元社畜悪役貴族のホワイト経営 ~将来俺を殺すはずの主人公少女を福利厚生で懐かせて成り上がります 作:chickden
「新規案件――いや、仕事を引っ張ってきてやったぞ」
あれから二週間。
俺は孤児院長室を改装した仮設オフィスに、孤児たちのリーダーとなったディアルコを呼び出した。
「ありがとうございますラムラさま! 俺たち、言われた訓練をしながら待っていました!」
「うむ。待機時間もコストだからな。師範のフィエルダとはうまくやれているか?」
「はい、最高です! 先生には良くして頂いております」
ふはは、そーだろそーだろ。
アルメイリへの指導を観察して確信したのだが、あの女剣士は案外、母性が強い。ライオンのような風貌とガラの悪さに隠れがちだが、彼女は『未来ある若手の育成』を丸投げされて拒否できるほど薄情ではないのだ。
「お前たちはアルメイリのような『即戦力のチート』ではない。だが精進するんだ、現場では最低限の
俺はデスクに広げた街の地図を指差した。
「内容は、この孤児院を含むスラム隣接の『境界区域環境のメンテナンス』だ。まずはエリア全域の
「清掃……ですか?」
「単純だが、難易度はなかなかに高い。この区域は役人や衛兵が『QOL(生活の質)が下がる』と敬遠して近づきたがらないエリアだからな。そこのメンテナンスの独占的なアウトソーシングを受けてきた。いわゆるブルーオーシャン戦略というわけだ」
俺がニヤリと悪役らしく笑ってみせると、背後に控えていたプリミアが怪訝そうな声を上げた。
「……ラムラさま。それは街の評議会からの正式な受注なのでしょうか?」
「そうだ。れっきとした公共事業として、予算も計上させている」
「失礼ながらラムラさまは、これまで……その、やってきた『業務内容』のせいで、評議会からの評判が最悪のはずですが。まともに交渉の席に着けたのですか?」
……なんだ?
最近のプリミア、言いにくいことをさらっと突き刺してくるようになったな。
もしや不満か? 有能な秘書がサイレント離職を考える前兆か!? 前世で、何も言わずに辞めていったエース社員の背中を思い出して、背筋に冷たいものが走る。
(ヤバい、機嫌を取らなきゃ……! ここで彼女に離脱されたらプロジェクトにも重篤な遅延が発生しかねない。ここは接待だ、接待の精神で乗り切るしかない)
保身を貴ぶ社畜魂に身を任せると、身体が勝手に反応する。
頬がピクピクと痙攣し、顔面筋肉のバグが社畜スキル『営業スマイル』を強制発動させた。
「え、えー、はいッッッ! 仰る通りでございます! ですので、これまでのネットワーク(裏人脈)をフル活用しまして、一部議会員の弱みをガッチリ握り、『断れない提案』という名の営業をかけさせて頂きましたのでッッッ……!」
「ひっ!?」
突如として炸裂した、腰の低い、だが声量だけはデカい卑屈な絶叫。
プリミアは驚愕して一歩下がった。……しまった! そりゃそうか、悪役貴族が突然『営業二課の若手』みたいなキレを見せら意味不明で怖いに決まっている。
「さ、さようでございましたか……。い、いわゆる『裏技』というやつですね。……ふふ、驚きました」
プリミアが、ふっと柔らかく微笑んだ。
あれ? 引かれるかと思ったら、なんか表情が優しい。
もしかして俺がラインを超えすぎて、「あ、この人もうダメなんだ……優しくしてあげよう」的な哀れみの目で見られている!? うおお、いったいどうすれば彼女の退職を止められるのだろうか!
「……子供たちのために、あえてご自分の『汚れた悪名』を武器にされたのですね。わかりました。私も覚悟を決めて、ラムラさまに付いていきます」
「――ん? 何か言ったか?」
思考の沼にハマっていて聞き逃した。
プリミアがなんだか急にやる気を出しているように見える。
なんだこの急な変化は、このパターンは社畜知識を総動員しても理解不能。
うーん、まあいいか! なんだかわからないけど結果オーライ!
「ごほん。……ディアルコよ。相手の弱みを握ってプロジェクトを強引に受注する俺を、汚いと思うか?」
俺は咳払いをし、慌てて悪役の顔に戻って問いかけた。
「いや、その……」
「いいか。ビジネスは『結果がすべて』だ。たとえスタートが汚い裏取引、マイナスからだろうと、現場で圧倒的な
これが現代社会の接待と裏工作の基本だぞ、ディアルコ。
そして聞いていますかプリミアさん。これは貴方に捧げる言い訳です。お願いだからやめたりしないでね?
「……つまり、俺たちが最高の結果を出せば、それがラムラさまを守る盾になる、ということですね」
「うん?」
「ありがとうございますッ、ラムラさま! 俺たちのために、そこまで考えて……! 俺、死ぬ気で頑張ります!」
死ぬな。
でもディアルコも、なんだか熱い熱量を持っちゃったみたいだ。
まあ、現場の士気が上がるのは経営上、好都合だからいいんだけどさ!
◇◆◇◆
孤児院の再生プロジェクトは、一見すると奇妙な光景から始まった。
「いいか、これは単なるゴミ拾いではない。市場調査兼、我が社のパブリックイメージ戦略だ。顔を上げて歩け!」
俺の号令下、スラムの境界区域へと繰り出した子供たちは、全員がお揃いの制服に身を包んでいた。
俺が前世の記憶を頼りにデザインした、水色のラインが爽やかなセーラー風の作業服だ。動きやすさはもちろんのこと、何より『清潔感』と『幼さ』を強調するように設計してある。
(ふはははは! スラムのガキが小汚い格好でゴミを拾っていれば『目障りな乞食』だが、この制服を着ていれば『健気な労働者』に見える! これぞブランディングの魔法。世間の好意という名の『無形資産』を稼ぐに、初期投資を惜しんではいけないのだ!)
ちなみに、リーダーのディアルコには赤、そしてアルメイリにはピンクのラインを入れ、視覚的な役職を明確化しておいた。
「ラムラさまみたいな……お仕事の服……ですね」
アルメイリは、贈られた服の袖を大事そうにさすりながら、頬を緩めていた。
彼女は今回、先頭に立っている。理由は単純、何かあった時のための『セキュリティ(武力)』だ。
「……安全第一、です! ラムラさまが、そう言いました……です。皆、怪我したら、この人に怒られるですよ!」
アルメイリが凛とした声で号令をかけると、年少組の子たちが「おー!」と元気よく応える。彼女は率先してゴミを拾い、幼い子たちが危ないものを触らないよう、機敏に立ち回っていた。
「アルメイリおねーちゃん、すごいです!」
「……体を動かしていれば、皆もすぐこれくらい動けるようになる、ですよ」
少し照れながらも、彼女はどこか誇らしげだ。
スラム境界の住民たちは、突如現れた『水色の集団』を不審そうに眺めていたが、やがてその熱心な働きに、少しずつ表情を和らげていった。
「……なんだ、掃除か?」「がんばれよ、チビ助」といった声が飛ぶ。マイナスから始まった
「集めたゴミはいったん孤児院の庭に
夕方、孤児院の庭には多種多様な『ガラクタの山』が築かれていた。
さてここからは俺の仕事だ。
俺は目利きのために連れてきたフィエルダを伴い、その山を検品することにしたのだ。
見てろよ、これが宝の山だということを証明してやる。