まもなく決勝戦が始まる。観客席はこれまでにない程の人々が集まっていた。午前中の試合の騒ぎを聞きつけたということも考えられる。
「これより、決勝戦を開始する。木ノ葉隠れのうちはサスケ対、同じくうずまきナルト。両者前へ。……それでは、始め!」
ゲンマは嫌な予感がし、手を振り下ろしたと同時にその場から退いた。
サスケはすぐに眼帯を外し、須佐能乎を出した。常人の目にも見えるほどの濃度の濃い紫色のチャクラは巨大な鎧武者のような姿だ。その心臓部のあたりにサスケの姿が見える。
一方、ナルトも久々に九喇嘛チャクラを放出した。色はオレンジだが、サスケと同様に密度の濃いチャクラが巨大な狐のような形になり、ナルトを覆った。その狐の尾は九本。観客の中には中腰になりすぐに動けるような体勢をとるものもいた。だがそれはすぐに早計だったと気づく。
武者と狐の形をしたチャクラは、取っ組み合いを始めた。まずはチャクラの消費戦だ。オレンジ色のチャクラは安定しており、暴れだす様子はない。ナルトが九尾を完全にコントロールできていることは火を見るよりも明らかだった。会場内に歓声が上がった。まるでエンターテイメントショーだ。
「……一体何だってんだ」
この試合場の中で一番不憫なのはゲンマだった。彼の背には壁が当たっている。動こうものならいつ巻き添えを食うか知れない。見かねた自来也は彼に上がって来いと合図を送った。審判が退場するのは異例の事態だ。
互いに一進一退。力は互角のようだ。鎧武者も狐もその形を保つことが難しくなってきている。サスケはインドラの矢を、ナルトは尾獣玉を互いに放った。その威力は会場のことを考えて抑えているが、会場の中央でその二つがぶつかり爆発した。
土煙でナルトの姿もサスケの姿も見えない。ゲンマは高見台から目を凝らしていた。
「ったくインドラの矢とかありえねーってばよ!会場壊す気か!?」
「それはこっちのセリフだ!ちょっとは時と場合を考えろウスラトンカチ!」
試験会場の中央には壁ギリギリの大きなクレーターができていた。そしてサスケとナルトはその中央で胸ぐらを掴み合っている。
観客は驚くどころか展開に着いていけていない。もう中忍でも上忍でもなんでもなれるだろうと、皆声には出さずとも内心そう思っているに違いない。
ナルトにやや荒さが目立つが、体術の精度はほぼ互角。トンデモ合戦からシンプルな体術での戦いにシフトし、観客はようやく腰を据えて観戦できるようになった。
ナルトが両手を合わせ印を結ぶ動作をするのが目に入ると、サスケは慌てて止めにかかったがその攻撃を交わされる。それを見たナルトの口角が上がった。
サスケの周囲には約一〇〇体のナルトの影分身が出現した。観客はまたもや驚かされた。影分身はただの影分身とは違い、己のチャクラを等分し、実体を作る術だ。つまり今のナルトのチャクラは一〇〇分の一。普通の忍であれば死ぬレベルだ。分身できたとしても戦えないだろう。故に禁術とされた術だった。
サスケも影分身はできるが、己のチャクラを等分し得るメリットは少ない。サスケは単体でナルトの大群に挑む。サスケ無双が始まった。
四方八方からの攻撃を綺麗に捌き、更に確実な攻撃で影分身の数を減していく。天手力を使ってナルト本体に近づくのも手だが、近づいたところで影分身が消える程のダメージが与えられるかは疑問だ。それに長引くことが考えられるナルトとの試合ではあまり使いたくない手でもある。
「どわっ?!……何すんだってばよ!!」
サスケはナルトの頭に飛び乗り、高く跳んだ。
――火遁・豪龍火の術
空に向かって大玉の火の玉を放った。それは龍となり空高く昇っていく。
「……?」
ナルトとナルトの影分身は謎の行動に首を傾げていた。サスケの口角が上がった。再びひたすらナルトの影分身と戦った。ナルトの影分身が三分の二程度に減った頃、雨粒がナルトの頬に落ちてきた。空には黒い雲が集まっている。雨足が徐々に強くなりゴロゴロという音もしてきた。
「ぐえっ?!」
サスケは草薙の剣を手に、再び頭、いや顔面を踏んで高く飛び上がった。草薙の剣が避雷針の役割をし、サスケの雷のチャクラに付加される。目に見える程の青白い稲妻。ナルトはヤバイと思ったが逃げる暇はない。
――千鳥流し
稲妻がナルトとその影分身を襲い、影分身は一掃された。
「流石はサスケだってばよ」
ナルトは肩で息をして立ち上がる。
「フン。ただの影分身に俺が手こずるはずがないだろ。それよりアレはどうした」
