これほどまでに規模の大きい外部干渉はここ十年程はなく、今回のペインによる襲撃は木ノ葉隠れの里に大きな衝撃を与えた。そして内部だけではなく、周辺隠れ里と国にも与えた影響はけして小さいものではなかった。ペインは強かったにも関わらず、混乱はほぼ一日で収束し複数の侵入者に対して主に対応したのはほぼナルト一人であり、ナルトなしに里の防衛は成し得なかった事実は誰の目にも明らかで、ナルトに対する注目度は数年前のあの滅茶苦茶な中忍試験以上に高まっていた。同時に、時期火影の選抜についての議論も最高潮に達していた。というのも、暁による木ノ葉隠れの里の襲撃を受け、雷影の要請により近々中立国の鉄の国にて五影会談が開催されることなり早急に次の火影を立てる必要があった。そこで打診されたのがカカシだ。
彼が決まった時間に里の慰霊碑の前に佇んでいることは界隈では有名な話で、物思いに耽っているところを大蛇丸と綱手に邪魔されていた。
「えっ?!わ、私ですか?……てっきりナルトだと思ってたんですけどね……。ホラ、最近英雄って持ち上げられてるでしょ?実際実力は申し分ないですし」
「だが年齢も、その言動も火影たる器とは思えん。将来は別として、とにかく今ではないだろう。その点カカシはあの二人を導いた師として評価が高い。実力も人望も申し分なく、ナルトを推す者達も納得せざるを得ないだろう」
「……適任?私がナルトとサスケを導いた?世間ではそんな話になっているんですか…… 」
かといって二人を放置していたとは口が裂けても言えない。
「サスケ君も、あなたを是非にと言っているのよ。大変世話になったとか」
「いやいやいや、俺、いや私はお世話しておりません」
伝説の三忍のうちの二人に詰め寄られたら断りようもない。カカシはありもしないことをさも本当のことかのようにこの二人に吹き込んだサスケを恨んだ。大蛇丸も大蛇丸だ。サスケの言葉を鵜呑みにしないで欲しいものだ。
鉄の国。今思い出しただけでもあの時の記憶を思い出し、発狂してしまいそうだ。一族を皆殺しにしたイタチを憎んで、ただそれだけのために生きてきた。なのに実はイタチは里のためにやっただけで凶悪な人間ではなく、そのように仕向けられたこと知った。その衝撃、感情をどこに向ければいいのか。その時に選んだ吐け口は、木ノ葉隠れの里の上層部とナルトだった。今思えばあれは自分の精神を崩壊させ、都合の良い駒を作ることを目的としていたのかもしれない。
「サスケ、ムリすんなよ」
「ああ……」
カカシは火影笠の影から二人のやりとりを見ていたが、どうにもサスケの様子がおかしい。そしてナルトはその理由を理解しているようだった。この場には彼らに加え護衛兼相談役としてヒルゼンとダンゾウも参加している。大きな間違いはないだろう。起こったとしても悪いようにはならないはずだと、カカシは心を落ち着かせるよう小さく息を吐いた。いくらなんでも緊張する。戦っていた方が余程マシだった。
五影会談の行われる会議室へ向かう途中、我愛羅と鉢合わせした。
「ナルト……お前も来ていたのか」
「遅くなっちまったけど、風影就任、おめでとうってばよ」
我愛羅はつい数ヶ月前に風影となった。
「ありがとう。砂隠れではおまえの名も知れ渡っている。次期火影だとな」
「そうか……ははっ、オレってば有名人だな」
ナルトなら、また将来火影!などと言うのだろうと踏んでいたが、想像していた言葉は返ってこなかった。
五影会談は、中立国を名乗る鉄の国の頭であるミフネを議長として始まった。そこでカカシは質問責めに合うこととなる。
「暁は手強かったようだが、里の被害は少ないそうだな」
五影の中で一番の重鎮である岩影・オオノキがそう言った。木ノ葉隠れの里が襲撃を受ける前に、岩隠れの里も暁による襲撃を受けて里の被害はけして軽微とはいえないものであった。今もなお修繕や負傷者の治療が続いている。木ノ葉隠れの里の力を知りたくもあるようだった。
「一人の若い忍びが活躍したとか」
「何者だ?」
予想通りの他里の反応に、ヒルゼンとダンゾウは頷く。
「皆さん気にされているだろうと思って、ちゃんと連れてきましたよ。コチラが今回の立役者、」
「うずまきナルトだってばよ。オレとサスケで敵の親玉ぶっ倒すから、各里歪み合わずに防戦お願いしまっす。そんでもってその後も協力しような!」
ガキが何を言ってるんだと会議の空気が白けたのがわかった。カカシとヒルゼン、ダンゾウは揃って頭を抱えている。
「隠れ里の影達が一同に揃うことは滅多にない。そこに突き入るのは、見え透いているな」
