もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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永遠の万華鏡写輪眼

 木ノ葉警務部隊の役割は、里の治安維持と防衛だ。そしてその隊員のすべてがうちは一族の者で構成されている。通常の里の忍とは違い、里に寄せられる依頼を請け負うことはほとんどなく、同時に手柄もない。ゆえに出世とは縁遠い立ち位置にあるのがうちは一族だ。

 前の忍界対戦ではその優秀な能力と血継限界を買われ、大きな功績を残した。そしてそれに見合った犠牲も払った。だが里の評価はそう高くはなくむしろ九尾事件の容疑により迫害され、うちは一族の中では不満が増長していった。

 サスケの嘆願を聞いたフガクは、彼らの気持ちを纏めるだけでなく、一族の破滅への道のりを絶たねばならないと奮闘していた。計画していたクーデターの計画を白紙に戻した際、これまでフガクは一族の前で自身の考えをあまり語ってこなかったことも手伝い、その言葉は多くの者の心を変えた。

 

 フガクは始業時間よりも少し早く詰所に出勤する。この時間帯はもうすべての隊員が出勤している時間だ。

「隊長、聞きましたよ。サスケくん、C改めAランク任務で敵の主犯格の忍を捕らえたそうですね。これからが楽しみです」

 十程年の離れた隊員の者から挨拶代わりにそんな事を言われた。サスケは昨日、予定より長引いた任務を終えて帰宅した。服装に汚れはなく、問題なく任務を終えたのだろうと特に何も話はしなかった。

「俺も息子たちには期待している」

 フガクは上に立つ者として、決断を下し結果を残さなくてはならないと考えていた。だが、あの日以来、その考えは変わった。今ではもっと先の未来を見たいと考えるようになり、二人の息子にその未来を見出だしたのだ。妙なる才に恵まれた二人の息子の成長を見ていると、そう焦らなくても良いのかもしれないと思うようになった。

「サスケ、前回の任務は手柄だったそうじゃないか」

 家族全員で食卓を囲み夕食をとっていると、フガクがおもむろにそんな事を言った。里内であっても任務の内容が他の忍に伝わる事はあまりない。任務の内容はどのような事であっても不必要に口外しないのが暗黙のルールだ。

「誰から聞いた?」

「上忍の間では専らの噂だ」

 前回の任務の件で、カカシ率いる零班の働きは高く評価されていた。里全体に伝わるような情報ではないが、既に上忍を含む里の中枢を担う者たちの耳に入っている。ゆっくりと箸を口に運ぶフガクは、満足そうに見えた。

「……オレは父さんの役に立てているか?」

 サスケはフガクの顔色を伺った。フガクとの思い出はあまりなく、どのような人物であったかも記憶になかった。ゆえにフガクとの会話はいつも新鮮で少し緊張することもある。

 未だ一族内ではクーデターを目論む者たちがいる。里という敵があってこそ一族は一枚岩となり得ていたが、それがない今となっては一族は未だかつてない程に混迷を極めていた。多くはフガクの説得で冷静さを取り戻したが、一部の者は不満を抱いたままだ。父を危うい立場に追いやった自覚がある。多少の後ろめたさもあるが、自分が選んだ選択肢、そして現在には間違いはないと思っている。少なくとも一族が壊滅するようなことはないからだ。

「ああ。だがな、親のことより先ずは自分の心配をしろ」

「もちろん。自分の身を守る術くらい知ってる。……みんなが心配なんだ。オレには何も話してくれないから」

 サスケはジッと食卓を囲む面々を見た。三人はウッと食事が喉につかえそうになる。一重にサスケのことが可愛すぎて色々なものを背負わせたくないと考えていた。一方、サスケはうちはの会議に参加できるようになったら、即刻、あの石碑を叩き割ろう等と考えていた。一族の面々の目の前で。今すぐにでも石碑を叩き割ることは可能だが、一族の面々の目の前でという条件が重要である。

「そ、そうだイタチ、お前は最近どうなんだ」

 フガクは慌てて話を変えた。

「……ええと、特に、毎日変わらず授業をしています」

 会話は続かず、フガクはイタチのことを初めて使えない奴だと思った。

「ああ、そういえば!イタチったら最近、可愛い女の子の修行に付き合ってるのよ」

--ブホッ!

