あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する   作:あに

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14話 お兄ちゃん、怒られる

 

 グレースさんとの食事を終えて、僕はふぅと息つく。

 

 豪勢なご飯を彼女と二人きりで食べるのは、その、なんというか、疲れた。

 

 やっぱり、みんなで一緒になって食べる方が好きなのだろう。

 多少粗末なご飯でもみんなで食べるならとびっきり美味しく感じるのだ。

 

 そんなことを考えながらも、今の僕がいる場所は子供部屋。

 つまるところ、お仕事中である。

 

「はい、これが今日の問題。

 とりあえず解いてみよっか」

 

「えー、お兄ちゃんと遊びたいのに」

「はいっ、お兄様!

 お勉強の時間ですねっ!」

 

 孤児院から持ってきていた教材を二人に渡した後、僕はしばらく彼女らを観察する。

 

 最初は遊ぼう遊ぼうと僕にひっついていたアリスちゃんだったが、リリィちゃんがお勉強を始めると慌てて机へと身体を向けた。

 

 おそらく、お姉ちゃんとしての誇りがあるのだろう。

 うむ、実に感心するね。

 

 ……まぁ、少しペンの走りが悪いようだけど。

 

 テストとして一人でやらせる予定だったけど、涙目で問題を解く彼女を見ていると。思わず力を貸してやりたくなってしまう。

 

「わ、わかんない、の」

 

 ……ちょっとくらい教えてもいいか。

 

 そう思って、僕が立ち上がったとき。

 

「お兄様っ、終わりました!」

 

 隣のリリィちゃんが立ち上がり、書いていた問題用紙を渡してきた。

 

「あ、もう出来たんだ。

 やっぱり凄いね、リリィちゃん」

 

「いえっ! お兄様の教え方のおかげでありますっ!」

 

 そこまで難しくない問題とはいえ、初めてでこの早さか……凄いな。

 それをものの数分で解くところを見ると、やはりグレースさんの言う通り、凄い子なんだろう。

 

「う、うぅ、もういやなの」

 

 そのとき、隣のアリスちゃんが持っていたペンを机に向かって投げた。

 

 見ると、彼女の目はぐるぐるに回っている。

 うん、もう限界だな、これ。

 

「よし、そろそろお風呂にしよっか。

 最初の日だし、疲れちゃったよね」

「するの。お風呂にするの」

 

 机にペタッと頬をくっつけたアリスちゃんを撫でながら、僕は彼女らに伝える。

 隣のリリィちゃんはまだまだ出来ますと言いたげに笑っているが、初日だし今日はいいだろう。

 

「レイトお兄様もご一緒しましょう!

 お風呂っ!」

 

「……ん、ごめんね。

 ちょいと諸事情があって、一緒には入れないんだ」

「そうなのですか?」

 

 首を傾げるリリィちゃんを見た僕は、視線を誤魔化すように彼女の頭を撫でようとする。

 が。

 

「リリィ、贅沢言わないの」

「あ、はいっ、お姉様!」

 

 僕の右手は後ろに下がったリリィちゃんによって空振ることになった。

 

 ……? なんか、今、避けられた?

 

 いや、気のせいか。

 一瞬の違和感は無視して、僕はアリスちゃんを抱っこする。

 

「うへへ、これ好きなのぉ」

「うんうん、今日は頑張ったね、アリスちゃん」

「はいっ、お姉様は頑張りましたっ!」

「もちろん、リリィちゃんも頑張ったからね」

 

 そのまま、彼女ら二人をお風呂へ連れて行った後、僕は束の間の休息を取るのだった。

 

 

 

 働き初めて、数日が経った。

 今のところは順調である。

 

 困ったことということも、特にない。

 個人的な感傷で辛くなることはあるけど、でもそれは僕の問題だ。

 

 分かったこともある。

 

「お兄様、魔法というものは凄いですねっ!

 リリィ、お空を飛べちゃいました!」

「うん。

 でも、僕が見ているとこでしか使っちゃ駄目だよ。危ないからね」

「はいっ、分かりました!」

 

 リリィちゃんは凄い。

 そんな月並みな言葉でしか表せないほど、僕は彼女に驚いていた。

 

 いわゆる秀才というやつなんだろう。

 彼女は魔法から数学、果ては剣術まで、彼女は一瞬で自分のものにしてしまった。

 

 なんなら僕より上手そうだ。

 教育係なんて必要ないんじゃないか。

 

「……うぅ、分かんないの」

 

「んー、そうだね。

 ここはこうして……これならどう?

 わかるかな?」

「わかんないの」

 

 反面、アリスちゃんは普通の子だ。

 出来が悪い、というわけではないだろう。

 このくらいの歳の子なら、これが普通だ。

 

「お姉様。そこはリンゴさんが5つあると考えればいいんですよ。ミカンさんは関係ないのです」

「そ、そうなの?」

「そうなのです。

 あ、でもここはミカンさんが必要ですよ」

「なんで?」

 

 とはいえ、姉妹仲は悪そうに見えない。

 僕が来る前のことは知らないが、少なくとも今は良好な関係性に思える。

 

 若干リリィちゃんの方がお姉ちゃん感がある気はするが、これもこれで良い関係だろう。

 たぶん。

 

 

 ちなみに僕の部屋は彼女たちと共用である。

 

 お客さま用の部屋もあるにはあるらしいが工事中だとグレースさんが言っていた。

 ……そうは見えなかったけど。

 

 まぁ、言われたからにはしょうがない。

 衣食住を頂いてる立場なのだ、とやかく言うのも失礼だろう。

 自分の娘をこんな棒切れと一緒に寝かせて良いのか、とは思うが。

 

