FPSのUIが現実に見える俺が、いつの間にか殺し屋になるまで   作:鳥獣跋扈

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第35話 思惑ひしめく

 焦りと疑問が、渦を巻くように脳裏でせめぎ合っていた。

 

 だが、立ち止まって考え込んでいる時間はない。

 今起きたことを、そして自分の中に生まれた得体の知れない不安を、あの男に説明しなければならない。

 

 マチルダは背後のドアを振り返り、がちゃりと鍵を掛けた。

 その音がやけに大きく響いた気がして、一瞬肩を揺らす。

 

 小さく息を吸い、何とか頭の中を整理しながら、彼女はリビングへと戻った。

 

 部屋はそう広くはない。

 だが、出来る限り整えてはいる。安物のソファにローテーブル。壁際には背の低い棚。テレビは消えたままで、黒い画面が室内の薄暗さをそのまま映している。煙草の匂いとアルコールの残り香が、換気しきれないまま空気を淀ませていた。

 

 窓辺には巨漢が一人立っていた。

 

 カーテンの端をつまみ、ほんの少しだけめくって通りを眺めている。

 その後ろ姿を見たマチルダは、わずかに目を見開いた。

 男がああして外を警戒している。今までそんな様子は見たことが無かった。粗野で乱暴な男、そんな印象しかなかったからだ。

 

 マチルダは言葉をかけることなく、部屋の一角に隠してあった拳銃を取り出した。

 慣れた手つきで弾倉を抜き、装弾数を確認する。

 

 二階堂は、敵は排除したと言っていた。

 だが、それを鵜呑みにしていい状況でもない。追撃が来るかもしれないし、そもそもここはもう安全な場所ではないのかもしれない。

 

 準備だけはしておくべきだ。

 

 それに、言われたように、この部屋も引き払わなければならないだろう。

 荷物はさほど多くない。だが、何を持ち出し、何を捨てるかの見当くらいはつけておく必要があった。

 

 ジャケットを羽織り直し、必要最低限の装備を整え終えたころ、窓際の男がようやく振り返った。

 

 傷だらけの顔が、思案げに歪んでいる。

 いつもの乱暴で雑な雰囲気はそのままだが、その奥にある神経が、妙に研ぎ澄まされているように見えた。

 

「……行ったな。おう、座れ」

 

 短くそう告げられ、マチルダは否定もせずにソファへ腰を下ろした。

 男も、彼女が座ったことを確認してから向かいのソファへどかりと身を沈める。安物のスプリングがみしりと悲鳴を上げた。いつか確実に壊れるだろうと、マチルダは以前から思っていたが、今夜もどうにか持ちこたえたらしい。

 

「で、アイツは誰だ。それに、襲撃だと? どういうこった」

 

 男は先ほどまで飲んでいたビール瓶を手に取り、一瞬だけそれを口へ運びかけた。

 だが、何かを思い直したのか、苛立ったようにテーブルへと戻す。これ以上アルコールを入れるのはまずい、と判断したのだろう。

 

 代わりに、灰皿の中に残っていた、だいぶ短くなった煙草を拾い上げて乱暴に吸う。火種の弱った先端がじわりと赤くなり、白煙がゆっくりと揺れた。

 

「……仕事の応援だ。急に送られてきてな。今日の話は、そのことも含めてのつもりだった」

 

 ふう、と吐き出された煙が、白い靄になって室内に広がる。

 巨漢は煙越しにマチルダを値踏みするように見た。何も言わず、顎をしゃくるだけで先を促す。

 

「襲撃については、こちらも寝耳に水だ。なぜ私を狙うのか……先に警護を潰してからかも、と言っていたが――お前たちがする意味はないだろう?」

 

 マチルダの視線が鋭くなる。

 灰皿へ煙草をぐしぐしと押しつけて火を消すと、男はソファに深く背を預け、がん、と乱暴に足をテーブルへ乗せた。

 

「たりめぇだ。そもそも、なんで俺がいるのに、わざわざテメェを襲う必要があるんだよ。ええ?」

 

 眉を歪め、露骨に不快を示しながら声を荒げる。

 その物言いに品はないが、理屈としては筋が通っていた。

 

「そう……だな」

 

