もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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三次試験・本戦

 その日、うちは家は朝から慌ただしかった。サスケの晴れの日ということで、重箱に弁当のおかずを詰めている。台所にはミコトの他にイタチと白の姿もあった。再不斬は庭で洗濯物を干している。皆がいつもとは違う動きをしている中、フガクはいつも通り支度をして家を出ようとしていた。

「ミコト、サスケの試合がいつあるか分かれば知らせてくれ」

「ええ、わかったわ。いってらっしゃい、あなた」

「ああ、行ってくる」

 ミコトはフガクが居間を後にするのを見届けると、再び手元に視線を戻した。まるで正月を思わせる五段重ねの弁当箱。

「これで、ナルトくんの分もバッチリね」

 ミコトは腰に両手をあてて、満足そうに大きな弁当箱を見下ろした。念のためヒナタやカカシの分もと考えている。

「母さん、そろそろ行ってくる」

 朝食を食べ終えたサスケは、使い終わった食器を流しに持ってきたついでにミコトに声をかけた。

「行ってらっしゃい。母さんも後でお弁当を持っていくから。あ、サスケ、こっち見てちょうだい」

「ん?」

「これを持って応援にいくからね!」

 ミコトの手には大蛇丸が持っていたサスケ応援団扇と色違いのものが二つあった。瞬時にその団扇を持って応援しているミコトとイタチの姿を思い浮かべると、顔がカッと熱くなった。

――天照っ!!

ボッ!

 団扇は突如として出現した黒い炎によって跡形もなく焼き尽くされた。

「ああああ!!」

「ごめん、母さん。……でもこれは譲れない」

 それだけ言うとサスケはスタスタと足早に玄関へと向かった。

「なんてこと……」

 ミコトは大袈裟にその場に倒れた。

「母さん、仕方がないよ。サスケも思春期で難しい年頃なんだ」

「同じ十代の若造がわかったような口を聞くんじゃないわよぉ」

「か、母さん……」

 イタチもふと自分の年齢を思い出し、確かにミコトの言い分も一理あると思った。

「……。ミコトさん、僕、ナルト君に一声かけておきたいのでサスケ君と一緒に先に試験場に行ってもいいですか?」

 良い感じに話を切ってきた白のファインプレーにイタチは心の中で小さくガッツポーズをとった。

「母さん、俺が一緒に行くからいいだろ?」

「……え、ええ、勿論よ。ついでに場所取りもよろしくね。モニターと会場がしっかり見える場所がいいわ」

 イタチと白は再不斬を連れて、先に出かけたサスケの後を追った。近づいてくる三人の気配に気づいてサスケは後ろを振り返る。

「はぁ……」

 恥ずかしいような嬉しいような妙な気持ちだ。待ち合わせの場所に来てみると、ナルトとヒナタはまだ来ていなかった。だが、間もなく二人は姿を現すと、既に三名のギャラリーを背負っているサスケに驚いていた。

「サスケくん、おはよう……」

「サスケ、相変わらず愛されてるなお前」

「……いや。白がお前に会いたいって言うから」

「いやだなあ。僕はサスケ君の応援もしていますよ。ナルト君、お久し振りですね。本選、見てるので頑張ってください。君のことですから、きっと危なげなく終わってしまうんでしょうけれど。ふふっ」

「えっ?!何?!俺の応援なの?!ありがとってばよ!!再不斬も?どーゆー風の吹きまわしだってばよ」

「暇だからな。木ノ葉の生温い中忍試験を見に来てやっただけだ」

 イタチはふと視線を感じ、その方向を見るとそこにはサクラの姿があった。同じ班のメンバーと一緒に何かを話しているが、チラチラと視線を送ってくる。イタチは目を細めて小さく微笑んだ。

「サスケ、少し離れるよ」

「ああ」

 そう言って歩いていく兄を目で追った。その先にはサクラがいる。まだ続いているのかと思うと、微笑ましくて思わず笑みが零れた。

「サスケ、何見てんだってばよ。顔、ニヤけてんぞ」

 貴重な表情だったが、他の奴がサスケのそんな顔を見ようものなら新たなファンが増えそうで思わず肩を叩いた。

 

