これはプロローグ的なあれなので蛍ちゃんは出てきません()
昔から、世界の音はノイズが掛かったようにくぐもっていた。
世界の色は白黒であったし、目の片方は潰れてすらいた。
世界に存在するあらゆるの味はよくわからないし、匂いだってそう。
世界に存在する物体は、触られるのを拒否するかのように逃げていった。
「――っ」
鋭い頭痛で目が覚めた。
とてもじゃないが快適な目覚めとは言えない。
とはいえ、これ以外で起きる方法なんてない。
「柔らかな日差し」は俺にとってただの白い光なだけ。
「目覚ましのアラーム」は俺にとってただの雑音である。
ぼやける目を枕に押し付け、壁にかかってるアナログ時計を見る。――午前6時。
転入初日にしてはいい起床だろう。
うがいをして軽く顔を洗ったら、冷蔵庫の横にある段ボールから、袋を1つ取り出す。
朝飯だって、アラームと一緒。
味がわからないのなら、何を食っても一緒なんだ。
金が掛からず腹持ちさえよければそれでいい。
それでいうと、この完全食パンの便利さはいい。
朝昼晩すべてこれでいい、少し金が掛かるのは欠点だが。
「――」
おそらくいただきますと発音した口に、一口大にちぎったパンを放り込む。
これを常人が食えば、きっとまずいとか言うのだろう。おめでたいことだ。
また一欠片放り込んで、咀嚼。味も温度もほとんど感じない。
この食事という行為は、元来人間の娯楽要因だったはずだ。
どんなに疲れていても、どんなに苦しくても。
食事をすれば少しは活気が出たんじゃないのか。
なんだ、これは。
「...はぁ」
手を合わせて、おそらくごちそうさまと発音し、コップを掴もうとして、空を切る。
「――」
大体このあたりだろう、でやるのがよくないんだと、いつも言われていた。
白黒であるだけで、別に見えないわけじゃないのだが、うちの親は割と過保護なところがあった。
俺がこうなったのを自分たちのせいだと思ってたのだろう。
気にしなくていい。俺はあの時、正しい判断をしたと思ってる。
とはいえ、今考えるのは止そう。
今日から行く学校の制服に袖を通す。
このあたりで唯一特待生制度が導入されていたのでここにした。
羽丘という手はあったが、女子高だった。
ふと時計を見れば、家を出る時間になっていた。
あまりかっこよくない眼帯と眼鏡、あと補聴器を着けて家を出た。
朝は白い。
光の明暗と色の濃淡でしか判別できない俺には、朝は白すぎる。
かといって、夜は黒すぎる。でも別に白夜が好きというわけでもない。
別に夜に出歩く用事はないし、それはそれで構わない。
後天的にすべて
ほかの人間が見ている景色を見れないことを、聞けないことを、羨ましいとは思わない。
見たい情報がすぐに入ってこないからだ。とはいえ、耳が使えないのはノイズか。
補聴器もそこまで万能ではない、着ければすべて聞こえるようになるというわけじゃない。
一度失った人間は、どう頑張ろうとも元の人間にはなれやしないんだ。
そんなことを考えていると、学校の全貌が見えてきた。
さすが私立、でけえな。
誰よりも早く登校したおかげか、学生は人っ子一人いない。
が、校門で待っている、おそらく教員が一人。
俺の顔を見るなり、文字が書かれたスマホをかざしてくる。
『あなたが転入生?』
頷くと、教員が学校のほうへ歩き始めた。
おそらくついて来いってことなんだろう、ついていくことにした。
見た目に違わず、校舎も広い。
これは全部屋覚えきる前に卒業しそうだ。
『ここで待ってて』
なんだか豪華な部屋に通された。
こういう時の部屋って大体応接室かなんかじゃないのか?
まぁでも校長と面談はするか。
しばらく待っていると、スキンヘッドのおじさんが入ってきた。
きっと校長なんだろう、立ち上がって頭を下げる。
頭を上げると、校長は手、というか腕を動かして。
左手の甲を上に向けて体の前に出し、右手でそこに軽い手刀を落としながら頭を下げる。
次に人差し指と中指を立てた左手を手首だけ回して縦にし、指の部分に右手の人差し指と中指をかける。
最後に招き猫のような動作を1つする。
手話!?
本物は初めてだ。
今の動作は「ありがとう」「座って」「いいよ」を滑らかに行ったものだ。
最後の動作は「許可」という仕草になるのだが、まぁ、文脈から座っていいよとか座りなさいだろうな。
というか、生きてたんだ手話って文化。
てっきり点字一辺倒になったのかと思ってたよ。まだまだ捨てたもんじゃないな。
まぁ、指先の感覚が鈍いせいで点字読めないんだけど。
『ご丁寧にありがとうございます。手話なんて文化生きてたんですね』
スマホでそう打ち、見せる。
『私みたいな老人しかもう覚えとらんのが残念だ。今度レクリエーションでも企画しようか』
『将来には役立つと思いますけど、今の子供には酷ですよ』
『君もそうだろう』
話が通じるおじさんだ、少なくとも規則ガー学生の本分ハーとは言わなさそうなタイプで安心した。
『君のことは大体聞いたよ。慣れない環境で大変かもしれないが、勉学に友情に、励んでくれ』
『学生の本分は勉強って言わないんですね』
『なに、青春は若人の特権だよ、今が一番いい状態じゃないか』
会話してるようで、実はただ向かい合ってスマホをポチポチしてるだけなんだが、とりあえずいい人そうで安心した。
いい人じゃければ、こんな風に姿勢を合わせて会話なんかしないだろうから。
『では、そろそろホームルームの時間だ。行きたまえ』
『はい、ありがとうございました』
校長室から出る際に一礼をすると、向こうはバイバイと手を振った。
バイバイも立派な「さよなら」を表す手話なのだ。
...やっていけそうだな。
なんとなく、そう思った。
主人公プロフィール
名前:雪代 零(ゆきしろ れい)
年齢:16
性別:男
趣味:なし
特技:なし
設定:8歳のころ、暴走したトラックにはねられ、奇跡的に生存。しかし重体。
左目が損傷、右目は損壊、のち摘出。
両耳から常に耳鳴りがし、右耳には常にノイズが混じるため、まだ生きている視界による会話をしている。
嗅覚、味覚ともに何も感じず、食事が楽しめないことが往年の悩み。
触角は常人より鈍く、さらに片目が機能しないせいで距離感をよく間違えるので、物を掴んだり置いたりするのが一苦労、というのが最近の悩み。
全体的に上半身に多く抱えており、下半身は問題ないため、通学は徒歩で行っている。
昔からどこか、視界に入っているのに見えていなかった節はあったと、幼稚園の担当クラス担任は語る。
Q:なんでそんな設定にしたんですか?
A:millsageちゃんたち(あるいは蛍ちゃん)それぞれ五感障害説あるので合わせたかったんです
もしアワーノーツで全然そんなことなかったってなったらしれっと治します(???)
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