もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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夢か現か

 二人が向かったのは、思い出の残るあの川原。互いによく会う場所だと感じていたが、ここでは一度も話したことがなかった。

「あー良かったってばよ。またお前を追いかけなくていいんだよな」

 目が覚めて、子どもの頃に戻ってしまったことに気がついたナルトがまず初めに考え、頭を抱えたことは、里抜けしたサスケをまた追いかけなくてはならないかもしれないということだった。少し考えるだけで疲労感がドッと押し寄せてくる。

「……悪かった」

 あの頃の自分にはそうする他なかった。他の手段もあったのかもしれないが、その道しか見えていなかった。とはいえ、散々迷惑をかけた自覚はある。

「なにそれ可愛いってばよぶっ!」

 すかさず小さな拳がナルトの左頬を突いた。年を重ねる毎に、幼い子どもが可愛く見えるものだ。保護欲とでも言おうか。ゆえに小さなサスケを見ていると純粋に可愛いと思える。それはサスケも同様で、自然と表情が緩む。

「それで……ナルト、おまえの力はどうなってる?オレはチャクラの量が減った。スタミナもない」

 今の体が未成熟なのは仕方がないことだが、家から少し駆けただけで息が上がってしまった。

「九喇嘛とも話せるし仙人モードもできるし……やっぱ問題はおまえと同じだな」

 ナルトは自分で九喇嘛と話して封印を解除したらしい。

「なんでもアリだな」

「それはお互い様だってばよ」

 二人は互いに、外見の年齢にそぐわない力を持つ。あの頃とはできることが大きく異なり、これからどうしてやろうかとジワジワと好奇心が湧いてくるが、二人とも中身は一応大人だ。それに、先程話に上がったように今の二人には弱点がある。

「提案だが……怪しまれないように、力を出すのは極力最小限にする。今の体は激しい戦闘に不向きだ」

「そうだな。おまえの輪廻眼も隠した方がよくねえか?」

 おそらく、この世かあの世かも知れないこの世界にも、黒ゼツやオビトはいるだろう。輪廻眼は写輪眼と違い意図的にしまうことができないため物理的に隠す他ない。

「そうするつもりだ」

 二人はその後、アカデミーでどう過ごすかなどを話した。その後ろ姿はとても仲の良い友人同士のように見える。

「サスケ」

 不意に名前を呼ばれて振り返ると、木ノ葉隠れの里の忍び装束に身を包んだ少年が立っていた。その顔には見覚えがある。幼い兄の姿に様々な想いが込み上がってくるのを押さえ込み、サスケは精一杯この頃の弟を演じた。

「兄さん。任務、終わったの?」

 サスケはこの頃の自分を思い出してそのように振る舞ってみたが、兄のイタチは眉を顰めた。そして隣ではナルトが笑いを堪えて震えている。殴りたい衝動に駆られるがどうにか抑えた。

 イタチはすぐにサスケの変化に気がつき、即座にその顔を掴み眼を覗き込む。

「兄さん……」

 イタチもその眼が何であるか知らないわけではない。

「その眼は隠した方がいい。少しここで待ってくれ」

 イタチはそう言うと瞬身の術で消え、数分も経たないうちに再び姿を現し、サスケの左目を眼帯で被った。薬局まで買いに走ってきたらしい。

「父さんや母さんは知っているのか?」

「うん」

「そうか、サスケ、気をつけて帰ってくるんだぞ」

 イタチは再び姿を消した。

「これからどうする?これから起こるだろう例の事件に関してはダンゾウとオビトとシスイとイタチがキーマンだ」

「うーん。オレたちが動いて、相手がどう出るかだよな。正直、みんな無傷で丸く収めるにはムリがある」

「そもそも、うちはは九喇嘛を操り里を襲った疑いをかけられて監視下に置かれている。マダラを騙るオビトがやったと証明できれば解決するが、今はまだ難しい」

 二人は揃ってうーんと頭を抱えた。

「ま、オレたちはもう何も知らねーガキじゃねーんだ。なんとかなるってばよ」

「ああ、きっと。クーデターについては……オレが親父を説得する」

「ムリすんなよ。一人で考えるとろくなことになんねぇだろ」

 ナルトはきっと、復讐心を一人で抱えてきた頃のことを言っているのだろう。

「それにしてもこの状況、何か原因に思い当たることはあるか?」

「いや。それが全く。何か頭に靄がかかったようなカンジがして思い出せねぇんだ」

「それも同じ、か……」

 結局は分からず終い。ただ、なんとなく、こうなる前は二人でいたような気がする。そんな気がするだけで何の確信もない。

「んじゃ、明日はアカデミーで会おうな」

 話し込んでしまい気づかなかったが、だいぶ日が暮れてきている。

 

