もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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大蛇丸の盤上

 各地にある大蛇丸のアジトは、今もなお、その力を備えたまま動いている。大蛇丸が木ノ葉隠れの里へ戻る事を決めたのは、今からおよそ六年程前へと遡る。

 

里の入出管理から大蛇丸と自来也の帰還の連絡が入った時には、耳を疑った。そして今、目の前には確かに大蛇丸がいる。

「お久しぶりですね。猿飛先生」

「大蛇丸……まさか刃を交えずとも再び会い見える日が来ようとはな」

「ご託はいいですから、私の処分はどうなるのかしら」

その言いぐさは傲慢極まりないが、処分を確認するあたり、意外ではあるが少なくとも自分の所行が世間一般的にどうなのかということの理解はあるようだった。

「……ふむ、先ずはお前の申し分から聞こう」

「相変わらずですね。……これまでの研究成果を全て渡すわ。それと私の持つ情報も。その代わり、投獄は勘弁して欲しいわね」

「……要求はそれだけか?」

「ええ。……また火影の座だとか言い出すとでも?そんなものはもうどうでも良いのよ。まあ、欲を言えば、アカデミーの教員になりたいという願望はあるのだけれど……」

「は……?」

「ほら……サスケくんはまだアカデミー生でしょう?成長を間近で見届けるにはそこがベストだと思うの」

大蛇丸はうちはサスケに夢中だという自来也からの前情報は本当のようだ。大蛇丸の提出した研究報告書と情報を解析する間、どうしても猶予期間を要する。里にとっても大蛇丸にとっても都合の良い場所はただ一つ。ヒルゼンはすぐにフガクを呼び出した。

「火影様、失礼します」

ヒルゼンの隣に控えている大蛇丸の姿を見たフガクは絶句した。

「フガク、ちと頼みたいことがあってな」

「……は」

「見ての通り、大蛇丸が里に帰還した」

その隣には自来也もいる。相容れぬ仲だという噂もあったがどういうことかと戸惑うばかりだ。

「こやつの持つ研究成果と情報を引換に、里の忍としての復帰を認めることにした。だが解析する間、どうしても身柄を拘束せねばならんのだが……」

嫌な予感がしてきた。

「そこでだ、お前の家でしばらく大蛇丸の監視と衣食住の提供を依頼したい」

何故そうなる。胃痛がする。胃に穴が空きそうだ。うちは一族の目論んでいた反逆の火は起こらなかったものの煙はたった。それを咎めず収めてしまったのはこの人だ。だが、それとこれとは話は別だ。

「畏れながら、何故、私なのですか……?」

「聞きたいか。聞かぬ方が良いかもしれんぞ」

ヒルゼンの表情は至って真面目だ。

「……問題ありません」

「実はな、大蛇丸が帰還した理由の多くはお前の息子、サスケにあるらしい」

「はい?」

「サスケに興味を持ったがために里に帰還することを考えたそうだ」

「ちょ、ちょっと待ってください?!」

「フガクさん、タダで泊めてもらおうだなんて思っていないわ。わたしも家事手伝いくらいできるわよ」

誰もそんな心配はしていない。だが、この流れで断ることは難しい。断って、それが原因で再び大蛇丸が里を抜けようものならうちはの立場がない。それは苦渋の選択だった。二択一を迫られるが選択肢は初めから一つしかないという酷な状況だ。

「……わかりました」

こうして、大蛇丸の軟禁場所は半ば強引にうちは家に決定した。

 

