あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する   作:あに

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6話 お兄ちゃん、見つかる

「アリスのお家。ここよりすっごくおっきいとこなの」

「ほうほう、そうなんだ。

 んー、となるとやっぱ街の方かなー」

 

 アリスちゃんとお話をした後、僕は彼女を肩に乗せて、孤児院の外を歩いていた。

 時刻は現在十六時ごろ。そろそろ本格的に家探しを始めないと日が暮れてしまう。孤児院の方は黙って抜けてきたし、早く帰してあげないとお互いに心配されてしまうな。

 

「……ん。たぶん、そうなの」

 

 幸い、街の近くらしいということは分かっている。

 大きな家という話からして、村の方ではないのは確かだ。あそこは村長の家ですら、この孤児院より小さいし。

 

「……街かぁ」

 

 街の方に行くと目立つから嫌なんだけど。

 ……まぁ、仕方ないか。アリスちゃんをこのまま孤児院に置いておくわけにといかないし。

 

 そうして、僕は街へ向かって足を動かし始める。

 普通に歩いていけば何時間もかかる距離だけど、幸い僕には魔法がある。

 

「ふふっ、ちょっと飛ばしていくよっ!

 ちゃんと掴まっててね、アリスちゃん!」

「ひゃあっ!?」

 

 風魔法を背中にぶつけて、半ば浮遊した僕はここから一番の近くの城塞都市、アイリスの街へと向かった。

 

 

 

「よっと、着いたよ。アリスちゃん」

「も、もうびゅーんってやつは、終わりなの?」

「ん、そうだね。

 ……大丈夫。また今度遊んであげるからね」

 

 空を飛んでいる間、アリスちゃんは随分と楽しそうにしていた。良いとこの娘らしいし、ああいうアクロバティックな経験はしたことないのだろう。

 

「――うん、約束だよ。

 お兄ちゃん」

 

 小指を差し出す彼女に対して、僕は右手を差し出す。

 短い指を伸ばして、僕の小指とくっ付けようとする姿は実に可愛らしい。

 

「はい。これで約束完了っ。

 それじゃあ、アリスちゃんのお家探し、始めよっか」

 

 彼女と指切りをした後、僕はまた肩車を始める。

 こうやって、高いとこに顔を持っていった方が彼女を探している人がいたときに気づいてもらえるだろう。

 

「――それじゃあ、アリスの探検。

 スタートなのっ!」

 

 そう、彼女が大きな声で叫んだ瞬間。

 

「おおっ、アリス様!

 ここにいらっしゃいましたか」

 

 背中の方から一人の人物が近づいてくる音がした。

 振り返って、見てみると。

 彼女の服装は鎧に剣。大きな兜で顔は見えないがハキハキとした声からは自信というものが垣間見える。

 

 ……というか、もしかして、この人って。

 

「アリスちゃん。

 あの人、知り合い?」

「……うん」

 

 やはりそう、アリスちゃんの家の人である。

 

 随分と早く見つかったな。

 いや、あっちもあっちで必死に探していたということか。

 

「――もしかして、貴方が送り届けてくれたのですか?」

 

 そう思ってアリスちゃんを下ろしたとき、鎧さんに声をかけられる。

 

「そうですね、はい。……あ、申し遅れました。

 町外れの孤児院で働いているレイトです。

 えっと、シスター・アリアの使いって言った方が分かりやすいんですかね?」

 

 一応アリアさんはそこそこ偉いシスターだったはずだし、名前を出しておけば変に疑われることはないだろう。

 

「ほう、シスター・アリアの……ん?」

 

 ただ、僕の言葉を聞いた彼女は一瞬疑念が浮かんだかのように、固まる。

 ……どうしたんだ。べつに嘘はついていないぞ。

 

「……すみませんが、一度、兜を取ってもらってもいいですか?」

「え? はい、別にいいですけど」

 

 そう言って兜を取る彼女。

 

 次の瞬間、僕の左目に驚くべきものが浮かび上がる。

 

 ――猫耳だ。

 

 頭にぴょこんと生えてるのはもふもふとした毛並みの耳。

 風に揺られて、ひらひらと動くソレは僕自身、初めて見るものだった。

 

 獣人だったのか。珍しい。

 

 あ、待て。

 そういえばアリスちゃん。家に猫がいっぱいいるって言ってたな。

 

「もしかして、猫さんって、こういうこと?」

「……うん。アリスの家。猫さんがいっぱいいるの。

 よく喋る猫さんなの」

 

 アリスちゃんは僕の手をぎゅっと抱きながら言葉を放つ。

 

 僕は目の前の猫さんへと目を向ける。

 随分と触り心地の良さそうな耳だ。

 ……言ったら触らせてくれないかな。

 

 モフモフに魅力された僕は、つい思ったことを言葉に出そうと口を開いてしまう。

 

「あの、ちょっとお願いが――」

 

「――だ、男性の方だったのですねっ!?」

 

 ただ、僕のお願いは彼女の声量によって掻き消された。

 

 見ると、猫耳がぴこぴこと動いている。

 ……相当動揺しているな、この人。

 

「――いえ、違います。僕はお兄ちゃんです」

 

 僕は空気を和らげるため。

 そしてなにより、正しいことを伝えるため、キリッとした顔を浮かべながら言葉を発する。

 

「……え、あ、はい?」

 

 あ、普通に引かれている。

 すみません、やっぱ今のなしで。

 

「……お兄ちゃんはお兄ちゃんなの」

 

 僕が慌てて手を振ると、すかさずアリスちゃんが声を放つ。

 うぅ、妹にフォローされる情けないお兄ちゃんでごめんよ。

 

