「リデンプター」   作:ジョン・ゴリラ

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羊とオオカミ

 

市民に対して公表されている連邦防衛委員会のサイバーミュータント関連資料を参照するとわかるが、メーレレ・バインとは改造されたグロニカルである。

 

そしてグロニカルとは、メーレレ・バインと同じく脅威度分類規格:AWE(オー)における[ホレリス]に分類される低脅威度のサイバーミュータントである。

これらはメクノーシスと呼ばれる突発性電脳症候群(サイバーシンドローム)によって発生する変異のなかでも最も一般的な変異の一つである。

 

メクノーシス発症中期に30%の確率で起きる症状、インプラント暴走を起因とする「汎発性体組織結合障害」による溶解現象…つまりドロドロの肉の塊になった人間の成れの果てである。こうなった者は50%の確率で死亡する。

一方で、生き延びた残りの50%も溶解現象によって脳が周辺組織と癒着、混合され自我と知性、記憶を失う。

ある意味死んだも同然と言えるだろう。

 

つまりグロニカルとは、このおぞましい変異から辛くも生き延びたがために、さらなる生き地獄を味わう羽目になった哀れな人類だ。発見次第即殺処分が道徳的と総督委員会が定めるほどである。

 

これがグロテスク・オブ・テクニカルもとい、グロニカルだ。

 

これらは本能的に残留した筋組織を動かし、這いまわることで人類に接近、攻撃を試みようとする。

訓練を受けた人員ならば容易に対処可能だが、とにかく気持ちが悪いことこの上ない。

 

 

余談だが、グロニカルは脳の状態が良ければ飼い慣らすこともできる。

 

 

ークロイツマーゲン博士へのインタビュー記録No.185ー

 

 

「防衛委員会では既に知られていることだが、メーレレ・バインはグロニカルを改造して生み出される。」

「改造方法は極めてシンプルだ。グロニカルから露出した神経系にマニピュレーターか義手、義足などのインプラント…なんなら、可動性があるものならなんでも取り付けるだけ動く。」

「フリーランスのメカニック・ドクターでもやらないような実にお粗末な設計だが、その単純さゆえ…カルトに入信したばかりの信者の修練にも使われている。」

「サイバネティクスが生んだ怪物をサイバネティクスでより醜い怪物へとかえる。」

「カルトの異常性が垣間見れる悪趣味なイコンの一つだろう。」

「あの醜悪さには全く吐き気がする…。」

 

 

博士はインタビューの中で終始嫌悪感を示していた。

 

 

ブロック45にて…

リデンプターが今、そのメーレレ・バインと交戦中である。

 

 

「マーウレーゼマギィニィーーッ!」

 

タコのように柔軟に蠢く脊椎で跳躍すると、メーレレ・バインは工業用マニピュレーターをリデンプターが目掛けて振り下ろした。

 

「………。」

 

予備動作もわかりやすい力技の攻撃、囚人は造作もなく横に数歩退いて回避する。

 

ガチィン!

 

ミュータントのアームは金属製の床を強烈に叩きつけるだけだった。

そしてその隙から囚人はすかさずブラスターアームを撃ち込んだ。

 

ズドンッ!

 

肉体に命中し、鮮血が飛び散る。

 

「グギゲガァアッィィイイイイッ!」

 

苦しみに満ちたうめき声が工場に反響する。

 

それに伴って新しい足音が聞こえてきた。

無数の足跡だった。

戦闘の影響で、新たなメーレレ・バインが引き寄せられたのだろう。

 

「マッカローム!ネ・カクスィベーレッ!」

「ヴァ・メッテマーイェ!ウルゴメクルッカ!」

 

囚人の両側面から新たに二体のメーレレ・バインの奇襲攻撃が始まった。

一方は工業用レーザーカッターによる長射程の切断攻撃、もう一方は背面のアームに取りつけた軍用のグレネードランチャーから榴弾を放った。

 

「知性がある。厄介。」

 

囚人は敵の特徴を記憶しつつその場で身を伏せて攻撃を回避。

挟み撃ちを仕掛ける知性はあったものの、賢くはなかったようで。

新たに投入された二体は互いの攻撃により自滅した。

 

