サスケが繋いだ空間は、ナルトのアパートだった。ここなら誰かの目を気にする必要はないし、必要なものは全てここにある。一刻も早く、ハンに尾獣のチャクラを封印し直さなければならない。
うずまき一族に伝わる封印術は、一通り習得した。中でも四代目火影が自分に施した四象封印。ナルトの腹にはこの封印が二重に施されているが、今ナルトの中にある穆王のチャクラを封印するだけであれば一つの四象封印のみで十分だ。二重にすると安定感は増すが、尾獣チャクラを使用できる量が限られる。
ナルトは書棚から大きな巻物を取りだしつつ、ハンの甲冑を手早く解いているサスケに目配せすると、こくりと小さく頷き、その姿は消えた。再び視線を戻して床に転がした巻物の上に両手をつく。四つの巻物が出現し、それを素早くひっつかむとハンの横たわるベッドの上に投げた。ハンを中心に四方に巻物が並んだ。そのうち一つの巻物の前にどかりと胡座をかくと、パンと音を立て合掌し目に見える程のチャクラをその手に溜める。そして巻物の白い部分にその手を勢い良く押し込んだ。一つ一つの文字の縁にオレンジ色のチャクラが宿り、シュルシュルと蛇のようにハンの臍部へと流れ込んだ。巻物に書かれていた文字はすぐになくなった。白紙になった巻物にはもう用はない。素早く飛び上がるように立ち上がると、ドカリとベッドの上に膝をついて再び手にチャクラを溜める。今度はハンの腹にその手を置いた。封印術のあとは微調整だ。封印術式の中に五尾・穆王のチャクラとナルトのチャクラを、極力ハンのチャクラに変換して流し込むという、繊細な荒業だ。
その腹に手のひらを置いているとその呼吸を感じることができ、まだ生きていることを確かめる。
一方サスケは、ダンゾウに一報入れた後すぐに医療忍術に長けた者を探した。何人かの候補者が頭に浮かべるが、その中でも最も信頼できる者は考えるまでもない。
木ノ葉隠れの里の中でも、一際大きな門構えを誇る一族。日向一族宗家の門前に立った。広範囲の感知に長けている一族であるため、門の前に誰か立っていればしばらくすると誰かが対応しに来る。
「あなたは、ヒナタ様の……」
門を開けたのは、ヒナタよりもいくつか年上に見える日向一族の女性だった。サスケを見るなり、少し驚いたように見えたがその眼差しはやや鋭いものへと変わった。
「ヒナタはいるか?いれば話がしたい。……大切な話だ」
その女性はヒナタの世話係のような存在で、サスケのこともよく聞いておりヒナタの恋敵と認識していた。
「ヒナタ様にはあなたに話すことなどありません」
「いや、話したいのはオレだ」
「ヒナタ様は今席を外しております」
「そうか。本当かどうか、聞かずとも知る方法がある」
「っ!」
サスケの右目は黒いままだ。それでも一瞬、背筋が凍るほどの殺気を感じた。
焦りからか小さく舌打ちすると、サスケは先程までの剣幕が嘘であったかのようにくるりと背を向けその場を去ろうとした。
「サスケくん……?!」
か細い声が聞こえたような気がして、サスケは再び日向一族宗家の門の方へ向き直った。門の奥からぱたぱた駆けてくる少女の姿が見えた。
日向一族の女性は、チラリと気まずそうにサスケの顔を覗き見ると、後ろからやってきたヒナタに小さく頭を垂れてその場を去った。
「ヒナタ。今日は休暇か?至急、ナルトの家に来てくれ」
「今から?」
日はまだ高いが、あまりにも急すぎる。そして彼の口調がいつになく早口であることに違和感を覚えた。何があったかは知れないが、急を要していることは確かだろう。
「ああ。お前の医療忍術が必要だ」
その言葉を聞いたヒナタの顔からサッと血の気が引いた。彼女が考えていることは手に取るように分かる。
「ナルトじゃない。別の忍だ。とにかく来てくれ」
「わ、わかった!」
負傷者がナルトではないとわかり、ヒナタは胸をなで下ろす。
ナルトのアパートへ向かう途中、ヒナタは今ではないと分かっていながら堪らずサスケに声をかけた。
「この前の話。……サスケくん、ありがとう。……まだ、ナルトくんの事、好きでいていいんだって思えたの。ナルトくんとサスケくんの間には何か……大切なものがあるのはわかっているんだけど、やっぱりわたしはナルトくんが好き」
