快楽主義者、現代ダンジョンをダイスロールで無双する   作:華厳秋@英国紳士

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Episode 3 最適解《ベストアンサー》

 ゲートを潜った先は、薄暗い洞窟だった。

 等間隔に付けられた照明が、ぼんやりと幅と高さが十メートル程度の湿っぽく、少しだけ金属臭の混じった匂いのする通路を照らしている。

 

 これが代々木ダンジョンか。

 思ったよりも普通だな。というか、めっちゃ綺麗に整備されてる。

 

 そのまま無言で通路を数十メートルほど進むと、開けた空間に出た。

 ドーム型に広がる空間には、幾つかのベンチと仮設トイレ。それに加えて今は閉まっているが売店まである充実っぷり。

 

 ダンジョン帰りなのか今から潜るのかは分からないが、数人の攻略者が自販機から買ったのであろうエナドリを片手に談笑している。

 地上と全く変わらない、穏やかな空間。

 

 ここがダンジョンだと忘れてしまいそうなほどに、平和な空間――()()()

 

 

 カラン。

 

 

 不意に俺の目の前を歩いていた落ち着きのない青年が、何かを落とした。

 やけに地面に転がる音が鮮明に響いた。

 

「――■■」

 

 瞬間、地面に閃光が走った。

 青白い光を認識した時には、既に閃光が放射状に広がり、赤光が光跡から眩く輝いていた。

 その速度は、正に光速。

 

「――走れッ!」

 

 神山さんの鋭い声が耳朶を打つ。

 

 視界の端で、神山さんが近くにいた女と大学生を光の檻の外へと突き飛ばすのが見えた。

 流れのまま踏み込みの前動作か。こちらへ、()()()()と上半身を倒す神山さん。

 

 そう、ゆっくりと。

 早いはずのその動きは、何故か人並みの動体視力しか持たないはずの俺の眼でも追えた。

 

 なぜ?

 

 俺の疑問への解答は、直後に示された。

 

 

『――対象の運命岐路(クロスロード)への到達を確認。スキル発動による強制介入を開始します』

 

 

 頭の奥に、あの無機質な音声が割り込んできた。

 

「……あ?」 

 

 同時に、視界が照明が落ちたかのように薄暗くなった。

 今しがた赤い光を放っていた光跡は、モノクロテレビの画面のように白黒に。

 淡い暖色を放っていたライトは、フィルターを通したかのように灰色に。

 

 視界から一切の彩りが消えた。

 

 

 そして、ようやく事態を飲み込めた。

 

 どうやら、世界は動くのが面倒くさくなったらしい。

 

 ……という、俺のどうでもいい冗談はともかく。

 まじで、どういう状況だってばよ。

 

 口も動かせねぇから喋れないしよ。てか、呼吸とかどうなってんだ、これ?

 

 

 そんな俺の尽きない疑問に答えるかのように、ブウンという低い振動音が鳴った。

 

 動かすことのできない視界の中央に、半透明のUIが現れる。

 昨日、それも八時間ほど前に見たばかりの近未来チックなUIに似ているような気がするが、違うような気もする。

 ま、どうでもいいデザインなんか覚えられる訳がねぇし、結局のところどうでもいいので違和感は頭から追い出す。

 

 

 

―――使用するダイスを選択してください―――

 

 ・d6   ◀

 ・未開放

 ・未開放

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ……なんか、選択肢が一つしかないのって虚しいな。

 いつか、ダイス全クリしてみたい。

  

 選択肢がないので、しょうもないことを考えながらd6を選択する。

 ページが回転するかのようにスライドしていき、画面が切り替わる。

 

 昨日も思ったが、なんかパワポっぽいなコイツ。

 

 

  

―――干渉対象を指定してください―――

 

・転移罠の無効化

・周囲個体の保護

・転移先の変更

・結果を運命に委ねる◀

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 いや、待て待て待て。

 いきなり選択肢が増え過ぎじゃないか?

 確かに、選択肢云々で文句は言いましたけど、いきなりここまで意味の分からん選択肢を増やされても困るんだけなんだが?

 選択肢の意味も分からないが、それ以上に言葉が曖昧過ぎて理解が出来ねぇ。

 

 

 無効化?

 どこまで? 誰に対して?

 

 周囲個体の保護?

 全員が対象? それとも一部の人間だけ?

 

 転移先の変更?

 具体的にどこへ? さらに危険な場所の可能性は?

 

 

 そして、最後。

 

 ――結果を運命に委ねる。

 

 

 うん、いや……雑ゥ!

 そして、抽象的が過ぎるゥ!

