バスで寝過ごしたら遊園地に着いた。 作:癒トリ素引き侍
『次はー月ノ森前ー、月ノ森前ー』
「……よしっ」
機械越しの声を聞いて、席に備え付けられた降車ボタンを迷わず押す。
『お降りの方は、降車ボタンを押してください』
「はーい、押してまーす」
後に続く声に誰にも聞こえない小さな声でふざけてみる。そうする事でなんとか自分を落ち着かせてみる。
……ようやく、か。
バスを降りて、迷わず目的地に歩を進める。
ここに来た時はおっかなびっくりでこの獣道みたいな所を進んでいたが、今はその時に感じていた恐怖心やらなんやらはどこにもない。むしろ、それとは別の高揚感を感じている。
……嘘つきました、まだちょっと怖いです。普通に考えて夜の山奥ってどう考えてもホラー要素しか感じない。ひょっとしなくてもジャンルがジャンルなら事件の導入そのものみたいな道だもんな、ここ。
これお昼に集まるんじゃダメ? って言ったら怒られるかな……怒られるか。ブラックアウトってチーム名だしね。うん、やめとこう。
そんなこんなで。
カッパに狸、それから看板。
歩いた先にたどり着いた、目の前に現れたゲートを前にさっき感じてきた高揚感もより強くなる、のだが。
「(今更だけどあんな事があったのと久々なのも相まって、なーんか顔出し辛いな……)」
ぶっちゃけ、色々あったから入り辛いわ。
例えるなら風邪で休んだ後の久しぶりの登校日というか、ずいぶん昔に遊びに行った親戚の家に向かう気分というか。
おまけにここを去った時にはパトカーにぶち込まれて退場しちゃってるわけで、どうのこのこと顔を出せばいいのかわからん。前みたいにザクサ迎えにこないかな。
「あれ? もしかして、ナギト?」
「……メグミ?」
救世主来たわ。センキューリーダー。
「やっぱりナギトだ! 久しぶり!」
「っおう、久しぶり……うん、久しぶり」
あっ、ちょっと待ってやっぱ来ないで。そんなキラキラした顔で近づかないで下さい夜なのに眩しいです。
「何してるの? こんな所で立ち止まって」
「いやー、その……なんと言いますか、色々あったから思ったより入り辛いというか」
「あー、それもそっか。ちょっと気持ちわかるかも」
「マジで?」
「マジマジ。私もその、色々とね」
思い切って立ち止まっていた理由を話すと恥ずかしそうに同じような事が自分にもあったと話すメグミ。
何があったか知らないが、どうやらこのイケメンリーダーも過去には一時顔を出し辛くなった時があったらしい。ぜんぜん想像つかんって言っていいのかなこれ。
「今日は制服じゃないんだ」
「まぁね。そういうメグミは今日制服なんだな」
流石に今になって以前の制服を着る度胸は俺にはない。今来てるのは普通にこの世界で買ったどこにでもありそうな服だ、平凡万歳。
「ううん、私は今から着替える所」
「……今から?」
「うん。ほら、そこで」
「そこで?」
指を差された先にあったのは……。
「……そこで?」
「そこで」
ボロボロに掠れたゲームセンターの文字がかろうじて残っている、見るからに寂れたボロボロの建物。ぶっちゃけセキュリティのかけらもない様な前時代的な物件が暗闇にポツンと。
……うん。
「っ頭おかしいんか!?」
「えぇっ!?」
バカじゃねぇのかこのリーダーは!?
「何考えてんの? 何考えてんのマジで!?」
「ぇ、え、え? 何々、なんなの?」
「あんな! セキュリティもあったもんじゃない人気の無い所で! 女子が、 一人で、着替えんなッ!! アホか!?」
「あ、アホって……別に今に始まった事じゃないし」
「尚更悪いわ!?」
これダメだ、顔出し辛いとか言ってられん。トマリ、ザクサ……いやもうこの際誰でもいいわ、この世間知らずが滲み出ている美少女イケメンリーダーなんとかしてくれ。
ー
ーー
ーーー
「それで私達を呼びに来たのね」
「久しぶりに来たと思ったら、また随分と騒がしいね」
「普通に考えてチームの人間の中でこの状況に疑問を持つ奴は居なかったのか……?」
はい、そういうわけで呼んできました大人の人達。顔出した時には色々と驚かれたりしたけど、今はそれよりも優先することがあるので無理矢理引っ張ってきました。
『別に今更だし……』
「……トマリ、次からメグミが着替える時はだれか見張りが着く様にして欲しい。もしくはそもそも着替えてから来させてくれ」
「はーい、トマリ警官任されました」
年頃の女性が着替えていい環境じゃ無いだろここ。自分、普通に男の子なんでこの状況は心がザワザワすんのよ、勘弁してくれ。
「オレも男だけど、見張りで良かったのかい?」
「ザクサは……多分大丈夫でしょ」
「信頼だねぇ」
「信頼ねぇ」
『私への信頼はー?』
こんな事しでかしといてあると思いますか、リーダーさん。
ヴァンガードのお話なのにファイトしない作品でいいのかという疑問ははるか彼方にぶん投げて、ゆっくり始まる第一章です。