 フガクとイタチは飲んでいた茶を吹き出した。既に知っているサスケはモシャモシャとトマトを頬張っている。

「か、母さんそれは!!」

「イタチもそういう年頃になったか……。いや、今まで浮いた話がなかったのがおかしかったのか……」

「母さんは安心したわよ。サスケの事しか興味がないと思っていたものだから……」

 ミコトはホロリと嬉し涙を溢した。

「サクラさんとはそういうのじゃないです!」

 滅多に声を荒げないイタチの様子を見て、その場の全員が目を丸くした。

「兄さん、サクラと何かあったのか?」

「サスケまで?!……何もないよ。教えたことを次々に自分の物にしていくのが面白くてね」

「イタチ!!何てことを言うの!あんな可愛い子を放っておくなんて母さんは許しません!」

 どうしてそこで怒るのか理解できない。

「母さん?!」

「サクラのこと知ってるの?」

「ええ、ええ、見に行きましたとも。尾行だなんて何十年ぶりにしたわ」

 いくら殺気はないとはいえ、イタチに気づかれずに尾行するのは至難の業だろう。この時初めてサスケは自分の母の経歴が気になった。

「綺麗なピンク色の髪とキュートなおでこがチャームポイントの可愛い女の子だったわ。女の子って良いわね。ここは男所帯だから……。連れてきても良いのよ、イタチ」

 ミコトはいつになく真剣な表情でイタチを見た。

 ミコトは余程サクラと会ってみたいらしい。

「女の子だし親御さんも心配されるだろう」

「あら、そんな事なんか黙ってれば良いのよ。私もそうしたわ」

「ミ、ミコト……」

「サスケはどんな子を連れてくるのかしらね。サスケは好きな子いるの?」

「いる」

「あら、どんな子なのかしら。どういうところが好きなの?」

「何を今さら。ナルトだ。オレと違ってバカ正直なところが好ましい」

 サスケには昔からそういう傾向があった。今さらでであるが、包み隠すことなく言葉にされると家族にとっては十分に動揺と混乱を招く。

「……サスケ、分かってるとは思うけれど男の子同士じゃ結婚できないわよ?」

 結婚。今回はするつもりはない。母親が息子の結婚を望む気持ちについては理解できるが、早々に諦めてほしい。事ある毎にこのような話をされるのは面倒だ。

「法を変えるから問題ない。……大蛇丸に言えばナルトとの子も作れるかもな」

 一家はサスケの発言に愕然とした。法を変えるのは難しそうな気がするが、後半の台詞はやたら現実味を帯びている。

(((……たしかにあの人ならやれる気がする)))

 サスケは家族の動揺をよそに、食事を終えると手を合わせて食器を流しに運んだ。サスケもイタチも容姿は母親似。そして忍の才能は隔世遺伝なのか神様からの贈り物なのかどちらも類い稀なるものを持っている。フガクは二人の息子の力など疾うに推し測れなくなっていることに気がついていた。

「俺は二人の息子に何をしてやれるんだか……」

 

 サスケはいつものように修行のため早朝から家を出た。朝の風は冷たい。向かう先はうちはの居住区にある小さな森。木々にはいくつかの手裏剣術用の的が括られている。サスケにとっては馴染みの場所であるが、背後に視線を感じ振り返った。

「見つかっちゃったねぇ」

 巨大な食虫植物のようなものの間に顔が見え、もう人とは言い難い姿をしている暁の一人であるゼツ。全ての元凶だ。瞬時に天照の黒炎がその者を包む。だが、焼けたのは身に纏っていた衣類のみ。黒い影の身体にも黒炎があったはずだが、器用にその部分だけ切り捨てられ、黒い影は無事だ。サスケは小さく舌打ちをした。その黒い影こそ、かつてサスケの人生を悲惨な物になるよう仕組んだ黒幕。

「オレに何の用だ」

「驚いたよ。もう万華鏡写輪眼を開眼しているのか」

「御託はいい。何の用かと聞いている」

「怖いなあ。ただ……今日は君の様子を見に来ただけだよ。サスケくん」

 正体を知っている以上、何を言われても惑わされない自信はある。

「君にこの里はどう映る?」

「生温い。温床だな」

 うちは一族のクーデターが起こらなかった未来は、以前にも増してその平和は保たれている。そしてサスケの回りには常に家族がいる。孤独を知っているサスケにとって今の状況は生温いと感じてしまうが、それはけして悪い意味ではない。

「……そう。君は知っているかい?うちは一族が里からどういう扱いを受けているのか。数年前、せっかくのクーデターが頓挫したのは君のせいなんだよ。お陰でうちは一族の人たちはまた不満を持ちながら生活をしている。この状況を作ったのは君だ」

 分かりきったことをさも全てを知っているかのようにつらつらと述べるゼツは、滑稽で愚かに見えた。

「この状況を覆す力が欲しくない?」

「できればな」

 そういう力が手に入るのなら欲しい。だがそれは手に入れたとしてもまやかしでしかない。

「じゃあ……一つ、良いことを教えてあげよう」

 サスケはまったくもって興味がない。

「その万華鏡写輪眼、使い続ける度に視力が落ちてやがて失明する。それを防ぐ唯一の手段は、兄のイタチの写輪眼を移植することだ」

 サスケは瞬く速さでクナイを投げ放った。

「さっさと失せろ。……聞くだけ無駄だったようだ」

「……ククク」

 ゼツは森の影に消えた。ゼツの出現でサスケは修行をする気も無くし、そのままナルトの家へと向かっていた。

 

