FPSのUIが現実に見える俺が、いつの間にか殺し屋になるまで   作:鳥獣跋扈

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第31話 不審な車両

 学園へ通う初日、スケジュールそのものは滞りなく過ぎていった。

 

 基本的に授業中はシャルロッテがオクタヴィアの傍に付いている。

 教室には他の生徒もいれば教員もいる。少なくとも、いきなり何者かが飛び込んできてどうこう、という状況にはなりにくいはずだ。

 

 俺の方は、今日はマチルダと行動を共にしていた。

 だが、それも初日だからできた話だ。

 ずっとくっついて歩いていれば、それはそれで不自然になる。今日のところは、普段の警護の流れや敷地内の移動範囲、俺が警戒に入るべき場所なんかを一緒に見て回る、という名目があったから同行できた。だが、明日以降も同じようにというわけにはいかないだろう。

 

 オクタヴィアは、寮から通学している。

 

 寮は学園の敷地の外れにあり、それなりの人数がそこで生活しているらしい。

 マチルダは、学園のすぐ脇にあるアパートメントに部屋を取っていて、夕方頃にいったん帰宅し、朝一番でまた出勤して寮前でオクタヴィアと合流する――そういう生活をしているそうだ。

 

 さらに課外活動。

 主に楽器演奏などをしているらしいが、そういった校内での活動や、友人たちとの買い物など、外部での行動がある時には、横に付いて行くか、あるいは邪魔にならない距離で見守る形を取っているという。

 

 付きっきりというわけではない。

 だから、そこまで大変でもない――とは本人の談だ。

 

 だが、とはいえ、それなりに拘束はされる。

 だからこそ、俺とシャルロッテが追加人員として派遣されたことについては、率直に助かる、とも言っていた。

 まあ、相変わらず俺に対する不信感みたいなものは多少残っているが、それでも、少し話したおかげで剣呑な空気は薄れてきた気がする。

 

 それは良かった。マチルダにそう返しながらも、俺は今後の警護体制について頭の中で整理していた。

 

 まず、オクタヴィア。

 彼女については、基本的に俺たち三人が何かしらの形で常に視界か行動範囲の中へ置いている状態だ。

 

 こちらは問題ないだろう。

 問題は、マチルダの方だ。

 

 彼女は、自分が狙われていることを知らない。

 俺とシャルロッテは、それを悟らせずに、それとなく彼女を警護しなければならない。

 

 今日みたいに同じ職場空間にいるなら、それほど難しくはない。

 厄介なのは、彼女がオクタヴィアの警護から離れたタイミングだ。

 

 俺がオクタヴィアの警護へ入っている時は、シャルロッテがマチルダに付く。同性同士だし、四六時中は難しいにしても行動を共にするのもそこまで不自然ではない。

 

 逆に、俺がマチルダの警護に回る場合が面倒だった。

 

 数回程度なら、何かと理由をつけて同行もできるだろう。

 だが、それ以上となると隠れて尾行でもしない限り難しい。

 

 面倒だ。

 だが、仕方がない。

 

 そんなことをつらつら考えていた時だった。

 ちょうど授業が終わったらしい。

 

 俺たちは最初に連れて来られた、使用人用の建物へ戻ってきていた。二階の窓から外を見下ろすと、続々と帰路につく学生たちの姿が見える。

 その流れの中で、ひときわ目立つ集団が一つあった。

 

 金色の髪を揺らし、楽しそうに周囲と話しながら歩くシャルロッテ。

 その隣には、少し押され気味ながらも輪の中心に残っているオクタヴィアの姿があった。控えめな笑顔を浮かべながら、彼女もちゃんと会話に加わっている。

 

「……どうやら、あちらは無事に馴染めたようですね」

 

 俺が呟くと、同じく窓辺へ来たマチルダが、少し呆れたような、それでいてどこか羨ましそうな声音で返してきた。

 

「ああ、大したものだ」

 

 まあ、マチルダみたいな雰囲気の女は、ああいう和気あいあいとした輪の中へ自分から入っていくタイプではないだろう。

 だから余計に、シャルロッテのあの順応力は目につくのかもしれない。

 

「さ、待たせるのはよろしくない」

 

 マチルダが窓から離れ、短く言う。

 

「迎えに出るぞ」

 

「はい」

 

 俺もそれに続いて階段を下りた。

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「いやぁ、ああいう学校って初めてだけど、案外楽しいわね」

 

 後部座席で、シャルロッテがにこにこと笑いながら話しかけてくる。

 

 出迎えた俺たちと合流した時、俺とシャルロッテの関係性について少しばかりひと悶着あった。

 とはいえ、あれはまあ、多感な時期の女子生徒らしい反応と言えるだろう。

 

 「使用人って、本当にただの使用人なの?」

 そんな感じの視線や、ソレに近い質問が、オクタヴィアの友人たちからずっと飛んできていた。

 

 こちらとしては、ただの使用人ですよ、と何とか言いくるめはした。

 だが、どうにも好奇の視線は収まっていなかった。

 

