バスで寝過ごしたら遊園地に着いた。 作:癒トリ素引き侍
「そう言えば、なんでここに? リーダーはこんな時間からチームの誰より先に現地入りって感じか?」
おふざけはやめて……いや断じて嘘でもなく本音だったが、それより夜な夜な集まる集団といっていた割にこんな時間にメグミがここにきた理由が気になる。もしかしてリーダーって他の誰より集合時間に厳しいんだろうか。
「その、トマリから聞いて……ナギトならここにいるかも、って」
「そっか。悪いな、勝手に入ったりして」
「っじゃなくて! 貴方の事、聞いて……だから、その……」
「……そっか」
あぁ、そういう事か。そりゃそうだ、事がどうあれ俺がこの場所からパトカーなんて物騒な物に連行されたっていう事に変わりはない。ここのリーダーであるメグミには何があったかを知る理由も、聞く権利だってあるわけだ。
「詳しい事はわからないけど、貴方がとんでもない状況にいるって事は……わかってるつもり」
「まぁ、な。正直これがまだ眠りこけてるバスで見てる悪い夢の中なんだって、自分に言い聞かせてる時もあるよ。『最悪だ』なんて、何度思ったか数えきれない」
「……」
突きつけられた現実に負けそうになる事なんて、ここに来てからは毎日の事だ。振り返っても振り返っても、『昨日』と言えるものは俺の中にしか残っていない。残った『今』と『明日』だって、はっきり見えちゃいないあやふやなものだ。
でも、そんな中でも色々と思うこともあるわけで。
「でも、それでもまだまだ最悪の中でも結構幸運な方だと思うんだよな、俺って」
「なに、言って……」
さっきまで俯いていた顔を上げて、メグミの視線が俺に向けられる。少し震えてる声も相まって、信じられないとでも言いたそうな雰囲気も感じる。
「だってそうだろ? 持ってるお金は少ないけど、ちゃんとここでも使えるみたいだし、言葉だって全然通じる。文明も俺がいた場所と遜色ないレベルで、頑張って生きていけば生活するには困らない」
「たしかに、それはそうだけどっ」
「逆に考えて、俺が飛ばされたのが言葉も通じない命の危険が盛りだくさんの常識が全く通用しない異世界だったらどうするよ?」
「あぁー……」
「目覚めた時にははいしゅーりょーって、それこそ一巻の終わりだろ。それに比べれば、まだまだ今のこの状況も捨てたようなもんじゃないって思ってる」
……まぁ勿論、それは俺が思いたいだけって事もあるだろうけど、嘘はついちゃいない。
事実、もし異世界に転移したって奴が本当にいるのなら、俺はその中でも幸運な方だ。少なくとも、今の俺なら必要最低限の生活は保障されている。意味の無い命のやり取りをしなければならない、なんて物騒な世界じゃないだけでもまだ希望らしいものは見えてきそうだ。
「……ふふっ、なにそれ。上向いてるのか下向いてるのかどっちなのよ」
「お、ようやく笑ったな」
「ぁ……うん。正直、なんて顔して話そうかって悩んでた所はあったかも」
ここで会ってから、やっとメグミの顔が先日の夜に見た物に近づいて少し安心。やっぱ顔がいい奴はそれくらいいい顔してなくちゃね。
「難しい顔されてるより、そうやって笑ってくれてる方が俺としては嬉しいよ」
「なぁに? もしかして口説いてるつもり?」
「……そこまで考えてなかったな。ついでに聞いておくと、これが本番なら今みたいなのはメグミさん的にはあり?」
「なし」
「さいで」
そこまでいって、2人して少し吹き出すような笑いあう。
俺も少し思い込んでたもんだから、こんな軽い会話が少し心地いいとすら思えてしまう。この現実はどれだけ足掻いてももう変えられないものだけれど、これくらいの箸休めは許して欲しい。
「……ここに来て、いや。この世界に来て初めて知り合えたのがブラックアウトのみんなでよかったって、俺は本気で思ってる」
意識もはっきりしていない、立っている事も出来ないほど動揺していた俺に、すぐに駆け寄りながら声をかけてくれた人達。
今考えてもすごいと思う。普通に何の得も無いはずなのに、あの場にいたほぼ全員俺のいる所にまで来て心配してくれるの自称やんちゃな子達にしては善性しか感じられんのやばくない? あとみんな顔面偏差値高いの素直に羨ましい。
「…………だったらさ」
俺のその言葉を聞いてメグミは少し考えるような素振りをしてから、だけどもずっと思っていたかのように口を開く。彼女ならいいそうな事で、俺自身もなぜか予感していた言葉。
「ブラックアウトにきなよ、ナギト」
この人なら……この人達ならきっと、そういうと思っていたと。