FPSのUIが現実に見える俺が、いつの間にか殺し屋になるまで 作:鳥獣跋扈
開いたトランクの中には、黒光りする銃器が整然と並べられていた。
拳銃だけでも何種類かあり、その奥にはストックを畳んだ短銃身の自動小銃、予備弾倉、サプレッサーや各種パーツまで、専用の収納材へきっちり収められている。
「さ、好きなの持ってけ」
東堂が、どことなく得意げな顔で言った。
いやまあ、この日本でこれだけの数を揃えているのだから、多少どや顔をしたくなる気持ちも分からなくはないけれども。
「……いいんですか?」
二重の意味で。
「まさか、水鉄砲持たせるわけにもいかねえだろ。安心しろ。足がつくような代物は置いてねえよ」
ごもっとも。
それでは、遠慮なく。
並んでいる拳銃を見比べ、その中から普段使っているものとサイズ感の近い一挺を手に取る。握り込んだ感じも悪くない。重心も極端な癖はなさそうだったので、続けて対応するサプレッサーを確認する。
軽く構えてみるが、うん。問題なさそうだ。
「弾は亜音速だ」
横から東堂が説明を入れる。
「サプレッサーと合わせりゃ、だいぶ音は落ちる。ただ勘違いすんなよ。映画みてえに無音になるわけじゃねえからな」
「分かりました」
一通り作動状態を確認し、弾倉や薬室周りにも異常がないことを確かめる。
サプレッサーを付けると、その分だけ前が少し重くなるが、取り回しに支障が出るほどではなかった。
ベルト用のホルスターもあったので借りることにする。移動中はサプレッサーを外し、専用のポーチへ入れておけばいいだろう。
それから。
同じ拳銃を、もう一挺取った。
「……二挺か?」
東堂が不思議そうな顔をする。
まあ、疑問に思うのも分かる。
ただ、ちょっと試してみたかったのだ。アキンボ。
つまり、二丁拳銃。
「ええ。何か問題が?」
「いや。扱えるなら構わんけどよ」
そう言って視線を外したが、どことなく呆れたようなものが混じっている。
いいじゃないか、二丁拳銃。
浪漫があるだろう?
それに、左右で構えてみた感じでは、特に無理もなさそうだった。
俺は左右のホルスターへそれぞれ収め、予備弾倉も必要な分だけ確保する。
これで俺の方は十分だろう。
次にアルフへ目を向けると、彼はトランクの奥から短銃身の黒い自動小銃を引っ張り出していた。
ストックを縮めればかなり小さくまとまり、銃口には大きめのサプレッサーも付いている。
「これ借りますね!」
にっこり笑いながら、慣れた手つきで状態を確認している。
そのテンションの高さに、東堂が少しだけ面食らった顔をした。
「お、おう。反動きついぞ。問題ないか?」
「大丈夫です!」
アルフは片手でひょいと持ち上げ、ふん、と少し得意げに構えてみせる。
東堂が何とも言えない顔をした。
……まあ、外行きのアルフはちょっととっつきにくい感じがあるからな。
こういう場面だと、余計に。
「予備は要るか?」
「じゃあ、拳銃を一挺だけ貰いますねー!」
「了解」
最初こそ面食らっていた東堂だが、装備の確認そのものは手を抜かない。
そして最後に、柳。
何を選ぶのかと思って見ていると、トランクの一番下から細長いケースを取り出した。
長い。それに細い。
どう見ても銃が入っている形ではない。
何ですかソレ、と思わず尋ねる前に、柳が黒塗りのケースを開く。
中に収められていたのは、無骨な拵えの一振りの日本刀。
……こんなものを用意しているとなると、さらに東堂と柳の関係性が見えてきた気もするが。
「ふむ。良い刀ですな」
柳が鞘から刀身を滑らせる。
倉庫の白い照明を受け、刃がぬらりと光を返した。
武器というより、美術品に見えるほどの美しさ。機能美と造形美が混ざり合ったような、どことなく神秘性すら感じる。
「南海太郎朝尊、丁子乱れだ。ったく、良い値段するんだぜ、それ」
東堂がぼやく。
柳はそれを聞いて、少しだけ笑みを深めた。
刃を鞘へ戻して腰へ差し、それからケースの隅に収められていた細い棒状の金属を何本か手に取り、袖や腰の内側へ慣れた様子で収めていく。
棒手裏剣、か? また随分と古風だなぁ。
「銃は?」
東堂が尋ねた。
「苦手ではありませんが、こちらの方が慣れておりますので」
