元社畜悪役貴族のホワイト経営 ~将来俺を殺すはずの主人公少女を福利厚生で懐かせて成り上がります   作:chickden

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ボロボロの孤児院

 

 事件から数日が経った。

 あの忌々しい『招魔の琥珀』をどう処理したかと言えば、俺はそれを丁寧に梱包し、匿名でエルダーク伯の屋敷へと送りつけてやった。

 

『街に潜む魔物事件の重要証拠品と思しき物品を接収した。法と秩序の番人たる貴殿の、厳正なる調査を期待する』

 

 という慇懃無礼な一筆を添えて。

 いやだって、冷静に考えてみろ。こんなヤバい代物を手元に置いておくなんて、『機密情報の詰まった他社のUSBを拾って自分のPCに差す』ようなもんだぞ? リスク管理の観点から言えば、即座に専門部署(今回ならばエルダーク伯だ)へアウトソーシングするのが正解だろう。

 

 なぜ孤児院に置かれていたのか。誰の陰謀か。

 そんな真実を暴いたところで、俺の給料……もとい、資産が増えるわけじゃない。むしろ下手に首を突っ込んで『真実』という名のデスマーチに巻き込まれるのは御免だ。

 

(触らぬ神に祟りなし、だ。くわばらくわばら)

 

 呪いの宝石を政敵に押し付け、せいせいした俺は、次なる懸案事項――『孤児院再建プロジェクト』に本腰を入れることにした。

 魔物の襲撃で、建物はボロボロ。

 俺は孤児院の中でその荒らされ具合を確認しながら、プリミアから手渡された被害報告書と決算書に目を通した。

 

「予算が、足りない。圧倒的に足りないぞ?」

「はい。魔物の襲撃による建物の損壊は想像以上に激しく……」

 

 もちろん、コニスン家の金庫にはうなるほど金があるのだが、前のブタ院長から引き継いだ『孤児院管理部門』の管理費から捻出できそうな金が足りない。

 

「如何いたしましょうラムラさま。コニスン家の予備費を回しますか?」

 

 プリミアの提案に、俺は断固として首を振った。

 他部署(コニスン家)の予算を安易に削って特別枠を捻出するなんて、前世で上司に言ったとしたらどうなる?

 

『君は決められた予算内でやりくりする能力もないのかね?』

 

 と、退職届を出すまでネチネチ『無能のレッテル』を貼られ続けるに決まってる。俺の自尊心……もとい、社畜のプライドがそれを許さない。

 

 俺は溜め息を一つ。

 横で、俺たち二人の会話を、不安そうに聞いていたアルメイリに声を掛ける。

 

「アルメイリ。お前は、庭で掃除を手伝っている子供らの様子を見てこい。どう解決するにしても現場の士気は大事だからな、しょげてるようなら鼓舞してこい」

「ぎょうむめいれい……、わかりました、です」

 

 アルメイリがトテトテと走り去ったあと、プリミアが困ったように眉を下げた。

 

「大工ギルドの見積もりが、こちらの足元を見て吊り上がっている節もあります」

「管理者が貴族である俺に変わったばかりだからな……。外聞を気にして、いくらでも出すと考えているのだろう」

 

 浅ましいとは言わないが、スマートなやり方とも思えない。

 だがまあ、足元は見られる方が悪いのだ。仕方あるまい。

 

(さてどうしたものか。予算の問題は社畜時代から変わらず俺の頭を悩ませてくれる)

 

 そんなことを考えながら俺たちが孤児院の庭に出ると、そこではアルメイリが一人の少年となにやら話し込んでいた。

 名は……、確かディアルコといったか。

 子供たちの最年長で十五歳。先日の襲撃で、子供たちを金庫室(セーフルーム)へ誘導したリーダー格だ。

 

「ラムラさま。ディアルコお兄ちゃん……すごいです。安く、おうち、直せるかもしれないって……言ってる、です」

「ほう?」

 

 アルメイリの言葉に興味を惹かれ、俺は彼に近づいていく。

 すると緊張なのだろう、ディアルコは背筋を伸ばしてまっすぐ俺を見た。

 

「ラ、ラムラさま。孤児院の建て直しですが、俺にアテがあります」

「聞こう」

「世話になっていた大工の棟梁がいます。親方に相談してみたら、もしかしたら」

 

 俺はプリミアに視線を送る。

 

「……ええと。彼は以前からこっそり下町に働きに出て、子供たちに食べ物を配っていたようです」

 

 ふむ。

 面倒見の良い奴じゃないか。その働き先が、大工の棟梁のところだった、というわけか。

 

「なんなら棟梁と相談して、『相見積もり』を取ってきてもいいです。これなら棟梁が今忙しくても、仕事を安く発注できるかと」

「なるほどな、現場叩き上げの渉外担当というわけだ」

 

