「リデンプター」   作:ジョン・ゴリラ

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機械に繋がれた囚人

 

 

おれはだれだ。

 

 

 

 

 

「現在、受刑者による制圧作戦が実施されています。」

「作戦地域にいる市民は速やかに非難してください。」

 

 

 

 

なぜここにいる。

どうしてまちがぐちゃぐちゃになっている。

 

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

うでのなかでなまあたたかいにくがびくびくとふるえている…

この娘はなぜ、おれの胸の中で泣いている。

 

 

 

 

「ぐぉ、ぁあ、あああああ!」

「ふざけるな…おまえだって同じ囚人の[クズ]のクセによぉ!」

「ナマイキなんだよォ!」

 

 

 

なぜおれは、激しく憤っているんだ。

なぜこんなにも敵が憎たらしいんだ?

なぜ腸が熱く煮えたぎっているんだ。

 

 

 

尽きぬ疑問に蓋をして、今日も囚人は敵の頭を消し飛ばす。

 

 

 

 

 

 

記憶のない罪を、償う為に。

いつかきっと…良い子に生まれ変われるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「続報が入りました。」

「たった今、警視庁が投入した受刑者により容疑者が制圧されました。」

 

 

 

 

サイボーグ。

生物が機械と融合した存在。

生物と非生物の境界が揺らぐ、曖昧な実態を持つ。

対極に位置する概念が交わる場所。

そしてこの世界においては…さらに異なる側面を有する。

 

 

 

それは、犯罪者が人生をリセットするための…

 

 

贖罪への道である。

 

 

 

 

「リデンプター・サイボーグ。」

 

「つまるところこれは、犯罪者に課される刑罰…」

「人類の技術的発展と連邦の法改正により生まれた新たな贖罪の形だ。」

「過ちを犯した己を消去し、市民に誠実で政府に忠実になれるように問題を抱えた犯罪者たちに改良を施す。到底常人には理解できないだろうが…曰く、これは救いだという。」

 

刑が執行されると、罪人は執行機関による改造手術を受けてサイボーグとなる。

機械の体によりその身体能力は飛躍的に向上する。

 

「それはつまり、犯罪者に強力な武器を与えているということに他ならないのでは?」

「犯人がその力を悪用し、社会秩序を乱すのは火を見るよりも明らかだろう。」

「政府自らが市民の安全を脅かすのか。」

 

当然、世間からの疑問の声は殺到した。

 

「しかし政府の答えはこうだった。」

 

 

「刑を受ける囚人は、改造によって記憶を完全に消去される。」

「人格も抹消され、囚人の行動はすべてコンピュータにより統制、制御される。」

「そして我が政府から提供されるデータに基づいて様々な社会奉仕活動に従事する。」

 

汚染や災害等の危険区域での作業。施設の警備。

法務執行の支援、害獣駆除、災害救助、紛争地帯への投入。

 

 

そのどれもが命にかかわる危険な任務であり、囚人たちに課された刑の一部となる。

 

 

 

 

 

 

「囚人番号0220、現時刻をもって任務完了とする。」

「これより車両に乗車し、収容房に戻れ。」

 

 

通常の囚人であればこの場合、監督官の指示を受けた時点で黙って従う。

トラックの荷台の椅子に腰かけ反対側をただじっと見つめている。

それ以外のことは基本的に必要でない限り、何もしない。

言われたことしかしないし、できない。

そしてそれ以外なにもするべきじゃない。その方が市民にとって安全だ。

 

そうあるべきだった。

 

「こどもが、ないている。」

 

囚人は命令を無視し、不明瞭な報告を行った。

発言後、着用している外套の下から不審な動きがあった。

武器等の不正な持ち込みを警戒し、ホルスターに手を伸ばした。

 

囚人服として与えられている黒ずんだ橙色のコートの下から幼い少女が顔を覗かせた。

少女は怯えたまま、コートの下から歩み出る。

逃げ遅れた子供だった。この地域では珍しい状況ではない。

対応は問題なく行われた。

 

しかし、あの子の状態は今回のことが原因ではないように見える。

少女の目の周りが黒く変色していた。この時点で重大な人権問題が懸念される。

後ほど調査を要請する必要がありそうだ。

 

「我々の方で保護しておく。」

「それと、報告は簡潔に行うことが原則であるが、今回明瞭さに欠けていた。」

「重大な事故の原因となりうるため、報告においてはこの点に注意せよ。」

「今回は状況を鑑みて厳重注意の処分として処理する。」

 

「りょうかいしました。もうしわけありません。」

 

「うむ、しかし児童保護に関しては評価すべき行動だった。」

「今回の件を刑務記録して提出する当たってお前の行動は道徳性審査の対象となるだろう。」

「審査結果によっては今晩は刑務所で「夢」を見る許可をもらえる。今後も道徳的行動を心がけるように。」

 

監督官は必要がないと理解しつつも何かを想って囚人に労いの言葉をかけた。

同情か、尊敬か、慰みなのか、それを理解するのは本人ですら困難だった。

 

 

その後監督官は人員を呼びつけてその子供を預けた。

銃を肩にかけた重武装の警察官がさぁおいでと言ってその小さな手を握った。

そこに同じような姿の警察官が3人ほど集まって、子供を慰めながら連れて行った。

 

そこはきっと安全で、目が黒くなるまで泣くこともないだろう。

 

「ありがとう、ございます。」

 

「うむ、では車両に戻れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おれはびくびくふるえるにくのかんしょくがいまもここにあるようにかんじた。

しんぞうがいたい。

あとでけいむかんにほうこくしよう。

からだがていししたら、つぐないができない。

とてもこまる。

 

 

囚人はトラックに乗って刑務所に戻ろうとしていた。

 

