あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する   作:あに

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3話 お兄ちゃん、奮闘する

 お祈りの後、ご飯を食べた僕は孤児院の外に出ていた。

 

 理由は簡単。子どもたちと遊ぶためだ。

 家の中にいても大した娯楽はないし、身体を動かすことは将来的にも役立つ。

 子どもたちもゆくゆくはここから離れて、仕事に就く。そのときのために体力をつけるのは大切だ。

 

 ちなみにアリアさんはお仕事があるらしく、執務室に行ってしまった。手伝おうとも思ったけど、子どもたちを放っておくわけにはいかない。

 

 ――それに、今日はいつもより人も多いみたいだし。

 

 実はこの孤児院に来るのは孤児だけではない。

 

 

 ここから徒歩二十分ほどのところに、一つの農村が存在する。

 

 小麦やら野菜やらを育てて、街からやってくる商人との交易で生計を立てている小さな村。

 そこに住む子どもたちが、孤児院によく遊びに来るのだ。

 

 この世界のほとんどの家は母子家庭だ。

 理由は単純。

 男が少ないからだ。

 

 そのせいで、母親が仕事に行くと子どもは一人になることが多い。

 

 というかそもそも、育ち盛りの子どもの面倒を母親一人で見るというのもしんどい。

 ここら辺には魔獣も出るし、もし、勝手に森などに行ってしまえば命の危険すらあるのだ。

 

 だからこそ、この孤児院がある。

 母親が面倒を見れない時間、僕とアリアさんが代わりに彼女らを預かっているのである。

 

 言ってみれば、養護施設のようなものか。

 お母さんたちも助かっているようで、村からは毎月、ご飯とお金を頂いている。

 

 特に僕が貰いに行くと、いっぱいおまけしてくれるので助かっている。

 やけに視線を感じるのはご愛嬌だ。

 

 お金を貰っている以上、子どもたちを危ない目に遭わせるわけにはいかない。

 ということで、僕がみんなのお兄ちゃんとして彼女らと戯れるのも必要なことなのだ。

 

 ふふっ、色々と語ったけど結論は一つ。

 僕はみんなのお兄ちゃんなのであるっ!

 

 そんな風に胸を張り上げたとき、小さな影たちが僕に向かってぴょんと飛びかかってきた。

 

「レイトお兄ちゃん!

 今日はなにして遊ぶの?」

 

「私おままごとしたいっ!

 お兄のお嫁さんになるの!」

 

 可愛らしく笑う少女たちの姿はまるで天使だ。

 時折、僕のことを天の使いなんて呼ぶ人がいるけど、彼女たちの方がよっぽど近いだろう。

 

 そう思って、彼女らの小さな身体を持ち上げようとしたとき、背中の方から一段落ち着いた声が聞こえた。

 

「……は? 兄さんはままごとなんてしませんし、お嫁さんなんてもってのほかです。

 摘み出しますよ。ニーナ」

 

「うぅ、エリス姉が虐めてくるよぉ。お兄」

 

 声の主はエリスちゃん。

 僕の三つ年下であり、孤児院では最年長の子だ。

 僕とアリアさんの代わりにご飯を用意しとくれたりと、子どもたちの中ではかなり大人びた良い子である。

 

 そしてエリスちゃんから逃げるように僕に絡みついた女の子。

 彼女がニーナだ。

 

 現在六歳。ギリギリ小学生と言った年の彼女はエリスちゃんと真反対。実に手のかかる元気な子だ。

 好き嫌いは多いし、すぐに泣いちゃう。でも、根は良い子で、ちゃんと駄目って言ったら聞いてくれる。

 

「はいはい、一旦落ち着こうね。みんな」

 

 上目遣いで見つめてくるニーナの頭を撫でながら、僕は子どもたちの数を数える。

 農繁期ということもあり、村から来た子も多い。

 

 1、2、3…………んー、これだけの人数ならおままごとは厳しそうか。

 僕は小さくニーナに「ごめんね」と囁いた後、子どもたちを一箇所に集めて、呼びかける。

 

「よし、みんな。

 今日はかくれんぼでもしようか」

 

 こういう子ども遊びの知識は前世のものだけど、この世界の彼女たちにとっては新鮮なものらしく、かなり楽しんでくれる。実に良いことだ。

 