 マチルダは視線を落とし、膝の上で抱え込んだ右手の爪を噛んだ。

 それは彼女が思考を深める時の、無意識に近い癖だった。

 

「私自身が狙われる理由に、心当たりはない。だが、となると……そちらが狙われている、ということも考えられる」

 

「ああ!? 俺が狙われるってか!?」

 

 巨漢が鼻で笑うように声を荒げた。

 

「それこそどうかしてるぜ。この街で俺たちに逆らうような阿呆がいるとも思えねぇ。外から来た連中ならまだしも――」

 

 そこまで言って、男の言葉が止まる。

 

 視線が宙を泳ぐ。

 何か、頭の隅に引っかかっていた記憶を引き寄せるように。

 

「……いや、待て。そういや最近、同業のヤツがやられたとか、兄貴が言ってた気がするな」

 

 顎へ手をやり、無精髭を擦る。

 

「何の因果も出てこねぇってんで、少しばかり気にはしてたが……もしや、それ関係か?」

 

 同業の殺し。

 裏を取るのは常識だ。だがその件に関しては、その後めぼしい情報が何一つ出てこなかった。怨恨か、古い因縁か、そのあたりだろうと流していた。だが、もし今夜の件がそれに繋がるのだとしたら。

 

 男はそこで思考を止めた。

 今はまだ、情報が少なすぎる。

 

 この件は、後で兄と相談しよう。

 そう胸の内に一旦押し込める。

 

「まあ、今は慌ててどうこうは出来ねぇからな。とりあえず、その“応援”の連中の話だ。どういう奴らだ」

 

 保留と決めたらしい。

 男は話を戻した。

 

 マチルダもまた、これ以上考えても今夜のうちに結論が出る話ではないと理解し、小さく頭を振って思考を切り替える。

 

「ああ、そうだな。来たのは、何を考えてるか分からない男と、子供みたいな女の二人だ」

 

 その言葉を口にした瞬間、二階堂の無表情な顔と、やけに整った金髪の少女の顔が脳裏をよぎる。

 

「特に戦闘力はなさそうだったが、男の方は……“多少”使えるようだ」

 

 玄関の方へちらりと視線を向ける。

 襲撃者がどの程度の規模だったのかは分からない。だが、自分が気づかぬうちに事が済んでいた以上、大した相手ではなかったのだろう――そう、自分に言い聞かせるように、彼女は評価をほんの少しだけ上方修正するに留めた。

 

「女の方は、お嬢様の学内での護衛要員だろう。こちらも、特段気にすることはないはずだ」

 

 今日一日で受けた印象を、できるだけ端的に伝える。

 少なくとも、向かいにいるこの男のような、露骨に戦闘へ寄った人間ではないはずだ。

 

「それより、情報はまだ出てこないのか」

 

 焦れたようにマチルダが声を荒げる。

 

「ああ、悪いな。ぼちぼち集まってきてはいるんだが、まだ確証もなくてな」

 

 男はにやにやと、どこか人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて彼女を見下ろす。

 

「なぁに、仕事が終わるころにゃ、まとまってるはずさ」

 

 その態度に、マチルダの奥歯がぎり、と鳴った。

 だが、それでどうにかなる話でもない。

 

 今のところ、欧州で伝手を頼れるのはこの巨漢の組織くらいだ。

 他と接触しようにも、どこもかしこも妙に神経質になっている。情報源が限られている以上、今は自分に出来ることをするしかない。

 

「……分かった」

 

 短く、噛みしめるように答える。

 

「こちらも、学内の情報は渡しているんだ。オクタヴィア様には、くれぐれも手を出すなよ」

 

 念を押すように告げる。

 だが返ってきたのは、分かった分かった、といかにもおざなりな返事だけだった。

 

 その雑さに苛立ちを覚える。

 けれど、努めてそれを飲み込み、マチルダは自分を納得させる。

 

 そう。

 自分の護衛対象さえ無事であれば、他がどうなろうと知ったことではない。

 

 そう思っていた。

 そう思い込もうとしていた。

 

 たとえ、そのやり取りが、どういう火種になりうるのか、心のどこかで理解していたとしても。

 彼女はもう、引き返すことを考えられないところまで来ていたのだ。

 

 

 

 

「さて、それじゃあ俺ぁもう帰るぜ」

 