 任務を終え、その帰路で愛する弟の目に現れた異変を知った。父母もその事について知っているのであれば、一刻も早く話をするべくイタチはその足を早める。

 帰宅し居間を覗くと、フガクとミコトは真剣な表情で何やら話し込んでいるようだ。イタチの姿を認めると、話に加わるよう手招きする。彼らの言葉を遮り、イタチは言葉を発した。

「サスケの目のことは知っています。厄介なので眼帯をつけました」

「サスケの様子はどうだ?」

「変わったことと言えば、……友ができたようです。……あの、ナルトくんです」

 これまでサスケは人見知りな上に兄のイタチにべったりで、友人などいなかった。それはうちは一族の末裔であり敬遠されてきたことも手伝っている。そんなサスケに友人ができたのは両親にとって喜ばしい事であるが、その相手にも一癖ある。

「ミナトの子か。公にはされていないが……」

 ミナトもナルトも同じ髪の色をしているが、天才肌であった四代目火影・ミナトと落ちこぼれと言われるナルトとではイメージは結び付かないらしい。一方、ミナトとクシナをよく知る二人は、公にされずともナルトがその子であることに気づくだろう。少なからず交流のあった二人の忘形見であるナルトを支えることも考えたが、ナルトは九尾の人柱力。それに対し、うちは一族は九尾を操った容疑がかかっている。それにナルトのことは、三代目火影の猿飛ヒルゼンが積極的に面倒をみているようであり距離を置くほかなかった。

「サスケのあの目、一体何があったんですか?」

「皆目検討つかん。初めに見つけたのは母さんだが」

「ええ、サスケも動揺しているように見えたわ。そうでなければあんなに慌てて鏡を見にいかないでしょう……」

「それにサスケは例の話を知っていた」

 例の話。イタチは目を見開きフガクを見る。反応を観察しているようだった。

「俺は、話していません。弟を……巻き込みたくはありませんから」

 イタチにとってはサスケに一族のクーデターについて話す利点は皆無だ。やはりそうかと、フガクは項垂れ、今まで張り詰めていた空気が緩む。

「……サスケの写輪眼を見たか?」

「いいえ」

「複雑な模様で、あれは……万華鏡写輪眼だった」

 まさか、と開いた口が塞がらない。

 サスケの右目には、六芒星に花弁が開いたような模様の万華鏡写輪眼が開眼していた。写輪眼は三大瞳術の一つであり、その目は強力な幻術を発動でき、あらゆる幻をも見破ることができる、うちは一族の中でも限られた者にしか開眼しない特異体質だ。開眼することで身体能力は格段に上がり、その能力の高さは忍界に広く知られている。イタチはもちろん、フガクもミコトも写輪眼を開眼しているため、写輪眼を開眼する鍵となるものが何かを知っている。それは強い心の痛みだ。あの幼い子がいつの間にその様な苦しみを知ったのかと考えると、心が痛んだ。

ーーガラ

「ただいま」

 その日の夕飯はいつも以上に会話が少なかった。サスケに聞きたいことは色々あったが、食事をしながらできる内容の話でもない。

「ごちそうさまでした」

 そう言って立ちあがろうとするサスケをフガクが制する。

「話がある」

「何?」

「サスケ、写輪眼はいつ開眼した?」

「……昨日?」

 首を傾げるサスケの様子から、本人もよく分かっていないのかとフガクは小さく溜め息をついた。

「私たちの知らないときに、何か苦しいことがあった?」

 これまでの人生で苦しいこと、という一言にはまとめることができないほどに多くのことがあったが、そのまま正直に話したとしても信じてもらえるとは思えない。うまく伝えることさえ難しいだろう。もし、この瞬間を「現実」とするならば、あの日々は「夢」ともいえなくはない。きっと夢の話だと思うだろう。あり得ない空想だと、そう思うはずだ。

「夢、そう、オレは永い夢を見ていた。この里の夢で……一族はクーデターを起こして、オレだけが生き残った。戦争も起こった。多くの人が死んだし、オレも殺していた。そんな夢」

 我ながら良い理由を思い付いたものだ。永い夢というのもあながち間違いではない。あえて詳細は語らなかった。

 夢だというサスケの言い分を全て信じた訳ではなかったが、今はそれ以上の答えは得られないだろう。

「そう……、怖い夢を見たのね」

 ミコトは両手で口元を覆い、目を伏した。サスケが語った「夢」は、このままクーデターを起こすことで起こり得る最悪の事態だった。

「父さんも、母さんも他の一族のみんなも全員死んだ。だから、父さん、今は耐えて欲しい。……オレが大人になったら変えてみせるから」

 たった六才の少年が語るには重すぎる内容だ。

「一族の会合で話をしてみよう。今なら白紙に戻せるかもしれん。……引き留めて悪かったな」

 フガクの説得はどうやら上手くいったようだが、これだけで安心することはできない。一族の中に受け継がれてきた呪いのように燻る憎しみという感情が、如何に厄介なものであるか知っている。

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