 試験会場の前には徐々に出場者とその班のメンバーが集まってきていた。しばらくすると、会場前の掲示板に試合の予定表とトーナメント表が貼り出された。

「ゴホッ……、これより、本選出場者は控え室にて待機をお願いします」

「案内するから付いてこい。トーナメント表は中でもゆっくり確認できる」

 ナルトたちは白たちに手を振ってゲンマとハヤテのもとへと駆けていった。

 本選に出場するのは十二名。その内三名は零班で、他九名はサクラ、ネジ、カンクロウ、テマリ、シカマル、シノ、我愛羅、滝隠れのノボリ、草隠れのサヨという顔触れだ。受験者が案内されたのは試験会場の地下にある一室。受験者が全員入っても問題ない広さだ。その部屋の前方にある大きな黒板には、先ほどのものと同じトーナメント表と対戦表が掲示してあり、その前には受験者たちが集まっていた。

「見てくるってばよ!」

 ナルトは受験者の一番前に潜り込んだ。トーナメント表には確かに零班の名前がある。左端にサスケの名前があり、右端にはナルトの名前が。そしてヒナタの名前はその中央付近にあった。

「えーっと?一試合目はサスケと滝隠れのノボリってやつか」

 他の初戦の組み合わせは、シカマルとテマリ、ネジと我愛羅、サクラとヒナタ、シノとカンクロウ、ナルトと草隠れのサヨとなっている。

「サスケは一試合目だってばよ。そしてヒナタは四試合目。俺は最後だった」

「オレの相手は」

「滝隠れのノボリってヤツ」

「聞いたことがないな」

 会場の誰もが異例のシードである零班の会話に耳を傾けていた。聞いたことがないと言われたノボリは対戦相手に情報が知れてないということに安心したと同時に自尊心が傷つけられた。ヒナタがその視線に気付き、声を落とすよう口の前に人差し指を立てる。

「予選では主に体術と暗器を使っていたと思う」

「……そうか」

 サスケはノボリを見た。身長はナルトやサスケよりも高く、年齢も上に見える。その身形には特に特徴的な点は見当たらない。前情報がなくとも実戦で探ればいい。

 控え室には受験者の担当上忍も集まってきている。しかし、零班の担当上忍は相変わらず決まって来るのは遅かった。控え室とはいっても、他の受験者の試合中はずっとここにいなければならないわけではない。試合開始に間に合いさえすれば会場の観客席で試合を観戦できる。一試合目であるサスケは控室に残り、ナルトとヒナタは一足先に観客席へと向かった。

 もう疎らに観客が集まり始めている。モニターの正面にあたる場所にはミコトたちが陣取っていた。ミコトの手から伝令用の鷹が羽ばたく。

 ナルトとヒナタは控え室へ行くのによさそうな席を選び、並んで座った。

「ヒナタ、どんな修行したんだってばよ?」

「うーん……。秘密!だって、もしかしたらナルトくんと戦わなきゃいけないかもしれないでしょ」

 ヒナタとナルトが戦う状況というのは、ヒナタが初戦でサクラを破り、二戦目では我愛羅かネジを破ることでしかあり得ない。ヒナタも彼らの実力は分かっており、変な冗談を言っているわけでない。それはナルトにも伝わった。

「おう。決勝で会おうってばよ!」

 このトーナメントで零班が敗退せずにそのまま勝ち進めば、決勝では三つ巴戦が待っている。トーナメント表を見る限り、決勝戦だけが受験者三名で試合が行われるようだ。

 会場の中央に、ゲンマが立った。

「これより、中忍選抜試験・本選を開始する。基本は一対一。どちらかが先戦闘不能または降参した時点で勝者が決まる。最終戦は各ブロックの勝者三名による三つ巴戦となる。では、一試合目を開始する。滝隠れのノボリ対木ノ葉隠れのうちはサスケ。両者前へ」

