仄暗い洞窟の中、闇に浮かぶ白い物体。近づくとそれは人型であり同じものが複製されたもののように見える。そして、その顔は知っている者と同じでなんとも気味が悪い。そしてその数は圧倒的でどれほどいるのかもわからず、視界に収まらない数だった。一体これは何なのか。
「……いくぞ」
「はい」
下手なことは口に出せない。互いの監視のためスリーマンセルを組んでいた鬼鮫が外れた代わりに、少し前から自分達に別の監視の目があることには気づいている。土に這う黒い影。奴はそこにいる。
この事を伝えるにはイタチと接触を図る必要がある。イタチに渡った情報は、火の国以外の周辺国に散っているうちは一族にも共有され、その逆も然り。イタチは有能な忍だ。言葉にせずとも意図を察する。すれ違いざまに目線が合うだけで幻術をかけ、その幻術の中で情報を渡す。そんな芸当ができるのはうちは一族しかいない。初めは情報の受け渡しにそれほど念入りな手段をとる必要があるのかと不可解であったが、今ならその理由がよくわかる。「ゼツ」の監視は監視という生易しいものではなく常に見られているのだ。しかも「ゼツ」は何体いるのかもわからない。八尾の尾の一部を持ち帰った時からその監視は厳しくなったようだった。意図的に八尾の人柱力を逃したのではないかと疑いをかけられているのかもしれない。先日の五影会談の件もそうだ。それにもう一つ伝えなくてはならないこともある。薬師カブトの動きについてだ。
ペインの敗戦、小南の裏切り、角都と飛段の死亡。立て続けに起こる想定外の出来事。五影会談では暁の理念を掲げ宣戦布告をするつもりでいたが、サスケの示した想定外の力により予定を変更せざるをえなかった。会議室にいた白ゼツは感知され処分されていたことからその詳細は不明だが、力量は確かだろう。月の目計画についてわざわざ教えてやる必要もないし、これからの予定を教える必要もない。不意打ちでも良いのだ。
もう一つ懸念がある。長い間インドラとアシュラの転生者に関わり、特にインドラの転生者には唆しアシュラの転生者と対立する構図をつくってきた。ところが今代のインドラとアシュラの転生者であるナルトとサスケの関係は、異常なほど付け入る隙がない。そしてその関係性の違いから、黒ゼツは二人が転生者だと気づくのにも遅れが生じていた。サスケには何度か接触を図ったが毎回耳も貸さずに一蹴されている。しかし、カグヤの封印を解く準備はもう整っている。これ以上時間をかけることで、ナルトとサスケに力をつける時間を与えてはならない。
「計画ヲ急グ」
「言われなくてもわかっている」
オレンジ色の仮面の男は、八つの目の開いた外道魔像を見上げた。一部半端なチャクラもあったが尾獣八体のチャクラが揃い、八つの目がギョロリと動いていた。残るは九尾のみ。
オレンジ色の仮面の男はトビと呼ばれている。その正体は「うちはマダラ」だと思われていたが、サスケいわく「うちはオビト」だという。その裏付けはなく、確信を得る必要があった。
「トビさん。何かあったんですか?」
いつもは剽軽な調子で喋っているトビであったが、五影会談から戻ってきた後はいつもと空気が違っていた。
「白ちゃんの方から話しかけてくるなんて珍しいね〜」
「ふふっ。トビさんの様子がいつもと違って見えたので」
「そうか〜やっぱりうちは一族を倒しただけのことはあるのかな?」
「私はほとんど何も。再不斬さんがやったことです」
「白ちゃんも、強いって聞いたよ。そもそもなんでそんなことしたの?」
「軟禁生活に限界がきていましたし、私たちを都合よく使おうとする木ノ葉から出たかったんです」
「ふぅん」
「……怒らないんですか?」
「えっ?どうして?」
「だって……トビさんって、うちは一族の方でしょう?」
一か八かで鎌をかけてみた。元よりこの命、あろうがなかろうが栓無きこと。
「……」
仮面の下の表情は読めない。内心トビがどう出るかと構えていたが、それを表情に出すにはいかず、ふわりと微笑む。
肩で切り揃えられた髪のせいか、叶わぬ想いを向けていたあの少女を彷彿とさせた。それがトビの警戒を和らげていることを白は知らない。
「白ちゃんにはかなわないな〜。バレてたか。ま、オレも木ノ葉隠れの里の上層部が嫌いでね。親兄弟もいなかったから里にも一族にも何の思い入れもないよ」
トビはあははと大袈裟に笑い、準備があるから、と姿を消した。
「あ」
白は自分が男性だと伝えるのを失念していたことに気がついた。
これだけの情報から、個人を特定することは難しいが少なくとも彼がうちは一族の者であることは確実のようだ。「親兄弟がいない」という発言からはサスケの言うようにマダラではなくオビトである可能性が高いように思う。そしてトビの言う「準備」とは第四次世界大戦の準備のことで、おそらく最後の時が近づいているのだろう。
再不斬と白を暁に迎えたのは、人員不足によるものだ。その折にちょうど良く木ノ葉隠れの里でうちは一族の皆殺しという事件が起こり、その主犯が貴重な血継限界を持つ白を付き従えていた再不斬であった。血霧の里時代には鬼鮫との面識もあり以前より勧誘の候補に挙がっていたが、カカシ率いる部隊に敗れ木ノ葉隠れの里に軟禁されていたこともあり見送られていた。
うちは一族全員の惨殺とはあまりにも出来すぎているが、うちは居住区には確かに死体が転がっていたのを確認している。うちは一族は反逆の計画が白紙となって以来、内部は一枚岩ではなかったことも手伝ったかもしれないとされていた。また、再不斬は試験で百人を殺害した鬼人と呼ばれる男であり、水影暗殺の首謀者でもある。そのような男がまさか改心し、あの生温い木ノ葉隠れの里に身を寄せるはずはないだろう。それに血霧の里時代において水影・やぐらが何者かによって操られていることに気づいた唯一の人物であった。それも特殊能力があり気づいたわけではなく、忍としての勘のみで核心に辿り着いており忍としての力量は確かなものだ。それを間近で見ていたのはやぐらを操っていたトビである。ゆえに、再不斬の心の内が読めないことから行動は予測不能であり、使い勝手の悪い駒でもあった。
再不斬と白の知り得た情報は、イタチから他のうちは一族や大蛇丸へ渡り極秘情報として里の上層部へ伝わった。
「暁の真のリーダーはうちは一族の者である。うちはマダラではなくうちはオビトである可能性が高い。」その事実はうちは一族の者全員に大きな衝撃を与えた。その可能性があることは伝えられていたが、マダラもオビトも死亡したとされる者であったため、半信半疑であった者も多い。
「うちはオビト……カカシと同期で、孤児だった少年だろう。任務中に殉死したはずだ」
カカシの左眼の写輪眼はオビトが死に際にカカシに託したものであり、うちは一族以外の者に写輪眼が渡ることは非常に稀なケースということもありフガクは記憶していた。
「まさか本当に……」
「サスケの言っていた月の目計画だが、あれに対抗するには万華鏡写輪眼が必要だ。忍連合軍が結成されたのなら、他里の戦力となる忍を中心に援護する必要があるだろう」
万華鏡写輪眼まで開眼している者はそれほど多くはないため、守れる人数もかなり限定される。