導きの手に光あれ。其にもはや退路は無く。(前) 作:グリーンヲイジメヌンデ
AM.7:00
「おはようございます」
うん。おはよう。
「おはようございます教祖様」「おはよーございます!」
おはよう、おはよう。
「教祖様、今日も良いお日柄で」
うん、そうだね。おはよう。
「おはようございますです!」
おはよう。ですます。
信者たちが挨拶をしてくれる。それに笑顔で答えていく。いつもの日課の始まり。
『拝掌教』。そう名付けられて随分と久しい僕たちの家は、都会の喧騒から2歩3歩離れた場所に位置している。
朝の健康的な時間から、大人子供入り交じって『家事』を行う。洗濯、料理、掃除、なかなか起きない子達の目覚まし。当番だったりそうじゃなかったりするが、それぞれの家事を手早く済ませる。
みんなは仕事や役割と言っているが、私は勝手に家事と呼んでいる。ここに居るみんなは私にとって家族だ。家族も同然。ではなく、家族そのもの。そんな家族が家のために行うことなのだから、それは家事というべきだろう。
AM.8:00
荘厳な空気と絢爛な装飾、宗教画に包まれた清浄な空間。大聖堂。
家族たちからの寄付によって建てられた、身の丈に余る空間。
家族たちに見守られながら、目の前の神の似姿に祈りを捧げる。糸を張ったかのような静寂に耳を傾けながら、内心で神に問う。
神様、神様。
なぜ私なのですか。
祈りをやめる。家族たちの拍手が後ろから響く。その拍手を手で制しながら、家族たちに声をかける。
さぁ、食事にしましょう。
AM.8:30
朝食を摂りながら報告を受ける。
先月救済を受けた信者の数と、今月の救済を受けた人数の推移。
本日の『予約』。
生活用品などの諸経費の許可。
本日の体調チェック。
あくせくと行っているうちに、あっという間に食事も終わってしまう。
ご馳走様でした。
AM.10:00
昼食までの自由時間。
なにか仕事をしようとしても、書類やら何やらは他の家族の方が優秀で取られてしまう。
「教祖様にこのような雑事を任せては、我らの立場が...」
そんな気遣いはいらないのに。
結果、私ができることといえば教団内を歩き回るくらいのことだ。
家事をしている家族に顔を出して、労う。これも立派な仕事と言うが、こう毎日だと有難みも薄くなるんじゃないだろうか。
「教祖様!このようなところまで、毎日ご足労を頂きありがとうございます!!」
...薄く、なるんじゃ?ないだろうか...?
AM.12:00
昼食。朝に比べれば落ち着いた時間。
料理を口にしながら、この後行われる相談会の確認が始まる。
心做しか周囲の信者たちの空気が熱を帯びている。
その熱量に息苦しさを感じながら、表に出さずに料理を流し込む。
今日は少し熱かった。
PM.1:00
相談会。
PM.5:00
教団内の見回り。朝とはまた違った活発さがある。慌ただしくもないが、どこか一日の終わりを感じさせる空気。
朝とはまるで違った方向から入る日差しによって、教団施設内の表情もまた違って見える。
暖かな包み込むような夕焼けの色に段々と染まっていき、家族の笑顔が浮かんでいるこの景色が、私は少し好きだった。
PM.7:00
一日の中で唯一、家族たちと食卓を囲む時間だ。祈りを捧げたあと、仲睦まじげに箸を進める。
食欲旺盛な小さい子たちに、私の分も含めておかわりを分け与える。周りの大人が私も子供たちも止めようとするが、私が許せば皆が許す。
笑顔で食事をする家族を見るこの時間が、特に好きだ。
PM.8:00
入浴等の就寝準備を行う。数少ない周りに人の居ない時間。
小さなテーブルの上のサボテンに、3日に1度霧吹きで数度水を与える。
今日はあげなくてもいい日。
でも、1度だけ霧吹きで水を与えてしまう。
過保護だろうか。
PM.9:00
消灯。手元をテーブルライトで少し照らしながら、本のページをめくる。最近できた日課だった。
無心で文字を目で追って、頁をめくる。そのルーティン的な動きが、どこか心を休めてくれる。
いい頃合になったら、ライトも消して本を閉じ、眠る。
本の題名は、『無神論』だ。
これが私...俺?僕?の、ありきたりな1日。