かぐやを現代に連れ戻し、家に帰った俺たちは─────
「うますぎ……」
「身に染みるな……」
───かぐやの手料理を食べていた。献立は初めて食卓を囲んだ日と同じもの。一週間ぶりのかぐやの料理に彩葉は目尻に涙を浮かべている。
「なにー?そんなに恋しかったの?かぐやちゃんの手料理♡」
「うん、かぐやの料理がない人生なんかマジで考えらんない」
「彩葉の言う通りだな…」
そう返答をする俺たちに対してかぐやは、
「えーほんとー?うぇへへへへ……」
と、だらしない笑みを浮かべていた。
────────────
夕食を終え、ツクヨミ内のプライベートルーム。富士山で起きた事の顛末、そしてこれからのための話をするため、かぐや、彩葉、ヤチヨ、そして俺の四人が集まった。集まった途端、
「いーろはっ♪待ってたよ♪」
「や、ヤチヨっ!?」
ヤチヨが彩葉の右腕に抱きつき、彩葉がショートしてしまった。その様子をみたかぐやも左腕に抱きつき、
「かぐやが居ない内にヤチヨに取られた!彩葉の浮気者ー!」
「ふふん、彩葉はヤッチョにハッピーエンドまで付き合ってって言ったもんねー?」
「うがー!」
と、二人で彩葉の取り合いをしていた。
「……ヤチヨ、その辺りにしておけ」
場を収めるため、俺が間に入った。
───────────────
なんとか場を収め、かぐやの身体について説明する。
「今のかぐやの身体は地球人そのものだ。食べなければ死ぬし、日焼けもする。そして病気にもなるし、寿命もある」
「病気…かぐやには戸籍がないから病院にも行けないよね」
「ああ。両親が俺を拾った時も手続きをしたと聞いている。この件は俺が請け負わせてもらおう」
「じゃあ、それで決まり!」
「手間をかける事になってすまない、かぐや」
「気にしないで〜、かぐやがドジったのが原因だし。楓に作ってもらえてむしろラッキーって感じ!」
かぐやはそう言って俺にピースした。
「…そう言ってくれると助かる」
…俺もかぐやを連れ戻す際、代償として手放したものがある。
体感時間二千年を優に越える旅路、一からの生物の創造、時間の超越。その代価として払われたものが二つある。
一つは虚数エネルギー。セプターが持っていた分は全て持って行かれた。もう一度かぐやにやった事と同じ事をやれ、と言われても無理だろう。
そしてもう一つ。代償として支払ったのは──
──不老不死。
月人である俺には消滅しない限り死という概念はなかった。だがかぐやを連れ戻した時、俺の肉体の時が動き始めた。
月人は最適な身体を維持し続けるため、肉体の全盛期で成長が止まる。月人の特性である不老不死がなくなったため、肉体が成長を始めたのだろう。
地球の人間をモデルに作られた身体だ。寿命も人間並みだろうか。ともかく、彩葉たちと共に生き、共に死ねるようになった。上々の結果と言えるだろう。
…富士山の頂で不死を手放す、か。奇しくも御伽話と似たような事をしたな。
─────────────
「ヤチヨの現実の身体を作る糸口、か?」
「そう、セプターって遠い宇宙から来たんだよね?なら、ヤチヨの身体を作る糸口を掴めないかなって」
「実は以前からヤチヨに協力していたんだが、あまり進展していなかったんだ。だが…」
俺は懐から『紡がれた物語』を取り出す。かぐやに託していたのだが、先程返して貰った。
「今の俺はセプターのデータを掌握している。ツクヨミの俺の五感のデータも一助になるだろう」
「え」「は?」「へ?」
俺の発言を聞いた途端、沈黙が部屋を包んだ。何か不味いことでも言ったのか、と考えていると彩葉が口を開いた。
「……今なんて?」
「セプターを掌握しているから…」
「もう一つの方」
「五感のデータの話か?」
「そうそれ。楓…ツクヨミの中で五感があるの?」
「ああ、ある。そういえば人に話すのは初めてか…」
再び沈黙、そして…
「詳しく……」
「ヤチヨ…?」
「説明してくれる?ヤッチョは今、冷静さを欠こうとしています」
ヤチヨは据わった目で俺を見ている。俺に五感があるのを知らなかったのか。キュレネと交流があったから知っていると思い込んでいた。
「…どうして今まで話してくれなかったの?」
と、彩葉が疑問を問いかけてきた。
「最初に気づいた時、話すわけにいかなかったんだ。そして話す機会もなくなってそのまま…」
そう言うと彩葉は無言で耳を抓ってきた。
「…地味に痛いからやめてくれ」
「……痛い?」
「…あ」
この後、痛覚がある事もバレてしまい、対策ができるまでKASSENを禁止された。
──────────────
「…使えそうな情報はこれくらいだな」
「五感とかのソフトウェアはどうにか出来そうだけどハードウェアの方が今の技術じゃどうにもならない…」
現在可能な事を話し合って出た結論がこれだ。ツクヨミの環境とセプターの情報があれば五感の実装は可能だ。もちろんテストが必要だが。
