カカシと別れてナルトのアパートへと向かっていると、二人の行く手に和装のおじさんが仁王立ちで立っていた。
ナルトはこっそりサスケの顔色を伺った。眉がピクリと動いたのを見逃さない。二人は急遽、進路方向を九〇度変えた。その男に見覚えはあるが、あまり関わりたくはない。彼がかつてうちは一族、およびイタチを貶めた者、ダンゾウだ。彼なりに里のことを思い、考え動いていたのだろうが、その方法は二人にとって受け入れがたいものだった。今のところ、彼の計画は未遂に終わっているが、あの写輪眼で飾られた気味の悪い腕を思い出すと虫酸が走った。ちなみに大蛇丸とはお友達だったはずだ。
「お、おい、話がある!……って逃げるでない!」
ナルトとサスケは速度を上げたが、さすがは根の重鎮だ。ダンゾウは老体を奮って意地でもついてきている。意外と素早い。サスケはすこぶる機嫌が悪かったが、人気のない路地裏に入るとその足を止めた。
「根の親玉がオレに何の用だ」
「根を知っていたか」
「アンタの所業には苛立ってる」
「……何を知っている?」
サスケは、ダンゾウの包帯に包まれ三角巾に吊られた腕に目を落とした。
「色々とな。その腕……柱間細胞」
「大蛇丸から聞いたか」
「まさか。……奴とはそう懇意ではない」
ダンゾウは包帯を解いて見せた。柱間細胞の義手であったが、そこに写輪眼は付いていない。そして、彼の目も包帯をしていないところから察するに本人の目なのだろう。
「……面白い。見ての通り、腕は義手だ。先日の試合はワシも見た。お主ら二人に興味がある。このような時にする話でもないかもしれないが、……根に来ないか?悪いようにはしない」
「そちらにつく利点が見当たらない。舌を縛られるのは御免被る」
通称、根と呼ばれる里の地下組織に所属する暗部は、ダンゾウの事やその他不利益になる事を話すことができないようにその舌には必ず術が施される。
「それは免除してもいい」
その言葉にサスケは眉をひそめた。
「何が目的だ……」
「それはこちらの台詞だ。お前たちが三忍を連れ戻した事は知っている。アカデミー生の頃に自来也と大蛇丸を、そして先日は綱手までも帰還に導いた。……何がしたい?目的があるのではないか?」
「……さすがは狸爺なだけはあるってばよ。オレの生まれた日に起こったあの事件の真犯人を取っ捕まえて説教垂れたいからに決まってる。オレもサスケも相当迷惑してんだ」
「……何故あの事件のことを。お前たちは産まれて間もないはずだ」
「オレってば、……バカだけど空気は読めるほうだし自分のことはよく分かってるってばよ」
「いや読めてない」
サスケはすかさず口を挟んだ。
「お前に言われたくねーってばよ」
ナルトは既に九尾の力を自覚しているのだろう。それは先日の試合でも伺えた。それに今はそれ以上の事に気づいているようにも見える。
「お前は、自分の両親のことを考えたことはあるか」
「ああ」
「お前の父は……」
「もう知ってる」
「なるほどな。……わしの目的と、お前たちの目的はそう変わらない。それでも、返事は変わらない、か」
「目的は同じでも……オレはそのやり方が気に食わねえ。アンタは他人の事を何とも思ってねえだろ。たしかにオレたちは忍だってばよ。けどな、堪えて忍んで……生きてんだ。そしてそれは木ノ葉の忍だけじゃない。他の忍も皆、同じなんだってばよ」
「……そうか、確かに、わしとお前たちの考え方は違うな。だが、お前たちの言い分にも興味がある。もし、わしの元へ来るなら……その目的への協力は厭わない。約束しよう」
サスケは目を丸くした。あの男はこうも他人の考えを受け入れる男だったろうか。
「……考えさせてくれ」
「サスケ?!」
意外な返事に、ナルトはサスケを振り返った。
「いいだろう。一日だけだ。返事は明日同じ時間にこの場所で聞こう。もし、色好い返事でなければわざわざ来てもらわなくても結構だ」
ナルトとサスケはダンゾウを尻目にその場を後にした。
「見事にフられたのう、ダンゾウ」
「ヒルゼン……。まだ返事待ちだが」
その場で断られなかっただけマシだろう。
「根に所属するとなると、危険を伴う任務も増えるだろう。今の二人にとっては良い刺激になるかもしれんな」
「反対しないのか」
「引退した身のわしがどうこう言うこともない。二人が選んだ道ならば、わしは見守ることしかできん」
「見守る、か……。俺はどうもそれができない質のようだ。耄碌する前に退きたいものだが。若輩者からあのように言われるとは。時代は変わるものだな」
「うむ。いつの世も、次代を切り開くのはいつも若い世代の者たちだだとわしは思う」
ナルトの言葉を反芻する。彼が何を伝えたかったのかは何となく分かる。隣に立つ腐れ縁の男にはあり、自分にはないもの。それを言い当てられたような気がした。だが、甘すぎる火影には、確かに根の存在がなくてはならなかった。しかし、今の里を治める三忍にはそれらが備わっており、根は解体へと舵を切るだろう。
アパートに戻り一息ついたところでナルトが先に口を開いた。
「お前、根の事は嫌ってただろ。どうしたんだってばよ」
「……ダンゾウはオレの手で殺した。だが、今日ヤツと話して、今さらながら、もっと別の方法があったのかもしれないと思った。……いや、違うな。腕に写輪眼がなかったからってのが大きい。それに里では権力がある。ダンゾウの傘下に下ることで自由度が増すのであれば、オレたちにも旨味があるだろう」
「一理あるけどよ、オレはあのワンマンさがあんまし好きくねえの」
「ワンマンさならお前も同じだろう。お前が火影の時のシカマルの根回しと的確なアドバイスがあってなんとかなっていた感は否めない」
「……はい。シカマルってばつくづく有能な奴だってばよ」
ナルトはそんなことを言いながら、ベッドに腰かけた。
「それにしても、色々知っているはずのオレたちの方が後手後手だな」
「こんなはずじゃなかったってばよ……」
「あの三忍がまさか纏まるなんてな。天変地異でも起きそうだ」
「それな」
「……どうする?」
「そうだな。これから動き始めるのは暁だ。前回はこの時期、オレはエロ仙人と修行の旅に出ていた。サスケは……あっ、ごめんってばよ」
「わざとか」
「ダンゾウの話にのってみるか?……なんつって……」
「根のことをよく知っているわけではない。実際に見てみるのもいいかもな。確か……ダンゾウはトビの正体がマダラだと考えていたはずだ。色々と話が早いかもしれない」
「まじか。にしても……おまえ、切り換え早いな」
「ああ、どうにもならない事を考えるよりもこれからの事を考える方が合理的だ」
不安がないと言えば嘘になる。けれど、サスケはそれ以上に家族や自分の一族の皆を信じている。もう憎しみには駆られない。
翌日、二人はあの路地裏へと向かった。