 中忍選抜試験の本選は、年に二回の娯楽となっている。一般の人は忍の戦いを実際に見る機会は少く、楽しみとしている人も多い。

 一試合目出場者の名が呼ばれるとモニターに写真と名前が映り、会場に当人たちが姿を現した。会場が一気に熱狂した。二人の間隔は約五メートル。

「では、始め!」

 ゲンマの手が降り下ろされ、試合が始まった。サスケはまずノボリとの距離を取るため後ろに跳ねた。相手の出方を見るつもりだ。

 サスケは涼しい顔をしているが、ノボリの額には汗が伝う。気を抜けばすぐに負ける。圧倒的な力の差。それだけは分かる。ノボリは歯を食いしばり手裏剣を放った。相手との距離がある場合には有効な手だ。サスケは右手の術式から素早く草薙の剣を取り出し手裏剣を弾く。そのまま距離を詰めて剣を振り下ろした。

ーーキン!

 草薙の剣は二本のクナイで受け止められたが、代わりにノボリの両手は塞がった。一方、サスケの左手は空いている。片手ではあるが印が結ばれていた。

ーーゴオッ

 紅蓮の炎が近距離で放たれては堪ったものではない。ノボリは反射的に後方へ退いたが、サスケの追撃が続く。舞をも思わせる無駄のない動きは軽やかに見えるが、その一撃一撃は重い。初めは両腕で受けたり、受け身を取ったりして凌いでいたが反撃する余地もなく押し負け、その首元に草薙の剣の切っ先が触れた。ノボリはその場にへたりこみ両手を挙げた。

「……勝者、うちはサスケ!!」

 うちはの名も手伝って、会場は熱気に湧いた。

「フン」

 サスケは再び草薙の剣を封じた。

 うちは当主の息子が出場すると聞いて、この試合で写輪眼を用いた技を見れると期待していた者も少くはない。期待が外れた肩を落とす者もいたが、写輪眼がなくとも、それも片方の目を眼帯で覆った状態で難無く勝敗を結したところをみると明らかに格が違うと感嘆する者もいた。

「いつの間にあんな剣技を……」

 フガクはサスケの試合を見て驚いていた。

「動きが洗練されていて、とても綺麗ね」

 ミコトもうっとりとした表情で会場を見下ろしていた。

「……そういえばあの団扇はどうしたんだ?作っていただろう」

「そ、それは父さん!」

 今一番触れてはいけない話題だ。慌ててイタチが止めにかかるがもう遅い。

「……サスケに燃やされたわ。天照で」

「ああ、……悪かった」

 フガクは色んなことを瞬時に察した。

「「(なんだこの面白い家族)」」

 いつものうちはさん家の会話は地味に面白い。白と再不斬はいつものように傍聴していた。

 一方、火影席では大蛇丸があの団扇を持って荒ぶっていた。

「サスケくーん!!流石よ!早速ワタシの草薙の剣使ってくれたのね……!」

 

 ナルトとヒナタは不意に背後に気配を感じ、振り返った。

「おー、やってるねぇ」

「カカシ先生?!おっせーってばよ!!サスケの試合なんかもー終わってっし!!」

「や、おまえらのこと信じてるからさ。一戦目なんてヨユーでしょうよ」

「そうだけどさー」

「先生は寂しかったぞ。この一ヶ月な。ヒナタまで離れていってしまうしさ。アスマとか紅は本選に出る部下の指導をするとかって……。俺、そういうお誘いなかったよな」

 カカシの気分はズーンと落ちている。他の観覧者の目もある。ヒナタとナルトは慌ててフォローした。

「せ、先生!中忍試験が終わったら零班のみんなで打ち上げしませんかっ?!」

「そそそれ良いってばよ!センセーのオゴリで!」

 カカシの表情がパッと明るくなった。マスクと額宛のせいではっきりとした表情はあまり分からないが。

「もー奢りでも何でもいいよ。先生楽しみにしてるぞ」

「私も楽しみです!あ、あの、隣空いてますから一緒に試合、見ませんか」

「いいの?じゃーお言葉に甘えて」

 