「わかっている。ヒナタ、……すまない」
「え?どうして……」
「オレも、アイツのことは譲れそうにもない」
ヒナタはただ穏やかに微笑む。
「うん。わかってるよ、はじめから。だからナルト教のナルト信者、なんだよね」
「……そうだ」
ナルトの部屋には巻物が散らばっており、ワンルームの中に存在感を放つ大きなベッドの上に体躯の良い男性が横たわっている。その腹の上に手を添えるナルトの後ろ姿が見えた。その背中から緊張感が漂っており、ヒナタは思わずごくりと息を呑んだ。そんな彼女の気を知ってか知らずか、サスケはその背をポンと軽く叩いた。
「ナルトを手伝ってくれ。あのデカい男は恐らく瀕死だ。経絡系もズタズタだろう。お前には白眼も医療忍術もある。それに引き換え、今オレができることはお前たち二人のサポートくらいだ」
「うん。やってみるね……」
経絡系の修復の分野は、ヒナタの最も得意とするところだ。常人であれば手探りと感覚でしかできないことを、ヒナタには視覚化できるという強みがある。
ヒナタはナルトの邪魔にならないよう、その向かい側に腰を下ろした。そして男性の首筋や手首に触れ、触覚でその全身状態を把握した後に白眼で全身をスキャンした。そして震えと、冷や汗。右足にある黒ずんだ傷口。毒物の可能性が考えられた。
「うっ………」
男の力強い目が僅かに開く。喉仏が上下する。汗をこれだけかいているとなると、体内の水分バランスも崩れている可能性がある。
「サスケくん。コップ一杯のお水にお塩一つまみと砂糖を小さじ一杯くらい入れて、もしレモン汁があればそれも加えて欲しい」
「塩と砂糖ならある」
「スポイトか小さなスプーンもお願い。それと体拭き用の温かいお湯とハンドタオルも持ってきて」
「ああ」
この男性は明らかに重症だ。にも関わらず、病院には連れて行かず何故かナルトのアパートに横たえられている。この状況には理由があるはずだ。男性の装束は見慣れないもので、もしかすると他里の忍である可能性もあると、ヒナタはそんなことを考えながら経絡系の修復に努めた。
一方サスケは、ヒナタの指示で血液採取キットでハンの血液を採った。もし毒が身体中に回っているのであれば、その毒に対する解毒剤が必要だ。
「サクラなら、木ノ葉病院の研究室にいると思うから、その血液を解析に回してもらって欲しいの。解毒剤も作れると思う」
サスケはすぐにアパートを出た。
そして、ヒナタが修復治療に入ってからしばらくすると、ようやくナルトの手がハンの腹から離れた。
「終わった。あとは治療と、回復を待つだけだってばよ。……ありがとな。ヒナタ。もしかすっと、オレってばヒナタを巻き込んでしまったかもしんねぇ……。ごめんな」
「ううん。良いよ。ずっと届かなかったナルトくんとサスケくんの力になれてる気がして、嬉しい」
「ヒナタ……」
「……おい。俺の存在を、忘れるな……」
低く抑揚のない掠れた声。その声の主は、このベッドに横たわっている男性だ。
「良かったってばよ……。もしダメなら、オレってばこれから一生ウサギの話なんかしねぇ覚悟できてたってばよ……」
一生ウサギの話をしない覚悟とはどういう意味だろうかと、ヒナタもハンも真剣に考えてみたがどうも理解できない。ヒナタは一旦施術を中断した。
「あの、お体はどうですか?」
「首から下が痺れている」
「動かせますか?」
「いや、難しい」
「感覚はありますか?」
ヒナタはハンの指先や爪先に触れながらそう尋ねた。
「ある」
やはり、この痺れの原因は何らかの毒物によるものだ。
「とにかく、水がほしい……」
「ナルトくん、私はまた修復治療に戻るから、この方の口に少しずつ水分を含ませて。……失礼します」
ヒナタは上を向いていたハンの頭を、ナルトの方に横に向けた。
「わかったってばよ!任せとけ!」
「ナルトくん、くれぐれもゆっくりね」
「おう!」
木ノ葉病院でサクラを訪ねると、確かに地下の研究所に籠っていたようで直ぐに受付の者から案内された。
扉をノックするとすぐにサクラがその扉を開けた。地下室と聞いて、サスケが思い浮かべたのは大蛇丸の研究室だったが、全く質の異なるもののようだ。研究室の白い壁はいかにも病院らしく清潔感がある。
