ミニライブの翌日から、俺たちの夏休みとかぐやのライバーとしての活動が始まった。
最初期こそ振るわなかったものの、彩葉がプロデューサーとして入るとかぐやの快進撃が始まった。月から来たかぐやは配信のことは何も分からない。好奇心のまま思いついたことをやっていく。後追いや二番煎じ、気負い、照れ。そんな言葉はかぐやの辞書には存在しない。彩葉の作り、かぐやが歌ったオリジナルの曲も相まって、ランキングという階段をとてつもない速度で駆け上がっていく。
彩葉はなんでも中途半端にできる、と過去に言っていたが、学校内では常に成績トップ、品行方正、世間に大ウケする曲も作った。これで中途半端というのは正しくない。オールラウンダーや八面六臂というのが適切だろう。その事を彩葉に伝えると、彩葉は
「その分野のトップには敵わないから私は中途半端なの」
と謙遜してしまう。彩葉はトップ…一番に執着している。幸か不幸か彩葉にはそれを実行できる才覚を有している。だから無理をしてしまう。この時俺は考えるより先に、言葉を口に出していた。
「…何事も一番になる事だけに価値があるわけじゃない。その中でも音楽は、聴いた人の心を動かしたのなら、どんな記録よりも価値のある物になる…と俺は思う」
「…人の心を動かす…」
どうやら彩葉には思い当たる節があるようだ。
彩葉がしばらく考え込んだ後、こう言った。
「…ありがと、楓。ちょっと気が楽になったかも」
そう俺に笑いかけてくれた。その笑顔は、今までのものよりずっと自然な笑顔だった。
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彩葉と話をしたあと、俺は彩葉から家の合鍵を渡されてしまった。
「かぐやが変なコトしないように見といて!」
との事。今まで何度も彩葉の部屋に入っているとはいえ、異性に合鍵を渡すのはどうかと返そうとしたが、
「…楓だから渡したの、楓ならそんな事しないでしょ」
と押し付けられてしまった。信頼してくれるのは嬉しいが迂闊だぞ…。
彩葉に合鍵を渡されてからかぐやの配信に付き合ったあと、ほぼ毎回三人で食卓を囲むようになってしまった。
そして女性ライバーの側に男性がいるのはファンが黙っていないのでは…と思ったが、いざ配信してみると意外にも受け入れられていた。配信の様子から俺はかぐやの兄か保護者と思われているようだ。なぜか俺への好意のコメントも寄せられていたりする。本当に何故…?
かぐやと一緒に活動する時彩葉は狐の着ぐるみのスキンを着ている。俺のアバターはセプターの影響か体全体を覆うスキンを着けられない。そのためアザラシを模したサングラスをかけるだけに留めている。
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夏休みの中盤。
「まだまだ足りない!どうすればいいのだー!」
かぐやが砂浜に広げられたレジャーシートの上で転げ回っている。かぐやの持っているスマホには現在の順位、260位が表示されていた。
彩葉、かぐや、綾紬、諫山。彼女達のナンパ避けとして俺は海に来ている。諫山は彼氏がいるのに男が来て大丈夫なのか、と聞いてみると
「楓くんなら大丈夫でしょ〜。楓くんには彩葉いるしー」
とのこと。彼氏からの許可も貰っているらしい。
四人のスタイリングは綾紬が行ったらしい。ファン数17万人を誇る美容系インフルエンサーは伊達ではなく、それぞれの魅力を余す事なく発揮していた。綾紬と諫山に彩葉の水着姿の感想を求められ思うままに答えたところ、彩葉は赤くなってかぐやの影に隠れてしまった。
彩葉はかぐやの影で
「女たらしめ…」
と恨めしそうな視線を俺に送っていた。
その流れでかぐやの水着姿も褒めたところ、かぐやは跳ねて喜んでいた。
俺が昼食を買って帰ってくると、四人はかぐやの配信活動と彩葉の楽曲について話していた。
彩葉の楽曲が褒められると俺もつい鼻が高くなってしまう。彩葉のためにももっと褒めてやってくれると助かる。
かぐやの配信活動については伸び悩んでいる…というより今のペースでは優勝できないらしく、かぐやが彩葉におねだりしていた。こうなると彩葉は断れない。かぐやのおねだりを断れない様子に綾紬と諫山にちょろは、と呼ばれていた。
おねだりに負け、悔しがる彩葉の様子に
「彩葉、明るくなったねー」
と諫山が、
「突然ふって、いなくなっちゃいそうだったもんね」
と綾紬が言った。
…確かに俺が彩葉を介抱した時、同じような感想を抱いた。部屋には物が少なく、冷蔵庫もほとんど何もない。いつでも夜逃げできるという感じだった。本人にその意図はないだろうが。俺が料理を押し付けるようになっても、顔色やクマが多少マシになるくらいで、どうかしてやることはできなかった。
彩葉を本当の意味で明るくできたのは間違いなくかぐやのおかげだ。そしてこれからもかぐやの力が必要だろう。
「かぐや」
波打ち際で遊ぶかぐやに声をかける。
「なにー?かえで」
「彩葉が明るくなったのはお前のおかげだ。これからも彩葉のこと、よろしく頼む」
そう言って頭を撫でた。しまった、妹の癖で。
「!…わかった!あともっと撫でて!」
そういえば頭を撫でるのは初めてだった。赤ちゃんの時は撫でていたが覚えてないのだろう。
かぐやからねだられたので、しばらく頭を撫でていた。これではあまり彩葉のことを強くいえないな…。
かぐやと話しているうちに、綾紬と諫山はかぐやとコラボすることにしたようだ。そして俺に
「友達なんだからそろそろ名前で呼びなよ〜」
「一緒に海に行く仲なんだからさ〜」
と言われてしまった。直接言われてしまったら呼ぶしかないだろう。
「わかった、芦花、真実…これでいいだろうか」
と返す。二人はその返事として笑顔を浮かべた。
芦花と真実とのコラボでかぐやは伸びていくだろう。だが、それだけではおそらく足りない。俺もかぐやの活動の一助となるべく、新しい企画を考えた。かぐやが作り出した犬DOGEが着想の元にしたものだ。
「かぐや、新しい企画を思いついたんだが…」
「どんなの?」
「かぐやの犬DOGEから着想を得たんだが…」
そう言って俺の考えた企画をかぐやに伝える。
するとかぐやは
「イイっじゃんそれ!大バズ確定だよ!!」
と返してくれた。
企画と共に渡したスマホの画面には、オンパロスに存在する生命、「キメラ」の姿が映されていた。
楓…一番になる事自体は重要ではない。たとえ一番でなくても必要な物は沢山ある。
視聴者にメロつかれてる。丹恒…俺の丹恒…
自身ではかぐやのように無理やり踏み込めなかったので感謝している。
犬DOGEから着想を得た企画とは…?
彩葉…お母さんと対等になるため、一番である事に固執していたが、楓の説得で少しだけ考えが変わった。その考えが変わった原因にはかぐやも影響している。
アザラシを模したサングラス…ザラシヘッド・丹恒。