「ガルガァマ…パモーニェェ…」

 

やはり敵の言葉は理解できない。

囚人は組織が痙攣している二体に携行しているコンバット・ナイフでとどめを刺した。

 

「リデンプター…。」

 

動かなくなった肉塊からナイフを引き抜いた時、男性の掠れた声が暗闇から聞こえてきた。

囚人は警戒し、ブラスターをその暗闇に向けた。

 

「罪なる赤子…サイバネティカの観測者よ……。」

「贖罪者よ…純粋と無垢…虚妄の為政者たちに囚われし者よ…。」

「我らのもとに来い。」

 

 

 

暗闇に潜む者は囚人を誘おうとしている。

しかし囚人がそれに従うことはない。それが連邦が定めた規則だ。

 

リデンプター収容手順順守法第12条1項

・刑務作業中のリデンプターは原則として刑務作業監督官の指示にのみ従うこと。

・それ以外の人員からの指示を受けた場合は監督官への報告が義務付けられる。

・これが破られた場合当該受刑者は司法の判断を省略しての極刑を課されるものとする。

 

そもそも、声の主の狙いは囚人そのものではない。

 

 

 

「その罪は、主の神聖にのみによってはじめて贖うことができる。」

「我らは許しをもたらすために貴公を導くゆえ。」

「貴公もその[夢]によって我らを導くのだ。」

 

 

 

こいつらにとって囚人は自らの信仰を探究するために利用するだけのモノに過ぎない。

 

「所詮は罪人、カルトであってもその認識が覆ることはない。」

「罪とは人類にとって即ち…嫌悪の象徴でしかないのだ。」

 

それゆえに受刑者らは何からも庇護されず、情も向けられることはない。

しかしそれが間違いであることは決してない。

悪とは淘汰されてしかるべきなのだから。

 

囚人は、道理を述べて要求を拒否する。

 

「リデンプターは連邦政府所有の財産です。個人での判断は致しかねます。」

「要求は棄却されます。ご了承ください。」

 

囚人はカルトに対して法の執行を通知した。

 

「カルトは連邦脅威データベースにテロリストとして登録されています。」

「テロリストは追跡と抹殺の対象です。」

「動かないでください、ご協力いただければ死の苦痛を和らげる事ができます。」

 

 

事務的に取引は決裂し、双方がこれから起こることが凄惨な殺し合いであることが明らかになる。

いや、こうなることはお互いに既に理解していたのだろう。

故にカルトどもは…

 

 

「やはり連邦に脳を焼かれた人間、こうする他あるまい。」

「修行僧、いつも通りに頼む。」

 

 

バチッ

 

 

囚人を照らす電灯の明かりが消える。

全てが暗闇に没した時が奴らの合図。

 

カルトはその目的故にリデンプターを殺すことはしない。

それゆえ意識を奪うなどの無力化を積極的に試みる傾向がある。

その手法は主に…

 

「……サイバーミュータントを検知。」

 

暗闇を利用した奇襲攻撃。

古典手的手段、それゆえに効果的。

 

 

「エルゲロームッ!!」

 

「グアァニーチェラーッ!!」

 

メーレレー・バインの集団をけしかけられた囚人は臨戦態勢に入る。

 

サーマルカメラをレーダーから最も近い標的にブラスターを叩き込んでいく。

 

ズドンッ!

 

ブラスターのマズルフラッシュからミュータントの飛び散る血と肉片が見えた。

 

カチカチカチ…

 

椎間板で構成された足が地面を拘束で這う音が聞こえた直後、囚人の左足が一人でに動き出した。

一体のミュータントが死角から這ってワイヤーをかけて転倒させたのだ。

 

それがカルトの絶好のチャンスだった。

 

 

「……しまった。」

 

 

受刑者の夢から生まれ、発展してきた宗教団体。

連邦中の何者よりもリデンプター捕縛のノウハウを熟知していた。

ミュータントに紛れていたのだ…羊飼い(シェパード)が。

 

 

改造されたテーザーガンから放たれた鋭利な電極の束が、囚人の胸椎に刺し込まれた。

 

