TS魔法少女だけど転生先が鬱エンドだらけなエロゲ世界で安心できない 作:ラーメンの渦巻
先に言うと、私はハッピーエンドが好きだ。
ハッピーエンドと言ってもいろいろと種類があるので補足すると、友情努力で困難に打ち勝つハッピーエンドが好きだ。
最後にみんな報われて笑顔になる物語が好きだ。
その過程でついた頬の汚れも涙も、笑顔を引き立てるためにあるのだと心の底から思っている。
だからこそ思った、やべー転生に転生してしまったと。
「クソゲーじゃん……」
「僕と契約して魔法少女になってよ」とは言われなかったが、「君には魔法少女の素質があるよ」とは言われた。
……魔法少女がいる世界に転生かーとか何とか思っていたら、その際に紹介された魔法少女の名前が【フェアリー・ルリリ】。
この【フェアリー・ルリリ】という魔法少女が活躍……いや、ぶっちゃけよう。
悲惨な最期を迎える事となる物語を私は知っている。
かつて、前世でプレイしたマルチバッドエンドものの同人エロゲ、その名も【瑠璃のジュエル】。
当時の『俺』はそれを「良質な曇らせ展開がある」というレビューを見て興味を惹かれ、そしてプレイする事となった。
最悪だった。
いや、他人の性癖を否定するのはダメだ。
とはいえ自分の性癖とは正反対の創作物だったのは間違いない。
何せこのゲーム、すべてのエンドがバッドエンドとなっているのだ。
ハッピーエンドと言えるものと言えば主人公である彼女が闇堕ちするエンドだったし、それもそれで彼女の尊厳というものを徹底的に否定するものだったし、なんていうか後味が悪かった。
その際にエロイベントもあったが、『俺』はそれよりストーリーが良い意味でも悪い意味でも良かったのでそれを楽しむどころではなかったのを今でも覚えている。
「なんな~」
そんな訳で、現在某でかくて直火で焼いている事で有名なハンバーガーチェーン店で一つ千円オーバーはする巨大ハンバーガーを購入し食べていたのだが、美味しいと舌は伝えてくるのに全然味を感じられなかった。
これもそれもすべて目の前にいる少女が原因である。
平井瑠璃。
【フェアリー・ルリリ】の変身前の姿、あるいは正体と言っても良いかもしれない。
ちなみに彼女は私が「その正体を知っている事」を知らないし、何なら「私が魔法少女の才能を持っていた」事も知らない。
そこらへんは完全に一方的である。
彼女はこのハンバーガーチェーン店には入った事がなかったらしく、美味しい美味しいと目を輝かせている。
良かったね。
「ありがとうね。私、こんなに美味しいハンバーガーがあるなんて知らなかったよ――えっと」
「佐藤雪だねー、もしかして瑠璃ちゃんって記憶力悪い系?」
「う。うーんごめんね、雪ちゃん」
そう言ってからまたもくもくとハンバーガーを頬張っては「おいひー」と舌鼓をうっていた。
(なんていうかなー)
曇らせは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。
それがハッピーエンドに繋がるならば美少女はいくらでも曇って良いとされている。
だけどこの世界、バッドエンド地雷が大量なんだよなー。
(とりあえず魔法少女になったとして、特大地雷は撤去してはいるけど)
才能があったのならば利用しない手はない。
私は魔法少女になり、そしてこの世界で暗躍する事にした。
さしあたって、とりあえず雑魚キャラを適当に狩ってレベリングして、それで手に入れたレベルの暴力で強い敵を倒したり。
治安の悪い地域を物理的に浄化したりといろいろな事をやっている。
(とはいえ今後どう転ぶか分からないのが怖い)
原作がバッドエンドしかない以上、どれだけ警戒していても無駄になる事はないのだ。
まあ、その過程で趣味に走る事もあるにはあるけれども。
「瑠璃ちゃん!」
と、そこで紫色の空飛ぶ生物が現れてまず最初に瑠璃の方を見、それからこちらの方を見てから(魔法少女以外に見られない、聞かれない事を良い事に)大声で叫ぶ。
ちなみにこいつは私に魔法少女の才能がある事については気づいていないらしい。
恐らく既に魔法少女になっている事が理由の一つと考えられる。
だからこうしてこちらからしっかり把握されている事に気づかず、瑠璃に大声で話しかけている。
「どうやら魔物が現れるみたいだ!」
『う、うん! ちょっと待ってねゼンイー、すぐに食べ終わるから』
