再不斬は連絡蛾蟇の口から最新の手配書リストを受けとると、パラパラと捲って自分たちの頁を探した。更新された忍界の手配書には再不斬と白の名が再び載り、罪状の欄には「木ノ葉隠れの里にてうちは一族惨殺」と一行追記されている。
再不斬は岩に腰を下ろし地図を広げる。一所に留まっていてはいずれ追手に捕まる可能性もあるため、行き先を決めなければならない。白もその地図を覗き込んでいた。
「暁に入ると言っても、な……。どこを目指すべきか」
「少なくとも霧隠れの里には近づけませんね」
再不斬と白の身柄は木ノ葉隠れの里が拘束したため、自来也は忍界の手配書から二人の名を外していた。霧隠れの里にはその情報は漏れていないはずだ。しかし、再び彼らの名が載ったのだから追い忍が放たれるだろう。
「そういえば、暁の構成員とされるサソリは砂隠れの出身地で、デイダラは岩隠れ。まずは川の国を抜けて風の国を目指し、土の国へ抜けるのはどうでしょうか。そちらの方面であれば僕たちの顔もあまり知られていないでしょう」
「ああ、東に向かうよりは西に向かったほうが良さそうだ」
数日後、川の国と風の国との国境付近で、複数の気配を察知し白は目を覚ました。見張り再不斬も同じく利き手に首斬り包丁を携え、その闇に気配を察知し耳で周囲の状況を探っている。白は遠距離攻撃で再不斬をサポートするため宵闇に消える。
ーーキン
戦闘の開始を合図するように金属音が響くいた。
数は五人程。人数だけで判断するのであれば劣勢である。月明かりの中で攻めてくるということは、鼻や耳が優れているか特別な目を持っているかだ。逆をいえば、この状況は再不斬にとって有利ともいえる。サイレント・キリングの所以は、聴覚のみで敵の動きを把握することができるところからきている。しかし、まずは敵の正体を確認しなければならない。無用の殺生は業を増やすだけだ。
――秘術・魔境水晶
氷の板を高速で行き交い、敵に近づくと木ノ葉隠れの暗部服と狐の面が確認できた。白の報告を受けた再不斬はどういう事かと戸惑いつつ、白の千本により動きが鈍った二人の忍に狙いを定める。
――水牢の術
二人の忍は水の中に閉じ込められ、残りの忍の士気が明らかに下がったのが分かる。彼らの力が分からない以上、長期戦になれば不利となる可能性は高い。
「白!」
氷の壁から首斬り包丁が投げ渡され、そのまま戦線を離脱する。もう二人の忍びも白の千本で動くことはかなわない。
木ノ葉隠れの里の策略のもと動いているはずなのに、何故木ノ葉隠れの忍から奇襲を仕掛けられるのかは心当たりがあった。『今からあなたたちはうちは一族を虐殺した犯罪者よ。見も心も成りきりなさい』それは、里を出る際に二人を待ち受けていた大蛇丸から言われた最後の言葉だった。彼なら刺客をけしかけ兼ねない。
その行く先で爆発が起こった。敵を振りきれなかったのか、再不斬と白は互いに背を預け次の攻撃に備えた。だが、攻撃は待ってもやってこない。
夜明けが近く周囲は薄暗く、赤い雲が宙に浮いているように見えた。暁の服装の特徴は黒地に赤色の雲模様。その特徴と一致し、再不斬と白は警戒する。
「オレはデイダラ。隣のはサソリ。こっちに戦う気はない。話がしたいだけさ。……まあ、刀は構えたままでもよしとするか。うん」
「話?」
「オレは見た!オレの術と同じくらいクールだったな。うん!……あの術を使うのはどっちだ?」
「あの術……?」
「……あれは氷遁か?」
「氷遁……。それは僕の術です」
「おい。デイダラ、話が逸れている。もう一人のほうは霧隠れの抜け忍、桃地再不斬と見受ける」
「つまりだ、オレたちはアンタらを暁にスカウトしようってわけさ。うん!」
終始、二人に殺気はなかった。その言葉を信頼してもいいだろう。
空は白み始めている。行く先には、金髪の青年とその横には巨大な男の姿があった。その男の後ろからは蠍を思わせる金属のような尾が見えていた。
「なんだ、もう一人は女か……」
「いえ、僕は男ですよ」
「……それでも、まあ、クールなことには変わりはないな。うん」
シスイとイタチは遠方から白と再不斬が暁と接触している様子を見ていた。