 二試合目のコールが始まった。

「木ノ葉隠れの奈良シカマル、砂隠れのテマリ、両者前へ」

 彼らはナルトとサスケの期待を裏切ることなく見事な頭脳戦を繰り広げた。シカマルは影縛りの術でテマリを捕獲することに成功したが、チャクラ切れを懸念し自ら白旗を挙げた。結果、勝者はテマリとなったが、彼女にとっては両手を挙げて喜べない試合となった。

「サスケ!どこに行ってたんだってばよ」

「父さんたちのとこだ。一応礼は言っておこうと思って」

「そっか。そういうの大事だよな。こっち来いよ」

「ん」

 ナルトは隣の席に場所取りのために置いていた上着を羽織った。

「サスケ、お疲れさま。良い試合だったな」

「……来てたのか」

「部下の晴れ舞台は見ておかないとね」

「結局観てたのかよ。……ん?サスケ、それ何だってばよ」

 隣に座ったサスケの膝の上には、大きな風呂敷に包まれた箱。

「うちの母さんが皆で昼に食べろって」

「まじか!サンキュってばよ」

「……それより、次の試合が始まる。お前も興味あるだろ」

「ああ」

 これから始まる三試合目は日向一族の天才と言われる日向ネジと、風影の息子で人柱力である我愛羅。その対戦は見物だ。

 同じ日向一族のヒナタも何か思う所があるのか、さっきから黙って誰もいない試合会場を見下ろしている。

「木ノ葉隠れの日向ネジ、砂隠れの我愛羅。両者前へ」

 ゲンマの手が降り下ろされると同時に、ネジは先手必勝と言わんばかりに我愛羅との距離を詰めた。予選で見た我愛羅の能力は遠距離ではまず勝ち目はないとふんでいた。だが、我愛羅の砂の壁はオートだ。並みの速さではその防御を破ることはできない。ならばその壁を壊すまでだ。ネジは立て続けに柔拳を繰り出す。我愛羅は一歩も動いていないにも関わらず、その砂は後ろからの攻撃にも反応した。

「クッ……」

 砂の壁は硬く、破壊するのは難しい。だがネジにはリー程の素早さはない。ネジは後退し距離を取った。

すると、我愛羅は腕を突き出した。周囲の砂がザァと音を立ててネジに向かって行く。砂に捕らえられてしまえば終わりだ。足で逃げるには砂のスピードは速く、我愛羅との距離も近い。ネジは腰を落とし日向独特の構えをし、次の瞬間、チャクラの球体のようなものが現れた。だがそれは球体ではなく、そのように見えるだけだ。高速でチャクラが回転し、向かってくる砂は往なされて地に落ちる。それが日向宗家に伝わる回天と呼ばれる絶対防御だ。我愛羅は表情を変えず、突きだした掌を強く握り込んだ。それに比例し砂の勢いが増す。回天の球ごと砂が飲み込んだ。ネジのチャクラの球はもはや砂の塊にしか見えなくなっていた。

審判であるゲンマはどこで戦闘不能と判断するか、その砂の塊を見ていた。一分以上そのままであれば早めに勝敗を結する方が良いだろう。

ーーパンッ

 弾けるような音がした。砂がネジを中心に放射状に広がっている。辛うじて我愛羅の砂を防ぐ事はできたが、攻撃の一手が思い付かない。ネジは肩で息をしている。このまま試合を続けたとして、チャクラが尽きるのは時間の問題だ。

 我愛羅は再び腕を突き出す。砂がさらさらと動き始めた。

 ネジは両手を挙げた。その表情には悔しさが滲み出ている。敵との相性の悪さに気付き、引き際を早期に判断するかすることも時には必要だ。あの日向一族の天才と言われるネジでさえ、我愛羅には敵わなかった。ヒナタの体が震えている。

「ヒナタ、大丈夫か?震えてんぞ……?」

「大丈夫、ナルトくん。武者震いだから」

 ヒナタの武者震い発言にナルトとサスケは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。ヒナタはスッと立ち上がる。

