もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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砂隠れの里の人柱力

 風の国の主要都市であるアルテまでの距離は、木ノ葉隠れの里から大和京までの距離の約二倍にあたる。大和京から国境までは最低限の警戒をし、約五日で辿り着いた。そして今日、火の国最後の宿場町を後にする。

「ヨリミチ殿、これからは何があるか分かりません。何が起こっても慌てないで下さいよ」

「……ええ、そう努めます」

 カカシは自分の前を行くヨリミチに声をかけた。これより先は国外となり、ナルト、サスケ、ヒナタも気を引き締める。国境を越えるからといい大名行列の進行は止まらない。行列の速さはけして優雅なものではなく、普通に歩くよりも速く移動に重点が置かれていた。

 カカシは隣を歩くヒナタに目配せする。

「よし、ヒナタ。白眼で道中に怪しいことがないか確認してくれ。道の脇も見落とすなよ」

 ヒナタの目の周囲にチャクラが集中する。ヒナタの白眼の透視眼による視野はおよそ八〇〇メートル。

「はい。……あっ、前方一〇〇メートル先に落石のトラップがあります。そしてその五〇メートル先に忍が四名……道の左右に二名ずつです」

 予測通り、道中にはトラップが仕掛けられていた。大名行列の先頭付近にはナルトがいるが、持ち場を離れるのはリスクが高い。

 カカシは親指を噛み、血を滴らせ印を結ぶ。すると靄の中から小型の忍犬が現れた。

「パックン、ナルトの影分身と一緒に大名行列を先行してくれ。約一〇〇メートル先に罠がある。そしてその五〇メートル先に忍がいる。戦闘になっても深追いはナシ。難しければ俺に報告ね。ナルトは前方の騎馬隊の横についてる。持ち場は離れないように必ず影分身を出してもらえよ」

「うむ、わかった」

「よろしくねー」

 パックンは大名行列から外れて前方へと駆けていった。

 カカシは後方のサスケにサインを送る。敵がいるが持ち場は離れるな。今回の護衛は縦に長い大名行列の護衛であり、持ち場を離れるのは危険である。緊急召集時には発音玉で知らせることとなっている。

「おい!おまえがナルトだな」

「あ、パックン!」

「会ったことがあったか?……まあそれは置いといて、カカシからの伝言だ。この先にトラップを発見した。ナルトの影分身と対処するようにとのことだ」

「早速か。……よし」

 印も組まずに行列の脇にナルトの影分身が出現した。

「案内頼むってばよ!」

 

 ヒナタが示したところにはワイヤーがあった。そのワイヤーを辿ると楔があり、絶妙な長さと角度が計算されている。楔の上には巨大な岩が積まれている。一つ崩れると全ての岩が崩れ落ちる仕組みだった。

「この岩で足止めし攻撃するつもりだったか。どうする、ナルト」

「土遁と大玉螺旋丸でいくってばよ」

 ナルトが印を結び掌を地面にあてると、横に一〇メートルほどの土壁が現れた。さらにナルトは土壁を跳び越え、右手に貯めたチャクラの塊を岩に向けた。すると砕けた岩の破片は坂を転がっていくが、その先にナルトの土壁がある。

「これで大丈夫だってばよ」

「この先にいた忍の匂いが遠くなった。カカシは深追いするなと言っていたが……」

「そっか。ならこれで終りだな」

「いや、待て。わしと組んで行列を先行する」

「わかったってばよ!」

 ナルトとパックンは周囲を警戒しながら先行した。

「……先生、ナルト君がトラップを解除しました。そのまま進行方向へ進んでいます」

 ヒナタはナルトたちの動きを白眼で感知していた。

「上手くいったな。……敵さんもこのまま退いてくれればいいんだけどねー」

 カカシは思惑通りに事が進んでいることを知らなかった。ナルトの土遁と螺旋丸を目の当たりにした忍たちは、報告のため一時退却していた。

「……なんてこった!!木ノ葉のガキはあんなことまでやるのか……」

「中忍……いや、あの術の精度はそれ以上だ」

 もし、ナルトが成人した大人の姿であったなら、彼らはこれほどまでに恐れなかったはずだ。ナルトが部隊の隊長でないことは明か。その上司には更に力をもった忍がいると推測していた。