「僕が鬼をやるから、みんなは僕にバレないように隠れること! 範囲はこの孤児院の中だけ、絶対に外には出ないこと。いいね?」

「うんっ、わかった!」

 

「うー、おままごとがよかったなぁ」

「――よしよし、おままごとはまた今度しようね。

 僕もニーナのお婿さんになるのを楽しみにしてるから」

「ほんとっ!」

 

 不満気に頬を膨らませていたニーナだけど、僕の声を聞いて、その声が明るく染まる。

 うんうん、やっぱり言ったら分かってくれる良い子なのだ。

 

「それじゃあ今から六十秒数えるから、みんな隠れてきてね。

 ふふふっ、一番最初に見つかった子は、恐ろしい罰ゲームが待ってるぞぉ!」

 

 そういうと同時、「わわわ、どこ隠れよっ!?」なんて騒ぐ声が辺りにこだましだす。

 

「いーちっ、にーいっ、さーん――」

 

 それを聞いた僕は左目を瞑り、みんなに聞こえるように大きな声でカウントダウンを始める。

 

 ――ただ、何も考えずにカウントするわけではない。

 

 僕は耳を澄ませ、頭の中の全神経を集中させる。

 

 ……ん、よし、ニーナは、そこか。

 

 ここに来る子どもたちの足音は全て把握している。

 ちょっと集中すれば音の聞こえ方でどこに隠れたのかは全て分かるのだ。

 

 もちろん、彼女らに楽しんでもらうために、すぐに見つけるわけにはいかない。

 ただ、どこか危ない場所に行ってしまう可能性も考えると、場所は把握しておかないといけない。

 

「――ごじゅーきゅ、ろくじゅっ!

 はい、それじゃあみんなっ! 始めるよ!」

 

 そうこうしている間にカウントダウンが終わる。

 

 同時、足音がパタンと聞こえなくなった。

 よしよし、みんなちゃんと隠れられたようだ。

 

 そのことを確認した僕は、閉じた左目を開けて、高いとこに隠れちゃったニーナを見つけに行こうとした。

 だけど、そのとき。

 

「兄さん。

 それ、ちょっとずるくないです?」

 

 不意に背中から、声が聞こえて、思わず身体が跳ねる。

 

「――エリスちゃん?」

「はい、兄さんのエリスです」

 

 ……あれ、何でここにいるんだ?

 隠れたんじゃないのか?

 

 僕は疑問に思いながらも、彼女の頭にポンと手を置いて呟く。

 

「えっと、とりあえず。エリスちゃんみっけということで」

「はい、見つかっちゃいました」

 

 実にあっけない確保だけど、エリスちゃんは別に気にしていないようだ。

 いや、むしろ当然みたいな態度で僕を見ている。

 

「兄さんの耳を考えると、隠れても意味ないですからね。

 まぁ、あの子たちは知らないので仕方ないですが」

 

 ん、あぁ、そういうことか。

 

 エリスちゃんと僕は付き合いが長い。

 だからこそ、彼女は僕の耳のことも知っている。

 隠れても無駄だと分かって、その場で動かなかったのか。

 

「あれ? でも足音は全員分あったよ?」

「さあ? 猫でも混じってるんじゃないですか?」

 

 いやいや、猫ちゃんなら流石に気づくよ。

 んー、なんでなんだろうか。

 

「それより。

 私、最初に見つかっちゃいましたよね?」

「え? あぁ、うん。

 そうだけど」

「はい、そうですよね」

 

 ……ん? なんだこの間。

 

 ――あ、アレか。罰ゲームのことか。

 気づいた僕は、エリスちゃんに向けて小さく言葉を放つ。

 

「……あ、えっと、一応罰ゲームあるけどやる?

 軽くこちょこちょするだけなんだけど」

「ん、仕方ないですね。

 まぁ、確かに一番最初に見つかった以上、受けなきゃいけません」

 

「いや、エリスちゃんはもうそんな年じゃないし。

 代わりにニーナにでもしてこようか――」

「……は?」

「あ、ごめん、うそです。

 軽いジョークだよ、あはは」

 

 危ない。

 何か凄い地雷を踏み抜いたようなそんな気がした。

 

 いやでも、この年の女の子の身体に触れるのは少し気が引ける。

 彼女ももう中学生と言った年だ。

 触った瞬間に「兄さん、キモ。二度と触れないでよ」とか言われたら本当にきつい。てか、泣く。

 

「ほ、ほんとに触って大丈夫?