 そんなことを考えたり、リリィちゃんに驚いたり、アリスを撫で撫でしたりしていると、時間はあっという間に過ぎていく。

 

「ん、もうこんな時間か。

 よし、それじゃあ、今日のお勉強は終わり。

 お風呂に行っちゃおうか」

 

「はい、そうしましょう。お兄様」

「うー、そうするの」

 

 お風呂に出発する彼女たちを見送った僕は一人、子供部屋に取り残される。

 

 

 ……にしても、広い部屋である。

 ここだけで孤児院の子供たちが全員暮らせそうなそんな雰囲気すら存在する。

 ここ数日は忙しかったこともあって、中はあまり見れていない。

 

 この機会だし、少し探索でもしてみるか。

 

 そう思って、僕は部屋を歩き回る。

 とはいえ、あんまりプライベートなとこを探るのも良くない。

 見える部分だけだ。

 

「あ、これ僕のぬいぐるみ。

 ……そっか、大事にしてくれてるんだ」

 

 部屋の隅っこのアリスちゃんのゾーン。

 そこには何匹ものぬいぐるみが寄り添って鎮座していた。

 

 見覚えがあるそれらは、アリスちゃんが孤児院に来たときに作ったものだ。

 

 一緒に寝ていたからだろう。

 ぬいぐるみの顔の辺りにはよだれの跡がついている。

 

 最近朝起きたときに僕の服についてるのと同じだ。

 お互い、良き抱き枕ライフ送っていたのだな。

 

 思わず笑みが溢れながら、僕は探索を続ける。

 すると、ふとあるものが目に入った。

 

「あれ、このリボン」

 

 そこにあったのは、青色のリボン。

 

 アリスちゃんに渡したピンク色に対になるように渡した、もう一つのリボンだ。

 そう、リリィちゃんのプレゼント用に頼まれたリボンである。

 

 

「――なにをしているのですか?

 お兄様」

 

 そのとき、不意に後ろから声が聞こえた。

 

「わっ、びっくりした。

 リリィちゃんか」

 

 そこにいたのはお風呂上がり、水気を帯びた銀髪を携えたリリィちゃんだ。

 

 その声は、今まで聞いた彼女のものとはまるで違っていた。

 

 僕はリボンから手を離して、彼女と目を合わせる。

 

「それはリリィのリボンなのです。

 ……あまり触らないで貰えますか」

「え、あっ、ごめんね」

 

 話す語気は強い。

 それを聞いた僕は慌てて、リボンから手を離す。

 

 ……怒ってる、のか?

 

 いや、人のものに勝手に触れたのは僕か。

 怒られても仕方ないだろう。

 

「何かしようってわけじゃなかったんだ。

 ただ、見覚えがあったから……」

「それはお姉様がリリィにくれた大切なリボンです。貴方には関係ないでしょう」

「え、あ、うん。

 そうなんだけど……」

 

 なんとも言えない重い空気が僕たちの中を流れる。

 ……困った。

 彼女とは仲良くやっていきたいのに。

 

 何も言えず、時間が流れ、僕は彼女の睨むような視線に動けないでいた。

 だけど、そのとき。

 

「――リリィ!

 お兄ちゃんとなに話してるのっ!」

 

 実に能天気で可愛らしい怒り声によって、僕たちの中の緊張が解け落ちる。

 

「……あっ! お姉様!

 申し訳ありませんっ、先に戻ってきちゃって」

「そ、それは、いいのっ!

 でも、お兄ちゃんと二人でいるのは駄目なのっ!」

「え、なんで? アリスちゃん?」

 

「あ、アリスのものなんだもん。

 お兄ちゃんはっ」

 

 実に可愛らしいアリスちゃんの姿。

 

 見ると、リリィちゃんの顔にも笑顔が戻っている。

 ……アリスちゃんに助けられたな。

 

 彼女への感謝を呟いた後、僕らはしばらく一緒に遊んでからベッドに入った。

 

 アリスちゃんを挟んで三人で眠るベッドはかなり狭い。

 こちらに顔を向けないリリィちゃんのことを気にしながら、僕はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

「さて、行きますよ、アリス」

「うぅ、お兄ちゃんと遊びたかったの」

 

 次の日、用事があるとグレースさんに連れていかれたアリスちゃんを見送りながら、僕らは子供部屋の椅子に座る。

 

 去り際、グレースさんは僕に軽くウインクをしてみせる。

 ……たぶん、今日がチャンスだぞって言いたかったんだろう。

 

「やあ、リリィちゃん。

 少し、お話をしないか?」

 

 意を決して、僕はリリィちゃんに話しかける。

 

「はいっ! リリィもお兄様とお話できて嬉しいですっ!」

 

 顔に張り付いた笑みとともに、リリィちゃんは元気な声を僕にぶつける。

 ……心のこもらない、平坦な声を。

 

「――それは、君の本音かい?」

「……何の話でしょうか? お兄様?」

 

「大丈夫、誰にも聞かれないし、誰にも言わない。だから、君の本当の話を、お兄ちゃん聞きたいな」

 

 僕は彼女の目をじっと見て、声を放つ。

 

 静寂が僕らを支配する。

 

 僕から破るのはいくらでもできるけど、それじゃあ駄目だ。

 彼女には、本当の話をしてもらわないといけない。

 

 

「――はぁ、厄介な人が来てしまいました」

 

 そして、数分後。

 諦めたようなため息の後、彼女が喋りだす。

 

「レイトさん」

 

 

「私は貴方を兄として認めていませんので」

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