...嫌な音がした。
何かを摩擦で無理やり止めるような、そんな音。
甲高い叫び声がそれに交じって、強いノイズになって耳に届いていた。
――あぁ、これは夢か。
「父さん!母さん!!」
夢ならば喋れるし、動ける。不思議じゃない。
しかもこれは、同じ夢だ。
幾度となく見る、同じ夢。
父さんと母さんが死んだ、トラックの暴走事故。
俺は、助けようとしたんだ。
小さい体で、叫びながら。
でも。現実は無常だ。
大きい衝撃音に交じって、かすかに生々しい肉音。
そのあとに野次馬の悲鳴が聞こえて、録画の開始音すらも聞こえてきた。
当然のようにシャッターを切る音がする。この中に119番通報をした人間はいないのだろう。
目が覚めた時、視界が白黒であったことに驚いた。
そして、右側がまるっと黒いのにも気が付いた。
あたりを見回してみると、どうやら病院らしい。
あそこにいた人間の中に、119通報をする人間がいたのか。驚きだ。
「――――――?」
いつの間にか入ってきてたらしい医者が何かを話している。
何を言っているのかはわからないが、おそらくいい内容ではないのだろう。
医者の袖をつかみ、もう片方の手で自分の耳を指さし、首を横に振った。
通じたらしい医者は、すぐに備え付けの紙とペンを持って、こう書いた。
『君の目は潰れてしまっていて、右目は取り除いた
左目もいい状態ではない。助けられなくて、申し訳ない』
ジェスチャーで紙を要求し、受け取って『問題ない。それより、父さんと母さんは?』と書いて見せれば、目を閉じて、それから首を横に振った。
もういないということだ。アニメやドラマで見たことある。
どうやら、守れなかったらしい。
小さい体で突き飛ばした程度じゃ、大人の女性ですら動かせなかったのか。
自身は無力であることは、どうしようもないということを理解し、静かに絶望した。
少しして、葬式が執り行われた。
喪主は母の姉に任せた。当時の俺では何もできないからだ。
不思議と涙は出なかった。
悲しくなかったわけではない。むしろ、泣きわめきたかったのに。
涙は一滴も出てくれなかった。
父も母も倹約家で、そこそこ質素な暮らしをしていた。というのは後から知ったことで、当時の俺はそんなことを知る由もなかった。
何をきっかけに知ったのかといえば、両親が残していた...というか、きっと俺のもろもろに充てられるものであっただろう資産と、そこそこの遺産があったからだ。
それを目当てに自認親戚の人間たちがわらわらと集まってきたもんだが、俺の状態をすべて教えてやったら逃げ出した。まったく根性なしどもめ。
かくして俺は、そこそこの資産と持ち家を持って、その代わり五感のほとんどを失って、生活をしていたのだった。
――夢か。
気持ち悪さを押しのけて身を起こす。
相変わらずひどい夢だった。
ひどい夢過ぎてくくっとのどが鳴った。笑ったのかもしれない。
頬に伝う温い感覚は、気づかないふりをした。
そうでなければ。「悲しい」と思ってしまったら。
俺はもう、前に進めない気がしたからだ。
普通に考えて小学生でそんなわけあるかいと思った方は
えー、まぁ、作り話ですのでと思っていただき...