大蛇丸が火影室を出ると、暗部服と面を身につけた忍が立っていた。その男が何を言わずとも、どういう意図かはわかる。

 向かう先は、木ノ葉隠れの里の地下。そこは「根」と呼ばれる里の影に位置する領域。その存在は一部の限られた者しか知らない。長い階段を下りると、扉がある。

――ガチャリ

「お久しぶりね。ダンゾウさん」

その扉の向こうには、顔の大半を包帯で覆った老いた男が椅子に座っていた。

「大蛇丸。どういうことだ?俺に相談もなく里に来るとは……何か、企んでいるのか?」

「そう見えますか?」

「……違うのか」

「さて、どうでしょうね。ところで、わざわざわたしをここに呼んだということは、何か理由があるんでしょう?」

「ああ。……例の件は流れた」

ダンゾウはそう言うと、三角巾に包まれた己の腕に目を落とした。

「……うちはの、ね。知っていますよ。ところで、うちはサスケをご存知?」

「知らぬな」

「そう……。彼は、貴方のずっと探し求めていたものを、持っていましたよ」

大蛇丸の口角が上がった。

「……まさか、そんなはずは。あれには柱間細胞とうちはの血が必要なはずだろう!」

「けれど、うちはサスケはすでに輪廻眼を得ている。それは確か。まだ……後世に残される記録が全て正しいと、お思いですか?」

少なくとも、大蛇丸はそうは思っていない。だから彼は永遠の命を欲した。彼の根元は、知識欲にある。人の道を失うほどに、真理の解明を欲していた。

ダンゾウは黙ったまま、何かを考えていた。彼が言葉を発する気配はない。大蛇丸は彼を横目に踵を返した。

大蛇丸の提出した情報は膨大で、すぐに専門のプロジェクトチームが結成された。そのメンバー構成は内容が内容なだけに、里の中でも屈指の頭脳を有する奈良一族の一部の忍に一任された。解析され視覚化されたデータが次々に火影室へと回され、ヒルゼンはそのデータを机上に広げた。

ヒルゼンはそのアジトの数と場所に関する情報を目の当たりにし、目を疑った。アジトの場所は火の国に留まらず、近隣の国々はもちろん遠方の国々にまで幅を利かせていた。そしてそのアジトの中で暮らす人々の人数は小さな隠れ里程の規模のものだ。自来也もまた、極秘情報のそれをヒルゼンの後ろから見ていた。

「これは……アジトを全て閉鎖すると口で言うのは簡単ですが、これ程の規模……路頭に迷う者が出るくらいならば逸そ木ノ葉の傘下にするのが良いかと」

「うむ。……して、どうだ、大蛇丸?」

「構いませんよ。もし反対する者があれば、それなりの対処をするつもり」

「……すぐにわしの部下を数人、アジトの内部調査に向かわせるが、良いな?」

「ええ。私の方からも一報入れておくわ」

これまでの大蛇丸の所業は、人体実験を初めとする非人道的なものだ。そして彼もまた一流の忍だ。表面上はどうとでも言えるだろう。彼を本当に信頼するにはそれなりの調査が必要だ。そこには手を抜くわけにはいかない。ヒルゼンは、うちはシスイを筆頭に他のメンバーもうちは一族に絞って選抜し、大蛇丸のアジトへ急行させた。

調査にかかった期間は約半年。その調査の間に、ヒルゼンは自来也に火影の座を譲った。シスイからの報告はまた驚くべきものであった。一つ一つのアジトは独立しており、コロニーのようにその限られた空間の中で生活が終始している。そしてその中で暮らす者は実力第一。力の強いものや統率力のある者が、アジトの責任者を名乗っていた。たとえ大蛇丸が突然いなくなったとしても、アジトは存続しうるシステムだ。

また、アジトは孤児院の役割も果たしていた。力はあるが、孤児であるがために行き場を失った者や、大蛇丸を盲信し従う者が大半を締めた。

大蛇丸が木ノ葉隠れの里へ帰属することを決めると、それまで右腕として重用していたカブトという男は霞みと消えた。元来、人に執着しない質も手伝って、大蛇丸は彼が消えたことなど気にも留めていない。

「大蛇丸、調査は済んだ。そこで提案だが……アジトをそのまま、木ノ葉の諜報部兼研究機関としたい。どうだ?」

「そうね。そういう使い道があるのなら、任せるわ」

「それから……お前の発言が奴らに与える影響はでかいからのぉ。たまには面を貸せ」

「命令されるのは気にくわないけれど、まあ、良いわ」

大蛇丸は今の生活に非常に満足している様子だ。いつまでこの機嫌が続くのか、気紛れでなければいいがと、不安が過ることもある。いざという時にはサスケに頼るしかない。それでも一抹の不安が過るが、ナルトであればサスケを動かすことが可能だろう。とてつもなく他力本願な賭けのようだが、自来也にはその時は来ないだろうという根拠のない自信があった。己と同じように、他人との縁を再び結び始めた大蛇丸は確実に変わった。

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