 おかしい。

 最初に学園へ来た時に見た生徒たちは、そこまで露骨ではなかったのだが。

 

 やはり、実際に自分の知り合いとなった人間の交友関係となると、興味も大きくなるのだろう。

 オクタヴィアは苦笑い気味で、マチルダに至っては完全に我関せずを貫いていた。

 

 そんなこんなで、今は俺とシャルロッテの二人で帰路についている。

 この後、セーフハウスへ戻ったら、今日のところは俺が一度外へ出て、マチルダの周辺を観察、警護する予定だ。

 

 まだ銃火器関連は輸送中。

 ドンパチ対応はできないのが心許ない。だが、無いものを嘆いても仕方ない。

 

 

 

 

 学園を出てしばらく。

 もう半分ほど道を進んできた頃だ。

 

 バックミラーの中に、同じ車が映り続けていることに気づいた。

 

 白いバン。

 古い型で、手入れはあまり良くない。

 街中にいても、別段珍しい車種ではない。だが、気にはなる。

 

 ふむ。

 

「……後ろ、尾けて来てますかね」

 

 バックミラー越しに、シャルロッテへ視線を送る。

 

 彼女もすでに気づいていたらしい。

 表情を変えずに、窓の外を見ていた。

 

「……そうね」

 

 短く返ってくる。

 

「駅の方へ向かいつつ、少し遠回りで。一旦、駅前のマーケットまで行きましょう」

 

「分かりました」

 

 俺は短く答え、そのままセーフハウスの前を通り過ぎて駅前方向へハンドルを切った。

 

 右へ。

 左へ。

 

 交差点では少しわざとらしいくらい速度を緩める。

 この辺りに詳しくない旅行者か何かが、地図を頭に浮かべながら探り探り進んでいる――そんな風に見える程度の不自然さに留めておく。

 

 信号や交差点のタイミングで、間に別の車が挟まることもあった。

 普通の車なら、こちらがもたついていればさっさと抜いていく。

 

 だが、白いバンはそうしない。

 

 同じようにゆるゆると速度を落とし、こちらへ合わせるように付いてくる。

 

 なるほど。

 かなり分かりやすい。

 

 そのまま少し遠回りをしてから、駅前マーケットの駐車場へ入った。

 

 広さはそれなりにある。

 二、三十台くらいは余裕で停められそうだ。

 

 平日の夕方ということもあり、車はそこそこ入っている。

 とはいえ満車ではない。感覚的には六割程度。入口に近い場所は埋まっているが、奥の方にはまだ空きが見える。

 

 俺は駐車場の真ん中あたり、ほどよく空いているスペースへ車を停めた。

 

 白いバンも、そのままこちらへ付いて入ってくる。

 スモークの貼られた窓ガラス越しでは、中の様子は分からない。

 

 こちらの停車位置を通り過ぎ、そのまま駐車場の奥――かなり余裕のあるスペースへ停車した。

 

 俺はシートベルトを外しながら口を開く。

 

「十中八九、俺たちを付けてきているみたいですね」

 

 白手袋を外し、執事服のジャケットを助手席へ軽く畳んで置く。

 

「そうね」

 

 シャルロッテは後部座席から身を乗り出し、地味な黒いジャケットを取り出してこちらへ渡してきた。

 

「連中、まさかこんなところで仕掛けては来ないと思うけど、どうするかしらね」

 

 俺はハンドル下のスイッチをぱち、と押し、受け取ったジャケットへ袖を通す。

 

「とりあえず、どの程度かは分かりますかね」

 

 助手席に置いた白手袋を内ポケットへしまい込み、そのまま車外へ出た。脱いだ執事服は助手席へ残したままだ。

 シャルロッテも後部座席から降りてくる。

 

 外は、夕方特有の少し落ち着いた空気に包まれていた。

 

 さらさらと爽やかな風が吹き、近くの木々の葉を揺らしている。その音が耳に心地よい。

 もしバカンスで来ていたなら、存外過ごしやすい場所だったかもしれない。

 

 だが、今は違う。

 

 少しだけ、その牧歌的な空気に意識が持っていかれそうになる。

 俺はそれを、意識して切り替えた。

 

「さて」

 

 わざと少し軽い口調で言う。

 

「晩ご飯でも買いに行きましょうか」

 

「ええ」

 

 シャルロッテが、くすりと笑いながら俺の横へ並ぶ。

 

「今日はお肉が良いわね」

 

「おや」

 

 俺も調子を合わせる。

 

「魚もいいですよ?」

 

 二人並んで、マーケットの方へ歩き出す。

 

 入口付近には、フルーツが陳列されていた。

 俺たちは少し足を緩め、品物を眺めるようにして時間を稼ぐ。

 

 だが、バンの連中は降りてくる気配を見せない。

 

 仕方ないか。

 

「何か良いものがあればいいんですがね」

 

 そう言いながら、自動ドアを抜けて中へ入る。

 その瞬間、駐車場への視線は切れた。

 

 

 さて。

 餌には、引っかかるかな。

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