「行ってきます」

 ヒナタははにかみながらそう言うと、小走りで受験者控え室へと向かった。そんな彼女の後ろ姿を見送りながらサスケがぼそりと呟いた。

「……ヒナタって、あんなだったか?」

「や、ちょっと違う気がするってばよ。もっと、こー、モジモジしてたっていうかさ」

「だよな」

「けどあの笑った顔はどー見てもヒナタだってばよ」

 やがて、試合開始のコールが始まった。

「木ノ葉隠れの春野サクラ、同じく日向ヒナタ。両者前へ」

 始めに動いたのはサクラだった。イタチ仕込みの手裏剣術を皮切りに、地を蹴ってヒナタに殴り込んだ。

 ヒナタは手裏剣を交わしたが、そのままではサクラとぶつかる。サクラの勢いを利用し、いなして点穴を狙う。サクラも日向ネジの試合を観ており柔拳のことは理解しているつもりだった。だが、思っていた以上にヒナタの体術の熟練度は高い。チャクラを練れなくなるのはまずいとサクラは距離を取った。ヒナタはサクラの士気が下がったのを見逃さなかった。

「逃がさない!」

 開いた距離を一気に詰め、掌底を繰り出した。

ーーダン!

 サクラは咄嗟に両腕でガードするも、そのまま会場の壁まで吹き飛んだ。コンクリートに思いっきり叩きつけられた音がした。ヒナタの掌底をまともに受けた両腕は既に赤く腫れている。

「……っ」

 サクラはその場から立ち上がることで精一杯だ。見かねたゲンマはサクラに声をかけた。

「試合はどうする。まだやれるか?」

 サクラの眉は寄せられその痛みに必死に耐えている。しかし試合はまだ終わっていないが、サクラは既に印を結べる状態ではない。

「……棄権、します」

「よし」

 ゲンマは医療班に合図するとサクラから離れ、ヒナタの腕をとった。

「春野サクラ戦闘不能、よって勝者、日向ヒナタ!」

 ヒナタが勝敗を決めた最後の一撃は柔拳ではない。ハナビを連れて本選を見に来ていたヒアシは目を見張った。予選が終わった後の一ヶ月間、ヒナタは日向家の道場を使わずに毎日外へ修行に出掛けていた。ヒナタの雰囲気が少し変わったのには気づいていたが、その理由がこんな形で解ろうとはヒアシも思っていなかった。新しい師ができたのだと悟った。