「ヒューマン・インテリジェンス・リサーチ社の平均株価はストップ高を維持し続けており…」

 

運転席の方からラジオの音が左から右へと流れていく。

電波越しに伝わる人の肉声には情報が詰まっていて、彼の脳内に取り込まれていく。

 

「フォンシュトン国立公園で特定の団体による政策に対する反対デモが行われましたが、受刑者らにより鎮圧されました。」

 

情報が必要かどうかは、脳と一体となったコンピュータが選別し、処理する。

どれだけ情報が送り込まれても、囚人は空っぽの頭で虚空を見つめている。

 

「先ほど、ゲッペラー群西部にて発生した脱獄犯による暴行事件の続報が届きました。」

「報告によると、犯人はゲルゲモン・マカデイとのこと。」

「マカデイ容疑者は過去に不正インプラントの売買の容疑で起訴され、禁固32年が言い渡されています。」

「マカデイ容疑者は収監後から暫くして、刑務所内にて地元ギャングを経由するなどして、違法改造された建築作業員用の自動物理演算プロセッサを入手後に収監先のムルッケナー刑務所から脱獄。」

「逃亡後、連邦領マルベレラ州のゲッペラー群西部にある住宅地にて今回の犯行に及んだ模様です。」

「犯行当時、容疑者は住民に無差別に襲い掛かるなどした模様。」

「これにより男女8名が意識不明の重体及び重軽傷、そして内2名の死亡が確認されています。」

「なお遺体の損壊は激しく、事件の凄惨を物語っています。」

「犯人と被害者らとの関係は現在調査中です。」

 

 

ラジオ局が伝えるのは囚人が先ほど投入された現場のニュースだった。

 

 

「また記者によりますと、同じく被害にあっていた女子児童を受刑者が一時的に保護していた模様です。」

「記者の調べから、受刑者が送り込まれた直後、犯人が児童に危害を加えようとした所を受刑者が覆いかぶさるように庇うなどして、児童を守もったとのことです。」

「サイバネティクス専門家によれば、リデンプターがこのような行動をとるケースは過去になかったとのこと。」

「児童の身柄は現在、警察に保護されています。」

 

囚人は自身が報道されている内容に一切関心がない。

一方、この輸送トラックの運転手はそうではなかった。

 

「このニュース、お前のことだろ?」

 

「はい。」

 

運転手の問いかけに無機質に回答する。

 

「…にしても、記憶がないとはいえ犯罪者の割には随分とまぁお人好しな事をするもんだ。」

 

運転手は受刑者を蔑むように皮肉を言う。

 

「なぁ、なんであの子を庇った?」

 

囚人の行動は運転手の琴線に妙な心地で触れていた。

 

しかし囚人に深い理由はない。

ただ受刑者として順守すべき規範に則り、幼い民間人への被害を防いだ。

それだけだった。

囚人はそれをそのまま運転手に伝えた。

ただし、専用のテンプレートファイルを使用して。

 

「受刑者としての行動規範に従いました。」

「行動許可範囲内にいる民間人の身体や精神及び、財産が著しく損なわれる可能性がある場合、リデンプターはこれを阻止するため努力することが推奨されています。」

 

「ぐだぐだと長ぇよ、もっと簡潔に説明してくれ。」

 

回答のやり直しをもとめられた囚人は、単純な情報の出力を中断した。

運転手の要求を考慮し、自身の思考をつたえた。

 

「…ひとびとにしんせつにするようにたのまれました。」

 

ようやく理解を得た運転手はしばらく沈黙した。

 

「よくわかんねぇな。サイボーグ受刑者ってのは自分が死ぬかもしれないのにわざわざ見ず知らずのガキを身を盾にしてまで庇えるもんなのか?」

「しかも理由は、ただ頼まれただけ。間違ってもお前がやりたくてやったんじゃないってか?」

「まったく世の中うんざりするぜ。」

 

「…よくわかりません、わたしは…そうするべきだからしただけ……だとおもいます。」

「でもなぜか、あのときちめいてきなエラーをかんじました。」

 

囚人は、当時自身に起きた異変をそう揶揄した。

運転手は囚人の言葉を反芻しながら聞き返す。

 

「エラー?」

 

「はい、ほごしたちょくごにはっせいをカクニンしました。そのオンナノコのカオをみたとき、シンゾウがきしむようなイタミをログにほぞんしています。」

「ショウジョウはそれだけにとどまらず、シンパクのゾウカにともなってネツがちくせきしました。」

「ヒートタンクのハンブンをみたすほどのネツでした。」

 

囚人は心臓部の痛みと、体温上昇があったと訴えている。

その熱はかなりの高温だったらしく、リデンプター専用人工蓄熱臓器「ヒートタンク」の半分を埋めるほどだったという。このヒートタンクが半分に到達するようなケースは今回のような対人制圧任務ではまれである。

これほどの熱を蓄積するような事案はせいぜい最近増加傾向にある「サイバーミュータント」を駆除するときぐらいだのものろう。

 

「……ふむ。」

 

「どうじにあたまのなかがテキのことでいっぱいになりました。」

「あのソンザイをこわさなくてはいけない。ムリョクカしなければならない。」

「それいがいのシコウをすることがフカノウになりました。」

「ちめいてきなエラーです。ケイムショにもどったら、ケイムカンにフィードバックをおこないます。」

 

「…そうか。」

 

運転手は、その囚人の拙くも精一杯な証言に考察を巡らせた。

暫くして、運転手は腫れ物に触れてしまったようなバツの悪さを感じながら言う。

 

「まぁ、なんだ…その子…元気になるといいな。」

 

「……はい。」

 

 

長く償いに努めた無垢な囚人が最初に感じたその感情は、強力で危険なものだった。

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