「サスケくん。どうしたの?」
「頼みたいことがある。血液データの解析だ。恐らく毒が検出される」
ポーチからハンの血液の入った真空スピッツを取りだした。
「事情はわからないけど……そういうのは確かに私の分野よ。片手間にパパっとやったげる」
サクラは快く了承し、サスケはスピッツをてわたした。
「解毒剤も頼む。量は一人分だけで事足りる。……いや、念のため二人分」
「いいわ。その代わりに、後日埋め合わせお願いね。ふふっ」
サクラはイタズラっぽく微笑む。彼女が何を企んでいるのかは分からない。
「もちろんだ。……助かる」
「これから一時間はかかるわよ?」
「ああ。思っていたより早いな」
一時間。一度ナルトのアパートに戻ってもいいが、気になることがある。忍者アカデミーには本来の仕事のために影分身を置いてきた。その分の記憶が蓄積されていないということは、上手くやっているのだろう。サスケは気配を消して忍者アカデミーへと向かった。
忍者アカデミーの校庭には多くの生徒が集まっていた。少し離れたところに教員の姿が見えるが、特に問題が起こっているわけではなさそうだ。ナルトとサスケの影分身は、その生徒たちの中心にいる。影分身は体術のみで対応しているが、生徒側にはルールなんかないようで、荒削りの忍術や体術、連携攻撃のようなものが繰り出される。ナルトとサスケの分身は当然だがそれをものともしない。アカデミー生の表情も笑顔が見てとれる。
「分身はお気楽だな」
アカデミー生にとって、ナルトとサスケは年も近いことから身近な伝説の存在となっている。数年前の中忍選抜試験で試験会場を半壊させたとして二人は有名だ。
買い出しを済ませ、部屋のテーブルに買い物袋を置いた。
「血液は解析中だ。ナルト、置いてきてた分身は上手くやってるようだ」
「あっ……すっかり忘れてたってばよ……」
「だろうな。炒飯でも作ってやる。二人とも腹減ったろ」
「サンキューってばよ」
「ありがとう、サスケくん」
話している内容と雰囲気から察するに、この三人はお互いに信頼し合っているように見えた。若いうちからそういった堅い絆を結ぶことのできる忍は、将来きっと良い忍になるに違いない。まだ体の節々が軋むように痛むが、ハンの表情は穏やかだ。
「俺はもう死んだつもりであったが、まだ死ねないらしいな。どういうわけか、五尾のチャクラも感じる……。それにここはどこで、お前たちは誰だ?何故俺を助ける?」
ナルトは持っていたコップを下ろすと、どこから話そうかと考えあぐねた。勝手に話して良いものか、ダンゾウに一言ことわっておく必要があるのではないかなどと考えていた。
「まずは、ハンの中の穆王の話を聞いてくれってばよ」
――ピンポーン
「ナルト、出てくれ」
部屋には芳ばしい炒飯の匂いが立ち込めている。サスケは手が離せないらしい。
「ワリ、ちょっと行ってくるってばよ。……はいはーい!今行きますってばよー!」
ガチャリとドアを開けると、そこに立っていたのはダンゾウだった。
「サスケから報告を受けた。……五尾の人柱力は存命か?」
「やっとしゃべれるくらいになったところだってばよ。オレもちょうどダンゾウのじいちゃんに相談しようと思ってたとこでさ……」
「相談?……お前がか?」
「うん。オレのことって機密事項いっぱいあるじゃん。ハンに説明すっときどうしてもその辺に触れそうな気がするんだけども……」
「相談せず話してしまえば良いものを」
「それってば、つまり……勝手にして良いってこと?」
ダンゾウは静かに目を閉じた。否定の言葉はない。聞かなかったことにする、ということだろう。ナルトはグッとガッツポーズをとって、部屋の中へと走っていった。
「ダンゾウのじいちゃん一名様、ご案内だってばよー!」
部屋の中には相変わらず炒飯の匂いが立ち込めている。
「ヒナタ、少し休め。オレはまたサクラのところに行ってくる。……ダンゾウの分もある。余分に作ったから」
サスケは三人前の炒飯をテーブルに置くとすぐに出掛けた。
「……炒飯か。珍しいな」
ヒナタはおずおずとダンゾウの座るテーブルの向かい側に、腰を下ろす。なんなんだこの状況は。
「お前は……ヒアシの娘か」
「はい。日向ヒナタです……」