 

 てか、もう隠す気すらないだろ。

 最初から言ってたけどさ、『運命は、ただ転がるだけ』って、マジでそのまんまじゃねぇか。

 

 

 UIの奥で、神山さんが静止したままこちらに手を伸ばしている。

 彼我(ひが)の距離は、ほんの三メートルちょっと。

 五歩も進めば届くだろう、それほどに近い距離。

 

 しかし、届かない。

 何もなければ、俺は助けられていた。

 そう確信できるほどに、この距離は短い。

 

 

 すると、画面上に新たな表示が追加された。

 そこには、何やら『60』という数字が表示されており、一秒ごとに数字が一ずつ減っている。

 

 急げ、という意味だろう。

 

 

 謎にシステム(仮)に催促はされているが、猶予は一分ほどある。

 選択肢を考えるだけの時間は存在する。

 だが、考えたところでどうせ正しい答えなんて分からない。

 

 ――だったら。

 

 一番それっぽいのにするのが、俺の最適解(ベストアンサー)だ。

 

 

 

―――干渉対象を指定してください―――

 

 ・転移罠の無効化

 ・周囲個体の保護

 ・転移先の変更

 ・結果を運命に委ねる ◀ 決定

―――――――――――――――――――

 

 

  

 一番下の選択肢を念じ、選択する。

 次の瞬間には、画面の表示が切り替わっていた。

 

 

『対象の選択を確認しました。只今より、ダイスロールを開始します』

 

 

 今さっきまでUIが浮かんでいた部分に、大鍋のような見た目の受け皿が唐突に現れた。

 

 続けて、受け皿の真上の空間が裂ける。

 裂け目の先に存在するのは、白と黒が入れ替わった六面体。

 

 金属のような質感をした丸っこい角が裂け目から顔を覗かせた瞬間、心臓の音に重なるように、低く、重い音が鳴り始めた。

 重厚な音に、直接臓器を叩かれるような錯覚すら覚える。

 

 気付けばダイスが裂け目から完全に顕現しており、ゆっくりと宙を回転しながら受け皿へと落ちていく。

 ダイスが受け皿に近づくごとに、低音の鼓動がゆったりとした心音から離れて、そのテンポを早めていく。

 

 刻まれるテンポの速さは頂点に達し、刹那の無音が訪れる。

 

 

 ゴロッ。

 

 

 生まれた静寂を埋めるかのように、ダイスが受け皿に落ちる音が響く。

 

 再び始まる低音の鼓動。

 しかし、今回は低音の鼓動に異音が混ざり始めた。

 割れた電子音、金属が擦れる音、意味を持たない高音、ダイスの転がる低音。

 

 ゴロ、ゴロ、と。

 六つの面が順番に視界を横切る。

 

 

 ――――――1

 ―――――2

 ――――3

 ―――4

 ――5

 ―6

 

 

 拍子は崩れ、リズムは噛み合わず、それでも前へ進んでいく。

  

 かくして、運命の祭典はクライマックスを迎える。

 

 

 失速したダイスが、角で立つ。

 

 音が消えた。

 

 ダイスは、最後に――

  

 

 《 1 》

 

 

 純白の一点を表にして、ピタリと止まった。

 

 終わらぬ、一瞬の静寂。

 

 そして。

 

 

 視界が赤く染まった。

  

 

 

―――結果:致命的失敗(ファンブル)―――

 

 

 警告音が鳴り響く。

 先ほどまでの音楽とは違う、明らかに異常を伝えるための電子音。

 

「……」

 

 思ったよりも、理解は早かった。

 きっと、昨日までの俺ならここまですんなり理解できていなかっただろう。

 

 どれもこれも、スキルのせいというかおかげってか?

 

 

 

―――結果に従い、下層への転移を実行します―――

 

 ・転移先:第四特別異常領域、77階層。

 ・推定生存率:7.7%

 

 

Good luck(幸運を)!〉

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 特段、恐怖や興奮という感情は抱かなかった。

 怒りに関しても、あまりない。

 最後のふざけた一文には、少しイラっと来たが。

 

 ただ、ほんの少しだけ、己の運の無さに呆れただけ。

 

 次の瞬間、世界が少しずつ動き始める。

 色が戻り始めた世界を他人事のように眺めながら、動かせるようになった口で呟く。

 

 

 「……今日って初日だよなぁ?」

 

 

 神山さんの手が伸び。

 誰かの叫び声が響き。

 赤い光が、足元から俺を飲み込んだ。

 

「おぉ、紐なしバンジー」

 

 床が消え、重力が仕事を始める。

 何も存在しない、真っ暗な空間をただ落ちていく。

 

 俺の体は、光り輝く粒子に包まれながら、深い地獄へと堕とされていった。

 

 

 ◇

 

 

 ――運命の女神はダイスを振る、微笑む先を決めるために――

 

 

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