かつて、トビに唆されてサスケは五影会談を滅茶苦茶にした。ならば今回は。事前に再不斬からの情報提供がありこの場に暁が来ている事は把握している。
「もうバレてるならしかたねーなぁ」
「……金になりそうな首が揃っているな」
会議室の円卓の中央に、音もなく黒字に赤雲の模様が特徴の暁の外套を着た男が二人並んで立っていた。
ナルトが彼らに会うのは初めてだが、「不死身コンビ」についてはよく知っている。かつて彼らにより猿飛アスマが還らぬ人となった強敵だ。しかし何も問題はない。
サスケは左目を被う眼帯を外し、さらりと角都を五度殺した。特に角都のターゲットがナルトに向きそうになった直後の斬撃が酷かった。そしてサポートを失った飛段はあっさりと術を看破され跡形もなく燃やされた。全てはまさに文字通りの「机上」での出来事。あまりにも綺麗に、暁の不死コンビは片づけられてしまった。円卓は血みどろだが。机の上の残骸や血は黒い炎で焼き尽くした。一方、ナルトは床に手をつきチャクラを流し、出てきた白ゼツを倒す。サスケの輪廻眼についてはまだ知られないほうがいいだろう。
里にも瞳力についてこれまでずっと隠してきたが、火蓋が切られた以上隠し続ける意味はない。久々に瞳力を使い、言いようのない高揚感をおぼえる。我ながらどうかしているとも思うが、体も瞳術も鈍ってはいないことを確かめたサスケはわずかに口角を上げる。その微笑は意図せずその会議室にいる者たちの背筋を凍らせた。この五影会談に参加することとなった時点でサスケの情緒はいつになく不安定だった。それを角都と飛段がまともに受けてしまったことを知るのはナルトだけだ。
この少年を敵に回したら終わる。強者ほどそういう勘は鋭いもので、五影は口には出さないものの考えていることはほぼ変わらないだろう。
「オレはナルトの意に沿わないことはしない。逆を言えばナルトが望むなら、どんな汚れ仕事でもやる」
横槍が入り話が中断してしまっていたが、うずまきナルトについて話していたところだった。サスケはそんなことを独りごちながらナルトの横に戻ると、九尾チャクラがサスケを覆った。
「消耗は少ない」
「念のためな」
サスケの表情がわずかに緩む。この規格外の力を示した少年が付き従うのは、里ではなくナルトだ。そのナルトも九尾のチャクラを完全に使いこなしていることは行動から一目瞭然。しかし、火影とそのお目付役二人の様子を見る限り、この二人の少年を持て余しているのは明らかだった。誰も制御できないだろう。
その後、会議の流れは火影とミフネが主導し忍連合軍の結成が決定した。そして会議の中でうちはマダラと暁についての情報が共有された。
「我愛羅、またな」
会談が終わり、五影たちだけで話したい事もあるだろうとナルトとサスケは早々に会議室を出た。
それを確認して、雷影がカカシを呼び止める。
「火影、聞きたいことがある」
「はい?何でしょう」
聞くところによると、雷影は直情的で些細なことで暴れるという。この会談ではそういった素振りは一切なかったが、カカシは警戒する。
「木ノ葉では男にも閨房術を仕込むのか」
「ぶふっ!!……な、なんでそーなるの?!てか未成年の我愛羅くんがいますから!」
カカシの反応は真っ当である。雷影の思いもよらぬ問いかけに雷影お付きの忍もドン引きしているようだ。
「……ケイボウ術?」
ーー純粋な子
我愛羅の反応に水影がキュンとしている。雷影は我愛羅がわかっていないことをいいことに話を止める気はないらしい。
「あの色気、おかしいだろ。殺気もだが」
確かに、と、他の者も雷影とカカシとの会話を聞いている。戦ってるだけだというのにどこか煽情的で、自称ナルトの下僕だと言っている時の表情なんか、もう。ね。
「んー、うちでは基本的にそういうこと教えてないけど、まー……色々知ってそうですよネ。あいつら二人で住んでるし」
「ちょっと、カカシさん、その話……詳しく」
水影の血走った目が怖い。
「え、えー、、、一応プライバシーがですね。あいつら昔からマセてる所あったから……でも任務に支障はなくて……」
「やることはやっとるだろ」
「ダンゾウ様……そんな露骨な」
五影がそろって何故このような話をしてるのかとヒルゼンは呆れてため息をつく。
「ナルトとサスケは現状互いに手綱を握り合っている状態じゃ。無理に離したら暴走することは目に見えておる。甘んじる他あるまい」
こうして、サスケの色気談義で五影の仲が深まったことはナルトもサスケも知るよしはなかった。