里の闇とも言われるダンゾウと、向かい合って炒飯を食べることなど想像もしなかった。ダンゾウは、このアパートに何をしに来たんだと言いたくなる程おとなしく炒飯と向かい合っている。ヒナタもそれに倣って蓮華を手に取った。
ナルトは食事の前に、再びハンの側に腰を下ろした。
「……穆王と話せたか?」
「ああ。お前は、うずまきナルトで……合っているか?」
「そうだってばよ。それから、さっきまで治療してたのが日向ヒナタ。炒飯作ってくれたんが、うちはサスケで、ここは木ノ葉隠れの里のオレのウチ!」
「そうか。うちはに日向、それからうずまき一族、聞いたことがある」
「どうしてオレのウチにいんのか、穆王の話を聞いたんなら、大体わかったよな」
穆王は今までナルトの中にいたのだという。それも数十年前からずっとだ。その話は過去の話でありながら、未来だった。ナルトとサスケは以前の記憶を元に、より良い未来のために独自に動いていることを知った。今回の出来事もその独自の動きの一貫に過ぎない。
「ああ。だが、にわかに信じがたい話だ」
「それよりも、まずはすまねぇってばよ。オレってば、人柱力が暁から狙われること知ってんのに、ハンがやられてること知ってんのにさ。何にもしなかったんだってばよ」
頭では理解していたつもりだった。だが、実際に尾獣を抜かれ、傷ついて、瀕死の状態だったハンを目の当たりにしたナルトは、我ながら酷い計画を立てたものだと自分を責めた。ナルトの中に僅かにある各々の尾獣チャクラでは、十尾召喚には至らないだろう。こうするしかない。そう考えるのは簡単だが、ナルトは心底後悔し、迷っている。悲しみとも苦しみともとれる歪んだナルトの表情。ハンはジッとその顔を見上げていた。
「俺の力が及ばなかった。そして俺はこうして助けられた。ただそれだけの話だ。ナルト、お前の考えは理解できる。ただ、これからも今回のようなことが続くのだろう。それに耐えれるか?他の人柱力のことなど、放って置けば良い。誰も責めはしない」
あえてその逃げ道を提示すると、ナルトは黙り込んだ。人柱力の忍の顔はまだ覚えている。放って置けば、偶然知り合うことができた滝隠れの里のフウも命を落とすだろう。一方で、人柱力の忍を助けたところでその他大勢の命は救えない。ハンを助けたのも、ただのエゴではないかとも思えてくる。だが、やはり放っておくことはできない。この先の未来も知っているし、以前はなかった力が今ならある。ナルトの膝の上に置かれていた手が、ぎゅっときつく握り込まれた。
「知ってて何もしねえほうが、ぜってー後悔する気がするってばよ。オレは一人じゃねぇし。だから、大丈夫だ」
「そうか。決意は固いようだな。その言葉、覚えておこう」
「もしオレが挫けそうな時は、喝を入れてくれ」
「そうならないことを祈る。ところで……俺はこれからどうなる……?」
そうナルトに訊ねておきながら、ハンの視線は黙々と炒飯を食べているダンゾウに注がれている。ダンゾウの名は、忍界に広く知られている。ハンもその悪名を知っているのだろう。
今のハンの立場は、いわば木ノ葉隠れの里の捕虜という立場に近い。表立って処遇を考えるとなれば、どうしてもそのレッテルが付いて回る。
「そうだな……。ハンはどうしてぇんだってばよ?」
「俺か……。岩隠れの里に戻るわけにもいくまいな。俺が生きているとなると、再び里が襲われると考える者もいるだろう。……既に死者として扱われているかもしれないな。もし自由が許されるのなら、旅でもしようか」
「もしそうなったとして、アテはあんのか?」
「いいや」
「いくつか考えてみるってばよ。ダンゾウのじいちゃんもいるし」
ヒナタは食事を終えて、再びハンの横に座った。
「ナルトくんも疲れてるでしょう?炒飯、美味しかったよ」
「ん、あ、ああ。ハン、ちょっと待ってくれ」
「ああ」
キッチンで一人前を皿によそい、先程までヒナタが座っていた椅子に腰を下ろした。するとダンゾウがゆっくりと言葉を発した。
「奴の調子は、良いようだな」
「ああ。よかったってばよ!いっただきまーす!」
「言葉を返せば……お前たちに雑用を振る今の状況がこれからも続く、ということか」