 そのため、火の国の大名行列は他の妨害を受けることなく進むことができた。部下から報告を受けた砂隠れの上忍は予想外の現状を知り閉口していた。

「……やむ終えまい。今回は本来の予定通り会談ができるようにする他ないな。下手を打てば計画が露見するだろう。大名様にも木ノ葉隠れの里にも知られてはならない」

 

 火の国の大名行列は小さな宿場町で一晩中過ごすこととなった。カカシは人がいないことを確認し、話をするために零班を宿場町の外れにある小屋に連れ出した。周囲の警戒はカカシの忍犬に任せている。

「ヨリミチ殿、この道中にトラップがありました。工作したのは間違いなく忍。しかしどこの忍かまでは特定できません」

「それで構いません。もし、砂隠れの忍であっても問題ありません。我らに実害はないのですから。……この件は大名様に知らせておりません」

「……何か考えがあるんですか?」

「ええ、実は風の国の官吏に、私の友人がいるのです。今回の会談は、我らが画策しました。その狙いは、火の国と風の国の友好関係の強化です」

「良い考えだってばよ!」

 ナルトはヨリミチの言葉に目を輝かせた。

「友好関係……か。こっちにその気があっても、相手にその気がなければ難しいだろう。そもそも何故今友好関係なんかのために危険をおかす必要があるのかわからない」

 サスケは真っ直ぐすぎるナルトとは違い、懐疑的な物の見方をする。しかし、彼の場合、その言葉は本心と異なっていることもある。

「……その通りです。確かに難しい事ですが、双方がそっぽを向いていては一向に良い関係は築けません。また、火の国の治安は安定していますが、周囲の小国は違います。犯罪は犯罪を招きます。そして貧困も。それらは国を越えて脅威となるでしょう。放っておくことはできません。改善していくには各国の協力が必要だと、わたしは考えています。何事も、大事を起こすには同志が必要です。まずは隣国で交流のある風の国との距離を縮めたい」

「フン……この時勢にそんな考えを持っている奴がいたとはな。この任務に来た甲斐があった」

 サスケはわずかに笑みを浮かべた。

「ヨリミチ!オレも大賛成だ!みんなが仲良くするのはいいことだってばよ」

「わ、わたしも良いことだと思います……!」

 ヒナタは元来争いを好まない性格ゆえに、ヨリミチの言う理想ははとても魅力的なものに思えた。

「そう言ってくれますか。この考えはあまり理解されないのですよ。私の同僚たちは他の国の事など放っておけと言うのです。忍と貴族……。立場は違えど、同じ考えを持つ者と言葉を交わせるとは喜ばしいことです」

「オレもだってばよ!!」

「君の名は……うずまきナルト、でしたね。覚えておきましょう」

「おう!将来火影になる男だってばよ!!」

「頼もしいことだ」

「……もしもーし。話が逸れてますよ。つまりヨリミチ殿が仰りたいことは、今回の事で風の国との関係を悪くしたくない、ということでしょうか?だから大名様の耳に入れるな、と」

「ええ。そういうことです。話が早くて助かります。風の国の上部も我々と同じく一枚岩ではありません。隙をうかがい、我が国の足を挫こうと考えているかもしれません。ですが我々はそれを許してはなりません。友好関係を築くための新しい足枷を増やすわけにはいかないのです」