 巨漢が立ち上がる。

 

「それとも、ベッドで慰めてやろうか?」

 

 下卑た笑みを浮かべた冗談とも本気ともつかぬ言葉に、マチルダはつれなく視線を外す。

 そうかよ、と鼻を鳴らし、男は玄関から出ていった。

 

 ぎし、ぎし、と重量のある足音が廊下を遠ざかっていく。

 それを耳にしながら、マチルダは長く息を吐いた。

 

 自分も出る支度をしなければ。

 そう思ってクローゼットへ向かい、必要な荷物をまとめ始める。

 

 男が出ていってからしばらく。

 どたどた、と、騒々しいとまでは言わないが、明らかに平静ではない足音が階下から響いてきた。

 

 次の瞬間。

 

 がちゃん、と音を立てて、自室のドアが開く。

 何事かと、マチルダは反射的に銃を構え、玄関へ向けた。

 そこに立っていたのは、先ほど帰ったはずの巨漢だった。

 息を切らし、こちらを睨んでいる。

 

「な、何事だ!?」

 

 思わず声が上擦る。

 この男がここまで取り乱した姿を、マチルダは初めて見た。

 何か、良くないことが起きた。

 それだけは一目で分かる。

 

 マチルダは銃口を少し下げた。

 だが、いつでも構え直せるように、指先には力を残したままだ。

 

 問いかけに対し、男は乱れた呼吸を整えようと喉を鳴らし、ようやく口を開く。

 

「……さっき言ってたな。男の方。“多少”使える程度だってな」

 

 一言一言を区切るように、確認するみたいに。

 

「……ああ。そうだが」

 

「そうかい。ちょいとこっちに来てみな」

 

 男はそう言うと、こちらを待たずに廊下へ出た。

 マチルダは眉を寄せたまま、その後を追う。

 

 薄暗い廊下。

 見慣れた、古びたアパートの風景。

 特に変わった様子はない。だが、何も言わぬまま先を急ぐ男の背が、妙な不気味さをまとって見えた。

 

 二階への階段を下り、一階まで。

 そしてそのまま外へ。

 

 アパートの前には、見慣れない車が二台止まっていた。

 だが、男のものではない。彼はいつも、この先のバーに部下を待たせ、そこから帰る。ならば、あれは別口の車両だ。

 

 マチルダは胸の奥がひやりと冷えるのを感じた。

 

 男はそのままアパートの裏手へ向かう。

 マチルダも、周囲を警戒しつつ後に続いた。

 

 今さら、この男が自分をどうこうするとも思えない。

 そうする利もない。

 だが、それでも、念のためという意識が体を固くする。

 

 思えば、彼女はこのアパートの裏手へ来たことがほとんどなかった。

 住んでいるのに、用がないから立ち入らない。そういう場所だ。

 だからこそ、男がここへ向かう意味の方が気になった。

 

 マチルダの疑問を感じ取ったのか、それとも彼自身も沈黙を嫌ったのか。

 男が不意に口を開く。

 

「さっきの襲撃者の話。始末したってんなら、どっかに隠したはずだ。一応、どの程度の連中だったのかと思ってな」

 

 そう言いながらさらに奥へ進む。

 周囲は暗い。あるのは街灯のかすかな明かりと、アパートの廊下から漏れてくる灯りだけ。

 

 やがて、非常階段が見えてくる。

 その辺りから、かすかに、しかし確かに血の匂いが漂っていた。

 

 どこだ。

 

 視線を巡らせると、小さな物置のようなものが見える。

 

「わざわざ遠くまで隠すようなことはしないだろう。ってことは、この辺りだ。そう思って見てみたら――当たりだぜ」

 

 ほらよ、と言いながら、男ががらりと物置の扉を横へ引いた。

 マチルダは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 喉が乾く。

 

 そして、中を覗き込む。

 そこには、人が折り重なるように積み込まれていた。

 

 ひっくり返された跡があるのは、巨漢の男が既に中を検めたのだろう。

 首がひしゃげた者。絞め殺された者。関節をありえない向きにねじられた者。刺されて絶命している者。

 

 ひどい有様だった。

 だが、マチルダの全身に寒気を走らせたのは、その惨たらしさそのものではない。

 

