元社畜悪役貴族のホワイト経営 ~将来俺を殺すはずの主人公少女を福利厚生で懐かせて成り上がります 作:chickden
夕日に照らされた孤児院の庭。
子供たちが集めてきた多種多様な『ガラクタの山』を前に、俺は得意げに腕を組んだ。
「どうだフィエルダ、このゴミの山。使えそうな
「……驚いたな。本当に拾ってきたゴミばかりなのか? 細かく鉄製のゴミが混ざってるぜ。これらを洗って鍛冶ギルドに持ち込めば、二銭三銭にはなりそうだ」
鉄の価値は、いつの時代も、どの世界でも普遍だ。
小さな部品も大量に集まれば、立派な原材料になる。
「おや、これなんかは壊れていそうだが魔道具だな。普通は捨てないもんだが……なにかのいわく品かねぇ」
「いいじゃないか。案外、金に繋がりそうな物品が落ちているものだ。幸先がいい」
いわく品、結構。
呪いの品としても、そういうのを好む好事家は居る。
よしんばそれが、なにか事件に使われた物で打ち捨てられたモノでも関係ない。
この世界には、前世のように緻密な鑑識捜査なんて概念はない。
ならば、たとえ事件の証拠品であろうと、拾ってしまえばそれは『無主物の接収』だ。再利用して利益を出すことに、社畜の良心は一切傷まない。
「ゆくゆくは、居住区の一般市民からの『ゴミ回収サブスク』を視野に入れるのも面白いな。再利用で儲けつつ、住民にも喜ばれる……三方よしのビジネスだ」
「よくそんなことを思いつくな、ラムラ。貴族のくせに、そこらの商人より商売慣れしてやがる」
「はは。もとより悪徳貴族として、汚い金稼ぎには慣れているからな」
……というのは外面だけど。
実際は、前世で培った廃品回収のノウハウと、限界まで利益を絞り出そうとする社畜根性が、俺の脳を勝手に突き動かしているだけで。
「……なあ、ラムラ」
フィエルダが、不思議そうな顔で俺を覗き込んできた。
「お前、以前はただのロクデナシだっただろうが。どうして突然、こんな慈善事業みたいなことを始める気になったんだ?」
いきなり無礼なことを言ってきたぞ。
まあこれが、彼女なりの親愛の証なのはわかっているので不問にする。
ふう、しかし前世の記憶が戻ったから――とは、死んでも言えない。
俺は苦笑を噛み締めながら、悪役らしい邪悪な笑みを浮かべてみせた。
「ふはははは! 慈善事業? 馬鹿を言うな。十分な投資回収が見込めるからこそ動いているのだ」
「……ゴミがこれほど金になると、最初から織り込み済みだったのか?」
「当然だ。このガラクタだけではない。生ゴミもうまく発酵させれば、畑の栄養……『肥料』になる。農民でもないお前は知らんだろうが、作物の育成を劇的に促進する便利なものだ。この庭で収穫される今年の野菜は、最高に美味くなるぞ」
「すごいな、お前。正直、侮っていた。詫びを入れさせてくれ」
フィエルダが、真剣な目で俺を見た。
「改めて、アタシはお前の力になることを誓おう。……信じるぜ、あんたのやり方を」
「凄いのは、実際に現場を回した子供たちだ。俺はただビジネスモデルを示したに過ぎない。――これからも子供たちのマネジメントを頼むぞ。特にアルメイリだ、あの子の才能を腐らせるな」
「ああ、もちろんだ。アタシが骨まで鍛え込んでやるよ」
よしよし。これで頼りになる外部顧問、フィエルダをしっかり確保できた。
とはいえこれ、これからも格好を付け続けないと、この信頼を維持できなさそうじゃないか? おおお、なんか胃が痛む。
などと内心悶えていると、ディアルコとアルメイリに引率された子供たちが戻ってきた。
「ラムラさま! 言われた区域、全部終わりました!」
「うむ、ご苦労ディアルコ。リーダーとして良い顔になってきたじゃないか」
「いや、そんな。へへ……」
照れている。
だがこれは正直な感想であり、正当な評価だ。ディアルコはやはりSSRだったな。
俺は横にいたアルメイリにも声を掛ける。
「どうだ、アルメイリ。おまえもうまくやれたか?」
「はい……です。皆が頑張ってくれたので、街が綺麗になった、です。……ね、皆?」
「がんばったー!」
「きれいになったよ!」
年少組たちが口々に叫ぶ。
皆、泥だらけだが、その顔はこれまでにない充実感に満ちていた。アルメイリも、フンスと鼻を鳴らしてどこか誇らしげだ。
「アタシからも褒めてやるよ。上出来だ、お前ら!」
フィエルダが豪快に笑いながら子供たちの頭を撫でる。
対して俺は、あくまで『冷徹な経営者』を装っておく。威厳、威厳。キリッ。
「ふん。仕事なのだから当然のことだ。……おいフィエルダ、やめろそんな目で俺を見るな。俺はこいつらを利用したいだけだぞ」
俺が憮然として言い放つと、フィエルダがニヤニヤ笑う。
「さっきアタシには『あの子たちを頼む』なんて熱いこと言ってたのになぁ?」
「チッ……。ディアルコ、これからもコキ使ってやるからな、覚悟しろよ?」
「はい、ラムラさま! 喜んでコキ使われてみせます!」
ぬう、調子が狂う!