 この任務の目的はただの護衛ではない。火の国と風の国の互いの信頼を守ること。それが本来の任務の目的だ。とてもCランク任務とはいえない。

 夜間もカカシの忍犬が見張りにあたる。宿場町の周辺に感知系のトラップも数ヶ所設置した。そしてナルトは数人の影分身を野に放った。

「おまえら、見張りはいいからよく寝とけよー。これがあと四日も続くんだから」

「わかったってばよー」

「……ああ」

「はい」

 ナルトとサスケとヒナタは欠伸をしながら歩いていくカカシの後ろ姿を見送った。カカシは大名の隣の部屋で寝るらしい。

「ナルトくん、サスケくん、わたしは向こうの宿で寝るね。女性専用なんだって」

 ヒナタは同行する侍女が停泊する宿に呼ばれていた。護衛も兼ねてのことだ。

「サスケはどうすんだ?」

「おまえは?」

「んなの決めてないってばよ」

「……簡易テントなら持ってる」

 サスケはポーチから小さい巻物を取り出した。

「マジ?!サンキュってばよ」

 サスケは大名が泊まっている場所が見え、かつ目立たない場所を選んで印を結んだ。テントは四人は寝れるくらいの広さで、二人には十分だった。

ナルトはどかっと腰を下ろすとサスケを見上げた。

「サスケって相変わらず準備いいな」

「誰のせいだと思ってるんだ」

 ナルトの準備はあてにならない。長年の経験から分かりきっていることだ。日はもうとうに暮れている。二人は体を横たえた。電灯を切ると途端にテントの中は暗闇に包まれる。

「サスケ……前の時もさ、この頃にこういう事ってあったのかな」

「さあな。オレの記憶にはないが知らないだけかもしれない」

「そっか。もしあった事でも大したことが決まらなかったから知られなかったこともあり得るな」

 サスケが動く気配がした。

「……ナルト」

 前よりも少し声が近い。ナルトは暗闇の中、その視線を感じた。

「うん?」

「この世界は前よりも良い世界になっていると思うか?」

「……少なくとも、オレにとっては良い世界だってばよ。おまえも、手を伸ばせばすぐに届く所にちゃんといるしな」

 ナルトは暗闇の中、サスケの左手に触れた。

「それに、国の上のやつらがこんな事考えてるって知らなかったしよ。上手くいけば本当に砂隠れとも仲良くできるかもしれない。全てを変えることは難しいだろうけど、変えれる部分はオレたちの手で変えていきたい」

「そうか。……オレもそう思う。そしてできることなら、以前のオレのような……復讐に駈られる人間をなくしたい」

 サスケは触れていたその手を強く握り返す。

「やれるってばよ」

「ああ。オレの目指す世界にはナルト、お前の力が必要だ。お前の言葉は……存在は人の心を動かす。オレがそうだったようにな」

「オレの目指す世界にも、サスケの力が必要だってばよ」

「ああ。……同じだから当然だろう」

 二人はくつくつとひとしきり笑い合うと、互いに背中を向けて丸くなった。

 

 

 

 それ以降もいくつかのトラップがあったが、零班は難なく対処し、大名行列は予定通り目的地に到着した。

「砂隠れの里とはなんか違うってばよ……」

 肌に感じる乾いた風と照りつく太陽が、この土地は確かに異国だと思わせる。アルテは風の国の中でも有数の都市だ。風の国の国土の大半は砂漠で、その中にぽつりぽつりと緑と水の豊かな土地が点在している。人の居住地となり得るそれらの土地は、局所的に栄えてそれぞれの民族による確固たる文化が根付いていた。

 火の国の大和国は四方が巨大な河や険しい山脈という天然の城壁に囲われている。しかし、風の国の都市の周りにはそのような地形は存在せず、ただの砂地が続いている。そのため、都市は高い城壁で囲われていた。乾燥している土地柄、城壁には煉瓦が使われている。火の国では見ることのできない珍しい光景だった。

 城壁の門が大きな音を立てて開かれる。その扉の先には多くの民家や商店が立ち並び、迷路のようになっている。対面にあるはずの高い城壁もかろうじて遠くに小さく見える。そしてこの都市の中央に位置するであろう場所には大きな塔が建っており、その周囲には厳格な雰囲気を纏った城が建っていた。その周辺一帯は草木が溢れている。農作物も作られているようだ。

 門の影から、白い布のような服と被り物を纏った年若い青年が現れた。顔だけが布の影から覗く。肌の色は焼けているのか浅黒い。

「お待ちしておりました。これより私が城ま案内いたします」

 ここで火の国の大名に何かあれば風の国の立場が悪くなるため、一先ず妨害を受ける可能性は低い。しかし、まだ警戒を解くことは許されない。事故に見せかけた暗殺を仕掛けてくる可能性もなくはない。