 誰一人、銃痕がない。

 

 つまり。

 

 あの男は。

 二階堂は。

 

 この全員を、気づかれることすらなく、銃も使わず、素手とその場の物だけで仕留めていったということになる。

 

 ぞくり、と皮膚が粟立つ。

 背筋を、氷の指でなぞられたような感覚だった。

 

「……こいつは、そうとうヤバい手合いだ」

 

 巨漢の声も、先ほどまでの粗雑さを失っていた。

 体の大きさに似合わぬほど慎重で低い声。

 

「本当に、何も知らねぇのか」

 

 だが、そう問われても、マチルダ自身にも答えようがない。

 彼女は、ただ首を横に振ることしかできなかった。

 

「……そうか」

 

 男は短く息を吐く。

 

「こいつについてはコッチでも調べる。お前も、何か分かったらすぐに知らせろよ。女の方もだ」

 

 マチルダは、こくりと頷いた。

 それしかできなかった。

 

「……バケモノだな。ったく」

 

 ぼそりと吐き捨てるように呟き、巨漢は去っていく。

 

 マチルダは、その背を見送ってからようやく息を吐いた。

 だが、胸の内に居座る不安は少しも軽くならない。

 

 慌てて部屋へと戻る。

 言いようのない焦燥を抱えたまま、彼女はただ、目の前の荷造りだけに意識を向けるように手を動かし続けた。

 

 考えれば、崩れそうだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オフィス然とした一室だった。

 

 大きく取られた窓からは、昼の柔らかな光が斜めに差し込んでいる。

 外はよく晴れているらしく、磨き込まれた窓硝子の向こうには、整えられた街並みと、遠くに広がる穏やかな青空が見えた。

 

 室内には、質のいい調度品が嫌味にならない程度に並んでいる。

 壁際のキャビネット、革張りのソファ、無駄な装飾を排した照明器具。どれも一見すれば落ち着いた上等品だが、細部を見ると、使う者の趣味ではなく“格”を示すために置かれているのが分かる。

 

 部屋の中央には、大きなデスクが鎮座していた。

 濃い色合いの木で作られたその天板は丹念に磨き上げられ、窓からの光を鈍く返している。

 

 その奥、革張りの椅子に腰掛けている男がいた。

 

 がっしりとした体格。

 短く刈り揃えられた金髪。

 そして、剃刀のように鋭い瞳。

 

 男は、目の前に広げられた紙資料を静かに捲っていた。

 指の動きに無駄はなく、紙をめくるたびに乾いた音が室内に小さく響く。視線は速い。右へ左へと字を追うその動きは、ただ読んでいるのではなく、情報を噛み砕き、並べ替え、頭の中で盤面に置き直しているようだった。

 

 資料をめくる音だけが支配していた室内に、控えめなノックが響いた。

 

「入れ」

 

 男は、視線を資料から外さないまま答えた。

 低く、短い声だった。余計な感情も抑揚もない。ただ、それだけで部屋の空気が一段張り詰める。

 

「失礼します」

 

 扉を開けて入ってきたのは、これまた頑丈な体格をした男だった。

 肩幅が広く、歩幅も大きい。だが、今の彼の足取りには、どこか抑えた焦りと、それでいて微かな高揚が混じっていた。報告すべき内容が悪いものであると同時に、事態が“動いた”ことも理解している人間の足取りだった。

 

 男は数歩部屋へ入ったところで立ち止まり、直立する。

 

 目の前の金髪の男――自身の上司がこちらを向くまで、決して口を開かない。

 彼が、自分の時間を強制的に止められることを何より嫌うのを知っているからだ。

 

 沈黙。

 

 待つことしばし。

 資料へ落ちていた視線が、ようやく外れる。

 金髪の男がゆっくりと顔を上げ、自身の部下を見た。

 

 睨んでいるわけではない。

 だが、そう錯覚するには十分な目だった。

 その鋭利な視線に晒された部下の男は、一瞬だけ身じろぎし、それでも姿勢を崩さず、口を開く。

 

「昨日の件から続きまして、例の組織の構成員と思しき女のところへやった連中が、やられました」

 

 ぴくり、と金髪の男の眉が跳ねた。

 