問題はハードウェアだ。ヤチヨの魂を入れる器、つまりは義体を作るのだが現在の地球の技術ではまず無理だ。それを可能とする知識はあるがそれを実現する技術と莫大な資金が必要なので現状では無理、というのが結論だ。
十年。
現在の地球の技術からヤチヨの身体を作り出すのに必要な時間だ。大学を出て就職し、開発を終えるまでに最短で十年掛かる。
「
俺の言葉に彩葉が返す。
「でも見えるところまで来てる、なら行ける!」
「かぐやも協力して欲しい。いいか?」
「もちろん!かぐやも協力する!」
「ヤッチョももちろん、協力は惜しまないよ〜」
「じゃあ皆、ハッピーエンドまで、付き合って!」
彩葉の号令に全員で返す。
こうして
だが俺たちの運命は、既に元の軌道とは違った方向へ進み始めている。それを知る者はこの場には誰もいなかった。
───────────────
時は飛んで六年後。とある研究室の中、俺たちは協力をお願いしていた。
「アバターボディの完成、その為に必要な最後のブレイクスルーは既に目の前にある」
俺の言葉に続けてデスクの椅子に座る彩葉が続く。
「ハッキリ言います。お兄ちゃん、出資して!損させないから!」
「いやいやいや、俺をどこの富豪だと思ってんのよ」
そう返したのは彩葉の兄、酒寄朝日だ。両隣にはブラックオニキスの二人、駒沢兄弟がいる。
「大丈夫、お兄ちゃんは出来る!強いもん!」
「俺からもお願いします。朝日さん」
二人で朝日さんにお願いする。朝日さんは…
「…いいよ、お兄ちゃんに任せな」
出資してくれる事になった。それに便乗して駒沢兄弟も助力してくれるようだ。
朝日さんの帰り際、声をかけられた。
「ありがとうございます。協力してもらって」
「いーのいーの、妹と義弟の頼みだし。お義兄ちゃんって呼んでもいいんだぜ?」
「…義弟じゃないです」
「まだ、でしょ?アレでくっついてないなんてどんな冗談よ」
「それは…」
「ともかく、彩葉の事、これからもよろしく。楓」
「…ああ、勿論だ」
話を終えると、朝日さんは足早に去っていった。
「もうすぐ、だな」
「ヘルタ先生が来てくれなかったら予定通りもう四年は後だったよ〜」
なぜ予定していた十年ではなく六年で完成が目前に迫っているのか。それは、今彩葉の口から出たヘルタ先生という人物が関わっている。
一年前、ツクヨミにある人物が現れた。そう、天才クラブ#83、ヘルタだ。
目的はもちろん散逸したセプターのデータ。それを持つ俺に迫って来たがなんとか交渉に成功。彩葉と俺にヤチヨの義体を作るために必要な技術を授けて貰った。その辺りの話は、またいつか話すとしよう。
彩葉は教えているうちに気に入られたようで、偶に連絡を貰っているようだ。もしかすると
「楓」
「なんだ?彩葉」
「ありがとう、私達の側にいてくれて。楓がいなきゃここまで来れなかったと思う」
「…俺はただ、お前たちを支えていただけだ」
「楓」
「…なんだ」
「大好き…愛してる」
「…敵わないな、彩葉には。…俺も、愛している」
俺がそう返すと彩葉はにしし、とイタズラが成功した子供のような笑顔を浮かべていた。
「あっ、就業時間だ!帰ろ、楓!かぐやの料理が待ってる〜」
「ああ、帰ろう、彩葉。俺たちの───」
「───帰るべき場所へ」
大昔でも超未来でもなく、今とあまり変わらない少しだけ未来の世界。英雄たちが灯した"火"は一人の青年に受け継がれ、輝く夜に黎明を齎した。そしてその黎明は見た者の心に、新しい"火"を灯すだろう。
この物語を、"火"を追った英雄たちと道を進み続けるナナシビトに捧ぐ。
我らの進む道の果てが、
「ただいま」
END
丹羽 楓…不老不死とセプターの持っていた虚数エネルギーを代償にかぐやを連れ戻した。代償なんてものはね、オンパロスの輪廻で十分に支払われてるんですわ。ハッピーエンドの物語に後に残る代償はフヨウラ!六年後は研究所の副所長とツクヨミの管理運営代理、二足の草鞋を履いている。ヘルタが来た時は消されないか戦々恐々だった。既に外堀は埋められている。
酒寄 彩葉…ヘルタの教育で元から天才だったのがさらに化けた。機械頭に見られる時は近い…?楓を完全に堕とす日はすぐそこ。
かぐや…地球人の身体を得て現代へ連れ戻された。戸籍も確保し、六年後も年相応の金髪ギャルいかぐや姫。彩葉と楓の仲をじれってーな、と思いキューピットとなるべく奔走している。
月見 ヤチヨ…ツクヨミ内で五感は実装済み。アバターボディも予定より早く完成しそうでウキウキしている。楓、彩葉を幸せにしてあげてね!
本編、これにて完成!です。処女作であり、拙い文でしたがご愛読ありがとうございました。これからはかぐやが来るまでの前日譚、番外編、後日談を気ままに書いていきます。
重ねてご愛読、誠にありがとうございました。
作者の活動報告に後日談のリクエスト募集があります。要望があればご騰荒ください。執筆の参考にさせていただきます。