霊峰、富士。この国で最も高い山であり、不死の薬を焼いたとされる場所。その頂に俺たちは居た。かぐやを現世に連れ戻すために。
本来なら九月の中旬は閉山期間だが、ヤチヨの人脈を借り、特別な許可と人払いをしてもらった。
「ゲート以外本当に誰もいなかった…」
「人払いしやすかったと聞いている。閉山期間で逆によかったかもしれないな」
富士山には彩葉と二人で来ている。ヤチヨは現在連れ出す手段がないため、今ここにいない。
「
とのことだ。
富士山で行う理由…それは大地に流れるエネルギー、その通り道である「霊脈」が関係する。
霊脈とは大地を巡るエネルギーの通り道。人間で言うところの血管だろうか。太いほど他の霊脈に繋がり、大地の「記憶」を探りやすくなる。この国で最も高い山である富士山は霊脈も同じく最大級だ。かぐやを探し出すにはこれ以上の場所はない。
「ここでかぐやを…」
「ああ。早速始めよう」
かぐやを迎える準備をする中…
「…楓、ちょっと…いい?」
彩葉が呼び止める。声が少しぎこちない…?
「…彩葉?どうかしたの───」
胴に軽い衝撃。下を向くと彩葉の顔がすぐそばにある。…彩葉に抱きつかれている。
「彩葉?何を…」
「…横向く」
言われた通り横を向く。頬に軽く柔らかい感触がした。
「…おまじない」
そう言った彩葉の頬は赤く染まっていた。
「…ありがとう、行ってくる」
そう返した俺の頬も、赤く染まっていただろうか。
「騰荒」へ変身し、火口へ降りる。以前にも角や尻尾は生やしていたが、現実でこの姿になるのは初めてだ。
「任せてくれ、彩葉。ヤチヨが八千年を越え今に繋げてくれたように、かぐやを連れ戻すという意思もまた───」
「───「大地」より揺るぎないものだ」
火口の中心に跪き、掌で大地に触れる。
「古の霊峰よ、その脈を貸し与えよ。大地と共鳴するは、火種を背負いし我が身──」
自身の精神と大地が繋がる。
「──天地、時の軸より
大地の奔流に流されぬよう、自身の決意を言葉にして心に刻む。
「たとえ、山河の隅々まで探し歩くことになろうとも…」
俺は最後の準備を整え、
「俺はお前を連れ帰る」
かぐやの眠る太古の地へ潜る。
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この国を見届けし霊峰、富士。
その頂から、霊脈を巡って太古の地に潜る。
かぐやを見つけるために。
最初の百年、ヤチヨの記憶を頼りに歩んできた道をなぞり、川や森、村や都とそこに住まう生き物たちに尋ね、そして古くから在った石や鉱物、山々にも話を聞いた。しかし、全く収穫はなかった。
次の百年、俺は海流に身を任せ、魚群を見つけては尋ね、時には最も深い海溝を魚群と共に探った。それも成果は得られなかった。
さらに次の百年、俺は空に流れる風となり、上空からかぐやを探した。鳥の群れを尋ね、西風の彼方まで流れながら探っていった。だが得る物は何もなかった。
平野を駆け、山脈となり、海流に身を任せ、風となって吹きつける。
そうして百年、次の百年と巡っていった。それも二十を越えたところで数えることもなくなり、ただひたすらにかぐやを探していった。
そうして過ぎる時が、俺の決意を少しずつ削っていき、俺は地層の奥深く…古い岩層の中で彷徨っていた。そんな中、胸の内から誰かの声が聞こえた。
『記憶の景色がぼやけたら…その手で触れてみて。それをまた、心の力にするの』
声に従い、記憶に触れる。思い出されるのは大切な人の声だった。
『ハッピーエンドまでいろはもかえでも連れてく、一緒に!』
『かえで〜、かぐやと遊んで?』
『この課題を片付けたらな』
『彩葉、楓──行ってきます!』
…かぐや。やはり俺たちを
胸の内に決意の火が灯る。かぐやの
「瞳映る静かな世界────」
「──この一瞬が最高のパーティーなんだ───」
思い出とともに胸から湧き上がる歌を歌い上げる。すると──
「「──昨日の続き───喋りたかった───」」
彩葉の歌が重なる。俺たちの想いは一つだ。
「「──本音を聞かせて───ただ叶えてみたいから───」」
彩葉の声と一緒に歌う。かぐやに届くように、歌って、歌って、歌った。そして…
「「「──この一瞬を最高のパーティーにしよう───」」」
黄金の火が道を示す、かぐやのいる方向へ。
「「「──君といたあの部屋へ電子の海へ───」」」
黄金の道を歩む。そして───
「「「───また新しい景色の物語を描こう」」」
大地の「記憶」に存在するかぐやの魂を捉えた。
金色の龍がかぐやを呑み込み、地の底より舞い上がる。そして黎明が照らす地上へと
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───掴んだ手を引けば、八千代をかけて探した少女、かぐやの姿があった。
「「おかえり、かぐや」」
「…ただいまっ!彩葉、楓!」
幾重もの時を重ねた再会に、俺たちが浮かべた表情はどんな世界でも最高のものだっただろう。
楓…大地の「記憶」を巡りかぐやを現世へ連れ出した。二千年を越える探索、そして魂だけとはいえ時間を超越した代償としてあるものを手放す。
彩葉…楓とかぐやが無事に帰ってくるよう、おまじないをかけた。楓の歌が聞こえ、共に歌った。
かぐや…舟が壊れ絶望する中、『紡がれた物語』から二人の歌が聞こえた。共に歌い、現世へと帰還。
次回、本編は最終回予定です。