「朝っぱらからどーしたんだってばよ」

 ナルトは寝間着のまま玄関のドアを開けた。

「邪魔するぞ」

「着替えっからちょっと待ってろ」

「朝飯はまだだろ。家から持ってきた」

 サスケは風呂敷に包んだタッパーをダイニングテーブルに置いた。

「お、サンキュ!」

 ナルトはシャワーを浴びたり着替えたりとバタバタと忙しく身支度をしている。

「ナルト、さっきゼツが話しかけてきた」

「何か言ってたか?」

「下らないことだ。イタチの目を移植したら永遠の万華鏡写輪眼が手に入るなどと言ってきた。アホだろ。もう持っているし、持っていないにしても今のオレでもイタチに容易に勝てる気はしない。家族のことは大切に思っている」

「ふーん……。ゼツっての、厄介だよなぁ。オレたちの事、ほっといてくんねぇかな。てか里の守備どうなってんだってばよ」

「……どうだかな。今は暁のこともあるだろうから、そう動けないとは思うが。里の結界班に接触しておく」

 サスケは空いているイスに腰掛けた。「接触する」とは瞳術で操るということで、二人の間で使用する隠語だ。ナルトもそれについては異論はない。

「オレも一つ、報告があるってばよ。前の任務で襲ってきた忍は、抜け忍だが隠れ里はバラバラだったらしい」

「そうか。暁との繋がりを疑っていたが」

「ないとは言いきれねぇ。そういうとこ暁って抜かりないからな」

「敵がどう出るか、オレたちは後手に回るしかないな。今は。……ナルト、最近考えていたんだが、中忍試験が終わったら里を出ようと思う」

「おまえ、またっ……!」

「そんな顔をするな。……各国の情勢はここにいても分からないだろう。諜報が足りていない」

 里抜けするという意図ではないようだとナルトはいくらか安堵した。

「ならオレも行くってばよ」

「はあ?」

「心配だから。てかオレも自由に見て回りたいし」

「許可が出るかはまだ分からない。それに、その前に波の国の任務がある。まずはそっちだろう」

「そうだな。……あのさ、幻術を通して相手と話せるか?」

「ああ」

「じゃあさ、再不斬と白を幻術にかけてできるだけ説得して欲しいってばよ。ガトーにつくのを止めろってさ」

「再不斬と白は……その後どうする」

「エロ仙人はオレがどうにか説得するってばよ」

 ナルトは自分の言葉は曲げない。とんでもない提案ではあるが、彼が言うとできるような気がしてくるのが不思議だ。

「再不斬と白の説得にはもう一押し必要だ。オレに考えがある」

「任せるってばよ」

 この時、ナルトはサスケが何をしようとしているのか理解していなかった。

 

 サスケはその日の夜、イタチの部屋を訪れた。

「サスケ、珍しいな」

 イタチは机の前に座っているため、サスケは空いている座椅子に腰掛けた。

「兄さんは、黒い影……みたいな奴に話しかけられたこと、ある?」

「……いや、ないが」

「今日、いつもの修行の場所で話しかけられたんだ。気持ち悪い感じがした」

「他里の者か?」

「そもそも人間じゃない……」

「何か言われたのか?」

「うちは一族は里から虐げられている。それを変える力が欲しくないかって。それと、永遠の万華鏡写輪眼を手に入れるには兄さんの目を移植する必要があるとかって……」

「そうか。それでサスケはどう思った?」

「力はそんなに簡単に手に入るものではないし、今は一族に力がなくても家族で過ごせてるのが嬉しい。里の体制はオレが大人になったらナルトと一緒に変えてみせる」

「……それがお前の答えか」

「あと、永遠の万華鏡写輪眼については……既に、これがそうだ」

「え?」

 サスケはイタチから目を逸らした。

「この目は兄さんからもらったんだ」

「どういう意味だ……」

「信じられない話だろうけど、兄さんには話しておく」

 イタチは黙ってサスケの話を聞いた。それは耳を疑うものだった。今自分は生きているというのに、弟の口から語られるのは悲惨な自分の最期の姿。有り得ない話はなぜかとても現実味を帯びていて、疑う余地はなかった。あの頃は確かに、何も知らない弟だけは生き残って欲しいと強く思っていた。サスケが語る知らないもう一人の自分も、その思い一心で動いていたのだろうと察しがつく。それでもサスケの話はあまりに荒唐無稽にも聞こえ、全てを信じるまでには至らない。

「辛い思いをさせてしまったんだな」

 イタチはサスケの横に腰を下ろした。もしあの時、うちは一族のクーデターが起こり、一族全員を殺害していたらサスケの話すような事態となっていたのだろうかと思うとイタチは背筋が凍る思いがした。

「いや……それはオレの台詞。最後に兄さんは愛してるって言ってくれた。後になって、もっと早く兄さんの気持ちに気づいていればと、何度も後悔した。……オレも愛してる。家族のことを」

 愛してる。それはずっと伝えたかった言葉。

「兄さん、写輪眼はあまり使わないで欲しい」

「分かっている。……ありがとう」

 イタチは穏やかに微笑み、サスケの額を指で突いた。

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