楓のスペシャルセラピー マッサージと耳かき
富士山の一件の翌日。彩葉は寝巻きでソファに突っ伏して倒れていた。
「マジいてぇ…」
彩葉は登山による筋肉痛に苛まれていた。ほとんど準備期間もなく登ったので当然だろう。
そんな彩葉を癒すべくある提案をする。
「彩葉」
「ゔ〜…なに?」
「以前、マッサージについての書籍を読んだんだ。適切な方法で行えば筋肉痛にも効果があるそうだ。今までのこともあって疲れていると思うんだが…試してみないか?」
「その……彩葉に興味があれば、だが」
いくら気の知れた同居人とはいえ異性に身体を触られるのは憚られるかもしれない。そんな思いとは裏腹に…
「お……」
「…おねがい、します…」
彩葉は顔を赤くしてその提案を受け入れた。
───────────────
彩葉の寝室へ移動し、布団にうつぶせで寝かせる。
「まずは脚だ」
ふくらはぎを足首の方から触れ太腿の方へ流していく。筋肉痛のため優しく押し流していく。
「うっ……ふっ……!」
筋肉痛の痛みとマッサージの快感で彩葉は悶えていた。
次は腕だ。こちらも手首から肩の方へ、身体の中心へ向けてマッサージしていく。腕の方は大丈夫らしく、快感に浸っていた。
こうして触ると、以前と比べて健康的な身体になった。初めて会った時、倒れていて抱き上げた時はあまりの軽さと骨ばった感触に心配したくらいだ。今はかぐやの作る食事のおかげか、いい具合に肉が付いている。
「丸くなったな、彩葉」
「だ、だぁれが太ったって!?」
「あ…すまない、言い方が悪かった。健康的な身体になった、という意味で言ったんだ」
「あ、そういう意味か…」
「安心しろ。以前が軽すぎたから適切な方に向かっている。かぐやのおかげだな」
「……そんな軽そうに見えた?」
「ああ、強く握れば折れてしまいそう、といった感じだった。…これで腕は終わりだ」
次は首と肩周りだ。まずは首から施術する。首は神経が詰まっているから、注意してマッサージしていく。首筋のマッサージは疲れ目や肩凝りにも効くため、彩葉には効果覿面だろう。
「ぐおぉ…き、効いてるかも……」
この通りだ。
首のマッサージを終えて最後、肩に触れる。
「ガチガチだ…」
「…そんなに?」
とにかく凝っている。今までの無茶生活のツケだな。重点的にほぐしていく。
「少し力を入れるぞ。なるべく優しくするようには心がける」
肩甲骨と肩の筋肉を力を入れて解していく。凝ったところのマッサージはやはり痛いのか、彩葉は声にならない悲鳴をあげている。
「う───っ!」
…これで肩もおしまいだ。でももう一つ、かぐやから教えてもらった事を彩葉にしたい。ある物を取り出し、彩葉の頭側に座る。
「膝に頭を乗せてくれ、耳かきをする」
「…なんで耳かき?」
「マッサージとセットでする物だとかぐやから教えてもらったんだ」
「その知識多分偏ってない…?」
そう言いながらも俺の太腿に右耳を上、顔を俺の外側に向けて頭を乗せる彩葉。男の固い膝枕で申し訳ない。
「まずは耳を温めながらマッサージする。そうすることで耳の穴が広がり、取りやすくなる」
用意していた蒸しタオルを耳に乗せ、その上から手で包んでぐにぐにとマッサージする。
「ふぁ〜……」
蒸しタオルとマッサージの合わせ技に彩葉は蕩け切っていた。マッサージはこれぐらいにして、メインの耳かきに入る。
今回使うのは竹製で細いもので、耳穴が細くても入れやすい一品だ。
耳かきの反対側にはふわふわとした綿毛のような物が付いている。梵天といい名前にはちゃんとした由来もあるそうだが今回は割愛する。
彩葉の耳を見てみると一見綺麗だが、所々耳垢が残っている。
「今から耳かきを入れるから、頭を動かさないようにしてくれ」
「うん…」
耳垢を落とさないように気をつけながら、丁寧に取っていく。蒸しタオルとマッサージのおかげか簡単に取れてくれる。学校の優等生は耳垢も優等生だな。
「んっ、ふうっ…」
人から耳かきされることがあまりないのか、彩葉は悶えていた。
「彩葉、以前誰かに耳かきされたことはあるか?」
「…幼い頃にお父さんにしてもらったぐらい、かな」
「…そうか」
耳垢がある程度取れたので、次は梵天を使っていく。
「ふ、あっ!か、かえで、くすぐったいっ」
「…我慢してくれ」
初めての梵天に彩葉はこそばゆいのか身が震える。彩葉は耳が弱いらしい。少し呂律が怪しいが、構わず梵天で彩葉をいじめていく。
梵天での掃除が終わる頃、彩葉は蕩け切っていた。紅潮した頬と耳が扇状的だ。
ではとどめを刺すとしよう。
「最後に耳吹きをするぞ」
「…ふぇ?」
彩葉の耳に優しく息を吹く。
「…ふーっ」
「────ッ!」
びくびくびくっ!と彩葉の身体が震え、脱力する。これで右耳は終了だ。
「反対側も耳かきをするからこっちへ向いてくれるか?」
こちらに顔を向けるように体勢を変える彩葉。こちらに向けた顔は蕩けていながら俺に対する怒りに満ち溢れていた。
「マジおぼえてろよ…」
彩葉の呪詛を聞かなかったことにして右耳と同じように蒸しタオルでマッサージ、耳かき、梵天を施していき─────
「こっちも最後の耳吹きだ」
そう言うと彩葉はきゅっ、と目を瞑って身体に力を入れる。小動物のようで愛おしい。
…ここで唐突に先日施されたおまじないのお返しを思いついてしまった。高まった嗜虐心のまま彩葉の頬に口付けを落とす。
「…ぇ?」
俺のお返しに惚ける彩葉。その勢いのまま───
「…ふーっ」
「───────────ッッッ!?」
びくびくびくびくっ!と、先ほどの比にならないほど彩葉は身を震わせるそしてそのまま…
「きゅう…」
全身を脱力させて完全に俺の膝に身を預ける。どうやら気を失ってしまったようだ。やりすぎてしまったな。
彩葉の頭を撫でながら、寝顔を見つめる。以前あった隈は消え、蒼白に近かった顔色はもう見る影もない。
彩葉が起きるまで、頭を撫でながら膝枕を続けた。
楓…マッサージは真剣に行ったが、耳かきは嗜虐心のまま彩葉をいじめた。おそらく仕返しされる。
彩葉…楓に弄ばれた。絶対に仕返してやる。
普通逆では?と思いましたがどちらかというと丹恒はする側だし彩葉はされる側だな、と思ってこんな感じにしました。あと普通に暴走しました。耳かきは僕の趣味です。