「まさかこんなタイミングよく暁の連中と出会うとはな……」
「ええ」
白と再不斬が暁とどのような話をしたかは分からないが、彼らは夜明けと共に金髪の男の出した巨大な鳥のような物に乗って飛び立っていった。こればかりはすぐに後を追うのも難しい。
「彼らを襲った連中はどういう意味でしょうか。あれは確かに木ノ葉隠れの者でした」
「……少なくとも、俺たちに知らされてない何かはあるようだ」
あの木ノ葉隠れの暗部の格好をした忍については、シスイやイタチにも何も知らされていない。
このあたりの地域には突然の豪雨がよくある。雨を凌ぐために洞窟に身を寄せていた。移動できない今、デイダラは用事を片付けようと岩の上に胡座をかいて印を組んだ。意識はどこかに飛んでいるようで、微動だにしない。
「あんたらをリーダーに紹介した。歓迎するそうだ。良かったな、うん」
白はちらりと再不斬の顔を見た。これが彼らの連絡手段。どんなカラクリかは謎だが、効率が良いのは明らかだ。暁はツーマンセルで行動しているが、それにも関わらず連繋がとれているのにも頷ける。
その男は地面からまるで生え出る草のように現れた。それまでまったく気配はなかった。その男の腕には暁の外套が二着分ある。黒地に赤い雲の描かれた外套。それは暁の一員であることを示す。
「これで暁の頭数も揃ったね」
「アイツモ、アマイナ。仮ニモ木ノ葉ニイタ連中ヲコウモ簡単ニ引キ入レルトハ」
それを持ってきたのは植物のような外見の男。その肌の色は奇妙で右は黒く左は白い。それぞれ違う人格があるようで、まるで言い争っているようにも見える。
それから髪の色は緑で瞳は黄色。これまで多くの忍を見てきたつもりだが、ここまで珍妙な外見をした者を見るのは初めてだった。
「君たちのだよ」
白と再不斬は、その奇妙な男から差し出された外套を受けとると、すぐに羽織った。その間にデイダラもその男から何かを受け取っていた。
「どっちが良い?」
デイダラが差し出した手のひらの上には、空と朱という漢字が掘られた指輪がある。
「これは……」
「お前らは今日から暁の一員だ。その証しのようなもんだ。うん」
「……裏切り者には容赦はしない。覚えておけ」
今まで黙っていたサソリがそう言った。
「ええ。もちろんです」
「で、どっちにするんだ?」
再不斬はデイダラの手のひらから指輪をもぎ取ると、そのうちの一つを白に渡した。
「ほら」
その指輪には朱と書かれている。
「決まったね。再不斬は空、白は朱だ。朱は右手の薬指、空は左手の小指に着けてよ」
「……言われずとも小指にしか入らねえ」
「これで君たちも暁の一員だ」
「……黒い方も言っていたが、いいのか?簡単に信用して」
「はぁ?……おまえら木ノ葉の暗部にやられてたろ?それが何よりの証拠だ。うん」
「俺ハ信用デキナイガ、一応上ガ決メタ事ダカラナ」
「そうか。……これを見ても信用ならないか?」
再不斬は鞄から小さな透明の容器を取り出した。容器の中に浮かぶのは、一対の眼球。その瞳の色は赤く、巴模様が浮かんでいる。
「これが何かわかるか?」
「わかるよ。ふぅん……上にも伝えておく」
男は再び地面に溶けるようにして姿を消した。男が術を発動するような素振りはなく、白は血継限界の一種かなどと考えていた。彼も暁の外套を着ているということは、彼もその一員ということだ。一見しただけではその力は測り知れない。分かることは、厄介な能力の持ち主ということだけだ。それに彼は再不斬と白を信用しているとは言いがたい。これからは更に不用意な発言には気を付けなければならない。いつどこで彼が見ているか知れない。
白と再不斬が担当するのは、雲隠れの里付近となった。この辺りにはまだメンバーが割り振られていなかったらしい。雲隠れの里は遠い。そこまでデイダラが送ろうとかって出たが、空は生憎雨模様で、四人はまだ洞窟でじっと身を潜めていた。
この暁という組織が何なのか。何を目的として集まっているのか。何を信念に集っているのか。その幹はまだ見えそうで見えない。
「……さっきから何だ。何か聞きたいことでもあるのか?」
