もし二人であの頃に戻れたなら(完?)   作:冬乃菊

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五尾の人柱力救出

 岩隠れの里の外れには、まさに不毛の地とも言えるような、ただ巨大な岩だけが佇む荒れた大地があった。

 赤糸縅の鎧を身に纏った屈強な男は、ただならぬ気配を察知した。そしてその身に封印された獣も、彼の脳に警報を鳴らす。

 地面に映る岩の影の形が変わり、ハンは太陽の昇る空を見上げた。逆行でその表情は解らないが、明らかな悪意を感じた。

「よぉ!久しぶりだな。うん」

 その口癖は、よく覚えている。かつて任務で行動を共にしたこともある、あの少年の口癖。もう二度と会うことはないだろうと、いや、彼の記憶は無意識に抹消していた。

「……デイダラか」

 抹消していた記憶も、本人が目の前にいるのなら思い出さないわけにはいかない。

「アンタ、こんな里の隅に追いやられてんのか?」

「これは俺の意志だ」

「フン!どうだかな」

「お前こそ、今さらこの里に何の用だ。もうこの地を踏むことはないと考えていたが」

 デイダラの両手の掌が、モゴモゴと動いている。

「オイラもそのつもりはなかったんだが、団体行動ってやつ?今日はアンタの中の五尾に用がある」

「それが暁の狙いか」

 ハンは、腰から年期の入った煙玉を取り出すと、背後に向かって投げた。赤い煙が上空へと上っていく。それは侵入者の発見時や、助けを求める時に出す合図だった。デイダラもその用途は理解している。デイダラの手のひらの口から、無数の小さな鳥のような物質が広範囲に放たれる。それに対してハンは印を結び、大きく空気を腹に溜め込み一気に吹き出した。広範囲に高温の水蒸気が放たれる。デイダラの爆弾は水蒸気により爆発の威力が薄れ辺りでは小さな爆発が起こった。デイダラはにやりと不敵に笑う。一方、ハンの表情は変わらない。デイダラと共に現れたもう一人の忍は、巨大な岩の上から一歩も動こうとしない。その姿から、手配書にあったサソリという忍であることは容易にわかる。人から遠くかけ離れているその外観が特徴だ。

 彼の動向に注意を払いながら、デイダラを追い詰める他ない。デイダラもサソリも、データによれば中・遠距離タイプ。ハンは、岩隠れの里からの増援を待っていた。ハンは確かに手練れだが、今対面している忍も手練れだ。そして数的にも一対二と明らかに不利。そしてハンが火と水の性質をあわせ持つと知ってのことだろう。デイダラの性質は土。性質においても不利だ。

 

 

 その頃、岩隠れの里でも動きがあった。

「土影様!北の方角から赤い狼煙が!」

土影・オオノキはその報せを受け、腕を組んで小さく唸った。こうなることは事前に分かっていた。この数ヵ月、里の忍が重症を負って帰ってきたかと思えば、その衣服には必ず、子細は違えど同じ内容が書かれたものが入っていた。

「中忍以上の忍四名で、その狼煙の座標に向かえ!状況判断し、偵察だけでも構わん!必要ならまた狼煙を上げろ!」

「はっ!」

 オオノキの命を受けた側近の忍は、すぐにフォーマンセルを組んで彼らを向かわせた。そのうち一人は遠方でも情報のやり取りができる忍を選出した。

 土影の執務室には、オオノキのみとなった。現五影の中でも彼は、最高齢でありながら今だ現役を誇る手練れだ。ドングリのように丸い目には、平時のような覇気はなく揺れていた。彼の脳裏には様々な憶測が過る。

「っ!」

 今まで気配は感じなかった。だが、今はすぐ背後に何者かが立っている。

――ゴゴゴ……

 遠くから、地響きが聞こえてきた。そして窓の外からは、慌てふためく人々の声が聞こえてくる。何が起こったかは、報せがなくともある程度察することができた。

「五尾は我々が貰い受ける。もし、抗うなら……次はここ、里の中心部だ」

 まだ被害の規模は分からないが、もしこの里の中央が同様の攻撃を受ければ甚大な被害が出るだろう。オオノキの額にはじわりと汗が滲んだ。

 背後に立つ者が何者かは分からない。そして、その声にも覚えはない。フッと、気配が消えた。

――バンッ!!

