやの全部を見なくちゃ」

 

「人の身体で耐えられるかわからない」

 

ならば、俺が彩葉を支えよう。

 

「それなら俺が負荷を軽減する。それなら大丈夫だろう」

 

「楓もそう言ってるし、大丈夫」

 

その言葉にFUSHIが黙り込む。だが、瞳を輝かせこう返した。

 

「ヤチヨは…さっき久しぶりに、本当に嬉しそうだったんだ」

 

「うん」

「ああ」

 

「…っ!行くぞおぉぉ!」

 

ウミウシの目が赤く光り、レーザーが出る。レーザーが当たるそばから部屋が崩れていく。

 

そして俺たちの身体は落ちていく。落ちる寸前───

 

「彩葉!」

「うん!」

 

彩葉の手を掴み、落下していく。そして─────

 

 

俺たちはかぐやの意識と同化し、八千年前の地球へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩葉に掛かる負荷を軽減するため、かぐやの八千年のデータを随時変換し彩葉に送っていく。かぐやの経た八千年という時は果てしなく、地獄という言葉すら生温い。

 

 

暗闇、孤独、手から零れる生命。そして火と血。地球には月にはない自由の代わりに生存のための競争があった。

 

 

他者より強く、先へ、上へ。競い、妬み、憎んで、その身を食い合う。

その為に人は人を殺し、大地に血の痕を残し続ける。そしてそれは今もなお続いている────

 

 

かぐやのいた現代は、その上に築かれた血の薄氷の上だった。その薄氷の下にある血の池に潜り込んだかぐやは傷付き、擦れ、輝きを失っていく。誰かを助けたとしても、すぐに死んでしまう。自身の無力を呪いながら、人が生まれ、死んでいくのを何千年と見送っていった。

 

 

だがそれでも彼女が諦めなかったのは、彩葉の歌、そしてその道の途中で愛した、愛してくれた人間のおかげだろう。命を賭して生きる者の覚悟をかぐやは愛し、道を進む糧としていった。

 

 

人は争いと共に発展し、ついにワールドワイドウェブを作り上げる。人と繋がれないウミウシの身体がネットによって人と繋がり、底知れない喜びを得た。

 

『もと光る竹』を直接ネットに繋げられれば、今の身体の制約を超え、より多くの人と繋がることができる。

 

そうしてかぐやは、仮想世界の大きな広場を作りたいと願った。誰もが自由で、誰とも殺し合わず、誰とでも繋がれる場所を。その名も────

 

名前を思い浮かべた瞬間、かぐやは自身がヤチヨになることに気づいた。そして数十年後、必ず彩葉と再開できることにも。

 

 

奮起したかぐやはツクヨミを少しずつ組み上げていく。その中で自身と近いピンク髪の少女に出会った。そう、キュレネだ。

 

キュレネはかぐやを手助けし、ツクヨミのプロトタイプ完成まで後一歩といったところで消えてしまった。一つの言葉を残して。

 

『安心して、ヤチヨ。このお話は"今まで"とは違うものになるはずよ♪』

 

…キュレネは俺の存在を認識していたのだろう。だからヤチヨにこんな言葉を残した。

 

 

 

鉄墓の殞落。その影響によって俺が生まれ、輪廻を打ち砕く機会が生まれた。つまり────

 

───八千年前の地球の「記憶」、そこに存在する俺たちと居たかぐやを現代に引っ張り出せれば、「かぐや」の輪廻の運命を断つことができる。

 

そして、かぐやを助ける方法。その手がかりは俺の「記憶」(丹恒の開拓)の中にある。少し方法は変わるが…この身に宿るセプターの一部、そして一瞥によってもたらされたエネルギーがあれば十分可能だろう。その方法は────

 

 

 

 

 

───大地の権能によって地球の「記憶」からかぐやの魂を引き出し、かぐやの身体を再構成する。

 

『もと光る竹』の機能をセプターは既に学習している。共に地球へ来た時にその機能を学習していたのだ。俺の身体に宿る虚数エネルギーを利用すれば、かぐやの身体を再構成できるだろう。

 

 

 

─────────────────

 

 

 

考えているうちにプロトタイプのツクヨミでの初ライブが始まった。曲は彩葉との思い出から作られた「Remember」。彼女と俺の記憶の中のライブよりずっと人は少ない。だがヤチヨは底抜けに楽しんでいた。八千年ぶりの歌の喜びに身を任せて。

 

それから彼女は何度もライブを開く。八千年、夢見た彩葉を観客に見出しながら。

 

 

 

何度も何度もライブを開き、そしてついにその日が来た。

 

 

 

───────彩葉。

 

彩葉を見つけたかぐやは、最後まで笑って歌っていた。

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

「っ…」

 

「楓!大丈夫…?」

 

頭に響く鈍痛に喘ぎながら体を起こす。八千年分の負荷をそのまま受けた影響か、起きるのが遅れたようだ。

 

「…彩葉、大事は無いか?」

 

「こっちのセリフだよ…一人で無茶してさ…」

 

「…すまない。安心してくれ、無事だ」

 

 

辺りを見回すとヤチヨがいた。頬と目の縁には涙の痕が残っている。彩葉はそれと対照的に、その瞳には今まであまり見ることのなかった強い意志が宿っている。

 

「何か掴んだようだな、彩葉」

 

「うん、やりたい事ができた」

 

「…それはいい。…俺も、やりたい事が出来たんだ」

 

「…楓のやりたいことって?」

 

 

「迎えに行こう。俺達といたかぐやを」

 

 

彩葉が目を見開く。

 

「……本当に?」

 

「本当だ。かぐやを迎えて、巡る輪廻に終止符を打つ。そして皆で大団円(ハッピーエンド)を迎えよう」

 

「…そうだね、ハッピーエンドにはかぐやもいないと」

 

「ヤチヨ」

 

「…?」

 

「力を貸してほしい。大団円(ハッピーエンド)にはヤチヨの力も必要だ」

 

「かぐや。さっきも言ったけど、ハッピーエンドまで付き合って」

 

「…うん、うん!行こう!みんなで、ハッピーエンドに!」

 

そう言ったヤチヨの頬には、喜びの涙が溢れていた。

 

 

────────────────

 

 

一週間後、俺と彩葉はある場所にいた。日本で最も高い場所、不死の薬を燃やしたとされる場所。そして、この(日本)を見届けしもの。

 

 

 

 

 

───日の本を見届けし霊峰、富士。その山頂に今、俺たちは立っている。

 




楓…セプターの演算をフル活用して彩葉の負荷を軽減。彼の存護の本領ともいえる。丹恒の「記憶」から彼らといたかぐやを助け、輪廻に終止符を打つ手段とは…

これからの展開を察された方もいると思われますが、作者は次回の話を最初に思いついてこの物語を綴り始めました。見届けていただけると幸いです。

次回、「遥かなる山河を超えて」
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