普通「コキ使う」と言われて「はい!」と答える新入社員がいるかー!?
だがまあ、従順な社畜……もとい、レアリティSSRの社員に教育できたのなら、経営上は成功と言えるだろう。
笑顔で子供たちと騒いでいる、まだ子供らしいディアルコを見つつ、俺は頷いたのだった。
「さあ皆、ご飯ができてますよ! 水浴びをしてから、着替えて食堂に来てくださいねー!」
と、プリミアが孤児院の扉を開けて声をかけた。
その瞬間。
――ぐぅぅぅ。
アルメイリの腹が、盛大に鳴る。
それを皮切りに、子供たちの腹の虫が、まるでシンフォニーのようにあちこちで鳴り出した。
「ふはははは! 今日は大義であった! 初仕事の祝いだ、今日は豪勢に振る舞えとプリミアに言ってある。たらふく食え。それが労働者の正当な権利だ!」
この仕事、手応えは悪くない。
肥料も鉄も魔道具も、販路を開拓すれば立派な
……ああ、忙しくなるな。
皆が孤児院へと入っていく中、俺は庭のガラクタの山を見つめ、これからの損益計算書を脳内で組み立てていた。
すると、服の袖をクイクイと引かれる。
「ラムラ……さま。……一緒に、お食事、しない……です?」
見上げると、アルメイリが少し不安げな瞳でこちらを見ていた。
「いや、食べるぞ。すぐに行く」
「……そうですか。……よかった、です」
「ん、何が『よかった』なんだ?」
はっきり言え、と業務命令を出すと、彼女は背中を向けて、ボソリと呟いた。
「……ラムラさまと一緒のお食事……はじめて、です」
(あ、そうだったか!?)
言われてみれば、屋敷でもここでも、いつも別々だった。
改めて言われると、なんだか少し、くすぐったいような、気恥ずかしいような気分になる。
「……ふん。たまにはな。こうしてお前たちに混ざるのも悪くないだろう」
俺は誤魔化すように、アルメイリの小さな手を取った。
「あ……っ」
「ほら、行くぞ。冷めたら、それこそ
――――。
この人は、貴族で、悪い人だから。
本当は、信じちゃいけないんだけど。
握られた大きな手から伝わってくる熱が、なんだかとても、あったかい。
どうしてこの人は、私たちを助けてくれたんだろう。
どうしてこんな、可愛い服をくれたんだろう。
魔物と戦った時も、私をずっと見ていてくれた。
言葉は意地悪で、お仕事のことばかり言うけれど。……この人の横にいると、心がポカポカしてくる、です。
混乱する。不信感と、嬉しい気持ちが、胸の中でごちゃごちゃになって、熱い。
でも。……こんな日々がずっと続けばいいのに。
そう思ってしまう自分に気づいて、アルメイリは慌てて己に言い聞かせる。
わたしは、この人に捨てられないように頑張るだけ。
利用してあげるです、この人を。
自分のために。孤児院のみんなのために。
だから……頑張るます、です。ラムラさま。
アルメイリは、握られた手をぎゅっと握り返した。
「痛いぞ、アルメイリ。力加減を考えろ」
「はい……です」
もっと、ぎゅ。
「――痛いのだが?」
「はい……です」
わけもわからず、アルメイリはそのまま、ラムラの手を握り続けた。
離したくないから、もっと力を込めて。