「……そうかい」
東堂も、それ以上は追及しなかった。
そういう本人は、最も分かりやすい装備だった。
タクティカルベストを身につけ、長物を一挺。サイドアームとして拳銃も収め、必要な装備を手早く整えていく。
こちらは見本にしたくなるくらい、いかにもな感じ。
倉庫の中に、銃器や金具が触れ合う小さな金属音がしばらく響いていたが、やがてそれも止む。
全員の準備が整ったのを確認すると、東堂は俺たちを見回し、口を開いた。
「さあて、お次は突入の段取りだ」
東堂はそう言いながら車の前へ回り込み、腰のポーチから折り畳まれた見取り図を取り出してボンネットの上へ広げた。
後に続いた俺たちも、見取り図を囲むようにして視線を落とす。
「まだ昼間だからな。客の大半は上の客室にいるし、数も多くない。こっちは別動隊をすでに周辺へ入れてある。俺たちが侵入したあと、時間を見て別口から突入、上の従業員区画なんかも同時に押さえる手はずだ」
そう言って、東堂が図面の上部を指でなぞる。
《龍宮》の地上部分は、元々あったホテル施設を多少改装して使っているだけらしく、地下の興行区画ほど厳重な造りにはなっていないらしい。
もちろん、警備そのものがないわけではないが、東堂の話では制圧するのにそれほど手間取る相手ではないとのことだった。
「そっちはもう配置済みだ。あとは俺からの合図待ち」
なるほど。
一年以上潜っていたというだけあって、その辺りの準備はかなり前から整えていたらしい。
「この時間、地下はまだ営業準備中だ。泊まり客は上で保護する予定だが、何があるか分からん。そこだけは気を付けてくれ」
「分かりました」
俺たちの返事を確認すると、東堂は今度は見取り図のロビー部分へ指を移した。
「まず、こっちの人間を二人入れる。客を装ってロビーを確認させ、警備の位置を拾ってから――」
「いえ」
せっかく作戦を説明してくれているところ悪いのだが、たぶん、もう少し簡単に済むと思う。
思わず口を挟むと、東堂が眉を寄せた。
「ん?」
「時間を掛けるほど、向こうも準備すると思いますので。さっさと行きましょう」
「……は?」
何を言っているんだ、という顔をされる。
まあ、普通はそうなるだろう。
東堂が問い返してくる前に、俺はアルフへ顔を向けた。
「アルフ、ロビーのカメラ見られるか?」
「昨日ちょっと仕込んでおきましたから、地下は無理ですけどロビーなら大丈夫です!」
元気よく答えたアルフが、すぐに端末を取り出す。
昨日《龍宮》へ入った際、監視系統を調べるついでに、組織謹製の中継装置をいくつか仕込んでおいたらしい。
まあ、アルフならそのくらいやっていても不思議ではない。
端末を操作するアルフの背後へ、自然と全員の視線が集まった。
少しして画面が切り替わる。
映し出されたのは、《龍宮》のロビーだった。
昨夜の煌びやかな光景とはまるで別の場所のように静まり返っている。
客の姿はない。
代わりに、明らかに周囲を警戒している人間が何人か立っていた。
正面玄関付近に二人。
フロント周辺に二人。
エレベーター前に二人。
さらに、奥の通路に一人。
計七人。
服装だけならホテルスタッフや警備員にも見えるが、全員が全員、自動小銃を抱えている。
……全く、ココは日本だぞ。
ともかく、他に見過ごしている警備がいないか確認しながら、じっと画面を見る。
全員の頭の上に、赤いマーカーが現れる。よし。
他にはいない。
少なくとも、今見える範囲では。
「いけます」
「何がだ?」
「このまま正面から」
東堂が俺を見て、次に画面を見て、それからまた俺へ視線を戻した。
「なぁ」
「はい」
眉間に深い皺が寄っている。
「……警備は七人。俺としては、もうちょい慎重にやりたいんだが」
「はい」
言っていることは分かるが、たぶん大丈夫だと思う。
東堂はしばらく俺の顔を見ていたが、何を言っても変わらないと思ったのか、今度は助けを求めるように柳へ視線を向けた。
視線を受けた柳は、いつもの柔らかな笑みを崩さないまま、こくりと一度だけ頷く。
「……」
東堂が長く息を吐いた。
「……んじゃまあ、任せるぞ」
どうやら、了承は得られたらしい。