「は?……アレ?……。えーと、こないだ話してたおすすめのエスニック風カップ麺の話?」
「んなわけない。お前が影分身ときたら風遁螺旋手裏剣だろうが」
「まともに当たっておまえがどーにかなったらと思ったら怖くて使えねえってばよ!」
「尾獣玉放ったろ!」
「あれはスサノオがあったからだって!」
「いい加減全力で来い、ナルト!」
そう言ってはみるがナルトは言い出したら聞かない奴だ。それはサスケもよく知っている。そんな言い合いをしながらサスケとナルトは拳をぶつけ合っていた。ナルトが本気出す気がないならこの試合に意味はない。一気に片をつける。
サスケはナルトの腹に蹴りを入れると、一端退いた。
「ってー……。!!」
特徴的な構えをしたサスケの姿が視界に入った。
サスケは本気だ。恐らく、始めの須佐能乎が消失した時点でチャクラの多くを消費しているに違いない。次の一撃で決めるつもりだ。サスケが千鳥ならば、ナルトの技は決まっている。ナルトも右手にチャクラを溜め始めた。チャクラの渦が球状になり、空気をも巻き込み観客にも分かるほどに風が吹いた。
サスケの千鳥も威力が増している。互いに腕を失ったあの日を彷彿とさせる状況だ。
観客も固唾を飲んで見ていた。二人の間にはそれほどの緊張感がある。サスケが動き始めるのと同時にナルトは地を蹴った。先程までは傷つけてしまうかもしれないと恐れていたが、今は不思議と高揚しているのを自覚した。サスケはナルトの進路となるであろう地面にクナイを放った。
「っ?!」
サスケの姿が消えたかと思えば、ナルトの下に現れた。目線の先にはサスケの投げたはずのクナイがあった。すぐに輪廻眼の瞳力であることに気づいたが、遅い。気がつけば身体は宙に浮いていた。続いて上から衝撃が走る。
ーーガッ
「ぐあっ!!」
集中力が途切れてナルトが右手に留めていたチャクラが霧散した。地面に叩きつけられたが、その痛みは予想していたものとは違った。あの時の千鳥はもっと痛かったはずだ。首筋に冷たい物が当たる。
「……参った」
「いや……もう限界だ」
草薙ノ剣の切っ先が、ナルトの首の横に刺さり、隣にサスケが倒れてきた。サスケが最後に行った攻撃は、ただの体術のコンポ。端からナルトに千鳥を向けるつもりなどなかった。
「おい!大丈夫かよ」
ナルトはガバッと上体を起こした。サスケとは違ってナルトにはチャクラならば余るほどある。オレンジ色のチャクラが九喇嘛の頭に模して、サスケを喰らうように被った。
「んっ……」
この時点であれば勝者はナルトだが、ほんの数秒前はサスケが急所を捉えておりサスケの方が勝者といえる。この場合、判断は難しい。ゲンマと自来也は顔を見合わせ、そしてゲンマは頷き高見台から降りた。
一時気を失っていたサスケはすぐに気がつき、ゆっくりと身を起こした。隣にはナルトが立っている。差し伸べられているその手を取り立ち上がった。二人の側まで近づくと、ゲンマは声を上げた。
「勝者、判定不能。よって引き分けとする!」
静寂に包まれていた会場が、一気に歓声に湧いた。
【はかぜの章・あとがきと言い訳】
まずはじめに、ラストバトルはごめんなさい。いつか書き直します。ナルトとサスケの試合ですが、九喇痲とスサノオが出てきちゃった時点でもう会場パーンッ!ってなるのはわかってるんですが、二人とも体は子供ですし、チャクラも最盛期よりも少ないし、加減をしないと周囲を巻き込むってことも計算ずく。ということで、会場はデカイクレーターができてヒビが入るくらいの規模の被害に留まってます。
中忍選抜試験編、すごく悩みました。対戦の組み合わせとか。とりあえず、ヒナタのチートな強さが書けて良かったです。白眼って、医療忍術に応用したらそれこそ鬼に金棒な気がします。ほんとうに。
中忍選抜試験の合間に、片手間のような感覚で綱手を帰服に導きました。ここまで簡単だった理由は、帰ってきて火影になれだとか言われないし、既に自来也も大蛇丸も里に帰服していたからです。それと、きっと大人の姿に扮したサスケとナルトがかっこよかったからってのもあったらいいな。
自来也は、中忍選抜試験を綱手に見せることで上に立ったり指導者の立場になることを考えて欲しいとも思ってたし、単純に、ナルトとサスケの試合を観てもらいたかったってのもあります。文中にまったく表現できてないですね。
少し残念なのは我愛羅と存命の風影様との関係にあまり触れることができなかったところです。この点についてはいずれ加筆修正をするかもしれません。