 彼は、ぎし、と革の軋む音を立てながら肘をデスクにつき、聞く体勢へと移る。

 そこでようやく、先ほどまでの事務的な読書から、狩人の顔へと切り替わった。

 

「被害は」

 

 短い問いだった。

 だが、その短さの中に、半ば確信が含まれている。

 

 部下の男は、一拍置いてから答えた。

 

「は。六名全員がやられました。発砲も許さず、一方的に仕留められてます。恐らく……」

 

 その先は続かなかった。

 金髪の男が片手を上げ、制したからだ。

 

「マーケットでの件も含め、間違いない」

 

 椅子の背に体を預けながら、彼はゆっくりと窓の方へ向き直る。

 顎を左手で支え、外の景色を見るともなしに見ながら続けた。

 

「客船の時の連中か、それに属してる奴だな」

 

 抑揚のない声音。

 だが、その中には明らかな喜びがあった。

 怒りでもない。驚愕でもない。獲物の気配をようやく掴んだ時の、冷えた愉悦だった。

 

「……確認していたのは、男女二人組だったな」

 

 姿勢を変えないまま問う。

 

「ええ。一人攫われましたが、末端の構成員です。ウチの情報はそれほど漏れていないかと……車両に発信機も付けてますんで、連中の拠点も確認済みです」

 

 その報告は既に書面でも上がってきていた。

 だが、金髪の男はあえて口頭で確認させる。自分の頭の中で、散っている情報を一つの線に繋ぐために。

 

「やっと釣れたみたいだな」

 

 男の口元が、わずかに吊り上がった。

 

 “円卓”の連中からの依頼。

 任務を妨害してきた相手の素性を洗え――という、厄介な仕事。

 

 最初は、件の組織の構成員を調べるところから始めた。

 だが、これがまるで芳しくなかった。

 

 調べても、調べても、出てくるのはただ一つ。

 アジアの端に拠点を持つ、小規模な任務仲介組織。

 世界各地に点在する構成員。だが、その実態は固定の兵ではなく、フリーの人間が名簿にパーソナルを登録し、依頼を受ける時だけ繋がるような、曖昧な関係性ばかり。

 

 多少の内輪の繋がりはあるのだろう。

 だが、明確に“組織に属す”とも言い難い。

 構成員を洗っても、本体に辿り着く前に線が霧散する。どこまで行っても、掴めるのは末端だけだった。

 

 だから、次の手に出た。

 

 構成員の殺害。

 

 この手は、裏の世界においても決して綺麗なやり方ではない。

 依頼もない状態で、他組織の人間を潰す。そんな真似をすれば、信用に傷がつく。場合によっては、それこそ組織間の戦争へ発展する。

 

 だが、彼にとってはその程度の話だった。

 

 こちらは欧州で名を知られた側。

 相手はアジアの端にいる小規模な組織。

 そして何より、“円卓”の連中は、そうした摩擦すら望んでいる節があった。

 

 実際、結果は出た。

 

 一人目を始末した瞬間、欧州方面で動いていた連中が、さっと波が引くように姿を消した。

 あからさまに怪しい。

 残った案件は一つだけ。

 

 そこへ末端を使って軽く突きを入れてみれば、案の定、当たりだった。

 ならば後は簡単だ。

 こちらの主力を使って、根まで掘り返してやればいい。

 

 こちらにも、メンツがある。

 嘗めた真似をされて、やられっぱなしで終わるわけにはいかない。

 

「よし、メンバーを集めろ」

 

 窓の外を見たまま、男が言う。

 

「あとは“会合”に合わせて準備を進めるぞ」

 

 その一言に、直立していた部下の男はぴたりと背筋を張った。

 

「はっ」

 

 短く応じる。

 

 “会合”。

 

 上も、下も。

 刈るならまとめた方がいい。

 手が出せないように。手を出したら困るように。

 

 部下が踵を返し、速やかに部屋を出ていく。

 扉が閉まる音がして、室内には再び静けさが戻った。

 

 金髪の男は、革張りの椅子に深く体を沈めた。

 そのまま、ゆっくりと口の端を持ち上げる。

 

 計画は、順調だった。

 少なくとも今のところは。

 

 その笑みには満足と、自信と、そして獲物を追い詰める者特有の残酷さが混じっていた。

 

 

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