もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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水に溶ける少年

 作戦決行の日の夜、うちは居住区ではそれぞれの家でいかにも虐殺の現場らしい空間演が行われていた。数が数なだけセルフだ。そして異様に自分に似た人形をそれらしい場所に置いた。一見すると自分でも幽体離脱したかのような錯覚を覚える程に精巧な作りだ。計画が決まった時から、大蛇丸とその部下はひたすら徹夜で人形作りに奮闘していたという。

「……わたしたち、どうしてこんな事をしてるのかしら」

 これから長期任務に出かけるだなんて思えない。

 フガクとイタチがあえて言わないようにしていたことを、ミコトがさらりと言ってのけた。一度に動くと気配が読まれやすい。そのため時間差で各々が里を出ることになっている。白と再不斬は最後だ。

 そして翌朝、うちは一族の中でも最も幻術に長けているイタチが、通報を受けてやってきた忍に幻術をかけ、人形を人間だと思わせる算段だ。その日の当直の忍は幻術が不得意な者を選抜し、死体の回収には仕方なく三忍とシズネが部下を使わずにセルフで行う予定だ。綱手が死亡を確認することでより本当らしい演出が可能となっている。まるで寸劇のような策だ。

 再不斬と白は、指定された時間に木ノ葉隠れの里を出た。向かう先は特に決まっていない。目的は暁との接触。そしてイタチとシスイが二人のアシストのため、遠位にて援護することとなっている。

 空はまだ暗い。夜明けまでには時間がある。再不斬と白は、正面の門ではなく、城壁を越えて木ノ葉隠れの里を出た。この先、多くの危険や苦悩が待ち受けているのだろう。縁も縁もないこの里のために自分達は一体何をしているのだろうかと思うこともある。しかし、その答えよりも先に思い浮かぶのは、この里で世話になった人たちの顔。修羅とはいえ、この道は自ら選んだ。もう忍としての生き方に苦悩はない。これは自らの意志なのだから。

 

 一方、イタチとシスイを除くうちは一族の忍は、各々もっとも信頼のおける者とツーマンセルを組んで各地に散在する大蛇丸のアジトを目指している。フガクとミコトは、中でも火の国北部の山裾にある大蛇丸のアジトを目指していた。里から近い場所で最も大きなアジトだ。念のため写輪眼で確認すると、その奥には多くの生体反応がある。アジトは確かに調査が行われたが、その内部は言わばまだ無法地帯だ。行く先に路先案内人はいない。

「これは……普通なら迷うな」

「しばらくここで過ごすというのに不便ね」

 このアジトは天然の洞窟を利用しているようだった。複雑に路が分かれており、写輪眼などの瞳力で全景が把握できなければたちまち迷ってしまうことだろう。フガクは事前調査によって描かれた地図を照らし合わせていた。アジトの主である大蛇丸が里に協力しているのだから、もう少し詳細な情報があってもよいのではないかとも思うが、防犯上あえて残していないのだろう。

 中でも一番広い空間を目指した。地図には何故かヤバい奴がいると書かれている。そのヤバい内容を書いてほしいものだ。フガクはそこにアジトを統率するリーダーのような者がいるとふんだ。

「……ここだな」

フガクは木製の巨大な扉を押し開けると、その空間の中央には、大きな円形の水槽があった。

「ひっ……」

 その水槽の中に人の顔が見え、ミコトは思わず小さく声をあげる。

「これは……」

 フガクは近づきその水槽を見上げた。水槽のガラスはドンドンという音とともに揺れている。しかし割れる気配はない。特殊なチャクラが流れている。それは水槽の中に囚われているもの自体のチャクラを利用したからくりだ。

「あら、子ども……?」

 ミコトは恐る恐るその水槽に触れた。

――ドン!

 水色を帯びた水の中にある紫色の瞳と目が合う。フガクはその場にあったファイルに目を通していた。そして再びその水槽を見上げる。それはほんの少しの好奇心だった。

「少し下がってくれ」

「ええ」

 フガクは背に背負った刀を抜刀し、そのまま水槽へ供給されている電力経路を断つ。

するとすぐにその巨大な水槽は大きな音をたてて割れた。

 それとほぼ同時に、この開けた空間に今まで隠れていた多くの者が姿を現した。

「何て事をしてくれたんだ!ようやくその中に入れたってのに!」

 白い白衣を着た痩せた男が叫んでいた。だが、フガクとミコトはその水槽の中から現れたものから目を離すことができずにいた。

 先程まで液状だったそれは、今や人の子どもの姿へと形を変えている。完全な人の姿となると、少年は一糸纏わぬ姿のままフガクに殴り込んできた。

「おらぁ!!」

 少年の姿から察するに、年齢はサスケと同じくらいだろう。少年が素っ裸なのには戸惑うが、フガクの口角がわずかに上がった。少年の癇癪に付き合うのも一興。

 少年の拳には確かに質量を感じるが、フガクは拳に手応えを感じなかった。少年の体は物理攻撃に強いようで、拳を受けた部分は水へと変化する。ダメージはほとんどないと考えていい。

 フガクは素早く印を結ぶと、勢いよく息を吸い込み頬と腹を膨らませた。

――火遁・豪火球の術!!