 それとほぼ同時に、勢いよく執務室の扉が開いた。

「土影様!今度は南東の方角にでっかい穴ができてるダニ!」

 オオノキと同じ大きな団子鼻は、オオノキの血縁であることを連想させるが、彼はその扉をようやく通れる程の図体で縦にも横にもでかい。そんな彼を押しやり、黒髪のショートヘアーのくノ一が顔を出した。

「ジジイ、どうする!」

「里のモンを避難させるんじゃ。早急にな!」

 オオノキがそう言い放つと、彼らは緊張した面持ちで頷きすぐにこの場から立ち去った。彼らの手腕は信頼している。統率力も全体を見通す力もある。仕事の振り方もわきまえている。

 オオノキは伝令役の忍を呼びつけた。

「今、赤い狼煙が上がった北の座標に向かっとる。やつらを止るんじゃ!ムダに死ぬ必要はない。それが終われば、放浪中の老紫を探せ。そして一所に身を止めるなと伝えるんじゃ!」

「……はっ」

 忍はすぐに姿を消した。

 オオノキは窓の外を見た。多くの人が一つの流れとなって里の避難所へと向かっている。里に残っていた忍が誘導していた。赤ツチや黒ツチの指示だろう。避難するのは問題ないようだ。

 奴らの力は知っている。今までその力を利用していただけに、いざ、このように彼らが敵に回るとなると頭が痛い。今回の目的は分かっている。彼らの目的は五尾。オオノキは、つい先日受け取った木ノ葉隠れの里からの書状の内容を思い返す。

 その書状には、暁は尾獣を集め始めているため隠れ里同士で手を組み助け合うべきだと、同盟を組む案が書かれていた。隠れ里の間には、これまでの遺恨もプライドもある。オオノキは机上の綺麗事のようにそう簡単にはいくものかとその書状を破り捨てた。

 木ノ葉隠れの里は先手を打とうとしていたのか?だが、どうやって?暁の力は知っていたが、これ程までとは知らなかった。彼らは尾獣を集めている。その目的は何だ?集めた所で、封印して使役するにはそれなりの術が必要だ。暁にはその術があるのか?多くの疑問が湧いた。

 

 まだ増援は来ない。そして、南東の方角に土煙が見えた。それと大きな地響き。このタイミングでの出来事だ。聞かずとも、彼らの仕業であることは容易に想像できる。増援は恐らくこれからも、来ないだろう。

 突如、ハンの移動速度が上がった。デイダラの放った爆弾に触れて爆発するよりも速く、空を駆けた。彼は赤色縅の鎧を身に纏っていたはず。だが彼の下半身はまるで白い馬のように見える。五本の白い尾。それは、彼がまさに五尾の人柱力であることを物語っている。そしてその蹄の周りには蒸気化したチャクラがある。移動速度が上昇したのは馬の脚力と沸遁のチャクラによるものだ。

「……これが噂に聞く部分尾獣化ってヤツだな!うん!」

 部分尾獣化により、速度も打撃力も数段上昇した上に空も駆けることができ、機動力も上昇した。だが、打撃はサソリのチャクラの糸や網により緩衝され、更には刃に塗られていた毒により身体が痺れ、明らかに戦況はハンにとって不利な方へと傾いていった。

 

 彼の動きを鈍らせている理由は、他にもある。今ここで彼らに勝って逃げ仰せたところで、里には歓迎されないだろう。里にとって不利益なことが起こる可能性もある。迷いがあった。それも暁の策略の一部だ。

「オイラは知ってる。あんたがどれだけ義理がたい忍かってことをな。同時にそれは弱さだ」

 デイダラはかつて、生まれ育ったこの岩隠れの里との関係を自ら断ち切った。

「俺は、お前にもっと大切なものを教えたつもりだったが……どうやら、伝わっていなかったようだな」

 サソリのチャクラの糸に足をとられ、捕獲用の傀儡に捕らえられ、ハンは地に伏した。

「あんたは人柱力として里から疎まれいた。そんな所に居てやる必要はないだろ?断ち切れないのは、やっぱり弱さだ。うん」

 デイダラは冷ややかに、そして勝ち気にそう言った。このまだ幼い青年には、彼よりも少し長く生きた人間として言ってやりたいことは沢山ある。だが、今の彼にそれを伝えても、かつてと同じく、伝わらないだろう。今は、彼がいつか気づくことを祈るしかない。ハンは唇を噛んだ。

 

 その頃、木ノ葉隠れの里のナルトの腹の中にいる五尾・穆王はいつになく騒々しく、ナルトは、忍者アカデミーの隅にあるウサギ小屋の掃除をしているサスケをよそに、その近くにある大木の根本に腰を下ろして瞑想をしていた。そんなナルトの様子から、尾獣に異変が起こったことは明らかだ。ジャージ姿のサスケは、箒を動かしながら時々、小屋の外にいるナルトを見ていた。ナルトは朝からずっとあの調子で、そろそろ輪廻眼で穆王の人柱力のいる座標に跳ぶなどと言い出しそうだ。

