無価値な世界でも、君がいる   作:ユイトアクエリア

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編集:汐見 蛍の愛称を「純白の天使」から公式の「楽壇の天使」に変更。('26/04/28)


0-2:貫通する音楽

土曜日。

 

あの後に連絡先を交換した「リツカ」というらしいそいつから、メッセージに長々としたURLが送られてきた。

どうやらチケットらしい。最近は電子チケットなのか、時代の進歩だな。

表向きは車いすチケットにしているため、家にあったそこそこな年数経ってる車いすを引っ張り出し、それを使うことにする。

しかしまぁ、足が使えるのに車いすに乗るのは少し変な気分だ。

昔やった車いす体験教室を思い出す。

必要なものを一通りリュックに入れ、前に背負う。

日本語の難儀な部分だ、「前に背負う」。

 

ともあれ準備は終えた。

家を出て玄関のドアを閉じる。

 

――鍵の場所高くねぇ?

 

仕方ないので車いすから立って鍵をかけた。

誰にも見られてないことを祈ろう。

 


 

さて、感覚の鈍い手で車いすのタイヤを回すこと15分。

ライブハウスに到着した。

 

「――!!」

 

なにかが聞こえた。

かすかに聞こえる音源を頼りに振り向くと、リツカの姿が見えた。

 

『お疲れさん!』

『車いすなんて久々に乗ったよ。おかげで腕がパンパンだ』

『帰りは途中まで押してやるよ!』

 

目の前にいるのにメッセージアプリで会話をする奇妙な光景。

 

『ゼロ、お前補聴器は?』

『ライブハウスの爆音具合ならなくても聞こえるよ。かえって耳を悪くするし、もう二度と聞こえなくなるかもしれない』

 

そんなに詳しくはないけど。

 

『そろそろ開場だ、先に入れてもらおうぜ』

『分かった。お前は前で楽しむのか?』

『いや、ゼロの付き添いってことにした。車いすユーザーを一人にするのはよくないだろ』

『悪いな』

 

いいってことよ、と言わんばかりのグッドポーズ。

底抜けの馬鹿なんだろうな、きっと。

羨ましい。

 

スマホのチケット画面を見せると、スタッフに案内されて、端っこの少し広めのスペースに通された。

他の場所より少し高めで、座っててもステージが見やすくなっている。

こういう場所が増えるの、バリアフリーっていうんだったか?使い方が違うか?

ともあれ、ありがたい。

 

『いい席だな!』

『特等席って感じだ。リツカが座ることが条件だったが』

『いいってことよ!今日のバンドは静かに聞きたかったんだ。MIXだの掛け声だのは分かってねえ奴がすることだ』

『MIX?』

『よくわかんない掛け声の集合体。ファイバー!ダイバー!みたいなやつ』

『暇な奴もいたもんだ』

 

とはいえ、静かに聞きたかった、か。

これでポエトリーリーディングなんてされた日には全く聞こえない。

まぁ、バンドだというのなら問題ないだろう。少なくとも、全編ポエトリーなんてことはないはずだ。

 

『だいぶ埋まってきたが、そんなに人気なのか?』

『あぁ!なんてったって「楽壇の天使」のバンドだからな!ピアノコンクール入賞歴もあって、キーボードも弾けちゃう天才ちゃんだ!』

『そう、か』

 

不意に、ライブハウスの光度が落ちた。

それとともに、観客の期待の声が上がり、拍手が聞こえる、気がする。

 

――楽壇の天使、か。

 

と、ステージの上を影が移動している。

どうやらメンバーのようだ。真ん中を開けて4人が立つ。

そして、(くだん)の人間が真ん中に立った瞬間。

 

「~♪」

 

ライブハウスの光度が一気に上がり、演奏を始めた。

スピーカーのおかげでいつもよりは聞こえるが、相変わらず演奏はよく聞こえない、が。

 

「――!?」

 

歌声だけはまっすぐ入ってくる。なんだこれは。

ボーカルの優しい歌声だけが、聞こえないはずの耳を通してクリアに聞こえる。

何が起こっている?脳内で直接歌われてているような。そんな感覚。

 

何曲演ろうが、ボーカルの声だけははっきり入ってくる。

そして。

 

「ありがとうございました。millsage(ミルサージュ)でした。両手いっぱいの幸せを、あなたに」

 

全部、聞こえた。

去り際、ボーカルと目が合った気がした。気のせいかもしれない。

 

「――!!ゼ―!!」

 

横で叫ぶリツカの顔を見てようやく我に返った。

 

『悪い。ちょっと抜けてた』

『すげえだろmiisageちゃん!』

『あぁ、すごいな』

 

何が起きたのかわからない。リツカの声は相変わらず異様に遠いままだし。

何が、起きてるんだろう。

 

『とりあえず帰ろうぜ、家どっち?』

『左に曲がって道なりにまっすぐだ』

『了解!』

 

帰ったら調べてみよう。

 

ミルサージュ、ね。




蛍ちゃんの足に巻き付いてるツタ、あれいいよね(性癖展開)
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