 部屋中に熱気が満ちる。火は徐々に小さくなり、その場には干からびた何かが落ちていた。干物のようだが、人の顔に見えなくもない。ミコトは持っていた水筒の口を開けると、慌ててその謎の物体に駆け寄り水筒の水をぶっかけた。すると謎の物体は体積を増す。フガクも水筒をその上でひっくり返した。段々とその生態が分かってくる。どういう経緯でこのアジトで囲われていたのかは分からないが、たしかにこれは研究したくもなると不謹慎ながらフガクはそんなことを考えてしまった。

「水ー!!喉乾いた!」

 まだ干からびているが、少年がジタジタし始めた。だが、フガクに殴りかかってくる気力はないらしい。

「あなた、名前は?わたしはミコトよ」

 ミコトは部屋の端に冷蔵庫を見つけ、未開封のミネラルウォーターを渡した。

「……鬼灯、水月。……水、ありがと」

 水月は照れているのか、真っ直ぐに見てくるミコトから目を逸らしながらもチラチラとミコトの方を見てくる。

 ミコトは目を輝かせた。優等生を絵に描いたような手のかからない長男と、ある日突然えげつない能力を身につけた次男。目の前の少年がとてつもなく可愛い気のある男の子に見えた。この時、ミコトはおそらく母親としての役割の喪失に耐えられなかったのかもしれない。可愛さのあまり、またもや誰のものかもわからないミネラルウォーターを勝手に開け水で餌付けしている。

「あっちのおじさんは夫のフガクっていうのよ」

「おっさん、こんな子ども相手に本気で忍術使ってくるとか卑怯だろ!」

「初めに仕掛けてきたのはお前だ。それに俺はあの水槽からお前を出してやった。少しは礼くらい言ったらどうだ」

「……そっか。……ありがと、おっさん」

 予想よりも素直な反応にフガクは拍子抜けした。そんな三人をよそに、その他大勢は大騒ぎだ。悪鬼の再来だとかいう声も聞こえてきて、フガクは首を傾げた。

「おい。どういうことだ?……そもそも子どもを水槽に入れる経緯がわからん」

「……あいつは私たちの研究の手伝いもせずにイタズラばかりで手をやいていたんだ。命を救ってもらった大蛇丸様の恩も忘れてな」

 他にも声が上がった。殴られたとか蹴られたとかそんな事だ。そして見かねた大蛇丸の右腕だった男があの水槽を作ったらしい。

「……そうか。大蛇丸から聞いているだろうが、俺たちはしばらくここに滞在する。その間、この子の面倒もみよう。これからよろしく頼む」

「は、はあ……もう勝手にしてくれ……。俺たちは所謂インドア派だが、力になれることがあるなら協力はしてやる」

「い、いんどあ……?」

 横文字には疎いフガクだった。こは専ら科学研究に特化したアジトだった。屋内で必要最小限の水のみで作物を育てていたりと、アジト内でほぼ自給自足の生活が行われている。フガクとミコトにはすでに部屋が用意されていた。ベッドは固いが、部屋があるだけでもありがたい。

「フガク、さっきの術、俺にも教えろ!」

 水月は何故かフガクに気を許したようで、フガクの部屋に入り浸っていた。ミコトは夕飯の支度のために台所を探しに出掛けた。水月の特異体質から推測するに、本来のチャクラの性質も水だろう。水月に火遁は難しい。

「お前には火遁よりも水遁のほうが向いてるはずだ。水遁はできるのか?」

 フガクの問いに水月はぶんぶんと首を横に振った。

「そうか……。俺も水遁については詳しくない。ここになら術に関する書くらいありそうなものだが。……探しに行くか」

 暁の情報を集めるという任務があるが、拠点となるこのアジトが自分達にとって本当に安全なのか、先に確認する必要がある。文献があれば調べものをするのにも便利だ。

 フガクは再びざっくりした地図を片手にアジトを散策することにした。手当たり次第に探すよりも人に聞いた方が早いと、フガクは先程の大部屋の隣に隣接する研究室を訪ねた。

「書庫……?ああ、あの部屋にもう一つ戸があっただろ。そこだよ。……何をするんだ?」

「忍術を教えろとせがまれてな」

「教えるのは勝手だけど、忍道とやらもきっちり教えろよ」

「ああ」

「にんどう……?」

 フガクは黙って首を傾げている水月を見下ろした。書庫にはあらゆる蔵書があり、水遁に関する本もすぐに見つかった。

「ほら。字は読めるだろう。まずはこの本で勉強しろ」

「ええ……やだよ」

 水月は思いっきり嫌な顔をしてみせるが、フガクはただ笑みを浮かべるだけだった。

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