かぐやのソロライブは成功に終わり、SNSにも肯定的な意見が飛んでいる。そのおかげで『STAR RAIL』のランキングは跳ね上がっていた。
ミニライブから数日経ったある日、俺は買い出しに出ていた。涼しいスーパーを出て暑く湿った不快な空気を肩で切って歩く。そんな時、かぐやから着信が来た。
「かぐやか、どうした?」
「かえで、助けて〜!いろはが立てなくなっちゃって身体もアツアツでぇ…」
「っ!今はどこに居る?」
「家に着いて寝かしてるんだけどいろは、苦しそう…」
「すぐに行く、それまでエアコンを点けて彩葉の首の付け根や腋の下、足の付け根を冷やしてほしい」
「わかった!」
通話を切り、すぐさま薬局へ向かった。
───
「火種」で目覚めた身体能力をフルで使って家まで帰ってきた。噂にならないといいが…。
それよりも彩葉だ。
「彩葉ッ!」
戸を開けると制服姿のまま苦しそうに眠る彩葉とそれを心配そうに看病するかぐやがいた。
「かぐや、今どういう状況だ?」
「かえでの言ってたとこ冷やしていろはのバイトお休みの連絡したぁ…」
「よくやった。後のことは任せろ」
ここからの諸々は、俺が背負わせてもらう。
─────
しばらくして彩葉が目を覚ました。彩葉は慌てて立とうとしたが、身体が持ち上がらないようだ。今かぐやは彩葉の食事を作っているので、俺が説明する。
「典型的な熱中症だ、かぐやがバイト先に休む連絡はしてくれたから休んでおけ」
「え……かぐやが?」
「あと、いっぱいふかふか置いといたから、いっぱいふかふかしてね」
とかぐやが振り向いて彩葉に言った。
「ふかふか? ああ、ふかふかか…」
彩葉の周りには選りすぐりのふかふかぬいぐるみが周りを包囲包囲している。彩葉はぬいぐるみの一つを抱きしめながら
「……ありがと」
と言った。
かぐやが病院へ行くことを勧めたが、彩葉は
「ギリギリで予定組んでるから…何日も休んだら追いつけない…そしたら奨学金も…出ないかも…」
と、身体が弱っているせいか、彩葉はネガティブなイメージを吐露した。
かぐやは潤んだ目で見つめ、
「なんで彩葉はそんなに一人で頑張らないといけないの?」
と弱々しい声を漏らした。
「うっ、うっ…わたしもめっちゃ無理言っちゃったし…いろはぁ、死んじゃったらやだぁ〜」
号泣してしまった。
かぐやは感情豊かだが、ここまで泣くのは初めてだ。
病人である彩葉と一緒にかぐやの背中をさすった。
かぐやが泣き止んでから、かぐやは先ほど自身のした質問、彩葉が一人で頑張る理由について聞こうとしている。だがかぐやは何を言えばいいか分からず頭をひねっている。それを見て気が楽になったのか、彩葉は理由をぽつぽつと喋り始めた。
父の死、出て行ってしまった兄、父の死から変わってしまった母。正しさに潰されそうな彩葉…。
「…それで、私が一人で学費も生活費も賄うならって、やっと折り合いついたんだよね」
「えらい簡単に言ってるけど、みんなそんなことしてなくない?かえでは?」
「…俺もほとんど親頼りだ。キメラで稼いだ金はあるが」
「ほらそうじゃーん!」
「お母さんはそのくらいのこと平気でやってたし、私も譲らなかったし」
その後彩葉はここで目を覚ました日のことを話していた。
「いやいやいや、ラッキーじゃないっつーの!宇宙人調べでもそのお母さん激ヤバおかしいって!」
かぐやに便乗し、俺も言う。
「彩葉には申し訳ないが、言わせてもらう。彩葉のお母さんは───寂しい人、なんだな」
「寂しい人…?」
彩葉の父に会うまで自身以外を切り捨てなければ生きていけなかった人だったのだと俺は思った。そうしなければ潰れるのは自身だったからだ。彩葉が時々言っていたお母さんの言葉も、そう思うと合点がいった。
俺がそう言うと彩葉は黙り込んでしまった。そしてぬいぐるみに爪を立てて
「二人には………」
「え?」
「………」
「ううん、何でもない」
「…そっか、じゃあご飯食べてお薬飲んで寝よっか」
その後、かぐやが彩葉に食事を食べさせていた。
───────
俺は自室に戻り、自身の無力さを呪い、思考を重ねる。
何が「大地」の半神だ。隣人一人も支えられない、悩みを知っていながら解決もしてやれない。あまりの情けなさに先達へ顔向けができない。
彩葉は完璧な母という檻の中にいる。俺はそこに干渉できない。
かぐや…彩葉をその檻から連れ出せるのは、やはりお前なのかもしれない。
楓…自身の無力さに嘆いている。地上の生命を支える「大地」の半神として先達に顔向けできない。
かぐや…彩葉の心の鍵を開けるにはかぐやの自由さ、破天荒さが必要。
彩葉…ミニライブや勉強の疲れと暑さのダブルパンチで倒れてしまった。今までの生活のツケもある。二人なら大丈夫だと思い、家族の事を話した。