 最近のナルトとサスケの仕事は、忍者アカデミーの用務員という雑用だ。今まで担当していた男性は高齢で、仕事中に腰を痛めてしまい床に臥せっているという。

 この春、このウサギ小屋で新たな命が誕生した。子ウサギはすくすくと成長し、柔らかいものなら野菜も食べれるようになった。子ウサギは真綿のようにふかふかで、丸っこくて、小さくて可愛い。数匹の子ウサギは餌を求めてサスケの足元に集まってきた。知らず頬も弛む。その中でも一際真っ白な子ウサギを掴んでみた。思った通り、ほわほわしている。飼い慣らされている子ウサギには危機感という野生の本能もないのか、少しも逃げようとはしない。無抵抗にも程があると、サスケはくすりと微笑した。

「サスケ、子ウサギと戯れてる場合じゃないってばよ!すぐに輪廻眼でハンっていうヤツの所に跳ぶぞ」

「ああ、わかった。……別に好きでウサギ小屋にいるわけじゃない」

 パッと子ウサギから手を離すと、その子ウサギは柔らかいキャベツを加えて一生懸命に巣穴へと戻っていった。

「ウサ公の世話はまた明日、な?」

「オイ、勝手に和むな」

「いや、だってさ、あん頃の血も涙もない雰囲気でスッゲー怖かったサスケちゃんのことを思い出したらよぅ……オレってば、泣けてくる……」

「は?」

「あの頃はさ、子ウサギなんか抱いて微笑んじゃってるサスケちゃん、こんなん見れるなんて全く思ってもみなかったってばよ……」

「うぜぇ」

「オレってば……オレってば!」

 そんな彼らの姿を遠くから見ている者がいた。忍者アカデミーの教師、うみのイルカだ。どういうワケか突然、数日前から用務員としてアカデミーに来るようになった二人の動向が気になり、訪ねてみたところだった。そして彼が目撃したのは、何故か感激して泣いているナルトと、怒っているようで本気の怒り方ではないサスケとのやりとり。とにかく距離が近い。二人の関係についてはしばしば噂されているが、まさかここまでとは思わず、イルカは一旦気を落ち着かせようと木の幹に背をもたれた。

「いいからさっさと行くぞ」

「お、おう!」

 サスケの輪廻眼の瞳力により、空間が割れた。互いに一体ずつの影分身を残し、サスケはナルトの手をひいて黒い穴へと飛び込んだ。そして、再びイルカが彼らに向き直った頃には、そこにはもうナルトとサスケの影分身だけしかいなかった。もちろん、イルカには目の前の二人が影分身だと分かるわけもない。

「お前ら!!こんな朝っぱらから何ケンカしてるんだ!」

「はっ!イルカ先生いつの間に?」

「別に喧嘩はしていない。何か用か」

「ゴホン。お前たちに頼みたいことがあって来た」

「うんうん、そんで?何だってばよ」

「これからアカデミーの高学年のクラスで組手の授業がある。よければ生徒の相手になってくれないか?」

「んー……用務員の仕事は?」

「火影様のお墨付きだ。問題ない」

「何でもアリだな」

「俺から言わせてみれば、普段のお前らの方がよっぽど何でもアリだ」

「なははは!」

「一応自覚はある」

「そうか?……自覚があるのなら少し安心した」

 

 輪廻眼の瞳力により開いた空間を潜り抜け、ナルトとサスケの本体は暗い場所へとたどり着いた。視覚だけに頼れば、輪廻眼の空間を通り抜けたのかまだその最中にいるのか、判断できない程に暗い。ただ、この場には腐臭が立ち込めており、それが、ここが目的の場所であることを示していた。

 こんな場所に、五尾の人柱力がいるのだろうか。ナルトへのシグナルは、ハンが尾獣を抜かれて暗い場所へと放り込まれた所で途切れている。ハンの中に残る五尾・穆王のチャクラが最後までナルトへとシグナルを送り続けていた。

――チチチ……

 ナルトの隣から、鳥の鳴くような声が聞こえてきた。サスケの右手には雷の属性を帯びたチャクラがあり、それが辺りを照らした。すると、頭上には巨大な繭のようなものが数えきれない程に垂れ下がっている。中でも、一際大きい繭に目が止まった。ナルトが駆け出すと、サスケもその後に続く。

 風の性質のチャクラを帯びたクナイでその白い繭を裂くと、ドサリと重いものが雪崩かかってきた。冷たい甲冑が膚に触れる。彼の生命はまだ残っている。本当に微々たるものだが。

「サスケ!」

「ああ、わかっている」

 再び空間が開いた。ナルトは赤糸縅の甲冑を身に纏った大柄の男を肩に担ぎ、サスケの手をとった。

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