市街地には多くの住民がおり、火の国の大名行列を一目見ようと押し寄せていた。風の国の兵士が街道の人払いをし、行列が進行できるよう対応する。進む道は曲がり角が多い。それに加えて市街地の店舗や住宅は種類がいくつかあるとはいえどれもが似ており、案内者がなければ都市の中央部へ到達するのは難しいだろう。

(厄介な場所だな……。何も起きなければいいが。……ここは要塞都市だ)

 サスケは計算し尽くされた市街地の作りを見ながらそのようなことを考えていた。外からの侵入者の進軍を遅らせるための迷路のような街道。そして待ち伏せできるほどの広さをもつ城下の田園。逃げるものも捕らえて逃がさない要塞だ。忍であれば問題ないが、一般人ならば戦いながら市街地を抜けるのは難しいだろう。

 市街地と農耕地の境界には小さな門があった。閉じてはおらず、普段から開放されているようだ。風の国の青年は立ち止まり、振り返った。

「これより先に向かうのは火の国の大名様と側近の方だけとなります」

 これは事前に通告されていたことだ。ヨリミチと零班、それに大名の世話係三名と秘書が同行すると決められている。ナルトは印を結び、影分身を三体を城外に残した。

 遠くからは見えなかったが、農耕地はなだらかな丘になっており、美しい棚田が広がっていた。その頂上に巨大な石造りの城が聳えている。

 門から城に至るまで徒歩で半刻程。風の国の青年を認めると、門番は斜めにしていた槍を縦にする。城門の中には堀があり、その堀にかかった石橋の先にまた門が見えた。堀の水は青く透き通っており、その水には流れが見える。

「すごい……」

 ヒナタは感嘆し、白眼で城内の様子を探った。この水は地下から涌き出ていた。水脈はこの城を中心に都市全体に広がっている。砂地の中の稀なる肥沃な土地に、都市が発展したと考えられる。

 城内へと入ると、先導していた青年は被り物を外し頭を垂れた。短髮の涼やかな青年だ。

「改めまして、私は風の国の大名補佐官・アグリと申します。遠方よりの御来訪、歓迎いたします。これより宿泊して頂く場所へご案内します。今宵は歓迎の宴を催しますので、それまでゆるりとお寛ぎください」

 案内されたのは城の客室。城自体が四つの建物を繋げたような造りで、火の国の大名のために一棟全て貸し切り状態だ。零班には個室がそれぞれ宛がわれたが、ナルトたちは広間のソファに座っていた。

「……?どうした、ナルト」

 ナルトが腹部を抑えている。

「腹が疼くんだ。アイツもここにいるってばよ」

「アイツ?」

「我あ……、いや、一尾だ」

 ナルトの腹の中のチャクラが、近くに存在する本体と呼応している。

(面倒なことになりそうだな……)

 サスケとナルトの会話の中に"一尾"と確かに聞こえたが、カカシは聞かなかったことにした。協力を求められたならば手を貸すが、その会話は明らかに彼ら二人だけのものだ。

 

 歓迎の宴は、城中央にある塔の下にある庭で催された。火の国、風の国の大名は円形のテーブルに直角に座り酒を交わしていた。周囲には其々の取り巻きが控えている。忍はいくらか離れた所に待機した。ナルトはちょうど対角線上の先に、我愛羅の姿を捕らえていた。不躾に視線をぶつける。

 そして彼の隣にいるのは、砂隠れの里の上忍、バキだ。彼はかつて木ノ葉崩しの計略で重要な役を担った砂隠れの里きっての忍だ。彼がこの場に居るということは、今回の会談は砂隠れの里にとっても大きな意味を持つのだろう。

