翌日、零班は午後二時になるとアカデミー近辺の書店に集合した。それぞれの手には中忍選抜試験の志願書がある。
「よーっし!行くってばよ!」
二度目であってもテンションは上がるらしい。ナルトは先頭をきって歩き始めた。向かうはアカデミーの三〇一号室。その道中には他里を含む多くの下忍の姿があった。進む方向は皆同じ。その教室には三〇一と書いてある。
「そこを通してください!私たちは教室に行かなきゃならないんです!」
少女の声が廊下に響いた。教室の前には二人の少年がと通せんぼをしている。少女の腕には彼らによる痣がある。
「中忍試験は難関だ。それに中忍っていったら部隊の隊長レベルよ。任務の失敗、部下の死亡、それは全て隊長の責任なんだ。それをこんなガキが……。どっちみち受からないものをここでふるいにかけて何が悪い!!」
ナルトたちは離れた場所からその様子を眺めていた。
「全く、手の込んだ幻術だな」
サスケは目にも止まらぬ速さで二枚の手裏剣を投げた。それは途中でかち合い九十度程にカーブし、教室のドアの前に立ちふさがる少年の首の横に刺さった。
ざわついていた空気が一気に冷めたのが分かる。教室の表札の数字が三〇一から二〇一へと変わった。
「……フン」
サスケは術者の集中力を途切れさせることで幻術の結界を破った。その場の下忍たちは手裏剣にだけ目がいってしまい、幻術には気づいていない。結界さえ破れたらここに用はない。三人は本当の三〇一号室へと向かった。
三階の廊下の角を曲がると、そこにはよく見知った顔があった。
「おー。お前ら早いな。まだ二時過ぎたところだぞ……」
「カカシ先生こそ。どうしたんだってばよ」
「やー、大丈夫とは思うけど応援にね。三人とも、頑張れよ」
「……。ナルト、ヒナタ早く行くぞ。そろそろここも騒がしくなる」
「サスケ……先生もちょっとは傷つくもんだよ?」
サスケはカカシを一瞥すると踵を返して重い教室の扉を開けた。そこは百人は裕に入る広さで、まだ誰もいない。
三人は一列目の端に座った。そこはアカデミー時代に三人がよく座っていた位置だった。一次試験の内容は、ナルトとサスケの知っているものと同じだった。試験官も森乃イビキと前回と変わりはない。難易度の高い設問ばかりを集めた計十問のペーパーテストだ。
カンニングを誘う状況で、下忍たちは己の力を駆使して動き始めた。
「ふーむ……」
ナルトは火影となって以来、シカマルやサクラによってある程度以上の基礎学力を付けさせられ、その効果もあってかなんとか一問は解答できた。一方サスケとヒナタは各々写輪眼と白眼を駆使し正答を知っている者を見つけ、正答を記入した。
その間、無様なカンニングをした下忍たちはチームメンバー共々失格となり、おおよそ半数にまで減った。最後の十問目の問は、試験時間最後に発表されることとなっている。
「四十五分が経過した。最後の問いの前にお前らに話しておきたいことがある。この試験を通過したとしても、後の二次試験には更に過酷な試練が待っている。また、この試験を受けたがために、忍としての道を絶たれた者、命を落とした者の数ははかり知れん。本当に生きて帰る自信があるか……?本題に入る。お前ら、第十問目を受けるかどうか、その意思を問う。もし受ける、を選び不正解となれば失格となり今後の中忍選抜試験の受験資格を剥奪する。そのチームメンバーも道連れ失格。受けない、を選べば無論失格。だが、受験資格を失うことはない。この試験は俺がルールだ。受けない者は、手をあげろ」
以前はここでナルトが啖呵を切った。だがナルトは口をつぐんだままだ。少しずつ挙手する者が出、試験者の人数は徐々に減っていく。
ーードゴッ
「しゃーんなろー!!!なめんじゃないわよ!!そんな脅しに屈するものですか!!私は意地でも試験に受かってみせる!!」
ナルトの代わりに啖呵を切ったのはサクラだった。いつの間に磨いたのかその剛腕のせいで、木製の机が割れかかっている。サクラには強くなって認めてもらいたい人がいる。中忍になったら、憧れのあの人に少し近づけるのではないかと考えていた。生徒としてではなく、一人の忍として、女として見てほしい。サクラにとって今回の試験は恋路に他ならなかった。内なるサクラが外に出てしまっている。
ナルトとサスケは他の受験者以上に驚いていた。二人が知るこの頃のサクラは、大勢の注目を浴びるような行動はしない。これが歴史を変えた歪みだというのか。
「兄さん……サクラに何を教えてるんだ……」
彼女にとっての大きな変化はイタチしか考えられない。また、同じ班内に片想いの相手がいないことも、内なるサクラが表出するのを手伝ったのかもしれない。
サクラが啖呵を切った後、その場の受験者の表情が変わった。迷いが晴れた目だ。イビキは嘆息した。
「……受けない者は他にいるか?今のうちだぞ」
空気は変わらない。皆筆記用具を持って問題の発表を待っている。
「いない、ということだな。……では第十問。……ここにいる者は全て合格とする。おめでとう!」
「「「「「「はぁあ?!」」」」」」
拍子抜けした面々から声が上がった。
「俺はお前たちに究極の選択を迫った。忍には避けて通れぬ道もある。僅かな可能性を信じ前に進める者こそ中忍となるに相応しいと、俺は考える」
試験が終了した途端、イビキは試験官らしい態度をやめた。表情も険しかったが今では穏やかだ。ナルトは辺りを見回した。同期の面々やネジや我愛羅の班は残っている。