流し込まれる高圧電流で体が痙攣し、囚人はのたうち回った。

 

リデンプターのセンサー網を搔い潜ってそれを行ったのは、カルトの修行僧である。

 

修行僧は人口の大半を占めるカルトのカースト最下層のメンバー。

連邦内で上層部の指示を忠実に実行する実行部隊である。

その中でもリデンプターを捕獲する任に預かる者らをシェパードと呼ぶ。

シェパードはリデンプター捕獲用の装備を上層部から賜り、信者から称えられる。

電波吸収シートと炭素繊維複合素材、上層部が持つ特許技術の融合により構成されたステルス外套、ST-11111111(エイトワン)

それによって囚人の探知を突破する。

 

すべてはサイバネティカの導きを得るために。

 

 

 

気を失った囚人は監督官との唯一の連絡手段の通信機器を外され、工場の奥底へと連れ去られた。

 

「HQ、HQ、リデンプターをロスト。対応指示を願います。」

 

司令部はこの非常事態への対応を迫られた。

 

 

 

 

 

「連邦の囚人を攫う様を羊飼いに例えるとはな…オオカミの間違いではなかろうか?」

「しかし我々からすれば奴らは血迷った子羊で、我々こそがそれらを仕留めるオオカミのはずだ。」

「時々わからなくなる、どちらが真に迷える子羊で…血に飢えたオオカミなのか。」

 

国家防衛委員会事務総長アーバレスト・マクリチャード長官のインタビュー記録「カルトの真実」より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

リデンプターに与えられたクロムメッキの髑髏の面の眼窩から赤い光が灯る。

 

 

 

暫くして、囚人のコンピュータが再起動し、意識を回復させた。

周囲は相変わらず薄暗く、微かな暖色の蛍光灯と電池式のLEDランタンの薄明りがここがカルトが占拠している血塗れの工場深部であることを教えている。

 

劣化したたんぱく質の臭いが鼻を突く。

暴力的な行為が行われていたことは明らかだ。

 

おそらくはここで、カルトたちは捕獲したリデンプターから夢を集めている。

 

カルトを殲滅するため、ここを出ようとして立ち上がろうとするが、ジャラジャラという音でそれは失敗した。

原因は首と手足に嵌められた枷のせいだった。枷は鎖で壁と繋がれている。

 

 

(刑務作業が難航している、監督官に怒られるだろうか。)

 

 

 

 

ところで、リデンプターは設計上の問題で自力で夢を見ることができない。

他者の介入が不可欠となる。

それには主に二通り存在する。

 

一つ目の方法は主に技術的な意識への介入。

以前、報酬として睡眠を与えられた際も、エンジニアによるスリープモードの有効化が行われた。

これには特殊な手順を踏む必要があり、連邦政府の規定により秘匿されている。

 

 

そして二つ目は…瀕死の重傷を負うこと。

結局のところ、リデンプターは一つの生命体なのだ。

負傷すれば、回復を要する。

 

肉体的な回復は、疲労を強いるものだ。

皮肉なことに、体を機械化しようとも人類は疲労からは逃れられない。

精神、インプラントパーツ、どちらも時間と負荷によって摩耗していく。

リデンプターも例外がない。

 

カルトはリデンプターを休眠状態にする技術的手段を知りえない。

先ほど述べたように、連邦政府がそれを厳重に隠匿しているのだ。

不正利用防止と言うが…実態は情報統制を行うためである。

 

 

故にカルトは、リデンプターに人間では死に至るであろう苛烈な拷問を加える。

不幸中の幸いか…リデンプターは痛みを感じるがそれを苦しみと認識できない。

刑務作業を滞りなく行うための処置だ。

 

目を背けたくなるような話だが事実としてカルトはこれを「伝道の儀式」と称して実際に行っているのだ。

手段はそれこそ宗派によって異なるが…共通して言えることはそう…。

 

 

「これより、電気羊の伝道の儀式を行う。」

「伝道師よ、「ルアー」を展開せよ。」

 

 

 

 

奴らは市民を利用している。

 

 

 

 

 

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