 宴の後、食事を済ませるとナルトとサスケは急遽火の国の迎賓館となった城の棟の外に出た。その庭には砂の土地とは思えないほどに緑が生い茂っていた。

「ナルト!下手に動くとまずい」

「大丈夫だってばよ!この棟からは出ねーから」

 砂漠の夜は日中とは真逆で冷たい風が吹く。自分を、いや、自分の中のモノを呼ぶ声は近い。ナルトは棟を繋ぐ石橋の前に立った。その先に、我愛羅の姿を捕らえた。

「おーい、話そうってばよ!」

 ナルトは声を張り上げた。我愛羅は静かにナルトを一瞥すると、ナルトのいる橋の方へと足を向けた。

「夜更けに声を張り上げるな。お前も忍だろう」

「だって、遠くに居たからさ。オレってばうずまきナルト!将来火影になる男だってばよ!!よろしくな!そしてこいつはサスケ」

 サスケは小さく会釈した。

「……何故、火影になりたい」

「それがオレの夢だから。今よりもっとでっかくなってさ、オレの力を認めさせてえんだってばよ」

「認められるために、か。……お前たち、何者だ?初めて見た時から頭が疼いて仕方がない」

「お前と同じだ。オレの中にもいるんだってばよ」

「!!」

「けど、化け物じゃねえぞ。友達だ」

 ナルトはそう言ってニカッと笑った。

「……」

「じゃ、またな!お前のお目付け役が探してるってばよ」

 我愛羅はナルトの去っていった方を見ていた。同じ年代の者と話すのは久方ぶりだった。そして、我愛羅は初めて見たときからなんとなく気づいていた事が事実であることを確信した。自分と同じ人柱力。人柱力の認識のされ方はおそらくどこも変わらない。あまりに強大な力は人々にとっての恐怖の対象に変わる。

「我愛羅、こんな所で何をしている」

「……何も」

 バキは我愛羅を探していた。彼の言わんとすることは分かっている。我愛羅は踵を返した。

 そして翌日、母屋の会議室にて大名会談が始まった。その人員構成は、風の国の大名と各部署の重役五名と火の国の大名と秘書とヨリミチだった。

「……ふむ。この件に関しては、忍が適任だろう。君、そこに座りたまえ」

 火の国の大名は、不意に振り返ってカカシを手招きした。

「は……?!」

 カカシは左右を見ると、ナルトもサスケもヒナタもこちらを見ている。

「君しかおらんだろう。早く来たまえ」

 風の国の大名も、バキを呼んでいた。

 カカシはすごすごと椅子に腰掛けた。

「火と風は同盟を組むことにしたぞ」

「……はい?」

「ヨリミチも風の国の参謀も強く推すからのう……。隠れ里の方も、そのつもりでな」

「同盟を組む、ということはどうなるんでしょうか……?」

 これまで、戦時中外の同盟は組まれたことがなかった。カカシはまさか自分が歴史を塗り替える瞬間に立ち会うとは思ってもみなかった。

「どうするかは隠れ里同志に一任する。間違ってもまた戦を起こすためにこのようなことをしているわけでない。その点、履き違えぬようにな」

「ここに影たちは居らぬが、同盟の印にひとつ」

 風の国の大名はテーブル越しに手を差し出した。隣のバキ目配せをする。手を出すバキに習って、カカシも手を出し、各々が握手を交わした。

 カカシはちらりとバキの顔を伺うと、彼も寝耳に水であったのかどこか動揺しているようであった。

 会談が終わり、火の国の棟に戻ると、零班は各々が堪えていた感情を解き放った。

「ええええええええー。なんなのこれ?!俺、こんなこと聞いてナイんだけど……!」

「カカシ先生、連絡蛙出したってばよ!」

「……そだね。まずは報告だな。ナイスフォローだ」

 カカシは疲れた顔でグッと親指を立てた。

「カカシ先生……」

 ヒナタが心配気に報告用の小さな巻物を差し出した。

「どう報告するんだ?」

「風の国との同盟が決まり、隠れ里の同盟の内容は一任された、と。はー……これからもたくさん話し合いがあるんだろーねー。キナ臭い任務だと思ってたけど、とんだ変化球だよ……。お前ら、一応帰るまでは気を抜くな」

