もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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なよたけの章
ネジの受難


ヒナタがナルトの背におぶられて帰宅した。思春期の少年少女が何事かと、ヒアシは気を失っている娘の身を引きうける。

「何があったかは知らんが……娘が世話になったな」

ヒアシはそう言いながら両手でヒナタの体を抱える。

「ヒアシのおっちゃん、申し訳ないってばよ……。オレがあんなことを言ったからかも」

「あんなこととは?」

「あ、ああ、あんなことそんなことだってばよ!……ってことでお邪魔しましたーっ!」

「気をつけてな」

 ヒアシはナルトの姿が消えたのを確認すると、ヒナタを寝かせるために彼女の部屋へと向かった。

「ナ……トく……」

 ナルトがヒナタの想い人であることはヒアシも知っている。夢の中でもナルトが出てくるのかと、微笑ましく思うヒアシの口角がわずかに上がる。微笑ましいような寂しいような複雑な気持ちがした。

「こ……もがほし……て……なに」

 ナルトくん、子どもが欲しいって、何?

 ヒナタの途切れ戸切の寝言はヒアシの脳内でうまい具合に補完された。ヒアシのこめかみに青筋が浮いた。だが、ヒアシの白眼の視界にはもうナルトの姿はない。ひっ捕まえて事情を聞かなければと考えていたが、もう遠くにいるのなら仕方がないとヒアシは諦める。

 その翌日、念には念をとヒアシはヒナタの世話役に性教育をさせた。主に、結婚までは純潔を貫けだとかそういった内容だ。ヒナタは訳がわからずその話を聞いていた。

 

 早朝から溜め息をつく彼女の手には、里の医療忍者育成プログラムの初回勉強会の案内があった。その勉強会の内容に不満があるわけではない。ただ、ある考えが頭から離れないだけだ。

 こういう時には誰かに話すのが一番の解決方法だ。話しているうちに自ずと答えが見えてくるものだ。

 この時間はいつも宗家の道場で訓練が行われている。ヒナタは白眼で探った。そして目当ての人物を見つけると、道場へと向かった。

 

 ヒナタが道場に姿を見せると、その場の男たちは癒しが来たと言わんばかりに表情を緩ませた。そんなことに気づきもせず、ヒナタはその目当ての人物を探した。

「ヒナタ様、誰かお探しですか?」

「コウ。お疲れさまです。……ネジ兄さんを探していて」

 コウはヒナタよりもいくらか年上で彼女の身辺警護の任に付くことも多く、ヒナタにとっては信頼のおける人物の一人だ。彼に相談するのも良いかもしれないが、年齢が近い方が好ましいし、相談しているのに分家ということを意識して本音を言ってくれないのも困る。やはり相談相手はネジが適任だ。

「ああ、ネジなら今濡縁に出てますよ。呼んできましょうか?」

「いいえ、ありがとう。わたしが行くから大丈夫」

 ヒナタは軽く頭を下げ、道場の外へと向かった。コウの言うとおり彼はそこにおり、外の風を浴びながら水筒の水を飲んでいた。視界の端にヒナタの姿をとらえると、ネジは水筒の口を締めて彼女に向き直る。

「ヒナタ様、どうされたんですか?このような所で」

「実は……ネジ兄さんに相談したい事があって」

「私に?」

 ネジは怪訝な目でヒナタを見る。つい最近までお互いの仲は最悪だった。だが、先日の道場の件といい中忍試験でのことといい、ネジはヒナタを宗家の嫡子であることと彼女の努力と根性を認めることで、今まで腹の底にあった不満は解消され二人の仲は改善した。また、ヒアシが彼の父であるヒザシの死に対して、改めて頭を下げたという事実も手伝っている。

