バスで寝過ごしたら遊園地に着いた。 作:癒トリ素引き侍
そこからは本当に、あっという間で。
だけど自分の身に起きた事に理解するのに、少なく無い時間を使った。
警察についてからは夜遅くまで明導さんという人と、まさか警察官とは思っていなかったトマリに自分がここにくるまでの話を聞いてくれた。
乗ったバスは自分が通っていた学校の近くのバスで、帰宅の為に利用した事。そのバスの中で眠ってしまった事。そして、目覚めるとここ加賀国を走るバスに乗っていた事。混乱してまともに話せていないだろう自分の事を、真剣に聞いてくれた。決して馬鹿にせず、否定もせず。
そしてやはりと言うかなんというか、俺の住む街、◯◯県はこの世界のどこにも存在していなかった。学校も親も、そして自分自身ですらその存在を警察が発見する事はできなかった。
……過去の死亡者や行方不明者リストをひっくり返す勢いで調べても、だ。
巷で話題の神隠し、なんて都市伝説もどきに近い現象なのだろうか。ともかく、俺はいつのまにか自分の住む日本とは別の日本に着の身着のまま立っていた、と言うことになる。
警察署では明導さんとトマリの前で自分のスマホに入っている連絡先に片っ端から連絡をつけてみたが、相変わらずそれらの連絡先が繋がることはなかった。
正直、情けなく泣いてしまったりもした。
詰んだ、と。バスを降りた時に呟いた言葉がまさかその通りになるとは思いもしなかった。自分の存在を証明するものが悉く抜け落ちていくような感覚……俺を知っている人は勿論、戸籍を含め自己を肯定するものが一つもない虚無感は、どうやっても耐え難いものがある。
そして、嘆いてばかりではいられない事もある。
俺は今18歳とはいえ、あくまでまだ未成年。本来なら法の元で保護やらなんやらが働くのだが、いかんせん状況が特殊すぎる。事実、警察も俺の扱いに頭を悩ませているらしい。俺の年齢も今となっては『自称』になるようだし。
どこから生えてきたかもわからない人間をそうやすやすと受け入れてくれる場所も簡単には見つからない。そもそもそんな人間が受けられる支援なんかも、この世にはそう多くはない。警察としても保護の名目で俺を守り続けるにも限界があるようだし。
「(……普段になら今頃家に帰ってる途中、か)」
そんな色々と限界状態な俺はというと、トマリと明導さんの計らいにより落ち着けるように一時的に自由な時間をもらい、スマホと財布以外の荷物を預けて外に出ている。
そんな俺がいくあてもなくふらふらとたどり着いたのは、まだ青空も晴れ渡る真昼間のワンダヒルだった。夜の独特な熱気が晴れたこの寂れた遊園地は空を覆う暗闇もなく開放的で、しかしもの悲しい雰囲気に包まれている。
「そう言えば、就職か進学かでどうするか迷ってたんだったか」
金銭、住む場所、社会的立場。あらゆるものが足りない。故に、何から手をつければいいのかすらわからない。八方塞がりとはまさにこの事、口から出る言葉も現実逃避しか出てこない。
今更こんな状況になってから進路だのなんだの、我ながら馬鹿げている。
今何をすべきかすらわかっていない俺が決められる進むべき道なんて、あるはずもないのに。
「あー、なんもやるき出ねぇー」
座っていたベンチに寝転がって、半ばヤケクソ気味に呟きながら目を閉じる。
視界を閉じるとよく聞こえる。風の吹く音や、それによって響く遊具の震え。普段は聞き逃しそうな音すら、今は何故かよく聞こえる。
そんな中、それらの音とは違う雰囲気をふと近くに感じる。風でも物でもないその雰囲気に引かれて目を開くと……
「……あ、ごめん。起こしちゃった?」
「メグミ、か……?」
少しかがみながらこちらを見下ろしていたブラックアウトのリーダー様、メグミが何故かここにいた。昨日の服装とは全く異なる雰囲気であるピンクの制服に身を包み、帽子で隠されていたであろう長く艶のある髪は風に揺られて大変絵になる。いかん面がいい。
「…………」
「な、なによ……」
寝転がっていたベンチに座り直してから、もう一度メグミの方に視線を移す。そして、再び確認するようにメグミの姿を頭のてっぺんからつま先までゆっくり見渡す。
ふむ、こう見ると。
「制服似合ってんな」
「っんな事言ってる場合か!」
「すんません」
ぽろっと出た言葉がどうにも気に入らなかったのか。普通に怒られた。解せん。
気力/zero。口からボロボロ本音が出ます。自動ドアそのもの。