ヒナタ、強くなる
帰路は特に戦闘もなく、零班は無事に木ノ葉隠れの里へと帰りつき、カカシは報告のために火影執務室を訪れていた。
「報告書です」
カカシは小さな字がびっしりと詰まった用紙を机越しに自来也に手渡す。
「今回の任務はちとハードだったのぉ」
自来也はカカシの定期的な報告によりある程度今回の任務の全貌については理解している。
「ちと、ではなく、か・な・り、ですよ。……主に精神的に」
国と国、隠れ里と隠れ里との同盟に立ち合い、その上火影の代理のような役割も大名の無茶振りで行わなければならなかったのだ。道中での戦闘や会談の後の奇襲より、そちらの緊張感のほうがカカシには鮮明な記憶となって残っている。
「今回の報酬は色を付けておくぞ」
「ありがたいです」
自来也は書類に金額を書き、サインをすると机の端にある書類の上に重ねた。
「して…、風の国の様子はどうだったか、簡潔に話してくれ」
「風の国は終始友好的。気になるのは、会談を妨害してきた忍がどこの忍か、でしょう」
「おまえのことだ、既に目星はついているんじゃぁないか?」
それは、大国が同盟を組んで争いが減ることを快く思わない連中だ。自来也は腕を組み、含みのある笑みを浮かべた。
「俺を買い被りすぎです。……あ、これはナルトが言ってたんですが、波の国の任務……ありますか?ヤツら、どうも波の国に興味があるようでして。今回の任務は良くやったと思うので、できれば希望を考慮したいのですが」
明らかに話を逸らすカカシに閉口するも、今回の件は粗方報告されているため自来也は目瞑った。
「……あるぞ。Cランクで護衛の任務だ。たしかに今回の任務は上出来だったしのぉ……任せるとしよう。依頼票はー……と。……これだ。渡しておくぞ」
「任務は……一週間後、ですね。わかりました」
この時カカシは、立て続けになんちゃってCランク任務に当たることになるとは想像だにしなかった。
波の国の任務のことをナルトたちに伝えると、ナルトとサスケはいつになくやたら真剣な表情となり、カカシは嫌な予感がした。
次の任務に向けて、零班は第四十四演習場を使って各々修行をしていた。ヒナタの修行をみるのもやめて、カカシは隠れてイチャイチャパラダイスを読んでいる。
「ん?」
不意にイチャイチャパラダイスが消えたかと思えば、そこにはサスケが立っていた。
「カカシ、ビンゴブックを貸してくれ」
「見てどうするんだ?」
カカシは指導教官らしくキリッと尋ねたが、サスケは眉一つ動かさない。
「半刻もかからない。すぐに返す」
「……ハイハイ。渡すから、ソレ返してちょーだい」
カカシはポーチから黒い表紙の冊子を取り出すと投げ渡した。サスケは代わりにイチャイチャパラダイスをカカシに投げ渡すと姿を消した。
手頃な朽ちた丸太の上腰を下ろし、サスケはビンゴブックをパラパラと捲り始める。
「何してんだってばよ、サスケ」
ナルトはサスケの後ろから何を見ているのかと覗き込んだ。
「これだ」
そこには如何にも殺人鬼といった風貌の人相の悪い男と、抜け忍とは思えない程に美しい少年の写真が載っていた。ナルトが助けたがっていたのはこの二人。だが、サスケも知ることながら抜忍の罪は重い。特にこの頃の霧隠れの里の処遇は群を抜いていた。
「ああ……。今の水影って誰だっけ?」
「今は……微妙な時期だ。それに里の情勢が安定していない可能性がある」
「もしあの照美メイなら、オレたちが頼み込めばなんとかなる気がするんだけどよー。まだ先か」
ナルトはそう言いながらサスケの顔を見るが、的を射てない様子。
「あの人ってばショタコンだったろ」
「そうなのか?」
サスケは軽く目を見開いていた。
メイの視線はサスケに対しても熱く注がれていたはずだ。それ以外の容姿の整った青年に対してもそうであったが、サスケはそういった自分に向けられる好意や好奇の視線に関しては鈍感だ。以前、サクラはサスケに対し猛アタックしていたが、そのストレート過ぎる好意にもあまりピンと来ていなかったという。
「まあいい。今回の任務にやつらが必ず来る保証はない」
「それもそうだな。今回は違う可能性もある」
「ヒナタ、どうしてっかなー……」
ヒナタは一人で修行に励んでいるらしく、ナルトはヒナタのチャクラを探した。
「おーい、ヒナター……って、え」
「ナルトくんっ」
想い人の声に胸をときめかせて振り向くヒナタとナルトの間に、ムカデに似た巨大生物がズンと音を立てて落下した。
「どうしたの?」
穏やかな笑みを浮かべるヒナタはナルトの知るヒナタであったが、以前のこの頃のヒナタにこのような力があったかは疑問だ。
「ヒナタ、強くなったんじゃね……?」
彼女の背後にある巨大な岩にはいくつか抉れた箇所と、大きなひび割れがある。
「そうかな?でもナルトくんやサスケくんに早く追いつきたいから、もっと頑張らないと」
「お、おう……。手伝えることがあれば、オレも協力するってばよ」
恐る恐るボロボロの岩に軽く手を当てると内部が粉々に砕かれており音を立てて崩れ、ナルトの顔は青ざめる。
「そろそろ昼飯にするぞ」
サスケはヒナタとナルトの姿を見つけるなりそう言った。
「え?」
「わかってねーなヒナタ。今日一日サバイバル演習なら、自給自足だってばよ」
「お前は手伝え。川原に移動するぞ」
いつのまに地形を把握していたのか、サスケはピンポイントで川に向かい、雷を流した刀を川の中に刺し込んだ。すると川魚などの生物が浮かび上がってくる。
「あとは頼む」
「はいはい」
ナルトは影分身を使って魚を引き上げた。影分身ならばサスケもできるが、影分身担当はナルトと決まっている。そしてサスケは木上に登って刀を抜き一瞬で木の枝が地に落ちる。魚を焼くには十分な量だ。さらににその枝の山に火遁を使い生木の水分を抜く処理をする。
「ヒナタ、カカシ先生を呼んできてくれってばよ」
サスケとナルトの見事な役割分担を目の当たりにし、所在なさげにオロオロと目を泳がせていたヒナタに指示を出す。
「う、うん」
白眼があればカカシのいる位置は分かる。ヒナタはサッと姿を消した。ヒナタの気配がなくなったことを確かめたナルトは、ぼそりと呟いた。
「サスケ、ヒナタがサクラちゃんみたいになってるってばよ……」
「ああ、あの岩か。日向のチャクラの用いかたであれば、ああなるのも頷ける」
「オレたちの班のくの一って、こえーってばよ……。ヒナタはサクラちゃんと違って無闇やたら殴ったりしねえけどよ」
「強くなってくれるのはありがたいことだ。いつでも守りきれる保証はない」
「まあなー。でもヒナタはオレが意地でも守るってばよ」
「お前はのそういうところは嫌いじゃない」
「そんなお前もそんな事を言いながらもなんだかんだでオレと同じだろ。お前のそういうところが好きだってばよ〜」
ヒナタに危険が及べばサスケは必ず助けようとするだろう。憎まれ口を叩きながらも愛情深い。そういうところは自分だけが知っていれば良いのだが、他の人にも理解してもらいたいとも思う。ちょっとしたジレンマだ。
「黙れウスラトンカチ」
サスケはサバイバル用の串を魚に刺した。