FPSのUIが現実に見える俺が、いつの間にか殺し屋になるまで 作:鳥獣跋扈
「……それでは、こちらも向かいます」
アルフたちへ繋いでいた通信を切ると、隣では東堂が制御盤を睨んでいた。
もともと制御室にいた警備の男たちは、すでに壁際で事切れている。俺たちが入ってきた瞬間の驚愕をそのまま貼りつけたように目を見開いている。
今のところ、こちらの侵入そのものはまだ地下には伝わっていないらしいが、もっとも、いつまでも誤魔化し続けられるとは思っていない。
視線を、壁一面に並ぶモニターへ移す。
地下カジノに従業員通路、闘技場へ続く区画などが細かく分割されて映し出されていた。営業時間前ということもあってか、テーブルの多くにはカバーが掛けられている。その間をスタッフや警備員が行き来していたが、昨夜より明らかに動きが固い。
どことなく、警戒している感じだ。
恐らく御厨の方から何か連絡が入っているんだろう。
とはいえ、向こうとしても俺たちがここへ来るとまでは把握していないはずだ。厳戒態勢というよりは、その一歩手前。何かあればすぐ対応できるよう、人を増やしている程度に見える。
東堂が盤面を操作すると、そのうち一つの画面が大きく表示された。
地下カジノには、武装した男が十人ほど。
さらに奥のVIP区画や闘技場側にも、複数の人影が見える。
一方、バックヤードでは別の動きがみられた。
段ボール箱やファイルの束を台車へ載せ、奥へ運んでいる人間がいる。金目のものもいくらか混じっているようだが、それ以上に資料関係を片づけている様子が目についた。
「証拠隠滅、ですかね」
別の画面では、パソコンの前に座った男が外付けの記録媒体を次々と取り外している。慌てふためいているわけではないが、放っておけば全て消されてしまう。
急いだ方がいいな。
ちらりと横を見るが、東堂の顔には特に変化がなかった。
この程度は想定の範囲内、ということだろうか。
俺はもう一度、壁いっぱいに並ぶ画面をざっと確認する。
静香の姿はない。
どうやら監視カメラの範囲外にいるようだ。
ただ、視線を少し落とせば、床のさらに下――地下の奥に緑色のマーカーが浮かんでいる。
位置は変わっていない。
間違いなく、ここにはいる。
「二階堂。オークション区画、覚えてるか」
東堂に呼ばれ、意識をモニターから戻す。
「はい」
「その先に収容区画がある。闘技場に出される連中と、オークションに回される予定の人間をまとめて置いてる場所だ」
東堂が制御盤を操作すると、画面が切り替わった。
映し出されたのは、牢屋と呼ぶほど露骨ではないものの、明らかに人間を長く留め置くためだけに作られた区画だった。
殺風景な部屋には最低限の家具しかなく、男たちは何人かずつまとめて収容されている。
オークションに回されるらしい女性たちは、それより多少身綺麗にはされていたが、それでも閉塞感の強い部屋であることに変わりはない。
警備の人数そのものは、そこまで多くない。
ただ、人質にでも取られたら面倒だな。
「先にそちらですか?」
「ああ、と言いたいところなんだがな」
東堂は画面を見ながら、少しだけ顔をしかめた。
「どっちにしろ、地下カジノと闘技場側を抜けなきゃ収容区画には行けん」
その時、イヤホンへ短い通信が入った。
『隊長。ロビーおよび上層階の制圧、完了しました。負傷者なし』
東堂の部下たちからだ。
「了解。一階制御室まで二名寄越せ。こっちから指示を出す」
『了解』
通信を切った東堂が、今度はこちらを見る。
「地下へ降りたら、俺と部下一名で先に収容区画へ向かう。そっち三人でバックアップしてもらえるか?」
ふむ。
東堂たちは、速度を優先してそのまま収容区画へ突っ込むつもりらしい。
確かに、その方が人質を押さえられる前に辿り着ける可能性は高い。
なら。
「東堂さん。地下に降りた後、収容区画までの道は問題ありませんか?」
「ああ。伊達に一年も潜ってねえよ。目ぇ瞑ってても走れるさ」
それなら、都合がいい。
「照明を落としましょう。非常灯は仕方ないですが、それ以外は全部」
「あん?」
東堂の眉がわずかに歪んだ。
「俺と隊員はまあ、抜けるだけだからいいとして……お前さんたちはどうする。敵も同じ条件とはいえ、暗闇じゃ同士討ちの危険もあるぞ」
そう。
普通なら。
「アルフと柳さんには、突入を少しだけ遅らせてもらいます」
「遅らせる?」
「ええ。先に暗さへ目を慣らしてもらって、その後に入ってもらえばいいでしょう」
そこで一度言葉を切り、壁一面のモニターへ目を向ける。
「それまでに、こちらで数を“少々”減らしておきますから」
「……少々、ねえ」
東堂が何とも言えない顔をしたが、気にしない。
俺は画面を順番に追っていく。
地下カジノ。
VIP区画。
闘技場。
バックヤード。
見落としがないよう、監視映像に映っている人間を一人ずつ視界へ収めていく。
赤いマーカーが、次々と浮かび上がった。
画面が切り替われば、また新しい反応。
別角度のカメラにも目を通し、重複を除きながら、敵の位置を頭の中で繋げていく。
良し。
問題ない。
『制御室前に到着。入室します』
俺が一通り確認を終えたところで、ちょうど通信が入った。
東堂が許可を出すと、少しして扉が開き、全身を統一された装備で固めた二人が入ってくる。
顔まで覆うマスクのせいで表情は見えないが、動きには淀みがなかった。
よく訓練されている。
室内へ入っても無駄に視線を泳がせず、俺の方へ興味を示すこともない。
「よし」
東堂が二人へ向き直る。
「一名は俺に随伴。もう一名はここに残って、合図と同時に地下の照明を落とせ」
「了解」
二人の返事が綺麗に重なった。
東堂も自分の装備を確かめる。
俺も左右の拳銃へ軽く触れ、視界の端に並んだ赤いマーカーをもう一度確認した。
さて。
行きますか。