 え、驚いたぞ。

 まさか十五そこらの子供が、ビジネスの基本である『多角的な調達ルート』を提案してくるとは。

 

「いいだろう、ディアルコ。おまえにこの案件の、現場監督代行を命じよう。任せるぞ」

「わかりました、ありがとうございます!」

 

 数時間後。

 ディアルコが連れてきた大工の棟梁は、驚くべきことに市価の三分の一の見積もりを提示してきた。

 

「いやぁ、ディアルコにはいつも助けられてるんでさぁ。あいつは良く働くし、面倒見もいい。あいつの孤児院(いえ)が困ってるってんなら、一肌脱ぎますよ」

 

 だが俺は、そこでニヤリと悪い笑みを浮かべて、あえて首を振った。

 

「棟梁。代金は市価の相場通りに支払おう」

「えっ!? ラムラさま、安くなるのに……?」

 

 驚くディアルコ。横ではプリミアが戸惑っている。

 俺は社畜時代に行きついた、『取引先との共存共栄』の理念を口にした。

 

「いいか、善意に付け込んで下請けを叩くのは、三流のやることだ。そういう、見込みのある相手にこそ正当な対価を払い、最高の仕事をしてもらう。それが将来の安定した『人脈』という資産になる。棟梁、よければ末永く付き合いを願いたい」

 

 相手と『Win-Win』の関係を築く。

 それこそが商売で一番大事なことだ。商売は長く続けていくものだからこそな。

 

 数日後。

 修繕の始まった孤児院を、俺はプリミアと共に眺めていた。

 ディアルコを中心に年長組が資材を運び、誰よりもテキパキと動くアルメイリがそれに混ざっている。

 

「どうだディアルコ。進捗状況(ステータス)は順調か?」

「あ、ラムラさま! そりゃもう……いえ、えーと。はい順調です、なんの問題もありません!」

 

 最初は子供らしく雑な返事をしたディアルコだったが、慌てて背筋を伸ばし、俺の話し方を真似るように敬語を絞り出した。その様子は、なぜかとても誇らしげで、楽しそうだ。

 

「ふむ。自分たちのせいでもなく住処が壊されたというのに、随分と楽しげに作業をするもんだな」

「え? ……あ、はい。それはそうなのですが」

 

 ディアルコは眩しそうに、修繕中の孤児院を見上げた。

 

「――自分たちの居場所を、自分たちの手で作れるってことが、こんなに幸せなことだとは思っていなかったんです」

「ほう?」

 

 彼が言うには、俺が管理を始めてから孤児院の空気は一変したらしい。

「早くこんなところを出たい」と思っていたはずが、今では「ずっとここに居たい」とすら思っているのだとか。年下の皆のことを見ていたい、と。

 

「ふむ。ならば、ずっと皆の面倒を見ればいいではないか」

 

 俺が何気なく言うと、横からプリミアがそっと耳打ちしてきた。

 

「ラムラさま……。十六歳になれば施設を出て働くのが孤児院の決まり、つまり『ルール』でございます」

 

 なに? つまりあれか、定年みたいなものか?

 この有望な若手リーダー候補が、制度の問題で離職するというのか?

 ディアルコは少し寂しそうに頭を掻いた。

 

「はい。俺も来週で十六歳……『卒院』です。だから、それまでに少しでも手伝いをしておきたくて。……子供たちのことをよろしくお願いします、ラムラさま」

 

 深々と頭を下げ、現場に戻っていく背中。

 プリミアは「仕方のないことですから」と溜息をつくが、俺の社畜脳は激しく警報(アラート)を鳴らしていた。

 

(あんな『社歌』を喜んで歌いそうな、レアリティSSRの優秀人材を流出させるなんて……。経営判断としてありえんだろうが!)

 

 単純に、もったいなさすぎる。

 俺はニヤリ、と悪い笑みを浮かべてアルメイリを呼んだ。

 

「なんの……ご用でしょうか、ラムラさま」

「今晩、孤児院にて緊急ミーティングを行う。夕食後、そのまま待機しておくように皆へ伝えろ。……これは『特急案件』だ」

「とっきゅうあんけん……わかりました、です」

 

 神妙な顔で頷いたアルメイリは、トテトテと皆にその旨を伝えに行った。

 その後ろ姿を見やりながら、俺は独り言ちる。

 

(俺の損となるルールなど変えてしまえばいい。だが、そこには当事者たちの意志が必要だ。ここから去りたくない、という強い意志が!)

 

 ――ディアルコ。

 俺はおまえに意志を以て選ばせる。

 俺の元に残るという『ルールブレイク』をすることをな!

 

 

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