「もちろんだってばよ!」

 ナルトはその日の夜も棟の外に出た。ヒナタはその後ろ姿をじっと見ていた。

「サスケくん、今日は一緒に行かないんだ」

「ヒナタ、何か勘違いしてるだろ」

「だって、いつもサスケくんとナルトくん、一緒にいるでしょ?」

「……そうか?」

「そうだよ」

 ヒナタは小さくため息をこぼす。サスケに恋する乙女の心を察することを求めても無駄なことだった。

 ナルトは昨日と同じ場所を訪れていた。

「おーい!」

 ナルトは我愛羅を見つけると手をブンブンと振って叫んだ。我愛羅はしばらくどうするか思い悩んだが、ナルトのいる石橋の前まで歩いてきた。

「……だから、夜更けに大きな声を上げるな」

「同盟!良かったってばよ。お前ともどっかでまた会えるかもな!名前、教えてほしいってばよ」

「……我愛羅だ」

「我愛羅!覚えとく。……なあなあ、オレの名前、覚えてっか?」

「うずまきナルトだろう」

「よし。また会う日まで覚えててくれよな」

「……ああ」

「ん!」

ナルトは石橋の中央にまで足を進めると、手を出した。

「なんだ」

「友達の証!オレたちも同盟だってばよ」

「……おかしな奴だな」

 我愛羅も石橋に立った。

 久しぶりに感じる人の体温。ナルトは真っ直ぐな目で想いをぶつけてくる。我愛羅はいつの間にか懐柔されていた。

「!!」

 ナルトは人の気配に気がつき、さっと石橋から離れた。

「……ナルト君。このような夜更けにどうしましたか?……おや、そちらは風の国の忍」

「ちょっと話してたんだ。年近いしさ」

「そうですか。仲が良いとは喜ばしい。実は私もここで待ち合わせているんですよ。……ああ、彼です」

「先客がいたか」

 現れたのはアグリ。ナルトはピンときた。

「ヨリミチさん、この人が前に話してた風の国の友達?」

「そうです」

「俺たちのことを知っているのか?なら、今回のことも?」

「はい。全て話しています。彼らは今回の同盟の影の立役者ですよ。正に忍と言うに相応しい働きをしてくれました」

「そうか。やっぱ道中色々あったんだな」

「ええ、まあ……そうですね」

 ヨリミチは苦笑を浮かべて言葉を濁した。

「……我愛羅、またな!」

「ああ」

 ナルトは邪魔をしたら悪いと、その場を後にした。火の国の棟の広間のソファには、まだサスケとヒナタの姿があった。

「お帰りなさい、ナルトくん」

「ただいまってばよ!」

 ナルトはサスケの横にどかりと腰を下ろした。

「我愛羅はどんな感じだ?」

「ムリヤリ友達になってきたってばよ」

「……やっぱりお前はウスラトンカチだな」

「あーゆータイプには、どんどん押してかねーと!サスケと一緒だってばよ。あ、ちなみにサスケより難易度低いから大丈夫」

「難易度……」

「……あのー、ガアラって誰?」

「ん?会談の時さ、でっけー瓢箪持ってたやついただろ。あいつのことだってばよ。ちなみに我愛羅は風影の子だ」

「そうなんだ。強そうな子だとは思っていたけど……」

「あ、そうそう!ヨリミチさんと風の国のアグリが会ってたってばよ。友達なんだって」

「そうか。にしてもこの時期に火と風の同盟……。大蛇丸が大人しくしていることがデカいな。風影も健在と考えて良い」

「そだな」

「おーい。おまえら、返事きたよー」

 カカシは部屋からひょっこり顔を出すと、ドアの隙間から連絡蛙が飛び出した。ナルトのもとへピョンピョンと近づいてくる。

「何て書いてあるんだってばよ?」

 ナルトが持っていたあめ玉をご褒美として連絡蛙の口に入れると、蛙はポンと音を立てて姿を消した。

「えー……任務続行。近々火影と風影の会談の場を設ける。と」

「急にどうこうなるわけじゃねーんだな。意外にあっさりしてて面白くねーってばよ」

「当然でしょ……。俺は明日、砂隠れのバキって人と話すことあるから、お前らは念のため大名さんのことを頼むよー。明日も今日の会談の続きがあるからさ」

 ナルトたちはその後、三日間に及ぶ会談の護衛を終え帰路につくこととなった。

