無価値な世界でも、君がいる   作:ユイトアクエリア

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別に耳聞こえないからってしゃべれないわけじゃないし
どうやってセリフを書こうか悩み


0-3:世界は残酷で美しい

――ミルサージュ。

 

楽壇の天使、汐見蛍がキーボードボーカルとしてフロントに立つ、ガールズバンド界に現れた異色の凄腕バンド。

ピアノコンクール入賞歴があり、まだ中学3年だという彼女が、なぜバンドを始めたのか、その理由は明かされていない。

 

「――っ」

 

まとめサイトってやつは役に立たないことが多いな。

調べれば出てくる情報を読み上げているFラン大学の卒論のようだ。

まぁもちろん、卒論と違って推論や考察をするわけにもいかないから、こうなってるんだろうけど。

 

調べることを諦め、スマホを充電してベッドに寝転ぶ。

現状何もわからない。完全に逝ってないにしろ、ほぼ聞こえない耳にダイレクトに響く、彼女の歌声の秘密。

バンドサウンド全体ではなく、彼女の歌だけが聞こえる謎。

この世は不思議だらけだ。

何が起きるかわかったもんじゃない、そう思いながら目を閉じた。

 


 

翌日。特に何もない日曜日。

時刻は午前10時。珍しく二度寝した。

昨日のライブでのことをまだ体が覚えている。

 

なんとなく、外に出たい気分だった。

シンプルなモノトーン調の外出着に着替え、家を出る。

 

特に行く当てもなく、2,30分程辺りをふらふらとしている。

 

『―っ...』

「...?」

 

頭の中に直接響く...?

 

『離してください...っ』

「っ!?」

 

はっきり聞こえた。

だとすればあの女の声だということ。

方角はわからない。

しかし、本能が来た道を戻れと言われたような気がした。

 

走って戻る。

特に変化はない。

しかし、外れの路地に異質な気配。

 

人間、五感のうち何かをつぶされると、ほかの四感が強くなるらしい。

その理論で行けば俺は最強のはずだが、そもそも強化しているものが0なので、という結論に至ったのは最近の話だ。

第六感というものがあれば、カンストレベルと言えただろう。

 

閑話休題(そんなことより)

 

路地に一歩踏み入れると、異質な気配が強くなる。

奥に向かうにつれて、若干だが圧を感じる。

 

「――!!」

「――?」

「――!?――!!」

 

何やら怒号が飛び交っているようにも聞こえる気がする。

こういう時、聞こえないのは不便だ。

何を言ってるのかさえ分かれば、それを口実に成敗できるのに。

 

『離して...助けて...』

 

声のボリュームが上がった。

どうやら近いみたいだ。

 

「――?―、――」

 

怒号が鳴りを潜め、探るような音量になった。

と、視界に光が満ちた。

 

「...」

 

シルエットからすでに輩と思わしき大柄の男が3人。

そのうち一人が華奢な女を拘束している。

見間違い、記憶違いじゃなければ、この前のバンドのセンターだった女だ。

 

――――(おいガキ)――――――――(ここはお前みたいな)―――――――――(ガキが来る場所じゃねえぞ)

――――(なぁボス)―――――――(もしかしてこのガキ)―――――――――(混ざりたいんじゃないんすか)?」

――――(ちげぇねえ)―――――――(こっち来いよガキ)―――――――――(せっかくだから初めてはお前にやるよ)!」

 

読唇術を独学で勉強していて後悔したシチュエーションは今日で初めてかもしれない。

別にそんなものに興味はない。

反論しようとして、少しだけ不安になった。

思った通りの声が出るのかどうか。

大きく息を吸って...

 

口を閉じろ醜い豚共。(その子嫌がってる)その女を置いていくなら殺さずにおいてやる(でしょう?やめてください)

 

うん、多分出た。

なぜなら大男が怒り狂った形相でこっちに向かってくるから。

拳を振り上げて迫ってくる。当たったら頬骨は無事では済まないだろう。

 

目も耳も使い物にならない以上、ステゴロは不利だ。

五感を生贄にしてる第六感とやらを頼るしかない。

 

そう覚悟を決めた瞬間、急に視界が開けた。

足元には殴りかかってきた男が倒れている。

どうやらコンクリートの窪みに足を取られて転んだようだ。

 

「――!!」

 

視界の端で光が動いた。

腰巾着みたいなと女を拘束してたのが迫ってきている。

2人がかりとは卑怯な手を使うものだ。

こちらは全身不随だというのに。

そんな気持ちが行動に出て、1歩引いた瞬間に何かが靴に当たる。

 

そう感じた1秒後、そこそこな長さの木材が俺と腰巾着の間に倒れた。

次いで、ばらばらと大小様々な木材が落ちてきて、腰巾着はその下敷きになった。

まぁ、死んではいないだろう。後で119でも呼んどいてやるとしよう。

 

『あ、あの』

 

やっぱり、はっきり聞こえる。

あまり失礼のないように、パパっとスマホで文を打つ。

 

『申し訳ない、実はあまり聞こえないんです。目もよくなくて』

 

君の声ははっきり聞こえるよなんて普通にキモイだろ。

 

『そ、そうですか...あ、聞こえないんだっけ...』

 

同じようにスマホを出して文を見せてくれる。

目もよくない俺を気遣って、距離を詰めてくれる。

日本もだいぶ身体不随者にやさしくなったね。

 

『助けてくれて、ありがとうございます。私は汐見蛍、しおみほたるといいます。あなたは?』

『雪代零、ゆきしろれいと読みます。けがとかしてませんか?』

『はい、怖かったですけど』

 

当たり前だ。

 

『念のため、病院に。捕まってるときの姿勢は、肩とか腕とかが危ないので』

『そうします。ありがとうございました』

『路地出るまで同行しますよ』

『助かります』

 

とりあえず、何とかなった。結構ラッキーだったけど。

相対しても、この子の声だけがはっきり聞こえる理由はよくわからない。

まぁ、たぶん会うことはそうそうないだろう。

次に会うときは、演者と客として、だと思う。

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