念話でそう告げてから宣言通りバクバクとハンバーガーを胃袋の中に詰め込む瑠璃。
それからカバンを手に取り「雪ちゃん、それじゃあ先に帰るね!」と一人でバタバタ走り去ってしまう。
残された私は一つため息を吐き、それから「まあ、私も行くか」とハンバーガーを紙で包みなおし、それをカバンにしまってから席を立つのだった。
◆◆◆
とはいえ趣味を忘れた事はない。
この、バッドエンド多めな世界で瑠璃……【フェアリー・ルリリ】の様子を見守るのは単に不安だからという理由だけではない。
普通に主人公なのでその戦う様は格好いいし、普通に応援したくなる。
ここがバッドエンド多めな世界じゃなかったらなー(重要)。
そんな訳で現在の私がやっている事と言えば……破壊工作である。
ていうか何なら普通に街を破壊している。
それで人々が悲鳴を上げて逃げているが、それに関してはむしろ狙い通りである。
何せこの世界のクソ市民()、戦闘の邪魔になるだけならまだしも人質になった癖に【フェアリー・ルリリ】に対してあれな事をチョメチョメしたりする展開が頻繁になるのである。
魔法少女がひどい目に合わされるエロゲっていつもそうですよね、市民の治安どうなってんだ、おい。
なので【フェアリー・ルリリ】が安全に戦うためにはむしろ個々の市民達はいなくなってくれた方が良いのである。
……ここで避難誘導なんて甘っちょろい手段はとれない。
それで最悪自分がエロゲ展開に会う可能性もあるのだから、念には念を入れなくてはならない。
「な、なにをしているんだい!」
と、そこでゼンイーがやってきて街を破壊している私を見て目を見開かせていた。
「いや、普通に風通しを良くしているだけだよー」
「いつも突拍子もない事をしているけど、流石に市民のみんなを攻撃するのはダメだよ!」
「別に本気で攻撃するつもりならばもっとえぐい手段はあるしー」
「い、いやいやそんな事を言ってさっきの攻撃あのおじさんの頭をかすめてたよね!」
「髪が焼け焦げて剥げたら良いなって」
「駄目だよ!」
「何やっているの、【グリム・スノー】!」
「おっと」
と、そこで現れたるは件の【フェアリー・ルリリ】。
どうやら無事に魔物を撃退する事に成功したらしい、良かった良かった。
「貴方が私と同じ魔法少女なのは分かってる。でも、みんなを傷つけるようならば許さない!」
「許さないってー? 今のところ貴方が私に勝てた事一度もないのにぃ?」
「そ、そんな事ないもん! 今度こそ貴方に勝って――」
「えい」
話しかけている途中で私は不意打ちを決行する。
彼女の手にある魔法のステッキを奪い、「ふん!」とへし折った。
それは魔法少女の力の源なので、一度それが破壊されると強制的に変身が解かれ、一日は魔法少女に変身出来ない。
「わ!」
目を白黒させる彼女の隙だらけな姿に(よくここまで無事だったな、主人公補正か?)と思いつつ私は平井瑠璃の姿になった彼女を抱きかかえた。
「んじゃ、そこの獣。彼女は私が安全なところに運ぶから適当に追いかけてきなよー」
「ま、待て!」
待つ訳ないじゃろがい。
私は彼女を抱きかかえ、その場を後にするのだった。
ぴょんぴょんぴょん、と。
軽やかな動きで移動し、そして人の気配がない公園へと到着。
ここは彼女の家の最寄りの公園。
念のため魔法を使って確かめるが、うん、間違いなく人はいないな。
「は、放して!」
「あいあい」
私は彼女を解放すると、魔法少女の姿になれないのにも関わらず彼女は「きっ」とこちらを睨みつけてくる。
「みんなの街を壊すなんて……!」
「どうせすぐに直すでしょー、それ担当の魔法少女もいるんだしさー」
ちなみにそういう魔法少女が「そういう」目にあったという話は不思議と聞かない。
多分エロゲ的展開に発展するのは主人公だけだと思われる、何そのクソみたいな運命。
余談というかこの世界の設定の話だが、この世界の人々は魔法少女の事を神出鬼没な謎の正義のヒーローとして認知しているようだ。
「ま、そんな訳だから。これに懲りたら貴方も油断したりしないで戦いなさいな」
「い、いきなり魔法のステッキへし折っておいて……!」
「あるいは仲間を引き連れてくるんだね~。ほら、魔法のステッキも三本集まれば簡単には折れないだろうし、さ!」
あはは、と一つ笑ってからその場を後にする――ふりをする。
彼女が完全に家に帰るまで、私はその姿を観察し続けるのだった。