 声援を受けるヒナタの表情は明るい。そこには確かな自信がみえた。

 腕を損傷したサクラは、救急室で医療班による応急処置を受けていた。手には添え木と氷枕が当てられ寝かされた。左手は三角巾で固定されている。

「綱手様、こちらです!」

 サクラは仕切りの布越しに綱手という名前を聞いて身を起こした。

「入るよ」

「ど、どうぞ!」

 その女性はたしかに、本や雑誌で見た綱手に間違いない。サクラは目を輝かせた。

「腕を診る。痺れは?」

「左手が少しだけ」

「指は動くか?」

「はい」

 サクラはグー、パーと手を動かしてみせた。

「右はヒビくらい入ってそうだな。左は病院でレントゲン検査が必要だ。……ヒナタも心配していたよ」

「え?」

「心根は優しい子だから許してやってくれ」

「そんな……知ってます。それくらい。大人しいと思ってた子にあんなこてんぱんにやられちゃうなんて。修行が足りないなと思いました」

「流石は本選まで残っただけはあるな。その根性は見所がある。……私も見倣うべきかな」

「え?」

「いや、なんでもない。こちらの話だ。……サクラといったか。腕の応急処置は済んでるからこのまま試合を見るか、すぐに病院に行くかは任せるよ」

「あ、診察ありがとうございました!」

 試合には負けたが、あの伝説の三忍と呼ばれる綱手と言葉を交わすことができた。それだけで本選まで頑張った甲斐があったと感じていた。

「入っても良いかな?」

 綱手が去ろうとすると、入れ違いに声が聞こえてきた。その声の主はイタチ。

「ど、どうぞ」

「……綱手様」

 サクラの隣に綱手がいるということは、診察中だったのかもしれない。イタチはペコリと頭を下げて下がろうとした。

「イタチ、診察は終ったよ。……知り合いだったのか?」

「はい。アカデミーの教え子で弟の同級生です。卒業後もたまに修行をみていました」

「つまり、お前の弟子か。……なるほどな。安心しな。サクラの腕は一ヶ月程安静にしたら大丈夫だよ。必ず今日中に病院に連れてきな」

 綱手が去ってしばらくして、サクラはイタチを見上げた。

「先生、負けちゃいました。……せっかく修行も見てもらってたのに、すみません。修行が足りないんだなと思いました。ヒナタは努力家だから……」

「いや、先ずは腕がそう悪くなさそうで安心したよ。良かった。……もう先のことを考えているんだね。サクラさんらしい」

 イタチは微笑を浮かべた。

「さっき綱手様にお会いできて、嬉しくて……。私も立派なくの一になりたいって思ったんです」

「綱手様か……。このまま里に戻って下されば良いんだけれど」

「え?里に帰って来たんじゃ……」

「この本選が終わったら帰ってしまうかもしれない。……綱手様が決めるんだけどね」

「そんな……」

「サクラさんも綱手様に師事したいと思うかい?」

「できることならそうしたいです。綱手様はくノ一の憧れですから」

「そうだろうね。実は今日の相手だったヒナタさんはこの一ヶ月間、綱手様と修行をしていたんだ」

「そうなんですか?!」

「うん。ヒナタさんが努力家だっていうのも一因だけれども、やはり綱手様はすごいね。指導者としても木ノ葉隠れの里に必要な方だ。俺からも残って頂くよう進言する。……サクラさんは大丈夫そうだから、俺は戻るよ」

「あ、私も会場に戻ります。同じ班のヤツも心配してるだろうから」

「じゃあ送ろうか。試合が終わったら迎えに行くから一緒に病院に行こう」

「いいんですか?ありがとうございます」

「うん。綱手様に釘を刺されたしね。それにもし会えたらさっきの事も話したい」

 ヒナタとサクラの試合の後は昼休憩が入った。ヒナタが観客席に戻ると、ナルトとサスケとカカシはもう昼食を食べていた。

「ヒナタ!お疲れってばよ」

「よくやったな」

「昼飯食うぞ」

「うん!」

 ヒナタは元いた席に戻ってミコトお手製の弁当を頬張った。

「そうだ……綱手様がね、サクラさんの腕は大丈夫だって」

「バアちゃんがそう言うんなら大丈夫だってばよ」

「うん。あんな怪我させてしまったの初めてで……」

「ま、中忍試験っていう昇進がかかった試合だからね。そういうのは仕方がない。あまり気に病むなよ」

「はい、ありがとうございます」

 久々に担当上忍らしい事を言ったカカシだった。

 

 一時間後、次の試合が始まった。砂隠れのカンクロウと木ノ葉隠れの油女シノの試合は、相性の善し悪しが勝因に大きく影響した。シノの寄壊蟲がじわじわとカンクロウの扱う傀儡に集まり、傀儡の関節に入り込んだりチャクラの糸を食べたりカンクロウのチャクラを食ったりした。カンクロウの傀儡に毒が塗ってあったため、勝敗が決まった後にシノは倒れた。

「よーっし!やっっっとオレの出番だってばよ!」

 ナルトは粋がって試合に臨んだが、影分身と螺旋丸ですぐに勝敗が決まった。あまりにあっさりした試合であったため、会場は盛り上がりに欠けたがナルトの動きは群を抜いていることは誰の目にも明らかだった。

 これで次の試合に進む顔が出揃った。

「これにて本日の中忍選抜試験を終了する。三日後の試合への出場者は、うちはサスケ、テマリ、我愛羅、日向ヒナタ、油女シノ、うずまきナルトの六名。出場者は次の試合に備えるように」

 観戦者は会場の誘導係の指示に従い徐々に帰路についた。

 

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