 目の前に立つ彼女はどういうわけかいつも以上に不安げに俯いている。

「どうされたのですか?」

 ネジが道場の欄干に腰かけると、ヒナタもその隣に腰かけた。

「ネジ兄さんには、信頼のおける同性のご友人がいますか?」

「……あ、ああ」

 ネジはヒナタにそう言われて同じ班のリーを思い浮かべた。何故彼女がその様な事を尋ねるのかはまだ分からない。

「例えば……その人が作ってきたお弁当を食べますか?それも箸であーんとかされたものを。それに容易に腰に手を回しますか?あげくの果てに同居したりしますか?!」

 ヒナタにしては珍しいマシンガントーク。ネジの脳内に色んなリーが現れた。

「ヒナタ様?!一体何が聞きたいんですか?!ちょ、寒イボが出てきたではありませんか!!」

 ネジはそんな事を言いながら鳥肌の立ったブツブツの腕をさする。

「男性同士の友情って、どうなんだろうって思って。……わたし、少し勘違いしていたみたいです」

「勘違い、ですか?」

「はい。そういうのって、男性同士なら当然なんだって思っていました……」

 そのヒナタの発言に、ネジは文字通りヒいて思わずズサッと少し距離を取った。

「それはもう友達とは言えないのでは……」

「彼いわく、かなりの友達らしいです」

「差し出がましいことを言うようですが、ヒナタ様がそんな男たちのことで悩む必要はないのでは?」

 他人は他人だと、そう思えば問題ないし自分に関係ないだろう。

「それはそうなんですけれど……。もし、ネジ兄さんに好きな人がいたとして、その人がそんな感じで他の女性とすごく仲が良かったら、どう思いますか?」

 それはそれで可愛いんじゃないかとネジは思ったが、ヒナタが言いたいことはそういうことではないのだろう。

「つまり、……ヒナタ様の想い人がそんなヤツだということですか?」

 ヒナタは無言で小さく頷いた。

「はあ……。ヒナタ様、あなたならそんな男に固執する必要はないでしょう」

 ヒナタは他の同じ年頃のくノ一と比較すると地味ではあるが、その忍としての実力も容姿もポテンシャルは高く里の男たちの間では密かに人気が高いことをネジは知っていた。普段はヒナタの身辺警護をしているコウが睨みをきかせているため、そういう男性も迂闊に手を出せないでいる。

 確かに、ネジの言うとおりかもしれないとヒナタは押し黙った。

「でも……ここまでこれたのは、その人たちのお陰なんです。ずっと、一緒にいてくれたから……」

 視界がぼやける。そんな彼女の横顔を見ていると心が痛んだ。そんな顔をさせる者たちの存在が恨めしいとも思う。彼女のいう、ずっと一緒にいてくれた人たち、とは一体誰なのか。もはや考えるまでもないのだが。

「ヒナタ様、ちなみに、誰の事を仰ってるんですか?」

「それは……」

 言い淀むが、ネジは間髪を入れずにその人物の名を挙げた。

「ナルト、ですか」

「っ!!」

 彼女の反応は図星だろう。ナルト、ということは、その相手はサスケしかない。彼らの仲はあまり関わったことのないネジにも分かるくらいに大っぴらだった。さすがにヒナタの言うほどの仲だとは思ってもみなかったが。

「やっぱり、いくら考えても、諦めきれないみたいです。ネジ兄さんと話したら少し冷静になれるんじゃないかと思ったけれど、冷静になればなるほど……」

 ずっと、一緒にいたいと思ってしまう。彼の横に他に誰がいようが関係ない。

「ナルトくんとサスケくんはセットだって考えたら、楽かもしれない……」

 ナルトがサスケの事をどう想っていようが、サスケがナルトの事をどう想っていようが関係ない。やっぱり、ナルトのことが好きだ。この気持ちは変わらない。何を知ったとしても。

「はぁ?」

「うん。セット。……ネジ兄さん、ありがとうございます!」

 ヒナタはそう言いながら勢いよく立ち上がった。

「あ、ああ」

 来たときとはうって変わって晴れ晴れとした表情。彼女の出した結論は意味が分からない。ネジはしばらく考えたが、考えれば考えるほど神経が磨り減るだけで、生産性がない。ネジは考えることを放棄した。

 

「とにかく、今は目の前のことに集中しよう」

 ヒナタは自分に言い聞かせるようにそう言うと、勉強会のための支度に取りかかった。

 

 

勉強会は木ノ葉のアカデミーの一室で行われる。案内にあった場所には既に五十人程の忍が集まっていた。

「あっ、ヒナタじゃな~い。こっちこっち」

教室の前方の席は既に埋まっていて、そこにはいのとサクラの姿があった。いのが立ち上がって手を振っている。ヒナタは呼ばれる方へと向かった。

「いのちゃん、ありがとう」

「いいのよ~」

「ヒナタ、少し目が腫れてない……?どうしたの?」

「ううん。ありがとう。大丈夫だよ」

ヒナタもサクラの様子を見てホッと胸を撫で下ろした。顔色は悪くない。彼女なりに再び前を向き始めたのだろう。

ヒナタは、サクラが恋に悩んでいた時に自分が彼女にかけた言葉を思い出した。「これから努力次第できっと素敵なくノ一になれる。イタチ先生が帰ってくるまで、自分磨きに時間をかけるのはどう?イタチ先生が戻ってきた時に本当の恋人同士になれるように、ね」と、彼女には言ったが、イタチはもういない。サクラの心境を考えると、心が痛む。今となっては無責任な言葉だったとも思える。

それに引き換え、ナルトはたとえサスケのことを最も大切に思っていたとしてもこの世にいるのだ。それだけでも良いかもしれない。(いいのか?)

「いのちゃんとサクラちゃんも参加するんだね」

「ふふっ、先生たちが推薦してくれたのよ~。勉強になるだろうって。それより、私たちのこと、呼び捨てで良いわよ。ねえ、サクラ?」

「そうね。ちゃん付けのほうがなんかヒナタってかんじするけど、実はちょっとむず痒い気がしてたのよ。サクラでいいわよ」

 

 それから一ヶ月間、みっちり座学が行われた。任務との関係もあるため、決められた期間に集中しなければ里の任務受注に関わる。座学の期間が終了すると、ヒナタも再び通常任務が割り振られるようになった。

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