ナルトとサスケが里の内部での仕事ばかりを与えられていることに対して、やはり違和感を感じる者は多い。彼らはこぞってダンゾウは人事に関して無能だと言っている。そう思われても仕方ないことをしていると、ダンゾウは半ば諦めていた。
「むぐっ!!よほしふはのむ……ってばよ」
「食べながら話すな」
「そんで、も一つ相談してぇことが増えたってばよ」
「言ってみろ」
「オレってば、人柱力を助けた後どうするかっての、全く考えてなくてさ。ハンの話聞いてっと、また里に戻るのも酷かもしんねぇ……。かといって、木ノ葉じゃ他里の、しかも友好関係でも同盟関係でもない里の忍じゃん。肩身狭いよなあ……なんて」
「ワシに相談すると、悩まずとも一旦は監獄行き一本だな」
「そうはさせねぇってばよ」
「ならば他の案を考えろ」
「あっ、サスケ、お帰りってばよー」
「ああ。……ヒナタ、サクラからもらった解毒薬だ。余分に成人男性二人分入っている。どうしたらいい?」
サスケはナルトを一瞥すると、手当てにあたっているヒナタの側に立った。その手には液体の入った小さな小瓶がある。
「サスケくん、ありがとう。それとごちうさま。……解毒薬は私に任せて少し休んだらどうかな」
「ああ。そうする。悪いな」
「ううん」
テーブルの方を見ると、ナルトが目を細め難しい顔をして炒飯を頬張っている。その顔は何かあれこれ考えている時のそれで、サスケは小さく嘆息しながらダンゾウとナルトとの間にある椅子に腰を下ろした。
「どうしたんだ?」
「それがさぁ……」
ナルトは経緯を話した。
「そうだな。波の国の件ではウチで軟禁扱いにすることでどうにかなったが、確かに今はアテがないな」
「だろ?そんでもって、里から一旦離れて考えてみっと、一つだけ考えられることがあって……」
「変なところでもったいぶるな」
「でもなぁ……一般人だしなぁ……」
「一般人?」
「タズナのじいちゃんのとこなんかどうかって思って。ほら、波の国ってさ、忍者崩れの奴とか、忍業から足を洗った奴が移住してたりするじゃん」
すっかり忘れていたが、ナルトは意外性ナンバーワンを誇る忍だ。今回の案は意外といけるかもしれない。サスケは炒飯をゴクンと飲み込んだ。
「とりあえず、聞いてみるか?空間なら繋いでやる」
「サンキュってばよ!輪廻眼ってベンリだなー」
「言っとくが、結構な負担だ。今日はムリだからな」
本日の空間跳躍は二回。一人ではなく、二、三人でとなると眼精疲労から頭痛がしてくる。輪廻眼の使いすぎだ。
「そんなんわかってるってばよ。サスケ、頼りにしてるってばよー」
ナルトは手のひらにチャクラを溜めると、サスケの目を塞いだ。
「邪魔だ。メシが食えねえ」
「手当てってやつ」
仮にも一応上司の前でいちゃつき始めやがった。若さだ。若さゆえだろうと、ダンゾウはしばらく黙っていたが、二人はダンゾウの事などお構いなしだ。
「お前たちの考えは分かった。事が済んだらまた報告しろ」
「わかりましたってばよー。ダンゾウのじいちゃんありがとな」
ダンゾウはナルトのアパートを後にした。
翌日、ナルトはタズナにハンのことを相談すると、住み込みでも働き手が増えるのはありがたいと、二つ返事で回復後の受け入れが決まった。
以降も、しばらくハンは動くことができるまで仕方なくナルトのアパートにいた。ヒナタも任務の合間を縫って、都合がつかず二人が不在の時にも治療のためハンを訪ねた。
「一つ訊ねてもいいか」
「はい。どうしたんですか?」
「ナルトとあのサスケという者……。ただならぬ雰囲気を感じるんだが。どういう関係だ?」
「一言でいうならかなりの友達。とてつもなく固い絆で結ばれているんです」
「は、はあ……成る程な。……して、ヒナタ嬢は?彼らからの信頼も厚いように見受けたが」
「幼馴染みで、下忍の頃も同じ班でしたから。それに一応ナルトくんとは恋人関係で」
中忍試験後しばらくしてから、二人は自然と付き合い始めていた。ヒナタの話を整理するとナルトは包み隠さず潔く二股をかけていることにならないだろうか。最近の若者の恋愛事情には疎い。もしかすると木ノ葉隠れの里ではそれが普通なのかもしれない。彼らの関係は理解の範疇を越えていたが、ハンは深堀せずにそのまま置いておくことにした。