 砂隠れの忍とは城門で別れ、そこからは来たときのようにアグリが先導した。

 サスケはその時、異様な気配を感じた。後ろを振り返ると、農耕地と居住区を隔てる門が閉まっている。全身が総毛立った。瞬間、サスケの右目が紅く染まる。

「……っ!!」

 敵の気配はないが、どこからか見ている可能性は高い。サスケは自身のチャクラを開放し、その身に纏った。そのチャクラは巨大な鎧武者の形をしている。

 その重厚なチャクラはナルトやカカシ、ヒナタにも伝わり、緊張が走った。

「クソッ……!」

 サスケは地面を蹴って飛び上がった。地面は泥と化し、兵や従者たち、そして路を行き交う人々の脚を捉える。

 ナルトも異変を感じ取ったようで、大名行列を守るように分身が五体程出現していた。いずれも九尾のチャクラを薄く纏っている。

 カカシやヒナタは泥沼に足を捕られぬよう、少しばかり高さのある所に移動した。

 ヒナタは戦闘体制を取りながら周囲の様子を探った。

「……!十人?それ以上…!?」

 ヒナタの白眼の透視範囲外からその範囲内へ続々と忍が入ってくる。その数、十人余り。

 忍とはわかるが、額当てはしていない。恐らくどこかの里の抜け忍と推測できる。

「敵の狙いは何だ……?」

 カカシは腰を落とし戦闘体勢をとりながら思考を巡らす。ここは風の国。それも主要都市の住居区だ。ただの妨害ならば住居区は避けるはず。

「砂の忍、じゃあないようだ。そして目的はこの同盟の妨害……。ヒナタ、奴らはここに来る!」

「ハイ!!」

 ヒナタとカカシがいるのは大名が乗った籠の側。敵の強さは未知数。ヒナタの額に汗が伝う。

「カカシ先生!ヒナタ!無事か?!」

「ナルト……そのチャクラは、いや……まあ良い。ナルトの分身だな。お前は守りを頼むよ。こっちが護衛する数も多ければ、敵の数も多い」

「いや、オレも援護するってばよ!守りなら他の分身がやる!」

 八人の忍が一気に押し寄せてきた。ナルトは目にも止まらぬ速さで、敵の急所に拳を入れていく。

「ぐぁっ……!」

 その手には九尾のチャクラが凝縮されており、それは皮膚を焼き細胞レベルで敵の体を破壊する。局所的ではあるが急所となると再起は難しい。

 数が多ければ力のある者とない者とある程度差が出る。前者はナルトの攻撃を回避し大名の籠へ近づく。その先にはヒナタとカカシがいる。

 突如として発生した霧の中から、クナイや手裏剣などの暗器の雨が降り注ぐ。

――八卦六十四掌!

 しかしヒナタはそれらを全ていなしてみせた。そこにナルトの風遁が相乗し暗器は地に落ちた。日向一族の白眼の視野は広く、逸早く物体の存在を感知できる。さらに瞳術の影響で身体能力は格段に上昇していた。

「この白眼に死角はありません!」

 ナルトは目を見開いた。この頃のヒナタにその様な力があるとは思ってもみなかった。

「ヒナタ、やるじゃねーか!」

「ナルトくん…!」

 ヒナタの表情がパッと華やぐ。その一瞬の隙を敵は見逃さず、泥の刃がヒナタに向かってくる。

――千鳥!

「土には雷を!…ってね~。ヒナタ、今は敵に集中ね」

 カカシの右手は眩い光を放っており、チチチと鳥の鳴くような音がしている。ヒナタを目掛けていた泥の刃は雷を受け、粉々に砕けていた。

 一方、サスケは泥沼を作った術者を見つけていた。そのチャクラの性質を看破すればそう難しい事ではない。その男は、まるで迷路のような市街地の路地裏に身を潜ませていた。

「オイ。……無駄だったな」

 サスケは目にも止まらぬ速さでその忍の背後に回り、耳元で囁く。その言葉が終わるや否や、サスケの紅い目を見た男は断末魔の叫びをあげて失神した。

「フン、他愛ない」

 サスケはポーチから透遁の札を出し、その男の額に貼り付けた。手早く隠すにはもってこいの札だ。この男にはまだ聞くことが山ほどある。

 我愛羅は、城の塔の上から門の向こうへ去っていくナルトたちを見ていた。我愛羅もナルトと同じく行動を制限されている身。火の国のから遥々来た彼らに対し、羨望の気持ちもあった。