「デイダラさんって、優しいですね。きっとお強いのでしょうけれど、S級犯罪者とはとても思えなくて、つい」
「おまえだって一緒だろう。ってかお前の方がそう見えないぞ!うん!」
「弟分ができてそんなに嬉しいか?今まで一番下だったからな」
「旦那!」
「そうなんですか。デイダラさんはおいくつですか?僕は十六です」
「十七だ!」
「わあ、だったら本当に先輩ですね。改めてよろしくお願いします」
「おう」
表向きというか、暁に貼られたレッテルはS級犯罪者集団だが、その連中がまさかこんな会話をしているとは誰も思わないだろう。
「デイダラさんは、何故里を抜けたんですか?話では禁術を奪ったとか……」
「大方それで合ってる。岩隠れの里に伝わる禁術を奪って逃げた。何故かって?……それはオイラの美学の問題だ」
「美学、ですか」
白はぽかんとして呟いた。まさか里抜けの理由を聞いて美学という言葉が返ってくるとは思わなかった。
「これを言ったら多分旦那は怒るだろうけどよ、オイラにとっての芸術は、儚く散りゆく一瞬の美だ。だからこの爆遁はオイラにとって必要不可欠。うん」
そう語るデイダラはいつになく輝いて見える。そんな彼をサソリはジロリと睨んだ。
「いや、芸術ってのは後々まで残っていくもの……永久の美こそが芸術だ。……デイダラ、てめーはオレを怒らせてェのか」
「だから、さっき多分怒るだろーけどって言っただろが、うん?!」
「白、てめーはどう思う?」
「どうなんだ?」
デイダラとサソリの芸術論争が激化しているなと他人事のように見ていた白に、思わぬ質問が投げ掛けられた。一瞬の美か、永久の美か。選べというのか。白は目を泳がせた。
「……美学とか芸術とか僕にはよくわかりません。ですが……綺麗だと思うものは、あります」
「うんうん。そうだな。美しい、まずはそう感じることがまず大切だ。うん」
「で、その美しいと思うものは何だ」
目の前に座っている白い頬をした少年は、美しさに煩く芸術に造詣が深い彼らの目にも美しく見える。サソリに至っては殺して傀儡にしたいという欲求が出てくる程に。そんな彼が美しいというモノには興味がある。
「雪と……」
「うんうん。雪!あれもいずれ溶けてなくなる。一瞬の美と言えるな。うん」
「だからてめーはオレを怒らせてえのか?!……で、それと何だ?」
「再不斬さんの身体です」
白は再不斬を目標に体作りをしてるが、いくら頑張っても筋肉は付きづらいし腹筋がくっきり割れるなんてこともない。一方再不斬は里を抜ける前も今もその計算されたかのように付いた美しい筋肉をキープしている。
「「……。」」
デイダラもサソリも一気に冷めた。
「白、そういうのは誤解を招くからよせと……」
「はい、再不斬さん。冗談ですよ」
「そういやさっき、ゼツに見せてたヤツ、何だ?」
「ゼツ?……ああ」
再不斬は写輪眼の眼球の入った容器をデイダラに向けて放った。
「目……?お前、エグいな」
デイダラはそんなことを言いながら、容器に入ったそれを食い入るように見てる。その眼球は義眼でもなく本物だ。ただし、誰かの目ではなく、大蛇丸の手により作られた移植用の眼球だ。うちはの血継限界である写輪眼の力は底知れないが、多用すると視力が低下し失明することもあるという唯一の欠点がある。サスケの協力もあり、大蛇丸はその欠点を克服するための研究に今も密かに取り組んでいる。ちなみにその眼球はイタチの細胞から作ったものだ。
血継限界には多くの種類があるが、中でも瞳術は貴重で三大瞳術のうち二つの瞳術をもつ一族が木ノ葉隠れの里に存在する。デイダラも写輪眼についての知識はあったが、実際に目にするのは初めてだった。
「……皆、殺したのか?」
「いや。一人残っている」
「名は?」
再不斬は一瞬躊躇したが、いずれ知れることだと口を開いた。
「うちはサスケ。……まだガキだ。白よりも小さい」
「そうか」
「どうした?」
「いや、そいつに少し興味がある。……形だけ美しくてもその能力に芸術性がなければオレの方が上だ」
爆発こそ芸術の極みだと思っていたが、その血継限界の赤い目に芸術性を感じた。