 怒ったりしないよね?」

「……はぁ、私が兄さんに怒ったことがありますか?」

 

 いや、わりとあるけど……。

 そう突っ込もうと思ったが、エリスちゃんは既に手を上げて僕が来るのを待っている。

 

 ……仕方ない、やるか。

 

 僕は彼女の身体の側面。

 一般的に脇腹と呼ばれる部分に手を這わせてから。

 

 指をゆっくりと、動かして始める。

 

「こ、こちょこちょ〜」

「んっ、あ、にぃ、さ、ん」

 

 それと、同時。

 甘い声が、耳に入ってくる。

 いつもは、凛としているエリスちゃん。

 彼女のこんな声、聞いたことがない。

 

「……な、なんか? 変な感じしない?

 気のせい?」

「いぇ、べ、つに、ふっ、――んぁ、つうです」

 

 耳が良いのを、煩わしく思ったのはこの日が初めてだ。

 ……うん、ちょっと、駄目かなこれは。

 

 僕はそっと手を退けて。

 顔を真っ赤に染めて、吐息する彼女を地面に座らせた。

 

「もう終わりですか?」

「……いや、これ以上は凄く教育に悪い気がしたし。

 それにお兄ちゃん、なんか変な趣味に目覚めそうだったし」

 

「まったく、意気地なしですね」

「今の行為で意気地を測られるのは、お兄ちゃん凄く不満なんだけど」

 

 ジトっとした目でこちらを見るエリスちゃんだけど、間違っているのは彼女の方だと思う。

 そんなことを言おうと思ったけど、よくよく考えると今はかくれんぼの途中だ。

 

「そろそろかくれんぼに戻らないと。

 エリスちゃん、歩ける?」

「――はい。

 でも、兄さんに弱いところをいっぱい虐められたせいで、足がガクガクします。

 ……なので、分かってますよね?」

「ん、はいはい。

 まったく、何歳になっても変わらないんだから」

 

 僕は彼女に左手を差し出して、呟く。

 

「ほら、行くよ。エリスちゃん」

「――えぇ、そうしましょう。

 兄さん」

 

 言葉が聞こえたと思えば、暖かい感触が肌に伝わる。

 

 ……こうやって、手を握って歩いていると、まるで本当の兄妹みたいな、そんな気すらしてくる。

 もちろん、僕と彼女は血縁などない他人だ。

 でも、間違いなく家族ではある。

 

 血の繋がりなんて関係ない。

 僕はお兄ちゃんであり、彼女は可愛い妹なのだ。

 それだけは誰にも否定することはできない。

 

「さて、誰から見つけにいきますか?

 兄さん」

 

「ニーナが物置の上に隠れちゃったから、そこからかな。

 あの子、高いところ苦手だから、早く見つけてあげないと怖がっちゃうでしょ?」

 

 エリスちゃんだけじゃない。

 ニーナや他のみんなだって、僕にとっては可愛い妹だ。

 甘えんぼな子もいるし、恥ずかしがり屋な子もいる。

 

 でも、その子たち、みんなのお兄ちゃんになるため。

 僕は今日も奮闘するのだ。

 

 そう思って、隣のエリスちゃんに微笑みかけたとき。

 彼女が一言呟く。

 

「やっぱり、兄さんは優しいですね」

「優しくなんてないよ。

 お兄ちゃんっていうのはね。

 いつだって妹たちのために生きるものなんだ」

 

 彼女の言葉に呼応して、僕は少しキザったらしく語り出す。

 ふふっ、カッコよく決まった。

 これには流石お兄ちゃんと返すしかないだろう。

 

「――兄さん。

 あんまり、勘違いさせるようなこと言ったらダメですよ」

「え?」

 

 でも、返ってくる言葉は僕の思っていたものとは違っていた。

 

「だって、兄さんは私と一緒になるって決まってるんですから」

「……はえ?」

 

 彼女の言葉の意図を理解する間もなく、僕は身体を引っ張られる。

 

 小さな背にも関わらず、彼女の力は僕よりも強い。

 慌てて駆け出した僕は、彼女に連れられるがまま身を預けるのであった。

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