 城壁の向こう側はあまり見えないが、チャクラを感じた。我愛羅は印を組み、目を閉じる。すると、城壁の向こう側に砂で作られた第三の目が現場を捉えた。直ちに助けに行きたいと思ったが、我愛羅は一呼吸おいてバキの部屋へと向かった。すれ違う誰もが、城内を駆ける我愛羅の姿を振り返った。

「バキ!ナルトたち……いや、火の国の大名行列が襲撃を受けている。国内で問題が起こるのはまずいだろう」

「ああ、行くぞ」

 バキは横を駆ける我愛羅の顔色を伺った。その様子はいつもと何ら変わりはない。バキは我愛羅が下忍になった時からその様子を知っているが、他人のために動くような人物ではなかったはずだ。

 我愛羅とバキが到着する頃には戦闘はもう終わっており、大名行列で歩いていた者たちは沼からどうにかこうにか這い上がっているところだった。膝から下は泥にまみれている。大きな蛾蟇が数匹、水遁と風遁を用いて泥を落としている。奇妙な光景だったが、我愛羅とバキは大名の籠の方へと急いだ。

「我愛羅?どうしたんだってばよ」

「襲撃に気づいて追ってきたところだ。この分では然程被害はないようだな」

「ああ、重傷者も死人もない」

「そうか」

「ありがとな!」

「俺はなにもしていない」

 サスケはそんな二人のやり取りを横目に、我愛羅の隣に立つバキに声をかけた。

「捉えた忍はどうする?」

 サスケは首謀者格の男をロープで入念に縛り、地面に転がしていた。その口には猿轡がされているが、意識はないようだ。

「砂隠れで尋問しよう」

「それなら、結果は木ノ葉隠れにも伝えてくれ」

「ああ、そうするのが筋だろう」

 その後、バキの報告を受けた風の国の大名の計らいもあり、風の国の国境まで砂隠れの忍が警護についた。同盟を交わした以上、火の国の大名は国賓にあたる。国内で襲撃にあったのであれば、相応の対応をするのが道理。

 

 大名行列の先頭が国の関所に辿り着くと、その歩みが止まる。

「これより先は国外となる。砂隠れの護衛はここまでだ」

 バキは忍が聞き取れる程の声でカカシにそう言った。

「実は……来るときも襲撃というか、罠がいくつかあったんだけど、それも彼らの仕業と考えてもいいかな?」

「……そうか。何故今になってその事を?」

「や、何となくね。初めは砂隠れを疑っていたけど、今は違うと思うから。だったら情報は伝えておこうと考えたまでだよ」

「了承した。私も里同士の信頼関係を築けるよう尽力しよう。……では、これにて」

 バキは小さく会釈すると姿を消した。他の砂隠れの忍の姿もない。大名行列は再び進み始めた。目指すは大和京。




【このめの章・あとがきと言い訳】
 第零班の結成です。悩んだ末に、結局仲良し三人組で括ってしまおうという安易な結論。初めは零班なんてのは考えていなくて普通に七班としていたのですが、七班はやっぱりナルト・サスケ・サクラの三人組だよなと思い直して、架空の捏造班尚且つチート班という意味を込めて第零班としました。
 下忍になって任務をする中で、ヒナタは自分とナルトやサスケとの間の力の差を思い知ります。ですが心折れることも卑屈になることもなく、地道に努力してるヒナタはカッコいいと思います。それもカカシの指導やサスケのさりげない気遣いのお陰だと良いです。ナルトは何も考えていません。ただ、他者の良心や前向きな力を疑いなく信じています。所謂、お気楽で楽天家ってやつです。
 そして今回はオリジナル要素をガッッツリ盛り込んでしまいました。火の国と風の国にそれぞれ架空の捏造都市を作りました。描写が大変でした。
 行きの道中で襲ってきた忍は、砂隠れの忍に扮したどこぞの忍です。器用にも内部に潜んでいた設定ですが、限りなく分かりづらいですね。いつか書き直したいです。
 カカシに続いて、またもやフライングエンカウント。このまま我愛羅と面識がないまま中忍選抜試験に突入すると、ナルトと我愛羅はそれほど濃い友達になれそうにない気がして、早めに一度出会ってもらいました。
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