 そう思った僕は無理やり話を進めようと、目の前の彼女に対して疑問をぶつけた。

 

「……えっと、実は僕アリスちゃんのお家のことを知らなくて。結局、どういうとこなんです?」

 

「……あ、あぁ、すみません、そうでしたか。

 申し遅れました。

 私、ライデル家で騎士をやっております。レジーと言うものです」

 

 ライデル家……っていうと、まさにこの城塞都市の大貴族だ。

 思っていた数倍、凄い名前が出てきたな。

 そこの騎士、となると案外この人化け物級に強い人なんじゃないだろうか。

 

 ――ただ、まぁ。僕にとってはあまり関係ない。

 そういう権力には興味がないし、アリスちゃんを見る目が変わったりすることもない。

 結局のところ、彼女は僕の可愛い妹の一人なのだ。

 

「――レジー。こっちに来て」

 

 そのとき、アリスちゃんがレジーさんを呼び寄せた。

 

 気になった僕は近づこうとしたけど、その度に彼女はそそくさと後ろへと下がってしまう。

 そのため仕方なく、僕は止まって彼女たちの様子を見守ることになった。

 

 ……んー、目の前でコソコソ話をされると気になるんだけどなー、お兄ちゃん。

 

「あの、どうかしました?」

 

 こういうとき、僕は黙っていることができない。

 隠し事というのは苦手なのだ。

 するのも、されるのも。

 

「申し訳ありません。詳しい話は後日させていただきます。

 ……ですが、まずは貴方に感謝を。

 アリス様を送り届けて頂きありがとうごさいます」

 

 僕の問いかけにレジーさんが答える。

 ん、結局何を話していたのかは教えてくれなそうだ。

 ……まぁ仕方ない、か。

 

「いえ、お兄ちゃんとして当然の責務ですので」

 

 そう僕が笑いかけようとしたとき。

 レジーさんが膝を立てて、僕に向かって手を差し出した。

 

 いわゆる、騎士の誓いってやつだ。

 

 僕はそんな彼女の姿を見て、おー、と声を出す。

 そしてそのまま、何秒か時間が経った。

 レジーさんは手を差し出したまま動こうとしない。

 

 ……ん、あれ、これどうするのが正解なんだ?

 上流階級の知識がないから分からないぞ。

 手を取るのでいいのか?

 

 ――あ、いや、待て。

 確か教会で似たようなことをしたことがある。

 そうだ、確かあのときアリアさんに教えてもらったのは……

 

 僕は彼女の手を取る。

 

 そして、ゆっくりと顔を近づけていき。

 

 彼女の手に向かって、そっと口付けを落とした。

 

「――は?」

「……え?」

 

「あはは、これで合ってましたっけ?」

 

 多分こうだったはずだ。

 口付けをするのは抵抗があるが、手の甲くらいになら、変なことにもならないだろう。

 

 そう、変なことには……

 

「な、な、なにをっ!?

 わ、わたくしの、て、手にっ!?

 せ、接吻をしたのですか」

 

 あ、凄い驚かれちゃってる。

 やっぱ間違ってたのか? これ。

 

「あれ? 違いました?

 ……おかしいな、アリアさんはこれで良いって言ってたんだけど」

 

 アリアさんは結構抜けてるところがある。

 教会の知識と貴族の知識とがごっちゃになってたのかもしれないな。

 

 僕は非礼を詫びようと頭を下げる。

 が、そのとき。下げた頭にポンと手が乗った。

 

「……お兄ちゃん。アリスにもするの。

 今のやつ」

 

 小さなおてての正体はアリスちゃんである。

 彼女はなんとも言えない拗ねた表情でこちらを見ている。

 

「え、あ、いや。

 ああいうのは確か、厳密なルールとかあって、アリスちゃんにはちょっとはや――」

「今すぐするの。しないとアリスの権限で牢にいれちゃうの」

「そんな怖いことできるのアリスちゃんっ!?」

「するの」

「しないでよっ!?」

 

 随分と怖いことを言われた僕は、その後も放心状態のレジーさんと一緒に、頬を膨らませたアリスちゃんのご機嫌を取り戻すことに精を出すことになった。

 

 

 

「えっと、後日来てくれるんですよね。

 それなら、今日は帰ります。子供たちにも心配されちゃうので」

 

 時刻はおそらく十九時ごろ。

 日も落ちてきて、辺りはもう結構暗くなってきている。

 ここから孤児院までの移動時間も考えるとそろそろ帰らないとまずいだろう。

 

「アリスちゃんも、そのリボンを使って、ちゃんと仲直りするんだよ。

 優しいお姉ちゃんなんだからね」

「……うん、お兄ちゃん」

 

 僕は彼女の頭にポンと手を置く。

 そして、最後に一度。軽く頭を撫でてから、彼女たちと別れた。

 

 帰りのアリスちゃんの表情は寂しそうで、少し心配だったけど、きっと違いうちにまた会えるだろう。

 お屋敷の場所もレジーさんに教えて貰ったし。

 

 ……それじゃあ、良いお姉ちゃんになるんだよ、アリスちゃん。

 

 

 

 こうして、僕は無事彼女を家に送り届けることに成功した。

 

 ただ、その、なんというか。

 やっぱり時間をかけ過ぎたようだ。

 

「黙って、どこ行ってたんですか、兄さん。

 ほんと心配したんですから」

 

「……レイトさん。ずっと一緒にって約束したじゃないですか。

 なんで私に何も言わず、抜け出したりするんです」

 

 帰った僕を待っていたのは、アリアさんとエリスちゃんからの長い長いお説教なのであった。




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