快楽主義者、現代ダンジョンをダイスロールで無双する   作:華厳秋@英国紳士

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Episode 2 東京都第四特別異常領域《代々木ダンジョン》

 

 世界的な某検索エンジンで『ダンジョン 初心者向け』とでも入れて検索すると、一番上に出てくるのが『東京都第四特別異常領域』。通称、代々木ダンジョンである。

 

 理由は単純。

 階層数が比較的少なく、浅い階層ならば魔物の危険度も低め。さらに国の管理が行き届いており、攻略者の死亡率も中々の低水準。それに加えて、攻略者になるための講習コースまで用意されている。

 

 深層の死亡率が五割を超えていること以外は、正に至れり尽くせり。

 家の徒歩圏内に生えているダンジョンがまさか、ここまで評判のいい場所だったなんて知らなかったわ。

 

 そして今、俺はその代々木ダンジョンの入り口に立っていた。

 入り口の自動ドアを潜ると、暖房の生温い空気が肌を撫で、フードに隠れた髪を軽く揺らす。

 

 早朝だからだろう。人気のない静かなエントランスホールで、フードとサングラスを外した俺を出迎えたのは馬鹿デカい門のような何かだった。

 

「……いや、カッコよくね?」

 

 イヤホン越しに流れる音量を少し下げ、目の前に立ちはだかるSFチックなゲートを見上げる。

 

 誰だったか。ダンジョン黎明期に活躍した著名な攻略者が、ゲートを『星々の散る宇宙』と形容していたのを思い出した。

 正直、当時は何を言ってるんだコイツは?と思ったが、今ならわかる。

 確かに、これは――この漆黒に散らばった光は、まるで宇宙に浮かぶ星だ。

 

 俺が知っているゲートって、なんかもっと無骨なモノだったはずなんだけどなぁ。

 どうも、俺の知っていた世界はまだまだ小さかったらしい。

 

 

 ともかく、だ。

 

 昨日の夜にスキルを獲得して。

 今日の朝には仮免許を申請して。

 そのまま講習参加。

 

 我ながら行動が早すぎな気がするが、どうせウダウダしているだけ時間の無駄だ。

 さっさと興味があるほうに進む方が、俺の性にあってる。

 

 

「まもなく、午前7時ちょうどからの実戦講習会を開始いたします。ご予約がお済の方は、一階のゲート前までお越しください」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 今回の実戦講習会を受講したメンバーは、俺を含めて初心者が四人。

 ここに教導員が一人付いた、五人パーティーで今回の講習は始まった。

 

「初めまして。今回の講習で教導員を務めさせていただきます、ダンジョン省職員の神山(こやま)と申します」

 

 神山と名乗った人当たりの良い男が最初の挨拶をした。

 年齢は三十代後半だろうか。穏やかな表情と腰に掛かった小銃が、あまりにもミスマッチすぎる。

 

 てか、実銃をこの距離で見るのは初めてかもしれん。

 もう少し離れてだったら、見たことあったけど。ちょっと興奮する。

 

 

 そんな俺を置いて会話は進んでいき、気づけば順番に自己紹介をしていく流れになっていた。

 

「じゃあ、最初は渡島さんからお願いします」

 

 どうやら、俺が一番手らしい。

 まぁ、良いか。

 

「あ、渡島です。昨日、いきなりスキルに覚醒したんで、朝一で予約してすっとんできました。お願いします」

 

 一番手だった俺が無難な感じで済ましたので、それ以降も同じような可もなく不可もない自己紹介が続く。

 

 名前はよく覚えてないが――

 

 やたらと緊張しているガチガチの大学生っぽい男。

 謎に無理して気丈に振舞っているOLっぽい女。

 最後が、妙に落ち着きのないそわそわした高校生っぽい青年。

 

 ――の、三人である。

 

 ……うん、普通だな。

 しいて言うなら、最後の青年があがり症なのか自己紹介を嚙みまくってたぐらいか?

 失礼だと思うが、あそこまで噛むと逆にワザとらしく感じてしまう。

 

 もう少し堂々としてればいいモノを。

 

「渡島さん、落ち着いてますね。こういう経験がお在りで?」

 

 神山さん、あなた俺のこと知ってます?

 神山さんから飛んできた鋭い指摘に、内心ビビりながらも質問に答える。

 

「まぁ、慣れてるというか、バイトがダンジョン関係なんで、そこまで緊張自体はしてないですね」

 

 なるほど、と納得してくれた神山さんは、気を取り直して口を開く。

 

「いいですか、皆さん。今日は戦闘が目的ではありません。あくまでダンジョンという環境に慣れるための講習ですから、無理はなさらずに落ち着いて行動してください。もし、何か質問や異常などがありましたら、私に声をかけていただくか、それが出来ない場合はお手元の機器から救援を要請してください」

 

 なるほど、こりゃ口コミで高評価なのにも頷ける。緊急事態への備えも万全なわけだ。

 因みに、特に緊急事態じゃないのに救援要請を出してしまうと罰金らしいので気を付けろとのこと。

 ま、妥当だな。

 

 

「では、武具の最終確認をしておきましょうか」

 

 支給された武具の点検ポイントを神山さんが読み上げ、それを俺たちが復唱しながら確認していく。

 一連の軍隊じみた工程を見ていると、お堅い役所仕事らしさを感じる。目の前にあるのがSFチックなゲートなのもあって、なんか違和感がすごい。

 

 余談だが、攻略者も広義的には国家公務員ともいえるらしい。

 政府的には、国が免許を与えることで間接的に攻略者を管理できる体制であった方が何かと便利だとか何とか、どっかのインフルエンサーが言っていた気がする。詳しいことは知らん、てか覚えてねぇ。

 

「渡島さんは、ご自身の剣を持ち込まれるということでよかったですよね?」

「あ、はい。攻略者の友人がデビュー祝いにくれて」

「なるほど。とはいっても、慣れないうちは十分取り扱いに気を付けてくださいね。当たり前ですが、刃物ですので」

「もちろん理解してます」

 

 神山さんからの注意を軽くいなしながら、支給品の装備に身を包んだ自分の身体を見下ろす。

 

 上半身には、耐衝撃加工がされている割には軽い支給品のタクティカルジャケットを羽織り、下半身には踝までがしっかりと隠れるこれまた支給品のアウトドアパンツをはいている。

 靴はギリギリまでサンダルとスニーカーで悩んだが結局スニーカーにした。流石に靴は自前。

 

 武具類は支給品の警棒とサバイバルナイフがそれぞれ一つずつ。

 俺は、これらに加えて自前の剣を一本だけ腰にぶら下げているので、合計で得物は三つ。

 

 みんな大好き三刀流だぜ! いや、やらんけど。

 

 

 今回は講習だからないらしいが、本番のダンジョン攻略の時にはこの装備に加えて食料品やら日用品やらも携帯する必要があるので、重量は最終的に五キロから十キロ、もしくはそれ以上にもなるらしい。この状態で戦うとか普通にバケモンだろ。

 

「どうやら準備が整ったようですね」

 

 神山さんも点検を終えたらしく、俺たちの二倍はありそうな装備品に身を包みながらこちらを見渡している。

 

「それでは、只今より実戦講習を開始します。安全第一で参りましょう! 《領域入場:〇七三一(マルナナサンヒト)》」

 

 

 神山さんの声を合図に、俺は特異領域(ダンジョン)へと足を踏み入れた。

 

 人の命の価値が暴落している、本物の地獄へと。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――気づけば地獄はそこにいる。ほら、今も君のすぐ横に――

 

 

 

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